「意外な物日:成人式に花を贈る」『JFMAニュース』(2020年1月20日号)

 JFMAが2008年から継続的に実施している消費者動向調査では、年間を通して花が売れる物日をたずねている。2019年版の調査データ(Q6:この一年間で花を購入した「日」についてお答えください)によれば、1位が「母の日」(55.7%)、2位が「お正月」(17.5%)、3位が「クリスマス」(7.9%)と続いている。「桃の節句」(6.6%)、「父の日」(6.1%)のあとに、「バレンタインデー」(5.3%)もずいぶんと健闘している。

 

 10年間続けてきた「フラワーバレンタイン」のキャンペーンが実を結んだ結果だろう。これからやってくる「いい夫婦の日」(1月22日)などでも、日比谷花壇が始めたキャンペーンのおかげで花が売れるようになった。しかし、思いもかけない日に花がよく売れているという話を「花恋人」(本社:橿原市)の野田将克社長から伺った。新春セミナー(1月14日)の後の懇親会の席でのことだった。

 野田さんによると、成人式に花贈りがはじまったのは6年前。「沢尻エリカがダリアを髪にさして20歳を祝ったのがきっかけだったでは?」(野田さん)。それならば仕掛けてみようと、橿原店(旗艦店)の店頭にド派手な染カスミやラメバラを置くようにした。「インスタ映え」という言葉が定着したのもその頃で、大ぶりで「映える花」を買ってくれる男子がちらほら現れるようになった。

 聞いてみると、後輩が先輩に花を贈る習慣があるらしい。普段とは様子が違っていて、お店に花を買いに来るのが男女半々ずつ。口コミでの噂が広がり、翌年は花を贈った後輩が、その後輩から贈られるようになり、花贈りの連鎖が生まれ出した。

 橿原店の成人の日の売上が、翌年は50%増の15万円になる。とうとう今年の成人式は、前日(12日)の売り上げが85万円まで伸びている。年間で2番目に売れる「敬老の日」が日販70万円、成人の日が母の日(400万円)に続く物日に躍進したことになる。ちなみに、予約注文なので、通期では成人の日が約200万の売上になっている。

 インスタグラム用に撮って拡散を狙うので、派手なデザインの花束が選ばれる。客単価が3000円前後の他の物日とちがって、成人の日は客単価が約6500円に跳ねる。特徴は、ふだんは男子にあまり買われない青系の花や赤色・ピンクの花が好まれる。そして、もらったら「倍返し」になるので、客単価がどんどん上昇していく傾向がある。

 面白いのは、関東と関西ではやや傾向がちがうことだ。関東地区3店舗(ららぽーと富士見、イオンモール武蔵村山、ららぽーと沼津)の地区担当マネージャーの竹内なつ紀さんによると、「東京・埼玉の2店舗では、関西ほど盛り上っていないです」。派手なことが好きな関西人の気質によるものなのか。それでも、昨年出店した沼津店では、初年度から成人の日に20万円の売り上げを達成している。

 日本有数の漁港の沼津では、昔から花贈りの習慣があったらしい。「これまで見たことがないレインボーのバラなどを店頭に飾っておいたのがよかったのか、成人の日は初年度からよく売れましたね」。予約販売も入れると、通期では60~70万円の売り上げがあった。

 衝動買いが基本の花は、花恋人のように、何らかの仕掛けが必要のように思われる。フラワーバレンタインやいい夫婦の日もそうだが、「売り込む意思」がないところでは売上は伸びない。

花恋人の取り組みを見ていると、将来的には、成人の日が新しい物日へ発展しそうに感じる。店舗によっては、バレンタインやホワイトデーより、物日として定着する可能性がある。なぜなら、成人の日で花を贈る習慣ができると、3月の卒業式や5月の母の日につながるからだ。しかも、アクセサリーやソープフラワーなど雑貨の売り上げが半分を占める店もあるほどの花恋人でも、成人の日は売れる商品のほぼ100%が生花である。アレンジの力を活かせるのが、生の花束だからである。