(その14)「続・アグリフード・ツーリズム:富山県魚津市の場合」『北羽新報』(2017年9月27日号)

 ドイツから帰国早々に、秋田の地元紙『北羽新報』にコラムが掲載されている。今回は8月号の続編になっている。選挙があるので数日遅れての掲載になった。富山県の観光課と魚津市には、事前に原稿をチェックしていただいている。感謝、感謝。

 

「続・アグリフード・ツーリズム:富山県魚津市の場合」

『北羽新報』(連載:森下発能代着)2017年9月27日号

 先月号の巻頭コラム「アグリフード・ツーリズム:地方に人は戻ってくる」を読んだ柳谷麻理子さん(能代松陽高校教諭)から、つぎのようなメールをいただきました。

 「・・・実は、この春、京都の総合地球学研究所と秋田県立大学生物資源学部の先生方から『持続可能な社会への転換』という事業への本校生の参加をお呼びかけ頂き、生徒約30名が随時協力させて頂いているのですが、・・・現在、加工食品開発、e-直売所開設、農業・漁業体験を組み込んだインバウンド観光プランの提案に取り組んでいるところです。・・・」

 柳谷先生から、高校生たちの取り組みを知ったことをきっかけに、今後は個人的に柳谷教諭チームへの協力をお約束しました。

 

 ところで、日本海側の地方都市で、同様な「アグリフード・ツーリズム」の取り組みが行われている先行事例があります。富山観光推進機構が法政大学(小川ゼミ)とタッグを組んで、この夏から魚津市の「観光地のブランド化」を支援しています。このプログラムは、「魚津市観光資源磨き上げ支援プロジェクト」と呼ばれています。能代市で観光客の誘致をする場合に参考になると思い、本コラムで簡単に紹介させていただきます。

 

 魚津市は、富山県東部にある人口4万人強の小さな町です。江戸時代の後期から昭和の初めにかけて、北前船の中継地点として水産品とくに昆布の加工貿易で栄えていました。黒部・立山連峰から富山湾に流れ込む片貝川は、水質が豊富でミネラル分をたくさん含んでいます。そのため、紅ズワイガニや白えび、深海魚など漁業資源に恵まれています。

 魚津は扇状地にできた海と山の幸に恵まれた街なのですが、ご多分にもれず、若い人が県外に出てしまい人口の減少に歯止めがかかりません。かつて栄えていた漁業も担い手が200人に減り、人手不足を補うために、インドネシアから毎年30人ほどの漁業技術研修生を受け入れています。また、リンゴなどの特産品がある農業も後継者がいないため、せっかく人気で売れているリンゴの生産量を増やすことができないでいました。

 そこに、京都や金沢で料理の修行をしていた若手シェフが地元に戻ってきます。3年前に準備会が発足、2017年5月には「新川食文化研鑽会(けんさんかい)」を結成します。シェフ以外にもソムリエなど4人が研鑽会に加わり、市や漁協・農協と組んで地域の活性化に挑みはじめました。

 

 研鑽会の発起人のひとりで、「食彩庵 悠」のオーナーシェフでもある海野章文さんは言います。「(研鑽会の)最終的な目標は、海と山の街に来てもらい、魚津の食文化を体験してもらうこと。魚津になじんでもらい、将来的には町に定住する人を増やしたい」。魚津市が目標として掲げている「観光振興計画」では、平成27年で28.6万人の宿泊者数を平成33年には39.5万人まで増やすことが掲げられています。市の目標に協力するため、研鑽会は、地元の食材を用いた料理メニューの開発と食文化の発掘に取り組んでいます。

 たとえば、バイ貝を使って炊き込んだ漁師飯(バイ飯)が「魚の国しあわせFish-1グランプリ」で準グランプリに輝いたことが契機に、海野さんたちが自らのアレンジを加え、販売を始めました。その後の活躍は、研鑽会と市が一緒に取り組み始めているプロジェクトの進展の度合いから推測していただけると思います。

 わたしたちは、この夏から「魚津支援プロジェクト」に加わりました。東京都板橋商店街の協力を得て出店している「アンテナショップ・うおづや」で、シェフたちがプロデュースした料理を発表する予定で販売促進することに学生たちが協力することが決まっています。

 

 日本の地方経済は、地元の特産品(モノ)を都市生活者に販売することで支えられていました。しかし、これからは、農林漁業と食品加工業、それを絡めた観光産業が地方再活性化のポイントです。成功と停滞を分ける分水嶺は、若手のリーダーの存在と彼らを支援する行政の実行チーム、そして外部の知恵(マーケティング)ではないかと思います。