イタリア料理のレストラン「サイゼリヤ」のように、名詞の最後が「ヤ」なのか「ア」なのか、表記に迷う言葉がある。秋の花の「ダイア」もそのひとつである。一般的には、「ダイア」と呼ばれているようだ。しかし、わたしの子供のころは、この花を「ダリヤ」と呼んでいた記憶がある。
イタリア(Italy)は、発声的には、イタリヤ(Italiya)と発音しているように思う。サイゼリヤの場合では、店名がそもそもサイゼリヤである。「—-lia」だと、母音(ia)が二つ重なって発音しにくいので、「—liya」と「y」を挿入することになるのだろう。
以上は、このコラムを読んでもらったある女性の説である。正しいように思う。というわけで、今月の北羽新報のコラムは、「花の呼び名:ダリヤかダイア?」になった。オリジナルは、本ブログに数年前に書いたエッセイである。
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「花の呼び名:“ダリヤ”か“ダリア”か?」『北羽新報』2020年10月28日号
文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授) V1:20200922
3年ほど前に、知り合いの女性から次のようなメールをいただきました。「先生、ダリアとダリヤ、ふたつの呼び方があるようですが、どちらが正しいのでしょうか?」
花の団体(日本フローラルマーケティング協会)の会長を務めていることもあり、わたしは花や植物に詳しい先生だと思われているらしいのです。でも、専門は経営学(ビジネス)です。植物や花の呼び名について、それほど詳しくはありません。
このメールをいただいた前の週に、ダリアの産地として有名な「山形おきたま農協」(米沢市)を訪問していました。「川西ダリヤ園」がある米沢の隣町(川西町)で、いつもお世話になっている農協の職員さんから、「当地では、花の呼び名は“ダリア”で、植物園は“ダリヤ園”と呼んでいます」と教えられました。
能代市に住んでいた子供のころ、わたしの周囲では、ダリアのことを「ダリヤ」と呼んでいたように思います。秋田弁の発音は、やや「くぐもって」います。最後に大きく口を開けて発音する「(ダリ)ア」より、「(ダリ)ヤ」のほうが発声が自然のように感じます。しかし、標準語ではそうでもないようです。
「ウイキペディア」(オンライン百科事典)で調べてみると、「ダリア」(キク科、ダリア属)となっていました。学名は“Dahlia Cav.”で、和名は「ダリア」。通称は、テンジクボタン(天竺牡丹)でした。ダリアは、キク科ダリア属の多年生草本植物の総称でした。
「ダリア」の学名は、植物学者リンネの弟子アンデシュ・ダール (Anders Dahl) にちなんだ名前だそうです。植物の学名には、必ず命名者(発見者)の名前が入るルールになっています。新星の呼び名も同じです。ダリアは、命名者のダールに由来することになります。
ところで、外国から入ってきた花(洋花)でも、日本で自生しているものについては、ほとんどの場合は和名があります。たとえば、「クレマチス」の和名は「テッセン」。「ユーストマ」の和名は「トルコキキョウ」など。ダイアの場合は、「テンジクボタン」(天竺牡丹)と呼ばれていますが、今やこの呼称は死語になっています。
ダリアは、メキシコ原産の花だそうです。なんとなく乾いた土地に生息しそうです。ヨーロッパでは、1789年にスペインのマドリード王立植物園に導入され、翌1790年に開花したのが始まりです。1842年(天保13年)にオランダから長崎に持ち込まれたのが、日本への最初の到来になりました。
というわけで、どうやら現在の呼び方では、「ダリア」のほうが一般的らしいのです。さらに、「ダリヤ園」と「ダリア園」の両方をネットで検索してみました。最初に出てくるのは、「秋田国際ダリア園」(鷲澤幸治園長)でした。その昔に。名称が「雄和国際ダリヤ園」だったはずですが、いつのまにか「ダリア園」に変わっていました。
最後に、全国のダリア園(ダリヤ園)を調べてみました。やはりダリア園が多数派を占めていました。ダリア園:秋田国際ダリア園、湯遊ランドはなわダリア園、町田ダリア園、両神山麓花の郷ダリア園、ダリヤ園:山形かわにしダリヤ園、黒川ダリヤ園。
花屋さんの店先では、いまダリアが満開です。ダリアの秋シーズンをお楽しみください。