15年前のブログを書き直して、地元の『北羽新報』に投稿しました。掲載前に、友人たちの何人かにゲラの段階で原稿を読んでもらいました。わたしは、右利きでカップは左手持ちです。ところが、わたしの想定に反して、ほとんどの方(右利き)がカップを右手に持ってコーヒーを飲んでいました。
左手にカップを持つのがふつうだと思っていたわたしは、例外的な存在でした。しかも友人たちの中で、わたしは唯一の右利き・左持ちでした。この事実を知って、わたしは衝撃を受けました。また、ほとんどの方は、キャラクターやロゴマークの位置など気にもしていないことを知りました。そのことも、ショッキングでした。こんなこともあるんだ!と。
「コーヒーカップの持ち手は、右?左?」
『北羽新報』2023年4月24日号(V1:202304020)
文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)
ずいぶん昔のことになります。自宅で仕事をするときは、2時間おきにコーヒー休憩を取ります。コーヒーを飲んでいて、おもしろいことに気がつきました。
セブン-イレブンのポイントキャンペーンに応募して、スヌーピーのマグカップを手に入れた直後のことです。マグカップについているスヌーピーの絵柄が、わたしの側(口元)にではなく、反対側に(正面を向いて)ついていることを発見しました。
わたしは右利きです。カップはいつも左手で握っています。キャラクターの絵柄が反対側になる理由を考えてみました。
仕事机の右側は、本や資料が山積みになっています。右利きなので、左側には書籍やメモ類、資料などは置かない習慣ができています。右手には、ペンなどの筆記用語を握っています。その結果、コーヒーカップは左手(側)に来ることになります。
自分(右利きの左手持ち)を基準に考えると、スヌーピーの絵柄は、コーヒーカップを上から見たとき、取っ手の左側に来るのが自然な感じがします。わたしと対面している人から見ると、スヌーピーとわたしの顔が一緒に見えるはずです。
お茶の作法にもあるように、「相手の側に正面を向ける」のが、自然でお行儀がよい振る舞いなのです。ラップトップ・コンピュータのロゴマーク(例えば、アップルやPANASONICなど)を想像してみてください。相手側からマークが自然な形で見えるように、文字やロゴが配置されています。結果的に、コンピュータを使っている側から見ると、文字やロゴマークは逆さに見えることになります。
ラップトップを使いはじめたころ、これはとても変な感覚でした。しかし、相手から見られることを前提に考えたメーカーは、自社のブランドマークをきれいに見せるため、そのような選択をしたのだと気がつきました。
こうした経験から、コーヒーカップの絵柄や文字の位置をいくつか調べてみました。タリーズのマグカップは、ブランド名が英文のせいで、“TULLEY’S”のブランド名が取っ手のすぐ左側から始まっていました。パレットプラザのカップは、“a faithful friend / more haste, less speed / have a good time / make yourself at home”という文字列になっていました(英文の意味は不明ですが)。この場合は長い文字なので、どちらでもかまわないデザインです。
スターバックスのコーヒーカップは、前後左右が対称なデザインになっています。ロゴマークの「女神」が、取っ手の両側についているからです。右利きと左利きのどちらにも対応できるのです。さすがに、世界を制覇したグローバルブランドは違います。利き手がどちらでも、正面にロゴマークが見えるようなデザインになっているのです。
というわけで、わたしの仮説=「コーヒーカップの左手持ち優勢理論」は根拠がやや怪しくなってきています。皆さんはふだん、どちらの手にコーヒーカップを持っていますか?利き手は、右手ですか?左手ですか? 愛用しているコーヒーカップの絵柄は、持ち手の右側にありますか?それとも左側ですか?あるいは、スタバのマグカップように、前後が対称の「対デザイン」になっていますか?読者の皆さんの経験を教えてください。