金沢日経懇話会9月例会(04/9/28)「地域再生はブランド確立から」

金沢日経懇話会9月例会(04/9/28)
テーマ 「地域再生はブランド確立から」 於:和倉温泉・加賀屋


今日はまず、地方から出ている企業がどのようなプロセスで全国企業になり、そして成功したかを幾つかの事例を紹介しながら地方出身企業が意外に強い、という話をしたい。次に、商品やサービスをブランド化するのにどういうプロセスでやり、どんなところが重要なのかを述べる。最後にブランディングの事例と、私自身がかかわった沖縄の再生プロジェクトの話をしたい。

■小商圏でダントツ
 地方から出て来た企業が日本の流通業で活躍している。お手元の資料に代表的な元気な地方企業が書いてある。日用衣料品のしまむら。埼玉県の小川町から出て来た。しまむらに対する企業がユナイテッドアローズ。しまむらが田舎立地の企業だとすると、こちらは都市型だ。
 次はファーストリテイリング。山口県宇部市出身である。山口から広島、名古屋に出て、
原宿に行った。そして、今は世界に飛び立っている。これに対する衣料品企業はGAP。アメリカ生まれで、グローバル企業として日本に入ってきた。
 ドラッグストアのマツモトキヨシ。千葉県の松戸出身だ。これに対するのがCFS。アメリカ型のドラッグストアを作った。マツキヨは日本流を貫いた。店舗は基本的に二階建て。多品種、少量の店作りだ。どちらが勝っているか。明らかにマツキヨだ。地方出身企業の1番目の強みである物流、製造コスト、店舗開発コスト、価格競争力と品ぞろえの面で差を付けた。
 ニトリという北海道出身の家具会社がある。海外調達が6割から7割。ベトナム、タイ、中国から買い付けている。アジアベースで、非常に低いコストのオペレーションで海外調達をしている。ウォルマートはアメリカのアーカンソー州のものすごい田舎から来たことが世界的に成功した大きな理由ではないか、と思っている。
 今挙げた企業は全部、小商圏で成立している会社だ。人口で1万2000人程度。しまむらは4000世帯で商売が成り立っている。なぜかと言うと、標準世帯が実用衣料に使うお金は年間24万円だそうだ。そのシェアの3分の1を取れば8万円。4000世帯なら3億から3億5000万円になる。それぐらいの売り上げがあれば商売が成り立つ。
 3、4割のシェアを取ると、他の会社は入って来られない。ウォルマートが成功した大きな理由はここにある。小さな商圏でナンバーワンになってしまう。それは都市型では絶対にない。必ず田舎から出て来る。
 地方出身の企業は人件費の面でも、店舗の作りでもぜいたくはできない。低コストオペレーションで出発する。百貨店がそうだが、都会でやっていることを地方に持ってこようとしても難しい。だが、地方から都心、あるいは世界に行くときは意外とやりやすい。そして、低コストオペレーションで成功している企業がブランド構築とか、センスのいい広告を流したときにはじける。大成功する、というのがここで言いたいことである。

■成功の背景
 地方出身企業の強さの2番目は生活感である。都市より地方の方が生活感は基本的に豊かだと思う。だから新しい商品のアイデアは地方から出発した方が成功の可能性が高い。
 例を挙げる。仙台にあるアイリスオーヤマ。この会社の一番有名な商品はクリア収納容器だ。昔のものは色が付いていて中身が分かりにくかったが、15、6年前から中が透けて見える容器を売り始めた。園芸用のホースは昔は巻き取る物が付いていなかった。それをリールと一緒にした。そして、ある時期からホースリールに箱が付いた。RV車の屋根を洗うのに台があった方がいいとの発想だった。意外に地方の生活感がプラスに働く。

 地方の強さの3番目は、文化的遺伝子が世界を作ると言うが、ローカルに眠っている多様性というか、多様な発想だ。それを地方出身企業が持っている。
 北陸の事例として幾つかある。燕は私が学生のころは洋食器の町だった。欧米に輸出していた。円高で輸出がダメになると、あの町はダメになるだろうと言われた。実はそうはならなくて、そこから幾つかの企業が生まれている。代表的な企業がホームセンターのコメリなど。コメリは金物と園芸関係の商品で売り上げを伸ばしている。成功の背景には、燕、三条という金物の集積がある。
 園芸で言うと、新潟のあのあたりは昔から球根の産地だった。隣の富山もそうだ。花の苗を提供する農家も育っていた。そういう集積があったから成功に結び付いた。特殊な金物メーカーも生まれた。「坂源」という。花の世界で世界的に有名なハサミ屋である。
 金沢はもともと伝統工芸の町だ。織物の機械を昔から作っていた。その織物の技術を使い、回転ずしの機械を作った。7、8割のシェアがあると思う。技術を産業間で移転した成功の事例だ。地方に眠っている遺伝資源とはこういうものだ。

