『週刊エコノミスト』(毎日新聞社、3月22日号)の書評欄で、友人の石井教授が拙著『しまむらとヤオコー』を取り上げてくださいました。わたしが読者に伝えようとしたことを、120%理解していただき、好意的に紹介していただきました。ブログにも掲載します。
『週刊エコノミスト』BOOK REVIEW」(2011年3月14日号)
小川孔輔『しまむらとヤオコー』(小学館)
評者・石井淳蔵(流通科学大学学長)
「対照的な経営、共通点は人と創意工夫」
小さな町から現代の日本を代表する2つの小売りチェーンが、昭和30年代初頭、相前後して誕生した。
1つは、衣料チェーンのしまむら。著者に言わせると、日用衣料品の日本版ウォルマート。同一フォーマットの店を。標準化された仕組みで効率よく動かしていく点が似る。ただ、「1つとして同じ品はない」という多品種少量の作戦はしまむら独自。もう1つは、食品チェーン、ヤオコー。その目指すところは、楽しい食生活を実現するための提案型売り場づくり。店の売り場を画一化せず、地域に合わせた非標準化スタイルを徹底する。
いずれも、流通革命を先駆したダイエーやイトーヨーカ堂などから見ると、その歩みは遅い。ビジネスの世界で出遅れは致命的と言われるが、そうでもない。幸運の女神は待っていてくれる。人とその創意工夫を大事にすれば、少々の困難も乗り切れる。一番印象に残ったことはそれだ。
話は面白く。一気に読める。それは、著者の小説仕立ての腕前なのだが、それを通して、その当時の当事者の逡巡や悩み、置かれていた難しい状況、そしてそれを乗り越える判断やその契機が生き生きと伝わる。
経営革新が要請され、その理論化が探られる今日。だが、理論の効能は限られる。本書の登場人物の1人は、節目を作るのが嫌いだという。準備さえあれば、経営革新という目立った事績は不要だという。その言に納得しながら、改めて先駆者たちの歩みを理解することこそが大事だと思った次第。「時代を切り開くとは、どういうことか」を共感的に理解することの大事さ。著者の意図はそこにありそうだ。
しまむらの創業者・経営者である島村恒俊さんと藤原秀次郎さん、そして同じくヤオコーの川野トモさんと川野幸夫さん。お会いしたことはないが、人としての魅力が伝わる。4氏のお人柄だろうが、同時に著者の4氏への熱い思いと共感があればこそ。日ごろ堅い本を書いてきた著者の小説第一弾は、ものの見事に読者の心を射るものとなっている。