小岩井乳業㈱(キリンビール㈱)の小川典子氏にご講演頂きました。ここに、講演録を掲載いたします。講演は、2011年5月26日(11時20分~12時50分)、経営大学院101教室で行われました。この講演録はリサーチアシスタントの青木恭子さんがまとめたものです。
講師紹介
小川 典子 氏
㈱ワコールよりキリンビール㈱に転職。キリンアグリバイオ㈱を経て、2010年より小岩井乳業㈱に出向中。企業でのマーケティングの経験を生かしながら、ダブルキャリアで花業界に関わる。フラワーデザイナー・マーケットプランナー。2010年夏、JFMA(日本フラワーマーケティング協会)のプロジェクト「フラワーバレンタイン・キャンペーン」の立ち上げとともに、ワーキングチームリーダーに。業界横断的なジェネリック・キャンペーンの企画・立案から遂行までを、総合的に手掛ける。
1.自己紹介
(1) ワコール時代
大学卒業後ワコールに就職。バブル期の最後の頃で、会社にいろいろな意味でまだ余裕があった時代だった。ワコールには11年間勤務したが、当時の上司はユニークな人で、絶えず課題を与えられ、前例のない仕事にゼロから挑戦することをたたき込まれた。企画を通すまでは大変だったが、新しいことをのびのびとやらせてもらえる幸せな環境だったと思う。異業種コラボレーションの先駆けの時代で、例えばP&G社とのWブランドのコラボ商品も実現した。ワコールが念願のSPA事業に乗り出した頃、小川先生と知り合った。法政の学生さんにSPAの事例をご紹介することになり、研究室にお伺いしたのが、小川先生とのご縁の始まりである。
(2) 花業界との関わり
ワコールに入社したものの配属先は新設部署。最初はマーケティングの仕事の面白さもわからず、周囲にロールモデルもなく、漠然と将来が不安になった。23歳の時「何か手に職を・・・」と考えすぐに行動を起こした。子供の頃から好きだった“花”を迷わず選び、ワコールでの仕事と並行して、プライベートな時間を全て花修行に費やした。が、花業界も一種職人の世界、現場のたたき上げで若いうちから経験を積んでいる人が多く、23歳になってから始めた私は同じ土俵で考えてもあまり意味がなかった。また、花業界はマーケティングの点ではひどく遅れており、知れば知るほどじれったい業界だと感じた。私にはマーケティングの経験があるのだから、花業界で自分にしかできないことをやってみたい!という気持ちが強まっていった。マーケティングのノウハウを活かせば自分で何か新しいことができるのではないか・・・ダブルキャリアで花の仕事を始めた。フラワーアレンジ教室やブライダルフラワー制作に加え、産直ブランドのバラのネット販売や、頒布会ビジネスなど、さまざまな試みを手掛けた。楽天に花のネット販売の出店社がまだ10店舗程しかなかった時代のことである。昼は会社、夜と週末は花、という二重生活が7年続き、無理も限界に達し、一度自分のキャリアを見つめなおしたいと考えた。31歳の時のことである。
折しも、ワコールでもちょうど大きな新規事業立ち上げがひと段落したところだった。次のステップに向けて転職しようと考え、仕事をしながら転職活動を開始した。メーカーのマーケ職や、広告代理店などの面接を受けていた。そんなある日、突然小川先生からお電話をいただいた。キリンアグリバイオでの花の仕事のお話だった。サントリーの花事業については多少知っていたものの、キリンにも花事業があることを当時は知らず、大企業で花のマーケティングの仕事がこの世に存在することさえ、思いもよらないことだった。
キリンアグリバイオは、いわゆる“種苗会社”である。新品種の開発や、傘下の海外種苗会社の新品種を日本に導入し、苗を生産し生産者に販売する事業だ。私はそれまで消費者向けのマーケティングを専門としていたが、キリンアグリバイオに移ってみると、事業領域は業界の最も川上で、消費者からは最も遠い位置にあると感じた。花業界は、中間業者が非常に多い。もともとはそれなりの必然性があってのことだが、そのために流通が複雑になっている。
結果、「消費者」が見えにくい。キリンアグリバイオの社内常識では、「お客様」は消費者ではなく、苗を買ってくれる生産者を意味していた。私は8年間のキリンアグリバイオ在籍中一貫して、「真のお客様とは最終消費者のことで、そこに絶えず目を向けていなければ」と極めて当たり前のことを言い続けていた。生産者は消費者のことを共に考える「パートナー」と位置づけるべきと考えていた。アンテナショップの役割を課した新しい花屋を立ち上げながら、いかに種苗会社は消費者と接点を作るべきかなど悪戦苦闘していたものの、今振り返るとマーケティングの最前線からは、やや遠ざかっていた時期だったと思う。
キリンは、花や野菜の商品開発から生産・販売の事業を、20年以上行っていた。しかし2010年、キリンはこれらの事業から撤退、事業を海外投資ファンドに売却することを決めた。私たち社員は、マスコミ発表の前日にその事実を知らされた。
キリンビール社に籍を置く私は、その後同じキリングループの小岩井乳業株式会社に出向、現在はマーケティング部で主に販促プロモーション、HP、ソーシャルメディアなど、コミュニケーションデザイン全般を担当している。
