実に長い助走期間だった。2009年から「SPRING」(サービス産業生産性協議会)で開発完了後、毎年CSのデータを公表してきたJCSIの「公式ガイドブック」のことだ。日本生産性本部の「JCSI調査チーム」や青山学院大学の小野さん、インタージの森川さんたちと取り組んできたJCSIの調査概説書の刊行に目途がついた。
いまだ暫定的ではあるが、仮タイトルは、標記のように『サービスエクセレンス:JCSIの公式ガイドブック』(生産性出版)となっている。来年の2月末から3月上旬にかけて、300頁の大著刊行が確実になってきた。出版に際しては、小野さんの貢献がとても大きい。ある意味で、小野さんの学者としてのデビュー作にもなっている。
構想からでは10年、具体的な着手作業からは3年間以上。ここまで、辛抱強く我々の作業の完了を待ってくださったSPRING(野澤部長)と生産性出版(村上さん)に感謝したい。
本書は、「日本版顧客満足度指数調査」(JCSI)のガイドブックであるとともに、われわれが10年以上の調査データから発見した、日本のサービス産業の現在を素描したものである。仮説的な法則や発見がたくさん詰まっている。
以下に、暫定的な「もくじ構成案」を貼り付けておく。これが最終ではないけれど、本書のフレーバーを感じていただくことはできるように思う。
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小野譲司・小川孔輔編著+JCSI推進パートナー(2020)
『サービスエクセレンス:日本版顧客満足度調査(JCSI)、公式ガイドブック』
(生産性出版、2021年2月刊行予定) V1:20200923(小川、森川)
序章「本書の狙いと概観」(小川担当、骨子)
1.「公式ガイドブック」発刊の目的
2. JCSI の開発経緯と提供サービス
3. 経営課題としての CS 経営
第1章 日本企業のサービスエクセレンス
1. 顧客満足とブランド力
(1)CSI とブランドイメージは何がちがうか
(2)CSI は格付けではない
(3)相対的位置付けを示す
2. 顧客中心主義のコンセプト
(1)顧客中心主義のマネジメント課題
・レベル1:不満を解消し、苦情に対応する
・レベル2:VOC(顧客の声)を積極的に聴く
・レベル3:極端な満足でロイヤルカスタマーを創造する
・レベル4:優良客を見極め、カスタマーエクイティを最適化する
・レベル5:多様な顧客経験とエンゲージメントを巻き込む
(2)顧客中心主義の重心をどこにおくか?
3. CSI と市場シェアは関係あるか
(1) 市場のジンクスと戦略
・データセット
・新しい市場カテゴリーの台頭
・宿泊特化のビジネスホテル:地域市場と全国市場
(2) なぜ市場シェアとCSIは連動しないのか?
・ダイレクトの強み
・ジンクスを破り、飛び抜ける「戦略」
4. CSI と業績は連動するか
(1) 業績V字回復とCSI
・多数乱戦・異業種格闘のデススパイラル
(2)業績バロメーターとして CSI のオプション
・集客力が高いのに満足度が低下?
(3) CSIは業績の予兆か結果か?
・CSI と関連する業績は何か?
・CSI と負の関係にある業績
5. まとめ:CSI とは何か
第 2 章 JCSI(日本版顧客満足度指数)
1. JCSIのコンセプト
・なぜ累積的満足なのか
・CSIによるベンチマーキング
・顧客満足の源泉
・ロイヤルティの源泉
2. JCSIの方法論
(1)調査対象:業種、企業・ブランド、顧客
(2)サンプリング
・重み付け無しのユニークユーザー
・ 日本人ないし国内居住者
・「顧客」はだれか?
