某新聞社から、昨今の値上げについての取材(3つの質問への回答)

 某新聞社から、「昨今の物価高について現状をどのように見ているか?」というメールでの問い合わせが来た。数週間前のことで、そのときには、簡単に質問に答えておいた。返信しておいた内容を、記録のために掲載しておくことにする。

 

 わたしからの回答の背景には、6月に台湾の林記者に答えた文章があった(ブログ参照)。ついでに、3点については簡単に回答しておくことにした。

 以下は、わたしからの回答であった(記録は、2022年7月20日)。

 

Q1 現在の物価高の特徴を伺えないでしょうか(昭和の物価高との比較などもできましたら伺えないかと考えております)

 

 → 一言で言えば、今回の物価上昇は、世界経済の分断(長期に渡るコロナ禍とロシアのウクライナ進攻)に端を発する「コストプッシュ型の値上げ状態」です。したがって、短期的な価格上昇と、長期に渡る物価高に分けて考える必要があると思います。

 

① 短期的には、当面の利益圧縮(輸入資材の高騰と賃金圧力)から逃れるための値上げがそれです。これは、長く短期間の対応なので、原油高や金利高騰が収まれば、元に戻ります。

② 問題なのは長期的な価格高騰要因です。これについては、先ほど送った資料(台湾の林記者に対する日本経済の成長と停滞)をご覧ください。高度成長期(1970年代~1990年まで)の日本経済の特徴は、最終的にコストプッシュ型のインフレ(いまと同じ原油高、地価の高騰、人件費の上昇)で終わったことです。

③ バブル崩壊の後に起こったことは、その値上げの反動で価格破壊の動きが起こったことでした。つまり一旦は高騰した資材・商品価格を、海外に生産基地を移転させることで価格問題を解決したわけです。今回は、その逆のことが起こります。

 象徴的なのは、気候変動(地球温暖化が引き金)とウクライナ情勢(経済圏の分断と輸送費の高騰)のゆえに、小麦(小麦粉)の価格が米の価格(米粉)を戦後初めて上回ったことです。

④ 農産物だけでなく、長期的にはさまざまな生産部門(エネルギー部門を含む)が国内に回帰していきます。他の先進国でも同様な動きになります。したがって、諸物価は高止まりするようになると思います。

 

 

Q2 先生の目から見て、異例、または特徴的な値上がりをしている品目を教えていただけないでしょうか。

 

① 全部の品目が値上げしていますので、とくに例外はほとんどないといった状態です。むしろ、値上げの程度ではなくて、特定のカテゴリーや企業で、値上げをしていない商品があることに注目すべきだと思います。

② 添付のパワポ資料(まとめの表)をご覧下さい。値上げをしていない企業や業界は、結局は「余力がある企業群」です。たとえば、フードビジネスでは、サイゼリヤとマクドナルド(一部は値上げしています)、住関連では、ニトリやカインズ、無印良品など。

③ 値上げを回避できているこれらの企業は、例外なく、2000年代に海外調達(アジアに生産基地を持っている)に舵を切った企業です。高い粗利で、経営に余力(スラック)があるのです。しかし、競合が脱落したら、そのうちに値上げをしてきます。ユニクロは、すでに競合がいない状態なので、柳井さんは「消費者の動向を考えて値段を見直します」と宣言しています。

 

 

Q3 今後、物価高はどんな方向に向かうと考えておられますか。

 

 すでに答えは、1と2で明らかになっています。3つの圧力に企業(日本国)がどのように対応していけるかにかかっています。

 

① 株式市場からの圧力

 企業活動から利益が出ないとなると、株主から圧力がかかります。値上げは、その典型的な対応です。しかし、2番目の要因である消費者側の反応で、コアの顧客が値上げを許容しないとなると、企業経営は行き詰ります。具体的な事例は、回転ずしの業界(円ショップも同様)です。代表例が、スシローのなどのマネジメントとマーケティング面での迷走です。

 

② 消費者の反応

 すでに述べたように、消費者の値上げに対する反応は、カテゴリーによってわかれています。フードビジネス(回転ずし)のような代替品(外食、中食、内食)があるような分野では、消費者は値上げにシビアに反応すると思います。これは、競争構造にもよります。強いリーダー企業とそれ以外のフォロワーの動き次第です。

 

③ 慣習価格の破壊(心理的な価格付け)

 今起こっている値上げは、消費者が長年、当然だと思ってきた価格水準(慣習価格)に見直しを迫っています。円ショップが代表的な事例です。円ショップは、いわば「原価企画」(原価積み上げ方式)をベースに、売価から逆算して商品仕様と調達先を決めてきました。輸送費や人件費の高騰で海外調達が比較優位を失いつつあります。無印良品などの減益などを見ていると、これがいま難しくなってきたことがわかります。いまは、慣習価格の水準調整の時間です。

 

以上