というわけで、現在花関連の活動はプライベートな時間に行っている。
(3) フラワーバレンタイン実行部隊のリーダーに
小川先生が会長を務められている「日本フラワーマーケティング協会」(JFMA)は、設立して11年になる。そろそろ、マーケティング活動を本格的に展開して、業界全体で一致団結して、何か始めようということになり、青山フラワーマーケットの井上社長が先頭に立って、「フラワーバランタイン」の企画が生まれた。
私自身は、キリンアグリバイオ売却後、花業界の表舞台からはしばらく遠ざかっていた。「花を消費者にもっと近づけるマーケティングをしたい」という思いは常にあったが、志半ばで否定され売却された挫折感から立ち直れずにいた。そこへ、小川先生から、このプロジェクトの話を伺った。花業界の役に立ちたい、自分自身も立ち直らせたいと思い、ワーキングチームのリーダー役を自ら買って出て、実行部隊(=ワーキングチーム)の先頭に立たせていただくことになった。
2.花市場の構造と業界連携への模索
(1) 花市場の構造
本題に移る前に、花のマーケットと業界の状況について、簡単に説明しておきたい。
花の市場規模は、じりじり縮小している。しばらく前までは1.2兆円市場だったが、いまでは1兆円まで後退している。これは、マッサージなどの癒し・リラクゼーションマーケットや居酒屋業界とほぼ同じ規模である。
業界は、中間流通の幅が大きい。組織は縦割りで、“バリューチェーン”が構築できていない業界といえる。生産者は、JA(農協)所属(図中紫の大きな楕円)と、生産者個人で出荷する個撰(図の小さい○)の二つのタイプがある(注:図中の丸の大きさは、規模とは無関係)。輸入品は、全体の2割を占めている。輸入品は増加傾向にあり、コロンビアはじめ世界各地の花が増えている。母の日のカーネーションなどは、2割をはるかに超える量の、高品質な輸入品が入ってきている。花大国オランダでは、この10数年で流通のリストラが進行した結果、卸売市場は一か所に統合された。しかも、ヨーロッパの他国もこの市場を利用するため、規模が大きい。一方日本は、この小さな島国に130もの卸売市場がひしめき、さらにその軒先に、仲卸と呼ばれる小さな問屋機能を持つ流通業者が400社以上存在する。花は、これら多数の中間流通を経て、全国の花店で販売される。
花の小売店は、かつては26,000店あったが、現在では、19,000店にまで減っている。花屋さんは火を使わないので、開業コストが比較的安く開業しやすいが、生まれては消えていく感じだ。この10年の間に「青山フラワーマーケット」のような花小売専門チェーンの大手ブランドが出てきたものの、その後競合ブランド(企業)がなかなか追随しない(できない)。景気の影響を受け小売全体が停滞気味といえる。
イギリスでは、1990年代後半からスーパーマーケット(量販店)での花の売上が急増し、日本のモデルにならないか研究されてきた。スーパー向けの花の専門供給商社も立ちあがったが、今のところまだ日本では大きなビジネスには育っていない。
ネット販売は伸びている。最近では、登録出店者数(生産者も含む)は10万にのぼる。ネットはギフト販売の比重が高く、昨年あたりから「母の日」は、ネット販売が実店舗の販売金額を上回るとのデータもある。
(2) フラワーバレンタイン・キャンペーン前夜
先に説明したとおり、日本では、花が生産されてから、実際に消費者の手に届くまでの経路が複雑で、長い。そしてビジネスにおいて、業界の横の繋がりは残念ながら希薄である。
縦のネットワークは、いくつもある。たとえば小売の中で代表的なのは「花キューピット」。離れた場所に住んでいる人へ、花店のネットワークを通して、新鮮なギフトを届けるための仕組みで、約8,000店の加盟店がある。日本全国の花店の総数が19,000店だから、かなり大きな組織だ。この他にも日比谷花壇が運営する「イーフローラ」や、「フジテレビフラワーネット」など、全国的な花の宅配ネットワークがある。ところが、これらの団体同士は互いに仲が悪い。花業界全体で何かを一緒にやるなんて考えられなかったし、皆なかば諦めていたといえる。
一方、「青山フラワーマーケット」のような新興勢力の花小売チェーン店も、店舗数自体は増えているが、伸び率でみればかつてほどの勢いはない。景気が悪くなると、真っ先に支出が削られてしまうのは花やグリーンである。法人向けも、個人用も、花の消費はこのままでは伸びる兆しがないという不安がある。それぞれ危機感を抱いているにもかかわらず、業界全体としては、まとまって行動をとることができないままだった。
少し前まで、花業界には、「1,000分の1構想」という新しいスキームに向けた動きがあった。商流の中のさまざまなプレーヤーが、売上の1,000分の1を基金としてプールし、共同で花の販促プロモーションを行おうという構想だった。オランダにはきちんとした組織があり、業界をあげての消費者向けプロモーション活動が定着している。日本でも同様の仕組みを作ろうと考えて模索を続けていたのだが、結局、業界関係者の意見をまとめられず、昨年この構想は頓挫してしまった。期待が高かっただけに、この試みに積極的だった人たちの落胆は大きかった。
