少し前の巻頭言で、「続・鎖国のすすめ」(2019年9月号)というコラムを書かせていただいた。イギリスで国産の花が求められ始めていることを紹介した記事である。ユニオンジャックのラベルがついたスリーブを、テスコなど、英国の小売りチェーンの店頭でよく見かけるようになった。JFMAの欧州ツアーのときだから、7~8年ほど前からのことだろうか。
この現象は、英国のEUからの離脱と無関係ではないだろう。花産業の国内回帰の動きと連動して、グレタさんらの主張に象徴されるように、「気球温暖化に抗して無駄なCO2排出を阻止する社会運動」が、欧州人に受け入れはじめたからでもある。パリ在住の親しい友人、荒井好子さんからも、「飛行機にはもう乗りません!」というメールをいただいたのは、欧州ツアーから戻った直後のことである。
翻って、わが国の花産業と消費者の動向を眺めてみる。日本の花き市場は、国産の花の供給で成り立ってきた。輸入の花が目立って増えてきたのは、21世紀に入ってからのことである。それでも、この10年間は、国内の業務需要の低迷などもあって、緩やかな増加はあっても、欧米のように輸入が市場全体を席巻するというほどのことはなかった。しかも新型コロナウイルスの感染拡大で、いまや輸入の花が日本に入りづらくなっている。輸送費の高騰などもあって、輸入の花にとっては不利な条件が重なっている。
「鎖国のすすめ」「国産品愛好」などと愛国心に訴えなくとも、コロナウイルスが人為的に鎖国を推進してしまっているのである。運べない/輸送費が高すぎるという現象は、花の輸送についてだけのことでない。県境を越えて人が移動することが、いまや国内でも困難になってきている。まるで鎖国していた江戸時代に戻ったような気持ちになる。
そうした中で、1月16日、『日本経済新聞』に「切り花輸出倍増の影世界最大市場が国際認証義務化」という記事が掲載された。日経の記事中に、MPSジャパンの松島義幸社長のコメントが引用されていた。「(MPSには)消費者の関心が低く、生産者が取得するメリットを感じられない」。
松島さんはブログでも、「オランダ・フローラホーランドが今年1月から国際認証(MPS)を取引条件必須化したことを取上げている」と解説している。欧州の花業界では、いずれMPSが必須になることは目に見えている。それにも拘わらず、日本の花業界人、とりわけ欧州市場向けに花を輸出している生産者は、自分たちの将来に対して備えようとしていない。実に不思議な光景を見ている気持ちになる。コロナ対策で大変なのだろうか。
筆者は、環境保護主義者で鎖国推進派を自任してきた。地球環境のことを考えれば、人や物の移動はできるだけ制限してほうが良い。しかし、一方で、日本の花産業の国際競争力を考えると、一概に花きの輸出入の抑制を主張することは、自分たちの未来のためにならないとも考えるようになった。
自国の産業を守るためには、逆に輸出で海外市場に撃って出る気概が必要である。単に守りに入るだけでは、現状の停滞を打破することはできない。花き類に限らず、農産物全般でも自国の産業競争力を高めることができないからである。その意味で、いまや環境保護のための保護貿易の正当性を主張することには限界を感じるようになった。「純粋な鎖国論者」からは離脱を宣言したい。