【講演録】「ブランドマネジメント研究部会・拡大版セッション(♯7)」

 9月27日(土)に開かれた「ブランドマネジメント研究部会(JIMS)」の拡大版セッション「広告の今とこれから」から、「ゆとり世代の実態と彼らを動かすポイント」(藤本耕平氏 株式会社アサツー ディ・ケイ ADK若者プロジェクト)の講演録をアップする。


日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)
ブランドマネジメント研究部会・拡大版セッション
「広告の今とこれから」 

「ゆとり世代の実態と
彼らを動かすポイント」

 
株式会社アサツー ディ・ケイ
ADK若者プロジェクト
藤 本 耕 平 氏 
日時:2013年9月27 日18時00分~19 時00分
於:法政大学経営大学院IM研究科101教室・505教室

講 演 要 旨

1.若者分析プロジェクト「ワカスタ」
(1)自己紹介
初めまして、広告会社ADKの藤本耕平(33歳)です。実務では、クライアントのマーケティング戦略のサポートをしています。これまで多くの若者をターゲットとしたブランドを担当させていただいてきましたが、「若者のセミナーをしてほしい」という講演依頼をきっかけに、「若者研究」を本格的に始め、今では、さまざまなセミナーや大学で「若者」をテーマにした講義も行っています。
研究のスタイルとしては、研究を始めた当初の2年くらいは、大規模な定量調査を何度も実施したり、若者向け雑誌の編集者にヒアリングしたり、自分の大学時代の後輩のツテをたどって大学生と頻繁に会うなどして、今の若者を知る努力をしていました。また発信力のある若者の動向を知るためにも毎日100以上のブログをチェックをするということまでも。しかし、これにはかなりの労力がかかり、通常業務にも支障が出るくらい負担がかかっていました。そこで、新しい分析手法として、学生と一緒に若者を分析する「ワカスタ」という組織を立ち上げました。(これについては後で説明します)

(2) 若者分析のスタンス
 若者は、広告やマスメディアに簡単に影響されにくいので、アプローチに工夫が必要です。しかし、一度心をつかんでしまえば、彼らの間で急速に波及します。ですから、近づき方次第では、効率的なコミュニケーションが実現可能です。

 ここで、若者分析の際のスタンスについて、説明しておきたいと思います。まず、前提として、流行や文化が生まれるフローが変わってきています。昔の流行語は、「チョベリバ」(キムタク)(注:チョベリバは「超ベリー・バッド(very bad)」の略で、1990年代後半に使われた若者言葉)などのように、マスコミ経由で広がっていきました。しかし、今の流行語は、例えば若者が集まる2チャンネルのようなところから生まれる、そののちに日常用語になっていくというケースもあります。マスコミ経由でないため、外からはなかなか見えません。巷に広まった時には、もうタイミングとして遅すぎます。ですから、普段から若者と密に向き合い、分析を重ねることが重要になります。

 彼らに直接会っていると様々なインサイトが見えてきたりします。たとえば彼らが使う若者言葉の中にも、彼らのインサイトのヒントが眠っています。
「ヨッ友」、「いつめん」、「にこいち」、「BFF」という言葉を知っていますか?
これは、友達のクラスターを表しています。「ヨッ友」は、すれ違って「よっ」と言うだけの間柄、「いつめん」はいつものメンバーです。「にこいち」は、2個で1個と言えるほど親しい友達という意味です。「ニコイチ」と書かれたプリクラをよく見ます。そして「BFF」はアメリカで生まれた言葉で、「Best Friend Forever」という誓いを表しています。Foreverというのは、若者がすごく反応する言葉です。
 どれも、友達のクラスターなのです。昔と違い、今の若者は、高校を卒業しても高校時代の友達とSNSでつながっており、大学の友達ともつながっています。僕らの時代は、高校を卒業すれば高校時代の友達は旧友になり、大学の友達の範囲内で情報をコントロールすればよかったですが、彼らは、SNSを通じて友達が蓄積していきますので、こうして友達をクラスター分けする必要が生じるわけです。

 他に、「つらたん」(つらい)、「やばたん」(やばい)、という言葉もあります。落ち込んでつらくて、誰かに知ってもらいたいというような時がありますが、そういう感情をそのままツイッターに投稿すると、「友達のタイムラインを汚す」ことになると彼らは感じるわけです。だから、「つらいよ」と言わずに、「つらたん」、あるいは「やばい」の代わりに「やばたん」と書きます。そうすると、タイムラインで上もかわいくみえるという、彼らなりの配慮なのです。