そんなとき、フラワーバレンタインの企画が彗星のごとく現れた。すると今まで全く手をつなごうとしなかった業界の人たちが、にわかに手をつなごうとし始めた。奇跡的だった。景気回復の兆しが見えない状況と、業界横断的な試みの頓挫による虚無感が契機となって、皆の気持ちを「フラワーバレンタイン」へすぅーっと向かわせたのだと思う。
3.花き業界統一キャンペーン「フラワーバレンタイン」
(1) テーマを「バレンタインデー」に絞る
プロジェクトのテーマを「バレンタインデー」にすることは、わりとすんなり決まった。
プロジェクトがスタートした時はすでに夏だったので、時期的なリードタイムの問題で、2月のバレンタインなら何とか間に合いそうだという話になった。
また、バレンタインデーは世界的には、「男女が互いに愛を伝え合う日」であり、男性から女性に“花を贈る日”でもある。日本でもそういう世界標準の素敵な習慣を根づかせようというメッセージは、業界お仕着せの無理やり感もなく、各方面で受け入れられやすいだろうと考えた。
加えて、業界特有の事情もある。花の年間の売り上げ推移をみると、2月は売上が特に悪い。5月は母の日、12月は年末の花が売れる。年末の山が終わると、1月以降はぐっと下がり、3月の歓送迎シーズンまで、売上は谷である。2月は業界として最も困っている時期ともいえた。
こうした理由で、プロジェクトのテーマを「バレンタインデー」に絞ることは、多くの賛同を得て決まった。
(2) 企画
① 目的
プロジェクトの目標は、「業界の横断的なプロモーション活動を実施し、バレンタインデーに、新たな花き需要の喚起を効果的に図ること」に置かれた。
② スタンス
バレンタインデーに、男性から女性へ花を贈ろうというのは、新たな市場を創造することである。チョコレートとマーケットのパイを奪い合うわけではなく、新たに男性のお財布をあけさせる試みである。例年、バレンタイン前のデパートのチョコ売場はにぎわっているが、自分のためにスペシャルなチョコを買う「自分買い」、女性同士でチョコレートを交換し合う「友チョコ」や、男性から女性に贈る「逆チョコ」など、バレンタインデーのチョコの内実は一昔前とずいぶん変容してきている。百貨店においてバレンタインの売上比率は高く、重要なイベント。バレンタインデーの意味合いが年々形骸化していくことは避けたいはずである。
“フラワーバレンタイン=男性に花を買ってもらう”ということは、あくまでもチョコレートと共存しながら、バレンタインデーを共に盛り上げる・・・というスタンスである。
③ メンバー
キャンペーンの企画運営に当たっては、2010年5月から準備委員会で調整を重ね、2010年11月、(財)日本花普及センターを拠点に、「フラワーバレンタイン推進委員会」が発足した。会長は、青山フラワーマーケット社長・井上英明氏(パーク・コーポレーション代表取締役)で、メンバーには、業界の錚々たる人たちが名を連ねた。
実際に中心になって働いたのは、ワーキングチームのメンバー8名である。大手花小売チェーンの企画部門やプロモーションの前線にいらっしゃる方、ソーシャルメディアの専門家、仲卸でネット販売を最初に手掛けた企業の方など、30~40代の中堅クラスのリーダーにメンバーとして参加いただいた。それぞれ得意分野があり、人脈もあり、彼らが乗り出してくれれば何か事が動かせる人たちである。こうした人材に恵まれ、短い時間であったにもかかわらず、さまざまな企画を進めることができた。
④ 予算
予算は、協賛金が元手で、「いったいいくら集まるのかわからない」という状態からスタートした。企画を練る一方で、そのために最低限必要な支出を考え、協賛金をいくら集めなくてはいけないかを逆算していくことになる。普通ビジネスでは、こんなことはありえない。通常は、年間予算が先にあり、それに応じてプロモーションの予算も決まるものである。しかし、フラワーバレンタインの場合は、「もしかしたら100万円しか集まらないかもしれない・・・ふたをあけてみるまで予算はわからない」という状況だった。
1口1万円で、業界全体から幅広く協賛金を募り、結果的には合計約1,000万円集まった。
⑤ 参加・協賛者
プロジェクトには、花き生産関係で92団体(生産者団体、各地JA、生産者)、卸・仲卸58社、その他58社から参加・協賛をいただいた。また、小売業からは、「花キューピット」など全国組織3団体と、青山フラワーマーケット、日比谷花壇、小田急フローリストなどチェーン店を含め、個別参加417店、延べ約8,000店が参加した(全国の花店のおよそ半数)。
協賛者には大口、小口、いろいろあるが、10月の終わりから募り始めて、約3ヶ月間で1,000万円まで集められたのは、いろいろな立場の業界人の想いの集積だと思う。また、業界内のさまざまな組織の方々に、イベントでの花や資材、場所、労力の提供や作業分担という形で多大なご協力をいただいた。
⑥ 期間
