【書籍紹介】 氏家健治(2014)『1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ』SB新書(★★★★)

 サブタイトルは、4倍値上げしても売れる仕組みの作り方。新宿御苑前で「ケンズカフェ(東京)」を開いたシェフの著者が、ネットとクチコミを活用して、チョコレート・デザートの外販でナンバーワンになる。そのマーケティング・テクニックを明かした著書。



 イタリアン料理のシェフだった氏家氏は、1990年代の創業当時、カフェの運営で苦労する。そこで、人気商品のガトーショコラを、インターネットで通信販売することを思いつく。
 そもそも一個500Gのガトーショコラを1500円で販売していたのだが、材料を良いものに変えて、250Gで3000円に販売する。マスコミで取り上げてもらっていたこともあって、実質4倍に値上げしたのに、これが飛ぶように売れ始めた。
 教訓は、わりに単純だ。「俺のフレンチ・イタリアン」の成功もそうだが、美味しくするために材料をケチらないこと。値段は関係ない。原価を上げることに躊躇しないこと。良い食材を、「ざぶざぶ」使うこと。
 坂本商法が、高い原価率に特徴があるのと同じだ。氏家商法では、ガトーショコラの価格は高いが、おいしいものを食べさせることに、妥協はしない。そして、ネットで評判をきちんと把握している。

 氏家氏の「ケイズカフェ東京」は、ガトーショコラという単品デザートに集中していることに特徴がある。単品勝負の「一本足打法」は、近年の経営では否定されることが多い。リスクが高いからだ。一つがこけたら、会社がこけてしまいます。
 しかし、世の中を見まわしてみると、江戸や京都の、酒蔵やお菓子屋など、老舗の経営では一本足打法がふつうのようにも見える。高価格高品質の単品経営の正当性を、品質へのこだわりとモニタリングに求めている。ひとりのシェフ(氏家氏)が作る商品(ガトーショコラ)では、多角化すると質が担保できなくなる。改善の力が衰えてしまう。

 本書に書かれているように、町場のレストランが経営を拡大しないときには、通販主体で単品経営をすることは正しい選択だろう。でも、わたしは断言してよい。氏家氏は、たぶん近々、ガトーショコラ以外のデザートを開発して売り出すにちがいない。
 単品で大成功をおさめたシェフェ経営者が、そのまま一生を終わるとは思えないのだ。おいしいものは世の中にまだたくさんあるからだ。その可能性にチャレンジをしないわけがない。