(3) 若者分析プロジェクト「ワカスタ」
 こういう彼ら独自の感覚を読むため、私は、若者と一緒に若者を分析するプロジェクト「ワカスタ」を始めました。2012年の9月に立ち上げ、月に2回のペースでワークショップを開いています。現在大学生58名が参加しているのですが、「ワカスタ」メンバーは、厳選された、“意識の高い学生”のみで構成しています。皆、分析力、観察力が非常に高く、日常の行動範囲も非常に広い人たちです。いわゆる“リア充”と呼ばれる人たちで、友達が1,000人も2,000人もいるような学生たちですので、本人だけでなく、彼らの周りの仲間へのヒアリングも可能です。

 ワカスタは、何かが行き詰ったときに、現状打破につながるソリューションを提供するという価値を持っています。コンビニなどの商品開発、キャンペーン、チャンスの発掘(日記調査など)やブランドの課題の発見など、いろいろな活動を行ってきました。普段のワークショップの他に、企業とのコラボなども手がけています。今の若い人は、プレゼンも本当に上手です。

2.「ゆとり世代」の若者を動かすには?
(1)今の若者:「自分らしさ」
 “今の若者を動かすには”というテーマについてお話する前に、まず、彼らの生まれ育った環境を振り返ってみたいと思います。ここでは、若者を28歳以下としてくくっています。10代については、後で別にお話します。なぜ28歳かというと、1985年が、世代の一つのターニングポイントととらえているからです。1985年生まれの世代が小学校に入る1992年頃から、学習指導要領が大きく変わったからです。現在の28歳は、個性尊重教育の第1号世代で、以後、「ゆとり世代」の時代が始まりました。※本格的なゆとり世代の始まりは2002年の指導要録改訂時に小学校に入学した24歳以降です。

 この世代を理解するキーワードや概念を、いくつかあげておきます。
 まず言えることは、彼らにとっての価値基準は、「自分らしさ」です。ファッションを取ると、例えば、昔はアムロ派の女の子は全身トータルでアムロ流にしていましたが、今は、いいと思うところだけ、自分の感覚でセレクトしている人が多いです。テレビCMでアニメと実写が入っているものが増えているのも、私の見解では、セレクションの結果だと思います。アニメーションだから全編アニメである必要はなく、いいものを寄せ集めていけばいいという感覚です。

 また、2次元と3次元の世界のどちらが良い悪いという感覚は、彼らにはありません。むしろ、2次元の世界は、「裏切らないのでいい」という価値観もあります。
 さらに、昔は文武両道という理想の人物像がはっきり存在しましたが、今の若者は、自分の中に正解があるといいますか、モデル像というものがなくなりました。その結果、理想からこぼれ落ちた部分が、反対の真逆の方向に走るということもなくなりました。理想モデルそのものがないので、真逆の不良に走る必要がないのです。全体として、いろいろな個性が散見するという感じになっています。

 ものごとの判断基準も違います。昔の若者は、世間の評価やムードを重視していました。世間で流行っているブランドを欲しがったり、世の中でもてはやされていることにあこがれを感じていました。また、「カップルに特別な日は何ですか?」というアンケートがあるのですが、昔はダントツで「クリスマス」でしたが、今の若者は、「2人が出会った日」「付き合った日」が上位を占めます。「クリスマス」はその後です。昔は世の中が基準でしたが、今は自分が基準なんです。

そのため、「自分らしさ」の捉え方も世代によって異なります。
昔は、「自分らしさ」は褒め言葉でした。これは他の人と違うことが大事という感覚があったからです。でも今は、他の人と違うことは当然なんです。むしろ「自分らしさ」を持ちながらも、どうやって周りとの衝突をさけ、協調していくかに関心があります。
 20歳の学生に、自分がどういうタイプかについて答えてもらったところ、「人からペースを崩されたくない」91.8%、「人に気をつかうタイプ」が88%と、一見相反する性格を同時に持っていることがわかりました。

「世界に一つだけの花」という歌がありますが、これは、基本的に、ナンバーワンを目指してきた世代が、個性を大事にしようという歌詞に共感してヒットした歌です。今の若者の世代には当然過ぎて、なぜいまさらと、ぽかんとするような感じで受け止められています。では、若者はどういう歌を好むかというと、加藤ミリヤの「好き勝手言われても気にしないよ、oh it’s okay、 気にするだけ無駄」というような自分らしさを持ちながらどう周りと強調していくかを歌った歌詞が流行っています。