プロジェクトは、2010年5月から10月までが事前準備期間、その後、2010年11月に正式に動き始めた。2011年4月に活動報告会を開いた後、第1回目のプロジェクトは終了した(以後、世間に定着するまで毎年継続予定)。
⑦ ターゲット
<20代から40代の男性とそのパートナー>
ターゲットとして、学生は厳しいと考え、30代を中心にまずは20代~40代の男性とそのパートナーに対して、「バレンタインに花を贈ろう」というメッセージを伝えていきたいと考えた。
<業界向けのインナー・プロモーション>
「フラワーバレンタイン」は、あくまでも一般消費者向けのプロモーションである。その一方で、プロモーションのもう一つの重要なターゲットは業界内部だった。私の感覚では、初年度はエネルギーの8割を業界のインナー・プロモーションに費したという気がしている。まず、業界の方々に、何のために何をやろうとしているのかを理解してもらわなければならない。また、お客様に実際にアプローチしていただくのは、最終顧客接点である花屋さんのショップの人たちである。彼らが真剣に取り組んでくれなければ、お客さまにメッセージが伝わるはずがない。
実際にプロジェクトを進めて見ると、この業界は末端の花屋さんまで情報が伝わりにくい、という事実に改めて気付かされた。花業界は職人気質の集団で、「隣の店がやっているから、うちも同じように動こう」、という風になかなかならない。このキャンペーンが、企画者側の押し付けではなく、「業界の皆さんが、それぞれのお客様に喜んでいただくための活動である」ということを理解していただくのに、エネルギーを要した。
この新しい企画を立ち上げるのに、不安はなかったのかと尋ねられることがある。私は、「不安はなかった」と答えている。フラワーバレンタインの核となるメッセージには、「男性から女性へ、女性から男性へ、お互いにLOVEを伝え合おう」という、コミュニケーションとしての温かさがある。花業界が自身の利益のために、無理やりその日に花を買わせようという話とは異なる。消費者に受け入れてもらえる、お客様はこのメッセージをハッピーに受け止めてくれるだろうと信じているから、不安はなかった。お客様さえ支持してくださるのであれば、あとは業界の努力で、いつかこれが習慣として定着していく日が来るのではないか。私たちは、そういう期待をもって、プロジェクトを進めた。
(3) キャンペーン内容
① 共通のアイコン、ロゴ、タグ、バナー制作
こうしたジェネリック・プロモーションにはまず、共通のメッセージ、アイコンが必要だ。花キューピット加盟店では、店頭に加盟店であることを示すポスターを貼る習慣がある。街の花屋さんもポスターにはあまり抵抗がない。そこで、フラワーバレンタインでも、小売店頭用のポスターをまず作ることにした。これは、お客様向けのみならず、小売店へのインナー・プロモーションの意味もある。
商品自体の共通化は難しい。お店により、客層、品揃え、中心価格帯も異なる。たとえ仕入れてくる花自体は同じでも、それをどう売り、どう加工して、いくらの値を付けるかは、個々の店に関わることで、コントロールできないし、我々に強制力もない。
それでも、業界横断キャンペーンである以上、お客様に対し、統一したフラワーバレンタインのメッセージをコミュニケーションする手段が必要である。そこで、共通の商品タグを作ることにした。タグは、5cm角の紙製で、裏側にQRコードが印刷されており、お客様はプレゼント応募やHPへのアクセスなど、これから説明するようなキャンペーンの内容を共有できる仕組みを考えた。
② フラワーバレンタイン公式ホームページ
「フラワーバレンタイン」の情報プラットフォームとして、2010年12月22日、公式ホームページ(パソコン版、モバイル版)を立ち上げた。http://www.flower-valentine.com/
ホームページの主なコンテンツは、以下の通りである。
・「全国ショップリスト」(協賛店舗データベース)
・「フラワーギフトnavi」 花を購入することに慣れていないお客様のために、ゲーム感覚で花を選べる「ナビゲーション」を作成(協力:日比谷花壇)。
・「男子注目!花贈り指南」 花を購入することに慣れていないお客様のためのアドバイスを
花業界を代表する男性に指南してもらう(外国人アーティストなど4名)
・「メディア・タイアップ」 映画館やFMラジオとタイアップ(詳細は後述)。フラワーバレンタインHP上に、パーソナリティーへのインタビューや、FM局との相互リンクを実施。
・「フラワーバレンタインサポーター(協賛企業)限定ページ」 協賛花店の販売サポートを目的にしたコーナー。協賛企業にはパスワードを用意し、HP上から、販促ツール(店頭POP、チラシデータなど)やホームページ用のオリジナルバナーをダウンロードして使ってもらえるようにした。各店で独自に、おすすめ商品やサービスなどアレンジして盛り込めるようなデザインにした。また、お店のMDに役立つトレンド情報や、資材メーカーからの情報なども掲載した。冒頭では、井上会長の熱いメッセージムービーを見れるようにした。
