㈱カインズHI商品部ファーム・ガーデン部兼グリーン部部長、萩原信之氏、HC商品部カー・アウトドア部部長、中島秀彦氏(両氏とも法政大学OB)にご講演いただきました。ここに、講演録を掲載いたします。講演は2011年6月30日(11時20分~13時20分)、経営大学院101教室で行われました。この講演録はリサーチ・アシスタントの青木恭子さんがまとめたものです。
講師紹介
萩原 信之 氏
法政大学出身(82年卒業)。カインズのファーム・ガーデン部およびグリーン部部長として、園芸部門を統括。2011年、ホームセンターのプレミアムPBとして、ペチュニアの新品種「プリティマッチ ピカソ」を日本に導入、マーケティングを担当する。
中島 秀彦 氏
法政大学出身。カー・アウトドア部部長。数々のPB商品の開発に携わる。
(司会:小川孔輔教授、文中以下敬称略)
1.カインズのPB商品開発概要(萩原氏)
今後、小売業にとっては、厳しい競争時代が来る。安さだけでは不十分で、差別化商品の開発が必要になるという認識から、カインズではPB(プライベート・ブランド)開発にとりくんできた。
(1) 会社概要・経営理念
① 会社概要
設 立: 1989年3月
資 本 金: 32億6,000万円
代 表 者: 代表取締役会長 土屋嘉雄氏
代表取締役社長 土屋裕雅氏
従業員数: 9,083名(2011年5月末)
事業内容: ホームセンター・チェーンの経営(ベイシア・グループ)
本 部: 群馬県高崎市
売 上 高: 3,365億円(2011年2月期)
店 舗 数: 175店舗(23都道府県・2011年4月末)
出店地域: 北海道・宮城・福島・茨城・千葉・栃木・群馬・埼玉・長野・山梨・東京・神奈川・静岡・愛知・三重・岐阜・滋賀・京都・大阪・兵庫・鳥取・岡山・沖縄
*(社)日本DIY協会によると、2010年のホームセンターの市場規模は3.8兆円、店舗数4,180店(http://www.diy.or.jp/members/members/sangyo01.html)。園芸・エクステリア部門は、ホームセンターの部門別売上高の12.9%を占める(http://www.diy.or.jp/members/members/sangyo10.html)。
② 経営理念――For the Customers
カインズは、「チェーンストア イズ モア ディスカウントビジネスに徹する」、「地域格差を解消し国民の豊かな生活づくりに貢献する」、「人をつくって商で文化を創造する」という3つの方針に沿って、お客様のために(For the Customers)働くことを、経営理念としている。
(2) PB商品開発の経緯
①「仕入れ」から「商品開発」へ
カインズでは、以前は、各メーカーが作った商品を仕入れて、販売していた。しかし、「仕入れ」だけの商売には、弊害が出てきた。その一つは、メーカーごとにコンセプトが違うという、品揃え上の問題である。それぞれの商品単独ではよくても、いざ家庭で使い合わせようとすると、トータル・コーディネートが難しく、お客様は組み合わせに苦労することになってしまう。
②価格競争の限界
もう一つの弊害は、小売業界が本当の競争時代に突入し、価格競争が激化したことである。最初は安さで勝負するが、それだけでは、いずれ他社に追いつかれてしまう。つまり、価格だけでは勝負できなくなったということだ。低価格以外の魅力が武器になる時代を迎えている。
③目標をSPA型小売業へ――バーティカル・マーチャンダイジング
こうした経緯から、カインズは、SPA型小売業へと、経営の舵を切ることになった。SPAとは、Specialty retailer of Private label Apparelの略語で、本来は、ユニクロのように、PB商品主力の品揃えをする服飾専門店という意味である。転じて、より広義には、生産から販売までを一貫して手掛ける、製販統合型の製造小売業を指す。
カインズは、SPA型小売業として、「バーティカル・マーチャンダイジング」の手法を採用している。バーティカルとは、垂直統合ということだ。商品開発の際、材料選別段階から、製造、商品の提供方法にいたるまでのすべての段階を、自社で垂直的に計画し、コントロールすることを目指している。その際、発生するリスクは、自社で負うことになる。
⑤PB商品作りの経緯