(3) 調査方法
(4) CSIの情報量
(5) 測定尺度
・多項目の心理尺度:6つの主要指標による多次元評価
(6) 指標化:100点方式のCSI
3. JCSIの活用に向けての課題
(1) JCSIの課題と展望
・調査対象業種・企業をどこまで広げられるか
(2)調査対象者のサンプリング
・訪日外国人客の回答をどうやって集めるか
(3)PC 調査からモバイル調査へ
(4)JCSIをどう活用するか
・データの統合とエコシステムの構築
補論:CSIモデルの発展とJCSI
1. JCSIの開発経緯
2. CSI モデルの発展
3. 因果モデルの推定方法
第 3 章 品質・満足・ロイヤルティの連鎖
1. 顧客満足~利益連鎖のフレームワーク
2. 顧客満足の形成
(1)足し算と掛け算の評価
(2)引き算の評価:期待不一致モデル
・多様な参照点
(3)割り算の評価:公平性
(4)顧客期待の効果
(5)知覚品質とSQI(サービス品質)
・標準化とカスタマイズ
・顧客ニーズ異質性
・品質駆動か価格駆動か
(6)感動と失望
3. 顧客満足のロイヤルティ効果:推奨と再購買
(1)ロイヤルティとは何か:態度、意図、行動
・契約型サービスのロイヤルティ
・顧客シェア(SOW: Share of Wallet)
(2)行動ロイヤルティの深さ、長さ、広さ
(3)顧客のエンゲージメント:クチコミ、推奨、紹介
(4)スイッチング・コスト
・推奨意向とスイッチング・コストの相対的な重要性
(5)CSR(企業の社会的責任)のイメージ
4.顧客満足から企業業績への効果
(1)顧客行動から事業成果へ
・どの業績指標が関係あるか?
(2)顧客の異質性
第 4 章 顧客フィードバックの設計と活用
1. 顧客フィードバック
(1) 誰からフィードバックを得るか
・CS調査のスコープ
(2) 時間軸:過去、現在、未来
(3) 測定尺度と指標化:スコア、ランキング、パーセンテージ
・ランキング、パーセンテージ、スコア
2. 分析とインサイト
(1)全体観をもつ:鳥の目
(2)トレンドを読む:魚の眼
・顧客満足の源泉とロイヤルティの源泉
(3)細部を探る:アリの目
(4)複眼的に診る:複眼
・標本誤差と非標本誤差
・企業が統制できる要因とできない要因
3.顧客フィードバック活用のマネジメント
(1)顧客フィードバック活用の PDCA サイクル
⑵顧客フィードバック活用のステージ
コラム:指標の性格を理解する:CSIとNPSの違い
第5章 CSI診断:経験則を検証する
1. 顧客満足が高い/低いのはなぜか?
⑴バラツキがどこで発生しているかを特定する
⑵市場要因に関する経験則
(3)顧客要因:デモグラフィックス
⑷顧客要因:地理的特性
⑸顧客要因:顧客経験
・顧客経験:購買履歴
・顧客経験:商品・サービスの購入経験
・顧客経験:チャネルの違い
2. 顧客満足の源泉は何か?
⑴JCSI因果モデルによる診断:期待,品質,コストパフォーマンス
3. 顧客ロイヤルティの源泉は何か?
⑴満足,推奨,ロックインの効果
⑵3つの推奨効果:やめにくい顧客を創造する
⑶スイッチング・コストでロックインされる顧客:しがらみと習慣の影響
⑷感動と失望の効果
⑸リカバリー・パラドクス
(6)CSR:“良い行いをしている企業とは永く付き合いたい”
4. CSIの診断マップの構築
⑴データ分析の視点・方法
⑵次のステップへ向けてのポイント
・サービス品質診断マップの作成
・顧客セグメンテーションとターゲティング
第6章 サービス品質診断(1):SQI による継続的改善
1. サービス品質の診断:全体品質と SQI
(1) ケーススタディ市場環境の変化がもたらしたサービス競争
・顧客の支持が業績回復の礎となる
(2)SQI によるサービス品質診断
(3)ケーススタディ:同質化と差異化を繰り返すフードサービス市場
2. 何が問題か:フレームワークとステップ
(1) サービス品質診断のフレームワークとステップ
・顧客フィードバックを用いたサービス品質診断と顧客理解
3. 品質レンズの構築
(1)品質レンズの視点
・組織と顧客のレンズ
・顧客視点の品質レンズ
・カスタマーエクスペリエンスとサービス品質:プレ,コア,ポスト
(2)品質レンズの解像度
・品質レンズを測定項目にブレイクダウンする
・品質評価データの集計
(3)抽象的なサービス次元(固有値)に潜むニーズの本質
・因果関係が曖昧で,定量化しにくいサービス品質
・組織内ギャップによる誤認識:掛け違えたレンズ
4. プライオリティ(優先順位)と IPM
(1)品質改善の目標設定;全体品質,満足度,ロイヤルティ,LTV,ROQ
・目的変数として何を設定するか
(2)なぜサービス品質の優先順位が必要か:要素ごとの優先順位と時間的な優先順位
・重み付けの考え方
(3)IPM(インパクト・パフォーマンス・マトリクス)
・インパクト・パフォーマンス・マトリクス(IPM):維持、強化、抑制
(4)重み付けの方法(技術的解説)
第 7 章 サービス品質診断:(2)戦略的投資
1. サービス品質の.戦略的判断
(1)線形と非線形:損失回避,継続的改善,戦略的投資の使い分け
2. 顧客感動への攻撃戦略
・デライト追求のジレンマ
3. 顧客失望に対処する防衛戦略
(1)サービス欠陥
(2)声を発する“ノイジーマイノリティ”
(3)リカバリーパラドックス
(4)サービスリカバリー品質(SRQ)による追跡
4. 事前予防と事後対処のアプローチ
(1) 声を発しない”サイレントマジョリティ“
(2)ノイジーマイノリティの声
(3)顧客による原因帰属のクセを知る
・人にはミスの原因を推論したがる習性がある
・顧客はサービス欠陥の原因を人やシステムに帰属したがる
・成功は自分ががんばったから,失敗は他人のせい
(4)事前対応アプローチへの示唆
5.サービス品質のマネジメント
(1)サービス品質の標準値と目標値
(2) 拠点・部門間の差異とノウハウ共有?
