昨日(6月20日)の午後13時半から、ゲートシティ大崎(地下1Fホール)で、「第24回ローソンファーム社長会」が開催された。わたしは、ゲスト講師として招待された。約35人の聴衆を前にして、30分のミニ講演を行った。
タイトルは、「コンビニ3.0 と ローソンファームの未来」。「コンビニ3.0」については、すでにいろいろな機会に話している。それらの記事を参照されたい。今回は、商業(50年前に変革が始まりチェーンストアが成立している)に対して、小売業と対比して農業(遅れてきた産業)がどのような特性を持っているのかを、ローソンファームの社長たちに向けて話してみた。
講演の中で重要なポイントは、以下の通りである。「農業が産業化する」ために必要な要因を提示してみた。先進的な農業者たちが、自らが未来を創るためのヒントになればと思ってのプレゼンだった。
1 エコシステムの確立
コンビニであれ、レストランビジネスであれ、自動車産業であれ、産業が離陸(生産性向上と市場規模の拡大)を実現するには、中核製品(自動車)や業態(コンビニ)のビジネスを支援するための裾野にある事業分野(これは、サポートビジネスと呼ばれる)が必要である。
具体的には、コンビニ(11兆円産業)であれば、食品加工業、物流業(ネットワーク)、情報産業(ソフトとハード)、従業員の人的プールなどである。これが欠如すると、産業としてスケールすることができない。近い将来、農業も同様な経路を辿ると考えられる。
現状では、農業部門は、法制度などが変革の邪魔になっている。そのために、産業として離陸ができない状態にある。しかし、例えば、総合スーパーなどが成長軌道に乗ることができたのは、零細な商業者を保護する法律(たとえば、大店法)などが、外圧もあって緩和されたからである。
そもそも大店法は、旧百貨店法の延長で零細商店を守るために成立した規制的な法律だった。その間隙を縫って、1980年代に成長をはじめたのがコンビニエンスストアだった。
2 商品開発と食品加工業
コンビニのイノベーションは、従来とは異なる美味しい商品(FF、日配品、デザート、総菜、加工食品)が供給できたからである。また、短時間で買物ができるレイアウト(30坪で高い商品回転率)や鮮度保持の仕組み(温度帯別管理・物流システム)ができたからである。
農業の場合は、小売業とは異なり、顧客との距離が遠い。また、生産物ができてからも、需要が確定していない。そのため、自身が加工メーカーになるか(6次産業化するか)、コンビニやスーパー、飲食チェーンと業務提携することになる
ローソンファームの場合は、ローソンが売り場(準確定需要)を提供していることになる。また、現状では、加工食品の商品開発でローカルエリアで協業をはじめている。ローソンファームは、全国でも極めて例外的な小売業との提携関係を持っていることがわかる。その利点を100%活用すべきである。
3 「コンビニ3.0」とローカル対応
ローソンが「コンビニ3.0」に踏み込んでいる場所は、都市部のドミナント商勢圏ではない。地方で、相対的に狭隘な独立したローカル市場である。この市場を狙うために、農業ユニットのローソンファームとしては、地域社会のハブ(中核機能)になる必要がある。
具体的には、地域を代表する生産者として、域内での農産物の生産物流面で、かつての大地主(篤農家)のような存在に”先祖返り”する必要がある。換言すると、地域社会の人々の生活を支援するために、アイデアと場を提供することが期待される。
実際的に成功している事例がある。ローソンファーム千葉は、FARVESTという名前のフェス(=盆踊りなどのイベント)を実施している。このイベントは、今年で6回目になる。いまやファーム千葉は、地域社会の「ローカル文化の中軸」になりつつある。
4 デジタル化と農作業の自動化
昨日は、たまたま農機具メーカーの「クボタ」とローソンの大株主になった「KDDI」が社長会にオブザーバー参加していた。KDDIは、農業分野のデジタル化とネットワーク活用に優位性を持っている。域内物流支援などで、デジタルパワーを用いて農業分野に乗り出す可能性もある。
世界3大農機具メーカーのクボタは、通信衛生を使った農作業の生産性向上を支援している。作業システムを合理化できれば、農業分野の生産性を高まり、それが大規模な投資の呼び水になる可能性がある。どちらにしても、デジタル化と農作業の自動化は、産業の確立に必須の条件になる。
コンビニエンスストアは、POSシステムを導入できたことで、需要予測を確実にすることができた。予測精度が高まったことで、精度の高い原材料の供給を見積もることで、最終的には需要拡大を実現できた。それを支えてきたのが、共同配送とジャストイン物流だった。また、鮮度管理を徹底することで、結果的にコンビニで扱う商品の品質向上した。
収益性と品質の向上は、デジタル技術と高い作業生産性によってもたらされたものである。
結語:コンビニは、これまで大いに成功した小売業態のひとつである。しかし、市場は飽和しているという見解が、いまは世間の常識的な見方である。わたしが「コンビニ3.0」という概念を打ち出してのは、コンビニの成長の限界に対する異論である。
市場は決して飽和しているわけではない。飽和していると考える業界人は、自らのイノベーションの可能性を忘れているだけである。あるいは、考えてようとしていないからだ。農業分野も同様である。農業者は、従来は「お国によって守られた存在」だった。
だから、もし農業の未来に賭けるのならば、自分たちを守ってくれていた鎧を脱いで、プロテクターを外す勇気が必要になる。若いローソンファームの社長たちには、その勇気を持ってほしいと思う。そして、提携先のローソンは、未来に賭ける若者を従来とは違った形で支援してほしいと思う。
農業分野は、農産物の大規模生産とそれを豊富に活用した商品の開発で、ローソンが目指す「チャレンジ2030」(~2030年)に向けて有望な事業領域であることはまちがいない。
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