 また、「うつ病」の原因にも変化が見られています。昔は几帳面な人がうつ病になりましたが、今の若者のうつ病は、自己愛の強さから来ています。それほど個性が大事なのです。

そんな「自分のものさし」が確立している若者にとって、人と差別化を図るツールの提供は、望んでいません。ですから、企業としては、彼らに完成された商品やブランドの世界観を押し付けすぎると、「自分に合ってない」とスルーされるケースも多くなっています。

そんな彼らにアプローチする上での一つの有効な方法として、若者が自分で作れる余地を残す「スキマ作り」があります。
 コーラ飲料である「ペプシNEX」の数年前の広告戦略は、若者に特化したものでした。コカ・コーラから若者のシェアを奪うために、広告では、世界観をいっさい作りこまず、「おいしいところがいい」と、理由の部分だけを伝え、そのおいしいペプシを飲む気分は複数のタレントにそれぞれ語ってもらうという広告を展開しました。その結果前年比で若者の売上が大きく増えたと聞いています。

(2)今の若者: つながり意識
つながり意識も変わりました。バレンタインも、今の若者たちの間では、義理チョコより、友チョコを贈る割合の方が圧倒的に高いです。少し前の話になりますが、数年前に流行った「プーペガール」も面白い事例だと思います。あのルイヴィトンも「プーペガール」とコラボしました。(注:「プーペガール」は、サイバーエージェントの子会社のプーペガールが運営するファッション系SNSで、ルイヴィトンは、2008年5月からアバターアイテムに参入)。自分の写メールを送ると、インターネットでアイコン化され、自分のアバターになり、それを友達同士で交換できます。友達同士のつながりによって、相手がどんなアイテムを持っているか、自分が他人からどう見られるか、といった若者つながり意識をうまく捉えたサービスだと思います。ヴィトンは、かつては、自分のブランドの世界観がきれいに映し出される媒体でなければ、出稿しませんでした。しかし、このような、アイコンやアバターのサービスにまで展開領域を広げてきました。若者の変化に対応した動きと言えますね。

背景として、核家族の増加、近所づきあいの希薄化、人と交流する機会の減少などの要因があります。若者は、必ずしも人付き合いに慣れておらず、コミュニケーションできる人とできない人の二極化が大きく進行しました。
以前は、気づけば近くに誰かがいて、自然にお互いを支えあいながら生活する時代でした。しかし今は、自分の部屋があり、さらにそこで完結する遊び(パソコンやゲームなど)も充実していて、自分一人だけで生活することが可能な時代になりました。
「つながりたい」という願望は今の若者だけが持っている感情ではなく、昔から存在していました。ただ、昔は求めなくても自然と手に入っていたのに対して、今は、自分から求めないと、手に入らない時代になってきた。この違いが「つながり願望」をより強く顕在化させたのだと思います。

(3) つながり方
 「自分のものさし」を大切にしながらも、他人とつながりたいという、若者の相反する願望を満たすために、若者が編み出したつながり方は、“ゆるい”、“部分的”なつながりで満足するということです。完全につながるのは疲れるし、難しい、とはいえ、完全に1人でいるのも難しいという感じです。
 28歳の世代は、ミクシィが流行っていた時代と重なります。ミクシィは、自分がつながりたいときにログインすれば、つながる世界です。ネットを活用したゆるいつながりです。ところが、今は、ログイン、ログオフという感覚がなくなりました。ラインも、見ると「既読」の表示が出ますので、コミュニケーションから逃げることができなくなりました。
 そこで、今、主流になっているのは、組織ごとに自分のキャラクターを設定して使い分けるということです。コミュニティごとに、この部分はこれ、こちらはこれ、と使い分けるわけです。無理はせず、組織に合わせて、器用にキャラクターを使い分けています。

 

