ハローウインのカボチャなどでは、本来は食用に栽培された野菜を装飾用に利用している。それとは逆に、観賞用の花を食用に供しているのが、エディブルフラワーである。この頃は、『エディブルフラワー図鑑』なども刊行されていて、食用花への注目度は高く、市場も大きく伸びている。
1年半ほど前から、富山県でわさびの産地を形成するプロジェクトに関わってきた。日本原産のわさびは、絶滅危惧種(レッドリスト)に分類されている。和食に欠かすことができないスパイスではあるが、地球温暖化や獣害、栽培農家の高齢化などで、ここ15年間で生産量が半分に減少している。
豊洲市場の泉未紀夫氏(青果協同組合長)の言葉を借りると、「この世からわさびが無くなると、和食文化が滅びてしまう」という事態が起こっている。このプロジェクトは、消滅しそうになっているわさびの種を保全するためのものである。しかし、プロジェクトを推進する過程で、わさびの葉っぱが、現地で大量に廃棄されていることを知ることになった。
本わさび(西洋わさび/ラディッシュと区別するための呼称)は、伊豆の山中や安曇野の高原など、水と空気がきれいな環境の下で栽培されている。コロナ明けで供給が不足していることもあり、「いも」と呼ばれる根っこ(根茎)や、漬物に使われる茎の部分(茎わさび)は、都内の大田市場や豊洲市場では超高値で取引されている。
わさび栽培の特徴は、農薬をほとんど使用していないことである。そのため、根や茎の部分以外にも、葉の部分も食用に供することができる。ところが、葉わさびは、てんぷらの材料や「つまもの」として、高級割烹や現地の食卓にふつうに登場する食材である。
ところが、葉っぱはかさばってしまうのと、市場ではそれほど高値が付くわけではない。収穫に手間がかかるうえに、輸送コストも馬鹿にならない。供給量も多いので、葉わさびはほとんどが圃場で廃棄されている。
廃棄されてしまう葉っぱがもったいないと思い、青山フラワーマーケット(商品開発部)とユーザーライク(サブスクのブルーミー)に、輸入品のグリーン(例えば、ゲーラックス)の代用品として活用できないかを打診してみた。
日持ちも大切な要因だと考えたので、大塚化学には、糸魚川市のわさび栽培温室(SKフロンティア)から、葉っぱをクール便で届けてもらった。青山フラワーマーケットで、切り花と組み合わせたアレンジは、美しくデザインされて好評だった。テスト結果も良好で、2週間ほどの日持ちが確認できた。
そんなところに、三好正一さん(JFMA副会長、ミヨシグループ代表)から吉報が届いた。「先生、こんなニュースが飛び込んできました!「エビデンスしっかりした事で更に道が開かれますね」。わさびの新しい効用について、研究成果が発表されたというニュースだった。
「辛み成分で葉しおれ防ぐ 野菜、花の鮮度保持に期待」(『日本経済新聞』2023年5月15日配信)。
もしかすると(あくまでも推論だが)、日持ち試験の結果と掲載された記事の内容は、科学的に連動しているかもしれない。
わさびの葉っぱは、アレンジの添えとしての役割と同時に、主役である切り花の日持ちを延ばしてくれる副次的な効果を有しているのかもしれない。すべてはこれからの検証に委ねられるが、わさびの新しい効用や活用法が、わさびを消滅の危機から救うことになるかもしれない。