9月27日(土)に開かれた「ブランドマネジメント研究部会(JIMS)」の拡大版セッション「広告の今とこれから」から、「今どきの新聞・新聞広告・電子版~読者の評価と新たな活用術~」(宇賀神貴宏氏、㈱アサツー ディ・ケイ)の講演録をアップする。
日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)
ブランドマネジメント研究部会・拡大版セッション
「広告の今とこれから」
「今どきの新聞・新聞広告・電子版
~読者の評価と新たな活用術~」
株式会社アサツー ディ・ケイ
宇 賀 神 貴 宏 氏
日時:2013年9月27 日17 時~17時30分
於:法政大学経営大学院IM研究科101教室
講 演 要 旨
1.新聞の現状
私は、野沢さんの高校の後輩にあたります。現在アサツー ディ・ケイのメディア部門で、広告効果や消費者のメディア行動に関する・をしています。今日は新聞について、当社の調査結果の報告をしながらお話します。もう紙で新聞を読まないという話がありましたが、今日は、紙の新聞を中心にお話ししたいと思います。
皆さんの頭の中で、新聞は、落ち目のトラディッショナルなメディアの最たるものととらえられているのではないでしょうか。しかし、私は、本当にそうだろうか、新聞にはいいところもあるのではないかと考えて、調査を始めました。
調査結果をお話する前に、まず、新聞の市場について振り返っておきたいと思います。
新聞の発行部数は、ずっと下がっていくことが予想されます。理由は、若い人が紙の新聞の読者になっていないということです。ビデオリサーチの年齢別新聞閲読率データを見ると、かつては30歳で65%くらいでしたが、いまは40%程度まで落ちています。今の新聞読者は、10年前にも読者だった人たちで、新しい読者層がどんどん取れなくなっています。若者の新聞離れと言われますが、離れるどころか、そもそも最初から、新聞というメディアに入ってきていないわけです。
2.新聞の読者、読む理由、新聞広告のメリット
以上のような状況の中で、いま、紙の新聞を読んでいる人は、どんな人なのか、なぜ読むのでしょうか。さらに、新聞広告には、どんなメリットがあるのでしょうか。調査の結果をご紹介したいと思います。
(1)新聞読者とはどんな人か
ADKの生活者総合調査のデータを見ると、新聞の読者は、年齢が高い人が多いです。単純に新聞読者と非読者を比べると年齢要因が強く出てしまうので、今回は若年層、中年層、高年層の各年代別に、コア読者、一般読者、非読者を分けて、調べました。ただ分析した結果、全年代層を通じて次のような点が共通していることがわかりました。
経済的な余裕を見ると、新聞の読者ほど、経済的に余裕があり、社会性が高く、環境意識などは新聞を読む人ほど高いです。情報感度についてですが、新聞を読む人は、読まない人に比べて、ネットのような他のメディアもよく使っています。
新聞読者プロフィールを見ると、読者と非読者は、可処分所得に差があります。新聞の月間購読料は、4,000円以上します。その購読料を払えるわけですから、経済的に余裕がある人たちだと言えます。
(2)なぜ、新聞を読むのか
新聞をよく読んでいる人たちに、なぜ新聞を読むのか、聞いてみました(ビデオ上映)。「新聞は、めくったりする動作が少なくて済む」(主婦)、「新聞は、自分たちの世代からは外れる情報を得る分に使っている」(大学生)、「自分のペースで読める、活字派なので、字がないと落ち着かない」(自営業)、「新聞を止めると、落ち着かない」(主婦)、「時間があるから」(退職者)などの理由が挙げられました。
年齢によって違いますが、若い世代にとっては別の世代や社会について知るツール、中年層では知識の掘り下げツール、高齢者層では、特に知りたいことはないが、ゆっくりと楽しめる日替わり知的エンタテイメントとしてとらえられているようです。
実際に、他の調査でも、新聞を読むときの気分としては、のんびり、くつろぎ、という気分が挙げられています。
新聞は、ニュース媒体と考えられていますが、リラックスした気分の中で、自分の成長を促したり、発見したり、知的好奇心を満たしたりする体験を提供するツールになっていると言えます。また、生活習慣に入り込んでおり、日常生活に不可欠なものになっているようです。
(3)新聞広告
次に、新聞は、記事だけでなく、広告も見られているのかどうか、インタビューで調べました(ビデオ上映)。その結果、広告も情報としてとらえられていること、広告主の意図を考えながら見られていること、また女性は細かい広告も見ていることなどがわかりました。また、テレビコマーシャルは瞬間的ですが、新聞広告はじっくり読める好きな時に読める点が好まれているようです。
