「地方の花店経営:ワークマンの大変身に学ぶ」『JFMAニュース』(2019年9月20日号)

 今月7日に、「花の国日本協議会」のフラワーサミットが開かれた。、午後の「『花屋の経営』5年後の花屋の姿とは?」というセッションでパネラーを依頼されていた。75分のごく短いセッションである。

 

 多賀城フラワーの鈴木貴資社長がモデレーターで、青山フラワーマーケットの井上英明社長と日比谷花壇の宮島浩彰社長が、わたし以外のパネラーだった。セミナー会場には、全国各地の生産者から花屋さんまで、120人ほどが座っていただろうか。このセッションでは、最初に会場からパネラー3人に対して自由な質問を受けつけていた。皆さんの関心は、次のようなものだった。

 ①5年後を見据えて作るべき花についてご意見を頂きたい(長野県の生産者)②二社の戦略ビジョンは?③(わたしに対して)25年前の経験から今読むべき本を推薦してもらいたい(富山の花屋さん)④5年後の地方の花屋さんの姿⑤国内・海外の花の使用比率は?

 モデレーターの鈴木さんには、事前に3つのキーワードを伝えてあった。ローカル、ブランド、IT(SNS)である。お二人が自社の戦略をお話になる前に、先に話す機会をいただいたので、作業服メーカーの「ワークマン」の事例を紹介することにした。

 群馬県出身のワークマンは、地方のロードサイドに展開する作業服・作業着のチェーン店である。2019年8月現在、日本全国に約800店舗。どことなくあか抜けないイメージの店舗が、2年ほど前からビジネスが大転換を遂げている。きっかけは、新業態「WORKMAN PLUS」を展開するあたりから、ブランドとしてのポジショニングが大きく変わったことである。人気に火をつけたのは、ワーク男の商品が気に入って勝手に宣伝してくれるインスタグラマーやYouTuberである。

 ワークマンの主要顧客は、建設業や農業などハードな仕事に従事するプロフェッショナルである。専門家向けの機能商品が中心で、耐寒性や防水性に優れている。ただし、ノースフェースやモンベルなどのようにハイブランドのような高価格ではない。それどころか、メイン顧客にとっては消耗品なので、アウトドア用品のブランドに比べて価格は半分以下、場合によっては三分の一である。しかし、機能性はほとんど変わらない。

 その地方出身企業のワークマンが先日(9月6日)、新宿ルミネのホールを借り切って「過酷なファッションショー」を開催された。これまで磨いてきた優れた機能性を、キャンプや登山用品、フィッシングやロードバイクに乗る場面で、つまり過酷な条件で使えるアウトドア用品としてポジショニングしなおそうという意図からである。

 午前のファッションショーには、主要メディア15社が取材に来ていた。その様子は、午後のTV番組で大々的に報道されていた。私が見学した午後のショーには、インスタグラマーたちが招待されていた。勝手にワークマン商品をインスタやユーチューブにアップしてくれる応援団である。会社が特別に彼ら彼女たちを集めたわけではない。

 実は、2019年9月6日時点で、ワークマンの株式時価総額(約5400億円)は、グローバルに事業を展開している良品計画やローソンを超えている。地方で作業服や作業用品を地味に販売していたドメスティックな企業が、世界的に知名度の高いグローバルブランドより市場では高く評価されているのである。

 このことは、地方の花屋さんには吉報である。立派なローカルな小売りモデルが、群馬県出身のワークマンである。地方出身だから価格は安く、損益分岐点も低い。自然発生的にSNSでファンをつかみ、メディアに無料でブランドを露出できている。原価率も約65%と高いのだが、商品のほとんどは値引きしていない(値引き販売は2%程度)。高収益体質の企業モデルは、地方の風土が生み出した成果である。「ワークマンに学べ」である。