HPのアクセス数は、およそ2ヶ月で76,397PVにのぼった(2011年1月6日~プレゼントキャンペーン終了の2月28日までの合計)。多くもないが、ゼロスタートと思えば少ない数字でもない。
トップページ、プレゼントキャンペーン、次いで全国ショップリスト、メディア・タイアップのコンテンツへのアクセスが多かった。
③プレゼントキャンペーン 「100名様に“二人で過ごす時間”プレゼント」
花の小売では、たとえ大手のチェーンであっても、プレゼントキャンペーンに費用をかけることは負担が大きく、スケール感やスペシャル感が出しにくい。ましてや個店の花屋さんではとても手が出ない。
そこで、フラワーバレンタイン本部が、個別店舗ではやりたくてもできない企画として、カップルに「二人で過ごす時間」が当たるというキャンペーン(購入者などの制限を設けないオープンキャンペーン)を立ち上げた。
これは全国共通のプロモーションで、お客様はホームページの他に、ポスター、商品タグ、告知イベント時の花束スリーブなどに印刷されたQRコードからアクセスして応募ができるしくみになっている。各小売店において、お客様へのサービスや、おすすめトークの一助にしていただくことも考えて設計した。
今回は、首都圏のお客様向けのプレゼント内容が中心で、ANAの羽田沖縄航空券ペアチケット、ミシュラン★付きのフレンチレストラン「ジョエル・ロブション」(恵比寿)でのバレンタイン当日ペア食事券(青山フラワーマーケットから“香りのバラプレゼント”とバーター)、サントリー・ジャパン・プレミアム・ロゼワイン、スパ「ラクーア」ペア招待券、花王ローズアロマ・ギフトボックス、ワーナー・マイカル・シネマズのペア鑑賞券、品川よしもとプリンスシアターのペア招待券を用意した。ANA以外は、全て各企業様からの協賛で成立している。
このプレゼントキャンペーンには、6,000件以上の応募が寄せられた。
④ メディア・タイアップ
<ラジオ>
メディア・タイアップとしては、まずFMラジオ番組にスポンサーになってもらう働きかけをした。ラジオはターゲットメディアとして改めて注目されている媒体で、男性へのリーチも期待できると考えた。中でも「80.LOVE」とうたっているTOKYOFMはバレンタインにぴったりな局だと思いアプローチした。スポンサーといっても協賛金をいただくわけではない。TOKYO FM(全国放送JFNのキー局)のちょうどターゲット層のリスナーが多い夕方の番組「シンクロノシティ」で、バレンタインまでの2週間毎日、フラワーバレンタインについて番組パーソナリティーに話してもらう。ゲストが女性であれば、サプライズで女性に花束をプレゼントし、「わー、どうして?」という驚きをきっかけに、フラワーバレンタインの話を盛り上げてもらう。花束は業界から提供する。バーターで成り立つ協業体制である。
番組は、タイアップ初日に渋谷駅コンコースにある青山フラワーマーケットの店頭で、レポーターがお花を買っている人にインタビューをする模様からスタートした。そのレポートは、HPやツイッターと連動しており、インタビューに答えた人や花、周囲の様子が、リアルタイムに取り上げられ、「皆こんな気持ちで花を買っているんだ」という雰囲気が素敵に伝えられた。
花を買っている人の幸せそうな様子やコメントを聞いて、パーソナリティーの男性も、花がコミュニケーションにどんなに有効であるかを、番組の中で熱心に語ってくれた。番組自体が、非常に良い内容になっていた。
フラワーバレンタインのHPでは、パーソナリティーの方々の独占インタビューも掲載し、アクセスの多い人気コンテンツとなった。
また、JFN(ジャパンエフエムネットワーク)の、「フラワーズ」という情報番組ともタイアップ。女性パーソナリティー2人が毎日「バレンタインに向けて、花をプレゼントする」ということをリスナーに伝え続けてくれた。ご主人から、「奥さんに花を贈りたい」という応募がとにかく多かったそうだが、番組ではそうした視聴者の声が放送内でたくさん取り上げられた。
ある時、JFNの番組プロデューサーが自分自身のエピソードを伝えてくださった。彼が出張で奄美大島に行った折、現地の花店の店頭にフラワーバレンタインのポスターが貼ってあった。それを見て、彼はラジオのリスナーのネットワークと、花のネットワークがリンクしていることを感じたそうである。そして、「人と人、心と心を繋いでいく媒介として、ラジオや音楽と花とは、近いものがあるのではないか」という感想を、現地からわざわざメールで書き送ってくださった。それを読んで私は、フラワーバレンタインをきっかけに異業種の方々にも、花の力や魅力を知っていただけるいい機会なんだ、と実感した。
<映画館>
ワーナー・マイカル・シネマズ「オトナタイム・シネマキャンペーン」
ワーナー・マイカルの映画館では、この冬、「大人が、誘い合って映画館に行くムードを盛り上げる」という目的で、20 時以降のレイトショーを対象に、「オトナタイム・シネマキャンペーン」を展開していた。フラワーバレンタインは、そのキャンペーンとタイアップして、バレンタインデーに来館したカップルに、全国で4,000本、バラの花をプレゼントした。さらに、映画の上映前に、フラワーバレンタインのCFをスクリーンで放映していただいた。わずか数秒のCFだが、映像は、耳と目で入ってくる情報量が格段に豊富である。フラワーバレンタインのターゲットに近い層に、キャンペーンをうまく訴求できたと思う。