■最初は石けん
 ブランドというのは「バーンド・焼き印を押す」という英語から発生した言葉だ。16、
17世紀ごろ、スコットランドから大陸にウイスキーを輸出する際「自社のものに間違いない。品質を保証する」という目的で、たるに焼き印を押したのが始まり。19、20世紀に入り、近代的なマーケティングが始まる。
 そして、プロクター・アンド・ギャンブル社がアイボリーという石けんを出した。これがブランディングの最初だと言われている。
 ブランドを定義すると、自社商品・サービスを他社と区別するためのコミュニケーションである。何のためにあるかというと、そのブランドを繰り返し買ってもらうためだ。それにはまず好きになってもらわないと困る。続けて買ってもらうためには、長期的にそのブランドにいいイメージを持ってもらう。そして、好きになって続けて買ってもらう。その仕組みを作ることがブランディングという行為になる。ともかく最初は、そのブランドを知ってもらわないといけない。知らせるための仕組みが識別記号。それはシンボル、ロゴマーク、デザイン、名前だったりする。
 今、私の手元にエビアンの水がある。エビアンはブランド名だ。会社はエビアン価値を高めるためにいろんな施策を練っている。ラベルのアルプスの山は4年前には五つあった。今は三つだ。遠くからでもアルプスが見えるようにと山を減らした。それから、日本仕様のエビアンは海外より小さいパッケージになっている。これは日本のスーパー、コンビニの棚のサイズに関係している。ブランディングというのはこのように、名前や広告だけではなく、流通まで考えることが重要なのだ。
 
■顔と名前と中身
 ブランドの種類としては、エビアンはメーカーブランド。しまむらのファッションセンターは店に付いた名前だからストアブランド。
 今日の会場の加賀屋さんの場合は、ホテル・旅館だからサービスブランド。サービスは目に見えないから視覚化する。今日私はここに来て、浴衣の帯に部屋の番号が付いているのには感激した。あれなら、ふろに行った時にも部屋を忘れない。そういう細かい気配りもブランディングの中身になる。
 ブランドの価値の構成要素は五つほどある。
まず知名度。次に知覚品質。この商品はいい、おいしい、この水は健康にいい、と感じてもらう品質だ。3番目はブランドの連想。エビアンと聞いただけで、アルプスを連想する。
4番目は法的な要素。関サバとか夕張メロン
とかの産物が、特許や商標できちっと押さえられているところが重要だ。最後は続けて買ってくれるという要素である。
 よいブランドの3条件は、まず顔である。
素晴らしいブランドは顔がいい。デザインとか内装や作り。2番目は名前が魅力的なこと。最後は中身。これは広告会社の人の話である。
名前と言えば、お米の「コシヒカリ」は濁らず、きれいな名だ。群馬に「ゴロピカリ」という米がある。味を求める商品に「ゴロ」と「ピカリ」と濁ったのを二つも入れてはいけない。名前の音も重要なのだ。
商品が何となくブランド化されることはああまりない。いろいろ考えてブランドができている。今は高級魚になっている関サバの場合は、サバが体力を消耗して味が落ちるため計量をやめ、重さを目で判断する。料亭に出る時間を予測して、しめる時間も決める。しっぽに関サバのタグを付ける。非常に厳しい基準を設けている。これがないと成功しない。
 最後に私が関与した沖縄のプロジェクトの話をしたい。1999年に、沖縄の農産物をどうやってブランド化したらいいか、と県庁の諮問委員会に呼ばれて2年間やった。
ブランドの資源として発掘したものが二つある。一つは花だ。今は小菊のシェアを沖縄は7割ぐらい持っているが、当時までは福岡の八女と愛知の知多半島にほとんどのシェアがあった。沖縄では3月に日本で唯一菊を大量に作れるから、10何年前から販売していた。これを推し進めるということで、沖縄県の花卉生産協同組合がその仕事をした。
次はゴーヤーだ。沖縄の人はアルカリ土壌の島に育った野菜を食べているのが長生きの一つの理由だと思う。そこでゴーヤーを売ろうと試みた。そういうことで、ゴーヤーも本土で食べられるようになった。
もう一つは観光地のブランディング。これも5年前は非常に厳しかったが、沖縄の人の努力によって大変元気になっている。沖縄が今日本で一番元気な土地ではないだろうか。
(了)