2021年12月、富山県に産地を形成することを企図して、「富山美味しいわさびプロジェクト」を発足させた。絶滅危惧種に認定されている「わさびの保全と新しい市場形成」が目的だった。ところが、土地の探索から1年半を経過しているが、富山県内に農地と協力者を見つけることができていない。
冷静に考えてみれば、当然のことである。東京在住の元大学教授(わたしのこと)と友人・弟子たち(5人のメンバー)が、自分たちは事業リスクをとることなく、栽培のための土地(>0.5ヘクタール)を提供してくれという提案である。
ビジネスとしては儲かりそうだが、一方的で身勝手な提案に応じる農業者は出てくるはずもない。そんな客観的に当然の事実に、わたしたちはようやく気がつくことになった。そこで、戦略を変更するため、昨日の夕方、「わさびカンパニー設立プロジェクト」のメンバー6人(渋谷社長、2人の木村さん、坂崎さん、山田さん、小川)で、戦略見直しのための戦略会議を開くことにした。
約1時間半のzoom会議だった。小川が作成したアジェンダにしたがって、議論が活発に進行した。その結果、基本的な考え方と事業開発の方向性を変更することにした。山田さんが作成してくれた議事録(メモ)を参考に、事業の進め方の変更点を紹介することにする。
以下は、メンバーの意思と決意を反映したものになっていると、わたし(小川)は考えている。
1.わさび温室の立地(渋谷社長より)
大辻社長(元立山町長)や富山の水橋を第一候補としたが、良い水がなく、井戸をより深く掘る必要があった(水利権の制約があるため)。最終的には、黒部川沿いの河川敷(農地)に近い田んぼを紹介された。黒部市は湧水が豊富ではあるが、市街化調整区域から外れるため「パワーアップ事業」(農水省の補助金)の対象にならない。
ハウス園芸では、総額で最大6千万円、金額で2分の1の補助が受けられる。地域の農業者として認定を受けることができれば、農林水産省の補助金がある。大辻さんに紹介してもらった、同業者(砂利屋さん)の保有地には、最大8棟のハウスを建てることができる。
約1年間で土地取得のために動いてきたが、結論を言えば、市街化調整区域を前提とした用地探しは厳しいことがわかった。土地探しの基本方針を転換する必要がある。
2.富山県の実状(木村宏氏より)
これまで探索してきた、富山県内の候補地と事業者を地図にプロットしてみた。新川地区と呼ばれる、県の東側に有望な場所がある。宝水本社(水の会社)のある常願寺川沿いに、2社ほど水の会社があり、そこは水量が豊富である。結局は、魚津、黒部、入善の3つが、今後の有望な候補地になる。
現在のスキームでは、初期投資額が1.5億円から2億円と、一般の農業者や事業者にとっては大きすぎる。そのため、土地保有者や事業候補者が二の足を踏む原因になっている。事業としてそれより前に進まない。ポイントは、
①わさび栽培が他の品目に比べてどの程度うま味があるのか、
②糸魚川のようなビニールハウス(SKフロンティア)が実際に完成して、わさびの栽培が可能であることを示さなければ、農業者の理解を得ることが難しい。しかし、
③それほど複雑なシステムを用いているわけではないので、水の条件が整えば、富山でも栽培は可能なはずである(坂崎先生)。
結局は、ハウス一棟当たりの設備建設コストは、温室で500万円+温室内の設備で500万円、合計で約1000万円になる。「パワーアップ事業」の制約は、総面積が>5000㎡で、初期投資が約2億円のため、投資金額と候補地の縛りがきつく、適当な土地が見つからなかった。
投資規模に関する方針を変更することが必須となる。初期投資額と規模を縮小して考える必要が出てきた。この点に関しては、以下の小川の提案を受けて、6人で議論が進んだ。
3.戦略変更の提案(小川より)
①土地確保より、会社設立を優先する(自らがリスクをとるという立場の明確化)
②テストプラントの規模を半分にする(木村宏さんと渋谷社長の現状説明を受けて)
③市場環境の変化と対策(6月4日の武内智さん(元ワタミファーム社長、現在、有機JAS認定会社の社長)の視察を通して、アドバイスを受けることになる)
4.メンバーによる討論(途中経過と結論の要約)
認定農業者であれば、最大6000万円の投資は可能である(半分が農業補助金で賄う)。3000万円は自己負担(一部銀行からの借り入れ)で、5~6棟のハウスが立てられる。一か所でツイン(2人の農業者)で栽培すると、投資効率はさらに良くなる(渋谷社長からの説明)。
富山で実際に生産されたわさびを提示しなければ(候補者に栽培できたわさびの実物を示さないと)、出資に協力してくれる農業者は登場しないのではないのか(山田さんから)。
実験プラントをプロジェクトメンバー単独で作るのは、富山県の農業者(認定農業者である必要がある)がいないため難しい。農業者を巻き込んで、まずは実験プラントを作ること。われわれメンバーより、農家には小さいリスクを負ってもらうような仕組みが必要である(木村宏さん、坂崎先生)。
良質な水と場所(農地)の確保を考えると、候補地は新川地区の「入善、黒部、魚津」の3か所になる(小川より)。
この先の具体的な進め方としては、農業者は6月末までは田植えで繫茂期になる。8月末から再度忙しくなるので、6月20日~7月中に、プロジェクトの説明を済ましておくのが望ましい。この方向で、実行計画を練ることが決まった。
5.今後の展開
①会社の概要の決定(小川、山田さんが担当)
②農業者へのヒアリング・根まわし(渋谷社長、木村宏さんが担当)
③6月20日までに、それぞれが役割を分担して取り組む