京都女子大の「特論2」の授業で、京都高島屋のB1(RF1と神戸コロッケ)の売り場をお借りしてフィールドワークを実施させていただきました。観察時間は30分と短かったのですが、大手百貨店が大勢の学生に対して売り場を提供するのは異例のことです。
そんなこともあり、わたしとしても珍しいことなのですが、京都高島屋さんとロック・フィールドさんに、フィールドワークの報告書を提出することにしました。優秀な学生たちのレポート(5編)を整理して、コメント付きの報告書は、5ページにわたっています。
京都女子大のクラスの学生さんたち(28人)も、このコメントを読んでみてください。みなさんの実施した観察結果が、このような形で企業にフィードバックされています。
普通の大学ではできない、京都の女子大だから受け入れてもらえた、とても貴重な体験だったと思います。
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「京都高島屋、フィールドワーク報告書」
2017年7月24日
京都女子大学講師(法政大学経営大学院教授)
このたびは、京都女子大の学生たちの「特講Ⅱ」(現代社会学部2017年前期)のために、店舗と売り場を提供する機会をいただき、ありがとうございます。おかげさまで、フィールドワークは、6月2日に京都高島屋にて無事終了することができました。
学生28人が全員、店頭観察の演習に参加しました。午後3時25分~4時00分まで2班に分かれ、デパ地下B1のFR1と神戸コロッケ前で、①通行量、②立ち止まり率(正確には測定できず)、③購入率(最終購入率)、④客単価、⑤レジ精算時間の計測を行いました。
優秀レポート(5人分)を、添付させていただきます。以下は、授業を担当した小川の「フィールドワーク」のまとめになります。
1 実施要領(詳しくは、学生たちのレポートをご覧ください)
(1)目的:顧客の動きを店頭で観察することで、とくにデリカを購入する買い物客の行動を記録して分析する手法を会得すること
(2)実施日時:6月2日(金)、午後15時25分~16時00分(中間5分中断)
*15分ずつ、2班(2クール)に分かれて店頭観察を実施
(3)観察場所:京都高島屋のロック・フィールド(RF1と神戸コロッケ)の惣菜売り場
*離れた場所からの店頭観察
(4)観察方法:6チーム(4~5人)を編成し、売り場から離れた場所から2カ所(2ブランド)でそれぞれ15分ずつ店頭観察(顧客の動き)を実施する
(5)分析方法:
拙著(2014)『CSが女子力で決まる!』の「第5章 ロック・フィールド」に準拠
2 店舗観察の結果(要約)
(1)観察結果
① 通行量:
学生たちの観察にしたがえば、計測時間の30分間での通行人数は、801人。金曜日のこの時間帯(15時台)にしては多めだったと思います。
② 立ち止まり率:
3つのレジ(RF1:①~③)では、立ち寄り計測を行っていません。
③ 買上率(最終購入率):
そこで、計測した3つのレジ(④、⑤、A)で計算すると、立ち寄り人数が92人で、最終購入者(買い上げ)が32人です。立ち止まった人に対しては、買上率は35%(=32人/92人)でした。通行人全体(通行量)に対しては、4%(=32人/801人)です。
路面店の場合、一般には、最終購入率は1~5%です。5%は、目的が明確なコンビニの数値です。RF1と神戸コロッケの購買率は、全体的に高めなことがわかります。
④ 客単価:
買上げ金額の記録の仕方なのか?学生によって、客単価の計算結果が微妙にちがいます。それでも、おおむね平均すると、客単価は1,170円前後と計測されています。店のPOSレジに残っているデータと比較する必要があると思います。経験的には、この時間帯であれば、もう少し客単価は低いかもしれません。
⑤ レジ精算時間:
レジによって精算時間が異なっています。平均は2分40秒。この数値は、偶然にも、拙著(2014)の新浦安RF1(2分30秒)とほぼ類似しています。精算時間と買上金額との相関は薄いながらあると言えるでしょう。
(2)日商の推定
① 30分の売上推計:
3つのレジ(①~③)に関しては、助手の男性(頼さん)が買上人数をカウントしてくれた(30分間で26人)。立ち寄りまで計測した3つのレジ(④、⑤、A)の買上人数は32人。そこでの客単価は1,174円だから、30分間の(全レジの)売上は、約68,000円(正確には68,092円)。一時間で計算すると、136,000円(136,184円)になります。
② 日販の推計:
想定が異なると、予測もちがってきます。計測時間帯は「オフピーク」なので、ほとんどの学生は、ピーク時の売上の半分としています。それで、ピーク時の想定時間帯を「4時間」とするのか「2時間」で設定するかで結果が異なってきます。
5人の推定値をまとめると、1,634,208円(三崎さん)、1,361,724円(森さん)、1,500,000円(澤村さん)、980,000円(岡本さん)、1,361,840円(吉田さん)。平均は1,367,554円。
前日(木曜日)の日販が約80万円(聞き取り)、5月の売上が約3600万円から推測するに、137万円はすこし高めでした。実際の数値を学生に知らせてあげたいと思います。
3 所見(ごく簡単に)
(1)サービスオペレーション
全体的に、陳列の補充作業やレジ対応は、他店に比べて優れているように感じました。周辺の惣菜店に比べて、客数も売り上げも高いことは、学生たちも観察しながらわかってくれたようです。その理由については、岩田弘三社長のコラム(『日経MJ』2017年7月17日号と24日号:聞き手は小川、上下の編集)を学生に配布してあります。
(2)商品と売り場づくり
観察の対象にはなっていませんでしたが、(学生の吉田さんは高島屋さんでアルバイトをしています!)30種類のサラダやら、陳列ショーケースのライティングなど、清潔度も他店より優れていると思います。お世辞抜きで、業績はかなり良いと推察されます。
