日経MJヒット塾」で最終回を担当させていただいた。2013年の第一回(10月)も原稿を書かせていただいた。最終回にふさわしく、副題も「超常識、植物由来の肉も」を予定されていた。最後の託宣になる。5つの分野で未来のヒット商品が生まれる分野を予言してみた。
当たるも八卦。でも、2000年からほとんどの予言は的中せてきた。ユニクロの復活にはじまり、マクドナルドの躓き、TDRの客離れ、ローソンの台頭、スターバックスの凋落、、、そして、今度は、植物由来の人造肉の普及と、新しい産業の台頭である。
途中原稿なので、発表されたものとは少々ちがっているかもしれない。そもそも、副題が変わってしまっている。
タイトル 「ヒットを生む食ビジネスの革新」『日経MJ』2017年9月25日号
本連載と連動して開かれてきた企業研修、日経MJヒット塾の立ち上げの説明会(2013年10月1日)で、筆者が配布した講義レジュメが手元にある。タイトルは「食のビジネスモデル:革新の本質」。ヒット商品が生まれる背景を理解するために大切な3つのポイントを示した。(1)食ビジネスの革新の源泉(2)伝統的なビジネスモデルの置き換え(3)新しい市場の発見のための方法――である。
こうした視点は「ヒット塾」で繰り返し登場しているが、食ビジネスのイノベーションについては、そこでさらに詳しく説明している。具体的に見てみよう。
1970年代に始まるフードビジネスの成長をドライブしてきた最初の要因は①海外からのビジネスモデルの移転、である。日本マクドナルドやロック・フィールド、すかいらーくが、欧米のモデルにヒントを得て新しい業態を確立した。
この動きと並行して、大手食品メーカーは世界初の食品カテゴリーを開発することに成功する。日清食品のカップヌードル、グリコのポッキー、明治のプロビオヨーグルトなどである。ユニークな商品や事業のベースにあるのは②製品の技術革新力、であった。
2番目のカテゴリーは、③安価な食材の調達、と④オペレーションの改善、に基礎を置くものである。円高で安価になった輸入食材を用いて、サイゼリヤ、吉野家、ガストが急成長を遂げる。そして、業務システムをシンプルにしようとした企業の中から今度は低価格で高原価のビジネスモデルが登場してくる。回転すし(あきんどスシロー、くら寿司)や立ち飲み業態(俺の株式会社、いきなりステーキ)が典型例である。
3番目のカテゴリーは、⑤調達物流システムと生産方法の革新、に関係している。相模屋食料(前橋市)は、成熟市場と考えられていたとうふ製造で全自動化ラインを導入。ラーメンチェーンの日高屋(ハイデイ日高)と幸楽苑は原材料を自社で製造することで「食のSPA化」を推進した。
それでは、食ビジネスのイノベーションは、将来的にはどの分野で推進されるだろうか?2020年以降、ヒット商品は、表に掲げた5つの分野から生まれてくると推測する。
このうち、原材料の加工技術とフードロスの削減ビジネスの2つについて、やや詳しく説明してみよう。
21世紀の中盤にかけて、人類の最大の課題は食糧不足と食品アレルギーの問題だ。両方の課題を一挙に解決するとして注目を集めているのが、大豆やトウモロコシなどの植物から人造肉を作る技術の開発である。
動物愛護と健康の観点から欧米ではベジタリアンやビーガンが増えているが、食糧供給の観点からも肉を食べることは効率が悪い。例えば、1㌔㌘の牛肉をつくるのに20㌧の水が要る。同じ味覚で植物由来の人造肉ができるならば、食品産業と農畜業が根本から変わってしまう。その先に、ヒット商品の無限の可能性を思い描くことができる。
また、戦後成長してきた食のビジネスは、安価で無限の食料供給を前提にした「飽食の時代」のモデルであった。しかし、典型的なコンビニでは弁当やデザート類など日配食品の5~7%を廃棄している。
サプライチェーンを組み換え、食材の流通を透明に保つことで、食品ロスを削減させることができる。この周辺のビジネスにも将来の大きなヒットのチャンスが期待できるのである。
【キーワード】
【植物由来の肉・乳製品】植物牛肉など、植物原料から作られる人造肉やミルクのこと。plant-basedと呼ばれる加工技術に、食品メーカー(仏ダノンや大塚製薬)や米食肉加工最大手であるタイソン・フーズ、ベンチャー企業などが投資をしている。
【表】ヒット商品が生まれてくる5つの分野
① 材料の加工技術(植物由来の人工肉、植物由来の牛乳)
② 食事をする場所の革新(食事サービスのシェリング事業)
③ プロモーション効率の改善(SNSを超えた位置情報の活用)
④ 店舗作業の自動化(RFIDタグと音声対応接客)
⑤ フードロスの削減ビジネス(食材のリサイクル、流通加工の透明性向上)