(3) 改善効果を見極めるタイムスパン?
(4) 品質収益性(ROQ)をモデル化する
第8章 顧客戦略のロジックを構築する
1. 戦略ロジックの軸足:製品サービス軸と顧客軸
⑴収益モデルを因数分解する
⑵経営のミッションとブランド
⑶顧客ターゲット選択
⑷品質に対する2つのアプローチ
2. 顧客基盤の診断
・顧客関係をどう測るか:顧客シェアとカテゴリー全体の購入頻度
・ネットショッピングの顧客基盤
・CSI連続1位の顧客基盤の特徴は何か
・劇場とテーマパークのファン層
・10年連続1位のスターフライヤーと、それに迫る勢いのスカイマーク
・より深い顧客理解へ向けて
3. 製品・サービスの梃入れ策
⑴顧客戦略とサービス戦略:基本戦略
(2)顧客の重み付け:ウェイトの高い顧客に寄った改善
4. 日本のサービスエクセレンスを読み解く
⑴伝統と新興のエクセレンス
・オンライン専業と格安業態の参入
・日本市場で台頭する新たなサービス・エクセンス
⑵二つのエクレンス:品質とコストパフォーマンス
・CSI上位の常連
・デフレ経済の主役
・フィットネス市場
(3)顧客戦略と品質収益性(ROQ)
⑷サービス改善・改革と顧客価値
・メガ・ブランドかブランドポートフォリオか
(5)足し算と引き算のサービス設計思想
(6)サービス哲学を変えるか?:サービスエンカウンター2.0
・ハイタッチ,ハイテク,リモート
第9章 組織的なハードルの克服
1. 顧客満足の戦略ロジック
(1)CSI活用の5つのステージ
(2)CS経営で推進力がうまれない壁
・企業が認識すべき課題
(3)企業独自の戦略ロジック構築
(4)顧客満足経営の推進力を生み出すための問い
(5)顧客戦略やCSは誰の問題か?
2. 推進力を生み出すための5つの領域
(1)基本的な問題の構造
(2)成果の課題解決
(3)可視化の課題解決
(4)活用・接続の課題解決
3. 組織としての対応
(1)役割と責任の問題
(2)仕組み化の課題解決
・組織文化としての顧客満足(CS)の推進力
第10章 顧客満足経営の推進力:3つのステップと10の活動
1. 活動を根付かせるための3つのステップ
(1)STEP1 なぜそれが必要か“分かる” 〜問題認識の共有化〜
(2)STEP2 何をどうすべきか“分かる” 〜活動計画の検討・実施〜
(3)STEP3 どう修正すればよいか“分かる” 〜成果検証と活動の修正〜
2. 顧客満足経営の推進力を具体化する10の活動
(1)STEP1 なぜ取り組みが必要なのか“分かる” ための具体的な活動
活動①必需意識の喚起
活動②ありたい姿(ビジョン)の可視化
活動③顧客指標(CSI)導入のグランドデザイン
(2)STEP2 何をどうすべきか“分かる” ための具体的な活動
活動④顧客経験価値の計画と可視化
活動⑤カスタマーKPIの体系化
活動⑥顧客タイプ別サービスザインの立案
活動⑦アクションプランの開発と現場への接続
(3)STEP3 どう修正すればよいか“分かる” 〜成果検証と活動の修正〜
活動⑧フィードバック活動のデザイン
活動⑨フィードバックループの設計
活動⑩統合データ分析によるインサイト抽出
(最終章は、修正中)