14日当日のお客様もたいへん喜んでくださり、また劇場側のキャンペーンの趣旨ともぴったり合っていたので、ワーナー・マイカル・シネマズの方からは、「来年も、ぜひまた一緒にやりましょう」と声をかけていただいた。
⑤ メディア報道、プレス・リリース
<テレビ>
NHKの各地方局、フジテレビ「めざましテレビ」、NHK教育「趣味の園芸」、テレビ東京「FINE!オープニング」、テレビ朝日「ANNスーパーJチャンネル」などで、キャンペーンの内容や、井上会長のトーク、街頭での花束配布キャンペーンの様子などが放映された。
<雑誌>
フラワーバレンタインのキャンペーンの具体的な内容が決まったのが10月中下旬で、活動期間が短かった。そのため、雑誌記事用の仕込みには間に合わなかった。前例のないキャンペーンでもあり、わざわざ取材して記事にしてもらえることは、少なかった。事前・事後合わせて、記事掲載は、8誌(ELLE、農耕と園芸、日経ビジネス(首都圏版)、Garden Center、フローリスト、趣味の園芸、Garden Center、植物デザイン)にとどまった。
<新聞>
新聞では、日本農業新聞、 新潟日報、朝日新聞、西日本新聞などの紙面で、フラワーバレンタインや、キャンペーン、イベントなどについて、報道された(17本)。バレンタイン当日は、全国新聞の休刊日に当たっていたため、イベントについての事前掲載が多かった。
<インターネット>
インターネットでは、Yahoo!や、livedoor、niftyをはじめ各ポータル・サイトのニュースで、キャンペーンや各地でのイベントについて紹介された。(把握できているだけで75件)
⑥ ソーシャルメディアの利用
2011年1月から、ツイッターを利用して、フラワーバレンタインの認知拡大や情報発信、共有に活用した(アカウント:フラワーバレンタイン推進委員会【公式】@f_valentine2011、ハッシュタグは #FV2011)。当初のツイートは、業界関係者のものがほとんどだったが、2月初旬頃からは、一般の方からのつぶやきが入ってくるようになった。「あげたよ」、「もらったよ」、「うれしかった」、というような声が、たくさん寄せられた。消費者に温かく迎えてもらえるコンセプトで、努力して、お客様に知ってもらえれば、買っていただけるのだなと実感した。また、ラジオ番組との連動の結果、「ラジオで聞いたよ」というツイートもあり、コミュニケーションが、自然とクロスメディアしている様子が伺える。2011年1月24日~2月14日までの約3週間で、1,072回のツイートがあり、フォロワーは1,240人になった。
ただ、ツイッターは、体系的に情報を伝えるメディアではない。今後は、公式サイトとツイッターの中間に位置する、ブログやフェースブック等の活用が必要である。
⑦ 街頭イベント
バレンタイン前日の日曜日に、銀座の複数個所で通行者に花を配るキャンペーンを行った。花業界に“銀座の主”のような方がいらっしゃり、その方を通じて銀座の地元組織に交渉していただき、配布イベントが実現した。ファスト・ファッションの店の周辺の百貨店や、数寄屋橋公園、銀座三越内部のイベント・スペース、車のMINI 銀座ショールームなど、合計5か所で1万束を配った。
この配布イベントの最大の目的はメディアを呼び込むことだ。花束配布の模様は、テレビ朝日などいくつかのテレビ局のニュース番組で放送された。もう一つの目的は、カップルに花を配り「男性が女性に花を渡すことで、こんな笑顔が待っているんだよ」ということを、1人でも多くの男性に体感していただける場面を作りたいというものだった。
これら2つを目的として、銀座における花束配布を企画した。万単位の花束を作って配るのは、非常にマンパワーの要ることだ。まず、生産者に協賛を募り花を協賛していただく。オリジナルスリーブ(花束を包むセロハン)は資材メーカーさんの協賛を仰ぐ。市場や仲卸の方々には作業スペースと人手を提供してもらう。水揚げなど花の下処理、ラッピングの作業を施し、できた花束を各地点に運び、切り花延命剤も付ける。共通の看板やイベントツール、ウェア(今回はマフラー)を用意した上で、配布スタッフ(法政大学の小川ゼミ生および業界のボランティア)を手配した。こうした一連のプロセスを通じて、結果的に、花束配布は業界を横断するお祭りイベントになった。最初は抵抗を感じられた方もいたが、実際にやってみると、「今まで、みんなで何かを一緒にしたことがなかったけれども、やってみたらよかった!また来年もやろう!」という反応だった。
街頭イベントをやってみてよかった点は、それが業界内部の動機付けになるということと、パートナーが他の業界にもいるのだということがよくわかったことである。