(3)学生たちのコメントから
興味深く感じた学生のコメントを、わたしの観点から抜粋させていただきます。
①金額の表示(岡本さん)
「RF1や神戸コロッケとは別の店等を見ていて私が感じたことは、金額が小さく書かれていると、高いのか安いのかも分からないために、立寄ってもすぐにその店から離れようと考えてしまうということ。その理由としては、立寄ることは少しでも買う意思があると従業員に期待させ、期待を裏切る時が申し訳なく感じてしまうというものである。また混雑しているときは店の前はほとんどが列を作る。その列によって金額が見えないこともあると考えられた。私はわざわざ覗き込まなくてもよいように、大きく金額は表示してもらえた方がスムーズに売り買いができるのではないかと思われた。」
<小川のコメント>
価格表示の文字やPOPの大きさを、岡本さんが指摘していました。あまり価格の表示が大きいのもバランスがありますから。
②レジ対応(吉田さん)
「レジAが×になっているのは、販売員のイレギュラーな対応があり、若干名の精算時間を記録できなかったためである。本来、この店舗の神戸コロッケはレジ1台で対応しているのだが、調査途中に並んでいる客数が3~4人になり、販売員Aが会計処理をしている間に、販売員Bが注文を聞いて商品を用意するという事態が起こった。しかし、調査員はストップウォッチを複数用意していなかったため、この事態に対応できなかった。その点の改善点としては、予めストップウォッチを2つ用意しておくことが挙げられる。」
<小川のコメント>
吉田さんは、実はこの店でアルバイトをしています。自分たちの調査方法のミスについて述べていますが、「お店の視点」からみると、混雑時のレジ対応がうまく言っている証左です。緊急時の対応としては、「賞賛に値する」のではないでしょうか?
③店頭とフィールドワークの感想(三崎さん)
「感想: たった30分店頭観察をするだけで、買上率や一日の推定売上まで考えることができるとは思ってもいなかった。数値だけでなく、実際に他の店舗と比較して観察することにより、RF1は作業導線が考えられていることや店員の数が多いこと、ケースの高さが高いことや照明にはLEDが使用されていることなど、RF1の戦略も発見することができたのでよかった。今回の経験を生かし、他店や自分のアルバイト先でも店頭調査を行ってみたいと思う。」
<小川のコメント>
三崎さんは、28人の中でも最も優秀な学生さんでした。その彼女が、いちばんフィールドワークの大切さに気が付いてくれました。また、文章中にあるように、作業動線の作り方、ケースの高さ、照明にLEDを使用している効果など、RF1の戦略そのものに言及しています。
④店頭と接客の工夫(澤村さん)
「気づいたこと: 今回の店舗観察で気づいたこととして3点挙げる。
1点目は、店舗のレイアウトが工夫されていることである。他店のショーケースも白を基調としているところが多いが、陳列ケースの高さが高いことでケースが大きく見え、中に展示されている商品が新鮮でおいしく見えると思った。また、高さが高いと遠くからでも見えるため、立ち寄り客を少しでも捕まえる工夫が見えた。
2点目は、商品が記入してあるポップには、自社のイメージを崩さない工夫があることである。他店を観察していると、ポップは非常に大きく、特に値段が目立つように書いているが、RF1と神戸コロッケのポップは、商品名が一番大きく、目立つようには作られていない。値段の安さを強調するのではなく、商品の品質や展示の仕方によって他社と差別化し、少々値段がしても高品質な商品を提供しているという顧客のイメージを崩さない工夫であると思った。
3点目は、お客様と積極的に会話していることである。購入客に頼まれた商品を計測している間に、出来立ての商品やおすすめの商品などを積極的にすすめ、少しでも多く購入してもらうために工夫している。」
<小川のコメント>
3点にわけて、わかりやすく総括してくれています。店舗レイアウトやショーケースと立ち寄り率の関係。品質訴求とPOPや値段表示の関係。顧客との積極的な会話による、商品の売り込み。
⑤スピード対応(森さん)
「RF—1は私たち学生にとっては少し値段設定が高く、特に一人暮らしの私は普段なかなか買う機会はないのだが、今回のフィールドワークを通して実際に自分たちの目で観察することで得たものは多く、非常にいい経験となった。特に印象に残っていることは平均精算時間が2分11秒と比較的速かったことだ。一人当たりにかかる時間がこのくらいであるならば、従業員の対応スピードが速く、回転率はいいと考えられる。このことが売上の高さにつながっているのだ。また通行人数に対する買上率が想像以上に低く、買ってもらうことができた顧客をたくさん逃がしていることにも驚いた。しかし値段が高いにも関わらず多くの顧客が商品を見て、購入していく光景を目の当たりにし、トライアルユーザーだけでなく何度も購入するリピーターも多いと確信した。それだけロック・フィールドが提供する商品の顧客満足度がかなり高いと言えるだろう。」
<小川のコメント>
RF1のポジティブ(スピード)の面と、ネガティブ(価格の高さによる売り逃がし)について、気が付いています。それをきちんと論理的に述べています。店頭を見ることでの発見が素晴らしいです。
4 おわりに
今回は、ふつうではありえないことですが、学生たちの「フィールドワーク」の授業のために売り場を提供していただき、ありがとうございました。生徒たちからのフィードバックでも、「おもしろかった」「勉強になった」「30分の観察から、売り上げが予測できるんだ」と感動の声が寄せられています。
ご面倒でしょうが、授業は来年も開かれる予定になっています。また機会がございましたら、ご協力をお願いします。ほんとうに、ありがとうございました。
【添付資料】
①優秀学生のレポート(5編)
②『日経MJ』に掲載された岩田弘三社長のインタビュー記事(2017年7月17日、14日)