先日、(11月14日)「HORTUS 植物と文化を考える会」というセミナーが開催された。場所は錦糸町で、主催は「すみれの会」。講師は、育種家の坂嵜潮さん(JFMA顧問)。テーマは、「花と歩んだ道」というタイトルだった。坂嵜さんから連絡があって、「自分が前半を話すので、後半は小川先生にコメンテーターをやってもらえないか」との相談だった。
聴衆は、趣味家で植物好きな人たち30人ほど。対談のテーマは、「ビザールプランツ流行の背景」になるかなとのことだった。このときのテーマが、今月(12月11日)のJFMA定例セミナー「この10年の『植物イベント』の興隆と今後の展望」(講師:長谷圭佑氏/天下一植物界主宰)の招待講演に繋がることになった。
ところで。坂嵜さんがサントリー時代に大ヒットさせた「サフィニア」は、園芸植物(ペチュニア)と南米の原野から拾ってきた野生種(原種)の交配から生まれている。坂嵜さんが2度目のゴールドメダル(@チェルシーフラワーショー)を獲得しいたのも、紫陽花の交雑種「ラグランジア」が受賞対象だった。中国地方の山中で出会った紫陽花の野生種と園芸種を交配したものである。
戸外の庭で育てるラインナップとは対照的に、ビザールプランツは、趣味家がインドアで楽しむ植物である。見た目は珍奇だが、自然の変異から誕生したレアな植物群でもある。新しい現象としては、希少なプランツの情報伝達手段がSNSであることだろう。
一般にビザールプランツは希少で高額だが、小さな市場でも効率的に取引できる。それは、①新しい販売経路(ネット)が存在することと、②新しい買い手(珍奇植物の愛好家)が誕生したことである。植物の特性と形状については、③供給が小さな生産規模でも成り立つこと、④インドアで楽しむプランツであることだろう。
ビザールプランツの流行は、江戸時代の園芸文化やオランダのチューリップの狂乱時代を彷彿とさせる。なぜならば、当時の江戸やアムステルダムでは、それなりの金持ちと趣味家が存在していたからである。しかし、園芸文化を底辺で支えていたのは、江戸やアムステルダムの庶民たちである。噂の流布(印刷媒体としての瓦版)とそれを見る場所(江戸の種苗交換の場所としての縁日もどき、オランダではチューリップ畑)が常設で存在していた。300年前といまの違いは、ネット情報の流通と厚い中産階級が存在していることだろう。
わたしは坂嵜さんとの対談で、ある気づきを得た。珍奇植物の流行は、コミックマーケット(コミケ)が大きくなった道筋と似ている。趣味人(コミック好き)とメディア(SNS)、そして「取引市場」(展示会場としてのコミケ)が存在することだろう。
その先には、上位市場(漫画雑誌、テレビ番組や映画)がある。場合によっては、プロの漫画家としてデビューできるかもしれない。ビザールプランツのアウトレットも同様である。趣味家がプロになる道が開かれている。その先には、マスマーケット(大量消費市場)の姿も垣間見えている。
(注)今回の巻頭言は、個人ブログ「坂嵜潮さんのコメンテーター役で、『植物と文化を考える会』の会合へ@すみだ産業会館(2024年11月4日)を加筆修正したものである。
コメント
小川先生
興味深いお話をありがとうございます。
30年ほど前ですが、先生主催の勉強会で企業(鐘紡)におけるフラワービジネスの話題を提供させていただいたことがあります。今は大学で教員をしております。
すみれの会の田渕さんからの依頼で、ニッチプランツ関係の話題を来月8日にお話しさせていただくことになり何か情報はないかと探したところ先生のブログに辿り着きました。どのように話を進めたら良いかと考えておりましたが、田渕さんが依頼された伏線があったのだと知ることができ、考えがまとまったように思います。あくまでも趣味家としての立場から、植物の魅力、遺伝資源、育種、SNS等を通じた販売などのお話をして、延いてはこれからの趣味園芸の意味などについて語り合いたいと思いました。
ありがとうございます。
須藤さん コメントありがとうございます。昔の勉強会の話はよく覚えていませんが、その後に、JFMAという組織を立ち上げて、いまに至っています。おがわ