定量調査でも、同様の点を確認しました。新聞広告も「一種のニュースだ」という人が多いようです。
さらに他のメディアと比べて、新聞広告は、生活者にとって「理想の広告媒体」というべきポテンシャルを持っていることも発見です。生活者が広告に求める正確性、信頼性、見やすさ、わかりやすさなどを一番満たすと思われている広告媒体が実は新聞なのです。これは、読者だけが知っている新聞のよさです。
年齢と性別で見ると、男性と女性ではっきり意見が分かれます。男性にとって、広告は「見ない」、あるいは興味がある広告なら見るという感じで、どちらかというとネガティブな意見が多い一方、女性にとっては、広告はなくてはならない、楽しい、実用的などの肯定的な評価に偏っています。実際に年代別でみると30~50代では、男性より女性の方が、新聞の閲読時間が長いのです。
整理しますと、新聞広告には、“読者の購買力”、“ニュース化力”、毎日接触させられるという意味での“繰り返し力”、“女性への影響力”、「理想的広告媒体」ということでの“広告のコミュニケーション力”という5つの力があり、これらの力をわれわれはもっと注目してよいのではないかと思います。
現状では、特に購買力のあるシニア層に効率的に情報を届けられるという点で、他のメディアに対し優位があります。この先まだ10年くらいは、紙の新聞の影響力は維持されるのではないでしょうか。その間は、活用次第で、高い効果が得られる広告媒体です。
こういう広告の価値に気づいている企業は、新聞広告を使っています。出稿量ベースで見ると、新聞広告は、最近は減っていません。
(4)問題
新聞には、若い人に読まれていないという問題があります。新聞は、子供の時に読者になるものです。調査では、読者のうち、中学生の時に閲読を開始した人が半数以上、高校までで7割を占めます。新聞を購読していない家庭が増えていますので、将来的に読者が減っていくことが懸念されます。
アメリカでは、ワシントンポストが、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスに買収されましたが、紙の新聞を取り巻く状況は、壊滅的と言われています。
3.新聞広告の使い方
以上の点を踏まえたうえで、新聞広告を違った視点から見直してみますと、読者のポテンシャルへの注目、記事とのシンクロ、ニュースとしての訴求など、新聞広告にはそれなりの使い方が考えられます。新聞広告の小枠のフリーケンシー効果に気づいて、すでに使っている企業もあります。大塚製薬のポカリスエットなどがそうです。
メディアミックスの発想では、新聞とテレビはリーチメディアで、新商品発売時に一斉に広告を出すということがずっと行われてきました。しかし、すでに、新聞はテレビと同じようなリーチメディアではありません。ただ、テレビCMでは商品について詳しく説明できませんが、新聞では可能です。メディアの役割分担による使い分けは、必要だと思います。
4.新聞電子版
最近、新聞は電子版が出ています。電子版は、紙媒体と違う新たな読者層を開拓し、情報を入手するためのツールとして活用されているようです。電子版へは、若年層を中心に、新たな読者が流入しています。現状では、読者の半数が電子版と紙媒体を併読していますが、20代の読者では、電子版から直接入ってきた人が28%を占め、他の層より多くなっています。
読んでいる時間はスマホで読む人は通勤時間帯が多いですが、パソコンやタブレットで読む人は、帰宅後、しっかり読んでいます。電子版で読まれているのは、ビジネス関連情報が多いです。と言いますか、ほぼビジネス関連に特化しています。紙の媒体はリラックスした感じで目を通る人が多いですが、電子版の場合、仕事に関連する情報収集のために集中して読んでいるようです。
質疑応答
(岩崎氏)いまの若い人は、ヤフーニュースでニュースを見ています。新聞だけではなく、テレビも同じ状況でしょう。
(宇賀神氏)新聞は、若い頃から、習慣として読まれています。
(小川教授)新聞には、雑誌的な要素が出ているのですか。
(宇賀神氏)特に、シニアの読者には、雑誌的に読まれているようです。シニアは、若い人より可処分所得が高い傾向があります。ですから、シニアに受け入れられることが、マーケットが広がる秘訣だと思います。。若者だけに支持されたのではマーケットが小さいと思います。