百貨店からは「チョコがあるのに、なぜ花なのか」と懸念されることを心配していたが、企画を持ち込んでみると、「店の中や周辺に、花を抱えて幸せそうなお客様が溢れているのは素敵なことだ。ぜひやりましょう」とおっしゃっていただいた。百貨店の現場の方には、いろいろ細かいことをお願いし手間をおかけしたが、「花を持ったお客様、お買い物楽しそうでしたねー。また来年やりましょう」と笑顔でおっしゃって下さった。
銀座の他、渋谷、吉祥寺、横浜、新宿、池袋などでも同時多発で花の配布を行った。また、お台場のヴィーナスフォート・六本木ヒルズ・表参道ヒルズ・アークヒルズ(森ビル)、遠く長崎のハウステンボスなどでも、フラワーバレンタインのタイアップイベントを開催した。
六本木ヒルズの上階のプラネタリウムは“恋人の聖地”と言われていて、バレンタインデーはカップルでいっぱいになる。バレンタイン当日、デートで訪れるカップルたちにサプライズで花を配ったところ大変喜ばれた。六本木ヒルズでは、フラワーバレンタインもバレンタイン企画のコンテンツの一つにしていただき、館内で配布するリーフレットにも掲載してもらった。また六本木ヒルズでは、「ロブション」はじめ10軒のフレンチ・イタリアンレストランで、バレンタインディナーをご予約・お楽しみのお客様にお花を差し上げるキャンペーンも実現し、レストランにも喜んでいただいた。
これら異業種とのタイアップが、今年はまだ点の状態ではあったが実現できた。来年は、たとえば「ぐるなび」「食べログ」のようなネットサービスと組んで、もっと広がりのあるキャンペーンにできるかもしれない。映画館、レストラン、デートスポット、百貨店など、同じメッセージを共有できる業界と連携して、バレンタインを盛り上げ、大切な日にしていくことを進めていきたい。
⑧ 全国各地の企画・イベント
大阪では、阪急梅田三番街の街頭で、フラワーバレンタイン・モニュメントを作成した(1,000本のカーネーション、800本のガーベラ、800本のスプレーマムでモニュメントを作成)。その他、静岡、浜松、新潟、広島をはじめ、日本全国各地で、地元メディアへ働きかけながら、さまざまな企画展示やイベントが行われた。
⑨ 卸売市場など業界への事前PR活動
フラワーバレンタインの趣旨と活動について、業界の方々に理解と協力をしていただくためのPR活動も積極的に行った。東京都花卉振興協議会の協力を得て、東京都内の中央卸売市場において、市場に花を買い付けにくる買参人向けのPR活動を実施した。セリ前挨拶をさせていただくなど、フラワーバレンタインへの幅広い参加協力を訴えた。
大田市場では直前の1月中旬、市場内の仲卸通りにブースを設置しPRを行った。仲卸店頭でもポスター掲示やチラシを設置いただくなど、ご協力をいただいた。切り花の表日(市場に荷が集まる日)には、セリの市場スタッフとワーキングチームのメンバーの協業で、チラシの配布を行い、セリに参加する買参人や仲卸に買いに来られる花店の方々にアピールして、その場で参加受付も行った。
また、東京以外の市場向けに、井上会長のメッセージを撮影したDVDを作成し郵送配布した。
4.キャンペーン総括
(1) キャンペーン効果の測定
① 認知度、認知経路
インターネット調査会社であるマクロミルのモニター対象に、2011年1月と3月の2回、ネットアンケートを行い、フラワーバレンタインの認知度や認知経路について調査した。事後の3月の調査結果によると、フラワーバレンタインの認知度は「16%」という結果が出た。フラワーもバレンタインも一般的な用語のため、何となく知ってそうな気がする、という程度の人もマークしてしまっていると思われ、実際にはもう少し低いと思われる。
認知者に対して認知経路を尋ねたところ、テレビが最も多く「37.6%」だった。また、店頭のポスター(35.3%)やPOP・チラシ(18.2%)など、店頭ツールも重要な認知経路となっていることがわかった。
② 売上高、男性客比率
キャンペーン期間の売上状況の把握のため、全国29店舗に協力を依頼し、2011年2月10日(木)~14日(月) の5日間にわたり、時間帯別・購入金額別・男女別の売上レジ調査を実施した。売上の他、店舗基礎情報(立地環境など)、男性客の動向、おすすめ商品、売れ筋商品情報、店舗の演出状況、お客様の様子なども、可能な範囲で記録しレポートしていただいた。
バレンタイン当日、東京では午後から雪が降ったが、それでも、売上高は、調査店舗の平均で前年比115%と、15%も伸びた。特徴的なのは、本キャンペーンのターゲットでもある「30代の男性客」の突出的な増加だった。バレンタイン当日には、通常の倍になり、客全体の30~40%を占めた。また、男性客の割合が50%を超えた店もあった。
(2) キャンペーンの手応えと、来年へのアイディア
実際に、共通のロゴやポスターなどツールや、共通キャンペーンなどのしくみを提供しても、それを現場でうまく応用し活用できた花屋は、実際にはまだまだ少なかった。花業界は、小売としての根本的なノウハウが、まだ蓄積できていない。
