(その48)「29年ぶりの自著との再会」『北羽新報』2020年7月23日号

 これまでたくさんの本を書き残してきた。今年5月18日に刊行した『花産業の戦後史(1945年~2020年)』で累計47冊目になる。年間1~2冊のペースで出し続けているが、このペースは結構しんどい。そんな中、先週のJFMAのトップインタビューで、西尾義彦会長が、わたしの処女作(単著)を持参してくださった。

 インタビューの最中、西尾さんが手で押さえている部分を見ておどろいた。そんなことを書いていたのか、、、、
 あれから約30年の歳月が経過している。自分が書いたはじめての本に、29年ぶりに巡り合ったのだった。西尾さんはきっと大切に本棚にしまってくれていたのだろう。西尾会長の満面の笑顔をみて、西尾さんのことを書いた著者のわたしが感激することになるとは。自らの足跡の最初の一歩を見せていただいたのだった。
 インタビューの翌日て、西尾会長から、「話し足りなかったので、、、」という丁寧な補足のメールをいただいた。その手紙は、本ブログの7月21日号に転載させていただいている(https://kosuke-ogawa.com/?eid=5287#sequel)。人々の心暖かなネットワークの中で、わたしは生かされているのだということを改めて感じている。
 
 以下は、昨日、秋田の地元紙『北羽新報』に掲載された原稿である。
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「29年ぶりの自著との再会」『北羽新報』2020年7月23日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)
  
 若い人が本をあまり読まなくなりました。ネットで情報が入ってくるのでデジタル化が進み、出版事業は採算が悪くなっています。そのため、著名な大学教授や研究者でも、新しく本を出すことがかなり困難になっています。
 わたしは幸運なほうだと思っています。おかげさまで、先月は生涯47冊目の書籍を出版することができました。JFMA・小川孔輔編『(インタビューで綴る)花産業の戦後史(1945年~2020年)』(三咲書房)です。今回はデジタル出版が中心でしたが、創立20周年記念事業での出版ということもあり、紙の本も限定200部で印刷しました。
  
 簡単に内容を紹介させていただきます。以下は、アマゾンに掲載してある内容紹介文です。
「本書は、JFMAの創設20周年記念誌。会長の小川孔輔が、日本の花産業を成長に導いてきた業界リーダーたちをインタビュー。会報誌に連載してきた記事を再編集して単行本化。インタビューは、カインズホームの土屋裕雅会長、花弘の細沼忠良会長から始まり、業界のトップ25人。登場する経営者は、種苗会社から生産者、花市場、仲卸、花店チェーン経営者までバラエティに富んでいる。花産業人にとって必読の書。」(定価2800円、連絡いただければ入手可能です。)
 30歳代の後半から、一年に1~2冊のペースで出版を重ねてきました。47冊全部を横に積み上げると、高さは約100センチになります。マーケティングや流通関係の本が6割、花関係の本が2割です。残り2割は、企業史や情報関係などの書籍になります。
 ところで、はじめての単著は、1991年に出版した『世界のフラワービジネス』(にっかん書房)です。処女作はいまや絶版です。研究室に一冊置いてあるはずですが、しばらく読み返すことがありませんでした。
 ところが、昨日(7月20日)、日本最大の切り花輸入商社「(株)クラシック」の西尾義彦会長(81歳)をインタビューするため、千代田区麹町にあるオフィスを訪問しました。いまや年上ながら親しい友人となった西尾さんには、30年前に原宿駅近くにあった事務所で、『世界のフラワービジネス』を執筆するため、インタビューさせていただきました。
   
 さて、二度目のインタビューでは、クラシックがタイの首都バンコクではじめたランの大規模農場の話になりました。本の中で大きく取り上げた開発輸入事業のその後を知りたかったのです。ふと話している西尾さんの手元を見ると、拙著の40頁~41頁を開いて、指で押さえています。第2章の「輸入切り花、3つのリスク」という節の始まりの部分です。
 「創業から43年間、いまでも西尾会長が輸入花業界でNO.1でいられる秘訣は?」という質問をした直後でした。その答えが、その部分に書いてあったのです。著者のわたしは、なんと29年ぶりに自著に再会したのでした。
 「(短期的に)儲けようと思わないこと。花は相場で動く、需給のバランスがすべてだ。だから儲けようとすると必ず損をする。損をしないように損をしないように、とやっていけば、結果として儲かる」(西尾社長、当時のインタビュー記録から)
 その瞬間に理解しました。西尾さんは、わたしが30年ぶりに再度、インタビューで訪れるのを心待ちにしていたのです。前夜はきっと、拙著を隅から隅まで読み込んでくれていたのでした。