『日経MJ』のヒット塾に急きょ連載が決まった「200円カレー」のビジネスモデル。(上)の見出しは、「3人で起業 「3無し」で安く」になっていました。大学院生の課題とは、雰囲気がちがう原稿になっています。(下)がいま完成しました。
1杯200円のカレーの 販売で、急成長しているチ ェーンがある。その名は、 原価率研究所。新潟市内に7店舗、都内に2店舗と山 口県宇部市に1店舗展開。2014年3月、3人の若 者が起業した会社で、2年後に50店舗、数年後には株式公開を目指している。
2年前にオープンした本店(1号店)は新潟駅から歩いて5分の居抜きの2階 建て。店舗面積は10坪(約33平方㍍)ほどで、1階が2坪のキッチン、2階が8席の飲食スペース。カレー販売数は年間70万食。売上高1億4千万円だ。カレーの原価率は25~30%(推定)。ごはん300㌘ とルウ300㌘で食べごたえのある量目ながら、価格は税込み200円。テーク アウト率が80%。顧客は複数個まとめて購入する。
同社は余分なサービスがないノンフリルな経営に特徴がある。象徴的なのは、店内が「3無しの状態」になっていること。水なし、ティッシュなし、エアコン なし。ただし、飲み物の自動販売機があり、100円 だ。温泉卵などトッピング の持ち込みは自由である。居ぬき出店のため賃料は きわめて安い。月2万円と いう物件もある。シャッター通りへの出店が多く、地域貢献により新潟県知事か ら表彰されている。
社長の菅野優希氏は36歳 のベンチャー企業家。21歳で独立創業し、アルゼンチンからマテ茶を輸入するビジネスに携わっていたが、東日本大震災に見舞われ、家族で新潟に避難してき た。そこで知り合った吉田恭平氏(31歳)ともう1人の知人と3人で、原価率研究所を創業する。
震災を経験した菅野氏は「社会のインフラになれる 飲食ビジネスを始めたい」と考えた。カレーに着目し たのは、新潟県人がカレーをよく食べることをデータで知ったからだ。確かに、家計調査によると、新潟市はカレールウへの支出が全国で2番目に多い。「その割にカレーの専門店が少な いので、安く売るビジネスを思いついた」(菅野社長)
ルウは大手食品メーカーと共同開発することに(ルウに刻んだタマネギが練り こんである)なる。きっかけは、2店で年間30万食分を販売する規模になったことだった。スーパー数店分の大量のルウを発注する飲食店があることに気づいた営業マンが原価率研究所に共同開発を申し出た。
「カレーの味は、10点満点で5点。おいしすぎず、ただし、まずくはならないよう、レシピをメーカーの開発者と共同で作った」(菅 野社長)という。
従業員1人のワンオペで店舗を運営できるよう、厨房での作業を徹底的に合理 化してある。2坪のキッチ ンには「将来的に、作業用の包丁もまな板もおかないようにしたい」(吉田氏)。
カレー皿は蓋つきのプラ スチック容器で、皿洗いの必要がないので水道代はほ ぼゼロ。キッチンに置いてあるのは50人分の大鍋(2つ)と炊飯ジャー(7つ)のみ。コメは大手商社から国産ブレンド米を購入。容器は大手包装資材メーカーから大量購入し、原価は非常に安い。現在検討中のロゴマークは大手広告代理店の支援によるものだ。メディア取材で同社の知名度は急速にアップ。口コミで来店客が増えている。
さて、最後に読者に質問である。200円カレーは、どこから顧客を奪っているのだろうか?①コンビニエ ンスストア②総菜店③ファ ストフード④その他――。 答えは次週、お教えしよう。
< キーワードプラス>
商品を製造するためにかかった材料費(原価=飲食店の場合、料理の材料費や光熱費などの合計)を売上高で割った値。フード ビジネスは一般的に30%前後とされるが、取り扱う商品や業態によってまちまちで、15%(結 婚式場)〜60%(俺の株式会社)まで幅がある。
<図表>
カレールウへの支出が多い上位10都市
1 鳥取市 1,772円
2 新潟市 1,726円
3 金沢市 1,683円
4 岡山市 1,635円
5 松江市 1,599円
6 山口市 1,585円
7 佐賀市 1,560円
8 相模原市 1,553円
9 青森市 1,550円
10 長崎市 1,546円
全国 1,434円
(注)都道府県庁所在市 ・政令指定都市の1世 帯当たり年間支出金額 (2013~2015年平均)。家 計調査から