3.10代の若者
(1)つながりマスター
 次に、さらに進化した10代の若者について、考えてみたいと思います。若者と言っても、20代と10代では少し異なります。10代は、つながり願望だけでなく、つながり方への対処法をすでに身につけている、「つながりマスター」です。SNSアカウントも、複数持って使い分けています。そんな様々なコミュニティでうまく立ち振る舞う彼らの中で流行っているものが、サプライズです。サプライズや秘密を共有することで、皆で強い一体感を感じられるからです。若者が読む雑誌では、如何に友達の誕生日をサプライズなものにするかという特集がよく組まれています。
 つながりから外れないための工夫もあります。たとえば、「ジコマン」という言葉を若者がよく使うのですが、自分で先に言っておくと、周囲からKYと見なされずに済む免罪符的な表現として使われています。
また彼らは、つながりの確認作業をすることで安心感を得ています。「10クラス会」「中央線会」など集まる会には必ず名前をつけて、自分たちのつながりを言葉化して確認します。また、「チュープリクラ」(チューするくらい仲がいいことを見せる)などをSNSにアップして、こんなに仲の良い友達がいるということをアピールしたりします。
また、暇なときの友達の誘い方も、誘って断られるのが怖いので、メールではなく、ツイッターを使って、スルーされてもショックを受けない(間接的な)誘い方をするなど、つながりをスムーズにする方法を編み出しています。
 つながりの最小化という面で言うと、ツイッターの使い方は、30代以上と10代では違います。30代以上は、不特定多数に発信したり、自分を表現したりします。一方、10代では、リツイートとリプライの数を調べてみると、リプライが3倍くらいありました。リツイートと違って、リプライは共通の友達以外のタイムラインには出ないので、いろいろな人に情報が行きません。10代の若者は、無駄な情報発信を避け、身内だけで完結したいようです。

(2) コスパ至上主義
 この世代のもう一つの特徴として、コスパ至上主義というのもあります。コストパフォーマンスを徹底するために、彼らは情報を駆使して、無料ゲーム、無料アプリ、クーポンなどを活用しています。例えば、早稲トクーポンというのがあって、早稲田の周辺で割引が受けられるのですが、こういうややマイナーな情報も見逃しません。逆に、こういう情報を知らないと、仲間から「情弱」(情報弱者)と呼ばれます。人脈による割引情報も、駆使しています。
 いろいろな情報の中で、質のよい情報を効率的に取るために、まとめサイトも活用しています。2チャンネルはオタクのサイトですが、いまはまとめサイトがあるので、そちらをよく見ている10代の若者はけっこういます。無駄な情報を省いてくれるまとめサイト、ランキング形式のブログなどが、よく使われています。ゾゾタウンも、その傾向を取り入れて、ランキング形式のブログを採用しています。無駄な情報はいらないというところで、テクニック、必勝法なども流行っています。

(3) 10代攻略ポイントの一例
 最後に、10代の攻略ポイントを少しだけ紹介します。
 まず、「つながりマスター」の若者にとって、誰でも簡単に、隙間時間でつながることができたり、内輪だけでつながれるツールは、受け入れられやすいようです。依然、AKBの女の子たちの顔のパーツを選んで、好みの顔を作るキャンペーンがありました。自分がいいと思うパーツを選んで、できるだけかわいい顔を作ろうとしていた人が多かったのですが、10代は、反対に、より不細工な顔を作るツールとして使っていました。面白い不細工な顔を作ることの方がツイッターにアップするモチベーションになったようです。彼らは、こういう価値転換で、つながっています。
 また、非日常感覚でつながるためのツールや、自分にとってトクになることがわかりやすいことも大事です。日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」の水がヒットしたのは、社会貢献のためだけではなく、ペットボトルが捨てやすい形状だったことの他に、520ml入りで、他のメーカーの500ml入の製品よりも、少し容量が大きいからということも理由の一つでした。このため、若者は「い・ろ・は・す」をこぞって買ったのです。自分にとって「トク」ということが見えやすいからです。今では、対抗ブランドも要領を増やして応戦しています。

質疑応答
(小川教授)私は、法政大学で30年以上、教師をしています。その中で、今日の話と関係することが2つあります。確かにつながるんですが、最近、全部つながりを切って、いなくなってしまうケースが出ています。去年、今年と連続して、ゼミ生が1人ずつ姿を消してしまいました。彼らは、基本的に傷つきやすいし、リアルの世界で叩かれると、非常に弱いです。扱いにくい世代だと感じています。

(藤本氏)つながりのアップデートというのもあります。つながりを消去するドライさは、かなりあります。

(小川教授)遠くを見て物事をとらえることも、不得意です。長期志向がありません。

(質問)彼らに関心のあることは、何ですか?内輪の話ですか?彼らは、社会や世の中のことを知るための新聞には、興味がありません。海外留学する若者は激減していますし、社会への関心はどうなっていますか?

(藤本氏)自分の力で考えたいという気持ちは、あります。しかし、自分にメリットがあるかというスクリーニングが、強く働きます。自分の存在価値のアピールという面もあります。NPO活動をする場合でも、自分の価値観に合うものをスクリーニングしています。
 
(岩崎氏)最近売れているパンケーキのように、フェースブックやツイッターにアップして、つながりを得るための消費もあります。

(小川教授)今日は、長時間にわたり、どうもありがとうございました。