福山の食品スーパー、エブリィ訪問記: 飲食店経営から小売業に参入したことがいまの事業構造を決めた

 小売チェーンが飲食業やネットスーパーに参入するのはいまやふつうのこと。食品スーパー「エブリィ」は、それとは逆の道筋から小売業を始めた。食品スーパーを始めたのは1989年。後発での参入だが、坪効率はふつうのSMの3倍(600万円/年坪)だ。

 

 エブリイは、高回転で鮮度の良い商品をしかも破格値で提供するスーパーとして有名だ。しかし、メディアの注目を浴びるようになったのは最近で、2015年のこと。『ダイヤモンド・チェーンストア』の”ストア・オブ・ザ・イヤー”に「鮮Do!エブリイ海田店」が選ばれてからだ。

 グループ(ホールディング・カンパニー)の特徴は、以下の三点。①スーパ-と外食の多角的水平分業、②自社直営農場と提携先農家との垂直統合、③食品ロス削減につながる「売り切れ御免」の販売方法。事前にいただいていた資料は、興味をそそる記事内容だった。

 昨日は、実際にエブリイグループのスーパーやレストラン、野菜農場を訪問した。すべての事前説明が、文字通りに正しいことを確認してきた。

 

 エブリイホーミイ・ホールディングス(傘下に、スーパー、飲食事業、食材宅配サービス、野菜農場など4つの事業)の岡崎雅廣社長は、「ヨシケイ福山」(FC)の1979年設立から、フードビジネスに関わり始めている。スーパーマーケット一号店は、1989年。岡山県の倉敷市からのスタートだった。

 それより先に、食品卸会社(株式会社あけぼの食品)をはじめている。これが、現在のレストラン業態(ホーミイダイニング)につながっていく。最初は飲食(給食事業や業務スーパーFCを含む )から入っている。このことが、スーパー専業の会社とは著しく事業発想が違う点だ。

 2016年10月現在、広島と岡山に直営食品スーパー「鮮Do!エブリ」など37店(売上高683億円、2016年度見込み)、多業態の飲食店(約20店舗?)や給食事業などをFCで展開している。

 

 昨日は、岡崎裕輔副社長に、世羅農場やスーパーマーケット(旗艦店のtientエブリイ緑町店)などを案内していただいた。思いもかけず、視察の道すがら、創業家の岡崎ファミリーのほぼ全員とお会いすることになった(三男の岡崎慎吾氏を除く)。

 エブリイの異なる業態2店舗を見学したあと、「レストラン・ワールドビュッフェ福山南蔵王店」で、1000円で食べ放題のランチビュッフェをいただいた。途中、所用でいったん分かれた岡崎副社長と合流しようと、案内役の飯村さん(新事業・企画担当)が本部近くのセブン₋イレブンの駐車場にワゴン車を留めた。目の前に、いただいていた会社のパンフレットで見かけた女性が立っていた。

 障がい者を雇用している「すまいるエブリイ」の岡崎和江社長(雅廣ホールディングス社長の奥様)だった。セブン₋イレブンには、ホットコーヒーを買うために寄ったという。次男の裕輔副社長が、横に並んで立っている。セブン-イレブンの前で、偶然に出会ったらしい。というわけで、予定を急きょ変更して、母子一緒で世羅農場と集出荷場の視察に同行してもらうことになった。

 

 世羅農場(1.5ha)では、若い社員さんたち(山口直登さん、河野瑞希さん)がリーダー。和江さんのすまいるエブリイ社員の障碍者の方が、山口さんと一緒に3人で元気に農作業をしていた。山の上で日差しは強いが、丘の斜面をわたってくる風はさわやかだ。直営の農場で栽培しているのは、ほうれん草と人参とキャベツ。実際には、夏明けからの栽培開始だった。

 朝方に、世羅農場から初出荷されたほうれん草とキャベツは、二番目に訪問したIKOCCAエブリイ駅家店の「エブリイ農園」(野菜コーナー)で見かけていた。提携農家さんが持ち込んだ野菜に混じって、目立つところにほうれん草が大量陳列してあった。よく売れていた。

 インタビュー記録は、アシスタントの青木(恭子)がいままとめている。後日、詳しく紹介することになる。簡単に言えば、通常の野菜は九州の卸市場や長野の圃場から大量に仕入れている。しかし、別途なルートで、福山市付近で減少しつつある農家経営を支えることを会社として考えている。

 農家から有利に買い取るために、規格外品も含めて、福山のローカルエリアで契約栽培を始めるようになった。地元の農家や新規参入した企業(中電工の農事会社)が運営する農場から、規格外品を含めて畑を丸ごと外食部門で買い取るのである。そのままで放っておけば、畑で捨てられる人参やきゃべつである。約半値とはいえ、生産のロスがほぼゼロ。エブリイがすべて買い取ってくれるからだ。

 行き先は、外食の加工部門だったり、スーパーの規格外品のコーナーである。見た目はよくないが、品質には何の問題もない。直営農場のキャベツやほうれん草は、無農薬・無化学肥料(ほぼ有機)で、しかも朝採りの野菜だから新鮮だ。 

 

 直営農場と契約農家の圃場、そして集荷場の視察を終えて、夕方にはふたたび福山市内に戻ってきた。エブリイダイニングの鉄板料理・豆腐料理「つる南蔵王店」で、8人で懇親会を開くためだった。ここには、ムロオの山下君(元大学院生、小川ゼミ)と藤田君(同じく小川・平石ゼミ生、結婚したばかりの奥様もご一緒)が、広島市内から駆けつけてくれることになっていた。

 エブリイの物流は、ほぼムロオ(呉のトラック会社、山下俊一郎社長)が担っている。岡崎副社長と山下君は、仕事関係で昔からの付き合いらしかった。食事が始まるとしばらくして、いただいたパンフレットの中で見かけたもうひとりの方が、宴会がはじまっている部屋を覗き込んできた。昨年からエブリイの社長に就任したばかりの岡崎浩樹氏だ。岡崎家の長男さんだ。

 「法政大学の小川と申します。今日は御社の視察でお世話になりました」と名刺を差し出すと、「わたし、先生の読者です!」とうれしい反応が。裕輔副社長が間に入って説明してくださった。

 「(浩樹)社長は読書家なんです。社長室の本棚に、先生のマクドナルドの本が飾ってありますよ。(兄に向って、)『しまむらとヤオコー』も読んでたよね」。

 どうやら、わたしの本は何冊かすでに読んでいるらしかった。経営者の読者に出会うことは、著者としては実にうれしい瞬間だ。ちょっと照れくさくもあるが。

 

 それから30分くらいして、今度は赤い顔をした健康そうな60代の男性があいさつに来た。これも、会社案内や雑誌記事でお見かけした方だった。EHホールディングの岡崎社長だった。こちらは、気をきかせて、斜め前に座っている奥様(和江さん)が呼んだのではないだろうか。

 わたしはそう思ったのだが、どうやらそうではなくらしい。これも偶然にこの店(もっとも自分たちの店だ!)に顔を出したらしい。結局は、一日がかりで岡崎ファミリーのほぼ全員に会ったことになる。車の中で岡崎副社長と話していて、岡崎家は仲の良いファミリーだとわかった。それでも、家族全員が別々の会合で、しかも同時に顔を合わせることは稀なことらしい。

 いちばんに得をしたのはわたしだろう。はじめての訪問だったのに、一日でエブリイを経営している全幹部と話をすることができた。これには、何かのご縁を感じる。とりあえず、エブリイには、わたしたちが7月にはじめたNOAF(オーガニック・エコ農と食のネットワーク)の会員メンバーになっていただくことになった。