しかし、それぞれのエリア、それぞれのお店で、ツールを用いて個々に盛り上げ、売上を伸ばせたケースが存在するのも事実だ。初年度は、まずは認知度のアップを狙っていたが、実際には、売上も上がってくれたことがわかった。自分たちで工夫して、お客様に働きかけた店は、努力したなりの結果をあげられたと思う。
今回われわれが望んでいたのは、型にはまったキャンペーンではなく、揃えた共通の材料を活用しつつも、各自のショップやエリアで、そこで暮らすお客様に合うよう工夫して組み立ててもらいたいということだった。また、フラワーバレンタインをキーに、地元メディアに取り上げてもらうなど、自分たちでキャンペーンを発展させてもらいたい、という思いがあった。
まだまだ全国各地のムーブメントというには数が少ないが、今回そういう事例が見られたことは、本当によかったと思う。今年は準備期間も短く、何をどうしたらいいやらわからなかった店も多々あっただろう。今回、都心型店舗、路面店、郊外店などいろいろな業態や立地の小売店舗から、取り組み事例が豊富に集まってきた。来年のキャンペーンでは、今年の経験や事例を業界にフィードバックし「横展開」できるよう、活かしていきたいと考えている。
質疑応答
提案:二つ、提案がある。まず、逆チョコと一緒に、チョコ・メーカーとタイアップするというアイディアはどうか。ロッテのガーナも、母の日にチョコを贈るというキャンペーンを展開していた。
また、フラワーバレンタインのターゲットとしては、男性20~40代が多いという点で、コンビニの客層と共通性が高いのではないか。実際、逆チョコも、コンビニでよく売れたと聞いている。ただ、花は日持ちが短い。そこで、まず「チョコと一緒に花を贈ろう」という認知を広げることに絞って、最初は造花で始めて、次に生花に移るという考え方もあると思う。
小川:チョコ業界とのタイアップは、ぜひやってみたいことの一つだ。
質問:銀座で1万束の花を配ったとおっしゃったが、花屋の店頭でも、プレゼントしてみてはどうか。花キューピット加盟店など、地元の花屋と事前に調整して、「先着何名様プレゼント」などのキャンペーンを日本全国でいっせいに実施すれば、インパクトがある。マスコミのパブリシティも上がるのではないか。
小川:努力したいと思っているが、末端の小売店とのコミュニケーションは難しかった。今回実際に売上が増えたのは、地方の花屋で先進的なところや、青山フラワーマーケットなどの協賛チェーン店が多かった。
質問:他の国民の休日、たとえば、秋の敬老の日や、勤労感謝の日など、他にキャンペーンを当てられる日もあるのではないか。プレゼントの対象となる人口も多い。
小川孔輔:実は、プロジェクトのターゲットをバレンタインに決める前に、ホワイトデーなど、他の日も候補にあがっていた。しかし、私は、「まず、バレンタイン」だと考えていた。それまでばらばらだった業界が、ここでやっと一つにまとまった。この機会を逃さず、皆で一致して、バレンタインという一点に集中することで、キャンペーンに求心力をもたせたかった。
小川典子:私は、その日に花をプレゼントすることに対して、「納得感」があることが、キャンペーンを早く成功させる秘訣だと考えている。敬老の日であっても、もし、花を贈ることについてのストーリーがうまく組み立てられれば、それでいい。しかし、母の日でさえ、プレゼントされるのは花だけでない。スイーツなど、他のギフトも入ってきている。「あえて花」、という納得感が必要だ。
質問:女性として、欲しいのは、やはり花だ。造花ではなく、生花が欲しいと思う。しかし、男性にとっては、花屋にわざわざ花束を買いに行くのは、抵抗感がある場合もある。そこで提案だが、「花の頼めるレストラン」があれば、いいのではないかと思う。レストランでも、ある程度高級で単価の高い店では、事前に予約をする。レストランの予約の際に、男性に「お花を一緒にいかがですか」と勧めて、同時に予約を受けていく。お店に負担をかけないよう、ボタン一つで登録店に簡単にオーダーができるようなシステムにすれば、なおいいだろう。レストランは晴れの場所だ。レストランとお花というのは、いい組合せではないかと思う。
小川:「花の頼めるレストラン」は、いいアイディアだと思う。
質問:サントリーでも、青いバラを作っている。花はもっとマーケティングできるのではないか。
小川:私は、キリンアグリバイオでは、まさにそのことがやりたかった。店頭で、消費者が「これはキリンの花だ」とわかることはまずない。大企業が花事業に参入している意義は、ブランドを通じて花の消費拡大に貢献することだと思ってきたが、残念ながら事業は売られてしまった・・・
質問:花のラッピングペーパーなどに、フラワーバレンタインのマークやロゴは入れたか。 また、仕事の一線から退いて、花に興味をもつ男性は多い。フラワーバレンタインのターゲットとして、アクティブシニアも対象にすることは、考えてもいいと思う。
小川:銀座、新宿、池袋、大阪などのイベントでは共通のスリーブを用い、フラワーバレンタインのメッセージが載ったラッピングツールを使った。その花束を持った人たちが街を歩き宣伝に一役買っていただいた。アクティブシニアも確かに良いお客様になりそうだ。
(了)