電通の吉田秀雄記念財団の助成研究(2014)で、「流行の波及メカニズム」を研究している。わたしたちの着想は、マスメディア(テレビ)とSNS(ネット)が織りなす「連結と相乗効果の研究」である。いま、研究対象として事例に上がっているのが、福岡発のアイドル「橋本還奈」である。
その橋本還奈が、「Yahoo検索大賞2014」でアイドル部門獲得してしまった。
ウイキペディアによると、彼女は、小学校3年生から福岡の芸能事務所「アクティブハカタ」に所属し、2009年から「Rev. from DVL」の前身にあたる福岡県のアイドルグループ「DVL」の一員だった(どうやら脱退しているようだ)。2013年の5月に地元福岡の博多リバレインで開催されていたイベントに参加しており、そこで知名度急上昇のきっかけとなる「奇跡の一枚」にあたる写真が撮られることとなった。
「奇跡の一枚」騒動とは、つぎのような経過をたどっている。
(この項は、ウイキペディアで再確認することができる。)
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2013年、11月の3日から4日にかけて、イベントで踊っている写真がインターネット掲示板「2ちゃんねる」や「Twitter」などで急速に拡散。この「奇跡の一枚」と言われた写真の拡散によって“かわいすぎるローカルアイドル”や“1000年に1人の逸材”として注目を集める運びとなる。
後者のキャッチフレーズの由来となった「NAVERまとめ」の「【千年に一人の逸材】博多のローカルアイドルが、かわいすぎるとネットで大騒ぎ【橋本環奈ちゃん画像】」というタイトルでまとめられた記事は11月7日に閲覧回数55万回を超え、所属事務所アクティブハカタの公式ウェブサイトのサーバーはアクセス過多で一時的にダウン。
NHKの深夜ニュース番組『NEWS WEB』内のコーナーにあたりツイッター上で言及が急増した事物が紹介される「つぶやきビッグデータ」や、検索エンジン「Google」の検索回数を示す「グーグルトレンド」の急上昇ランキングにも登場、さらには中国のネット利用者にまで広がりを見せた。『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)や『めざましテレビ』(フジテレビ系)などの情報番組にも取り上げられ、所属事務所によれば、この「ネットで話題」の状況を受けてテレビコマーシャル出演や取材のオファーが殺到する事態となった。
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この経過が、われわれが現在研究中の「情報の普及・反芻プロセス」の枠組みにぴたりと当てはまる。
このモデルは、スタート:「ネットでの書き込み」(種まき)→「まとめサイト」での拡散→「マス(テレビ)登場によるメジャー化」→ネットでの再拡散(ネットでの確認プロセス)→その後:大ブレイク、の枠組みである。
現在、「ふなっしー」や「くまもん」の情報拡散プロセスも整理している。その際に、いくつか重要な概念が抽出できている。たとえば、岩崎さんのまとめでは、送り手の情報が「社会性」を持つときに(ニュースになったときに)、コンテンツは大ヒットする。まさに、今回受賞の「Yahooニュース」が、そのきっかけを与える新しいメディア(検索サーチメディア)になっている。
また、橋本還奈の事件(メジャー化のプロセス)を見ていると、つぎのようなことがわかる。
(1)従来から言われている「情報の普及モデル」とはちがって、多メディア時代の流通の普及プロセスは、6つの段階を踏む(岩崎チームのまとめ)
①播種期 → ②発芽期 → ③伸長期 → ④開花期 → ⑤繚乱期 → ⑥落葉期
植物の成長と繚乱という言葉を比喩で用いている。だから、このモデルを、多メディア時代におけるコンテンツ情報の「花咲モデル」と呼んでよいかもしれない。
(2)情報の質と量とタイミング
コンテンツ情報が伝播していくには、とくに情報の質に関して、つぎの3つの要素(CFV)が重要である。
①信頼度(Credibility)
②鮮度(Freshness)
③自発性(Voluntary)
情報量に関して、注目する基準値として、メディアの露出量(GRP、記事の段数)やSNS上の話題性の高まり(ツイート数やダウンロード数)も重要だが、とくに、カテゴリーランキング(××部門で検察第一位!)が操作変数としては重要である。
また、コンテンツの拡散には、なんらかのイベントと偶発性が必要である(橋本還奈の場合は、奇跡の一枚のイベント)。
(3)レイトマジョリティの重要性
従来の普及理論では、イノベーターとオピニオンリーダー(アーリーマジョリティ)が流行を作ると主張されていた。しかし、SNS時代の情報コンテンツの普及は、レイトマジョリティの行動がキーになる。
彼らは流行を確かめるために、過去のイベント内容を検察したり(「まとめサイト」を見る)、「ランキング情報」である事が流行していることを確認する。これは、リアルの世界だけの時代にはなかったことである。つまり、「レイトマジョリティが過去イベントを遡及確認する行為」がポイントになる。
こうした研究が、わたしたちのチームで進行している。来年には、さらに、おもしろい概念がいくつか提供できそうだ。