【JFMAニュース・巻頭言】「東京の花」(2015年6月号)

 10数年前に、東京都産業労働局が築地青果市場と協力して「東京野菜産直プロジェクト」を発足させた。東京都で採れた野菜を東京都民に食べてもらう実験で、東京で採れた新鮮な野菜を流通させる試みだった。電子プラットフォームを利用して、東京都の野菜生産者(八王子市1団体8名)と青果小売店(5社)を直接的に結びつける販売実験で、筆者は2002年春にテスト販売を指揮する座長を拝命した。もちろん、プロジェクトの企画そのものもわたしの発案だった。


地産地消の理念を東京という日本最大の消費地で実現しようという試みは、残念ながら一年半でとん挫してしまった。「野菜や果物は収穫したてがもっともおいしい」という単純な原理をシステム的に追求してはみたが、経済原則(価格要因)と流通コスト(大ロット輸送)の壁に阻まれて実現できなかった。

 「とれたて野菜プロジェクト」を発想したきっかけは、以下のような事実を知ったことからだった。東京には、立川のウド、江戸川のコマツナなど、京野菜に匹敵する特産品の野菜が存在している。新橋や赤坂の料亭で使用されている野菜は、築地青果市場で相対取引されている。そうした野菜は、荒川区や北区で栽培されていた。事実、近場から相対で仕入れるので、江戸野菜は新鮮でおいしい。品種的に希少なこともあって、赤坂の料亭などでは高値で購入してくれていた。「都内の農家で生産された野菜を、都民が即日に食することができることはなんて素敵なことだろう!」とは思ったのだが、当時登場したECシステムは、東京の野菜に関してはあまり長続きがしなかった。個人的にはとても残念だった。。

 さて、そんなことを考えていたら、本日(6月19日)、都内で花の専門店チェーンを展開している「花弘」(本社、東京都)の細沼忠良会長のインタビューの途中で、「江戸の花」話になった。ご存知の方も多いと思うが、花弘の細沼会長は、「フローレ21」の小池潔社長と一緒に、東北3県の津波で被災した海岸線にさくらの苗木を植える「さくら並木プロジェクト」を推進している。細沼会長によると、「わたしたちが植えている桜は、100%ソメイヨシノなのです」。しかも、「ソメイヨシノ(という品種)は、駒込の近くの染井(村?)で職人さんが育種してもので、いまでも日本の桜の70%は、東京駒込(染井)産です。

 その話を聞いて思ったのは、東京(江戸)産の花を専門に売る店があってもよいのでないかというアイデアだった。東京下町には、夏になるといまでも、朝顔市やほうずき市ができる。もともと、そうした朝顔やほうずきなどは、江戸野菜と同様に、東京の北区や荒川区で栽培されていたものだろう。もしかすると、いまは埼玉県の大宮(さいたま市)に移ってしまったが、もともとの盆栽町は谷中や駒込にあったのかもしれない。

 それならば、せめて特色のある鉢植えなどを東京で栽培して、それを専門に売る店があてもおかしくない。「東京とれたてフラワープロジェクト!」。またしても突拍子もないアイデアだが、植物工場ブームである。目の前でレタスや水菜を栽培して、レストランやハンバーガーショップでそのまま食べさせる時代である。
 だから、花の業界でも、切り花や鉢花などで、温室で栽培した花を、切りたて出来立てで売る業態があってもよいのではないか?ちょっと妄想が過ぎるだろうか?「先生、でも、花は面積が必要ですから、東京の都心ではな、、、」(細沼会長)。やはりとれたての江戸の花を復活するのはむずかしそうだ。