【巻頭言】「野の花産業の勃興︓その時代的な背景」『JFMAニュース』2024年11月20日号

 「日本DIY協会」からの依頼で、会報誌の『DIY会報』(2025年新春号)に草花市場について長文の原稿を書き終わったところである。この巻頭言は、そのために書きおろしがドラフトの一部を含んだ文章になっている。福島県昭和村の菅家博昭さん(JFMA理事)に教わった「ヤリファーム」や「常陸大宮農協」の鉢物部会を念頭において書いた文章になっている。
 

「野の花産業の勃興︓その時代的な背景」『JFMAニュース』2024年11月20日号
 JFMA会⻑ 小川 孔輔
 
 菅家博昭さん(草花栽培研究会、JFMA理事)とメールで短いやりとりをすることがある。雪深い福島県昭和村でカスミソウや草花類を栽培している菅家さんは、研究熱心な篤農家である。数年前からワレモコウやオミナエシ、セリ科植物など、休耕地や草原に咲いている野の花の種を集めて、多品目少量⽣産で市場に出荷している。
 その仕事ぶりを⾒て、⺠族学者の⾚坂憲雄さんは、「野の草花の栽培は農業なのか」というコラムを、『福島⺠友』(2024年4月30日号)で紹介している。新聞記事が出た翌日、菅家さんから記事のコピーと一緒にメッセージが届いた。
 
 「おはようございます。⺠俗学者の分析です。水田畑地農地が自然回帰しているので、奥会津はそう⾒えます。我が地域も42ヘクタールの水田が、自家用のみ0.5ヘクタール1名の耕作で消滅しつつあります。縮小する時代ですね」(菅家さん)。
 「なるほど。日本全体で人口が減って、水田が野原に戻るのですか」(小川)。
 「そう思います。いま安曇野です。ヤリフラワーファーム訪問します。露地草花3年目、東京の花屋⻘年の起業です。ファンが多いです。⽣産を⼿伝う有料体験ファームメンバー。月1回の花束直売が200名。市場出荷。8名社員。3年目で成功しています」(菅家さん)。

 「美しい花を美しく育てる」(田中彰さん、2022年1月20日)という若者の⽂章(note)を読ませていただいた。田中さんが花屋時代に書いた日誌も読んでみた。サプライチェーンの下流から上流に向かった動機が綴られていた。
 菅家さんは、全国の⽣産者を回って貴重な情報を提供してくれる。レポートでは、花屋から農家に転業した若者たちは、栽培品目として草花類や枝物を選択している。菅家さんの現地視察と取材から、「野の花産業」が静かに広がりを⾒せていることがわかる。草花の⽣産者が増加している時代的な背景は、以下の4つの要因が関わっている。
(1)SNSの活用(顧客へのダイレクトなリーチ)、(2)自然なテイストの花に対するニーズ、(3)施設園芸のコスト上昇、(4)草花栽培は持続可能な農業そのものである。

 従来からの多投入型の花栽培は、いまの時代が求めている「持続可能な農業」に反している。ただし、近代農業の経営技術は、草花栽培でも活かされている。例えば、菅家さんがカスミソウ栽培で獲得したコールドチェーンや湿式輸送、鮮度保持の技術などである。ヤリファームの田中さんが取り組んでいる花栽培におけるDXやドローン・センサーを用いたスマート農業への転換などでも、テクノロジーが積極的に活用されている。
 草花栽培では、従来型のマスマーケティングが転換点にある。多品種少量⽣産では、むやみに経営規模を追うことはしない。田中さんたちの顧客接点の作り⽅を⾒ていると、かつて有機農家で始まった「消費者との提携」を思い出させる。なぜ30年ほど遅れて花の業界でCSA(Community-SupportedAgriculture)が始まろうとしているのか︖
 そのヒントは、わたしたち⽣活者の価値観やメディアの使い⽅が、いまドラスティックに変化していることにあるように思う。人口減少社会では、水田や畑が林野に戻って⾏く。粗放的な露地栽培が、自然な形で人々の幸せに貢献する時代になったのかもしれない。

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