カインズでは、15年ほど前から、本格的にPB商品開発に着手した。中国の広州交易会に参加して、ボディー・ブラシの原価を知ったことが、商品開発のヒントになった。当時、ボディー・ブラシの店頭価格は高く、1,000円くらいしていた。一方、カー用品のブラシは、ごく安い値段で売られていた。カインズの担当者が広州交易会に出た折、ボディー・ブラシも、カー・ブラシも、実は、同じメーカーが本体部分を製造していることに気付いた。これをきっかけに、カインズでは、商品の原価構造を学び、物の本当の値段に関する知識を深めていくことになったのである。その後、カインズは、PBのボディー・ブラシを98円で開発、販売した。これは、当時の平均的な小売価格の10分の1の値段だった。
(3) PB商品の開発戦略
①価格設定 キーワード :低価格
われわれは、価格を「21世紀初頭の3分の1」(グローバル・スタンダード)へと下げていくことをスローガンにして、「誰もが気軽に買える価格」を実現することを目標にしている。カインズでは、商品販売の際、最初に売価を考慮する。仕入れだと、メーカーや問屋の提示する仕入価格に対して値入れをすることになるが、それではわれわれの目指す売価の実現は難しい。
カインズの小売戦略のキーワードは「ESLP」(Every Day Same Low Price)、つまり、「毎日同じ低価格」である(注:EDLPと同様のコンセプト)。生活必需品で、多くの人が毎日使う品は、気軽に何度でも試せる価格(「ポピュラー・プライス」)で提供する。一般的には、日替わりで超目玉商品を出し、チラシで強調して集客するという手法もあるが、実際には、商品の価格を変えるのは、POPの付け替えや商品の登録など、時間もコストもかかるものである。カインズでは、そうしたコストをかけず、その分を売価に反映する形で、毎日低価格で提供することを戦略にしている。
②品質 キーワード : 適正な品質
品質については、いくつかのポイントがある。
・「トレードオフ」
カインズのPBは、「使うのに適切な品質」を目標としている。TPOSに応じて必要な機能に絞りつつ、必要な品質は維持するという、品質と機能のトレードオフを常に考慮している。
・「イージーケア」
扱いやすく、使い勝手がよいことが「イージーケア」である。頻繁に使うものであるほど、イージーケアが重要になる。世間一般でよく知られているアイロンをかけなくても皺にならないシャツは、その例である。
・「コーディネーション」
カインズでは、トータル・コーディネートの提案を行っている。寝具にしても、カーテンにしても、後から買い足したとき、家に既にあるものとうまく調和し、ちぐはぐにならないことが大切である。誰でも簡単にコーディネートでき、センス良く仕上がるように工夫している。
・商品作りの3つの柱
カインズのPBは、「コーディネート」、「イージーケア」、「デザイン」が3つの柱になっている。これに「アイディア」をプラスして、商品作りに取り組んでいる。
③PB商品による差別化戦略
PB商品による差別化戦略として、まず、カラーの統一に取り組んだ。以前は、NB(ナショナル・ブランド)商品が棚にたくさん並び、色がばらばらだった。そこで、2007年には、余分な色をなくすため、アイボリー色を基調にして、いったん、カラーを統一した。そのうえで、2008年には、ベースカラー3色(アイボリー、モカ、ブルー)に統一して、自社ブランドの表示を整理した。
2009年には、シーズンカラー(季節色)の導入とともに、商品デザイン、品質への取り組みも開始した。
2009年春夏は 「グリーン」、秋冬「ハニーカラー」、2010年は春夏 「ウォーターカラー」、秋冬はメインカラーを「オレンジ&ピンク」にした。2011年春には、「ターコイズブルー」をメインに、サブカラー「ベージュ」を加えた。2011年春夏のシーズンカラーは、メインカラー「ターコイズブルー」、サブカラー「ベージュ」、 アクセントカラー「ネイビー&ピンク」という構成になっており、シーズンカラーは進化している。
カラーは各部門共通で、統一して商品開発することに決められている。
2010年からは、他社にないPB商品作りと、市場にない機能の追求に力を入れている。
カインズの目標は、日本の暮らしをより良いものにすることである。カインズは、日常の様々な場面において、「豊かなライフスタイル」を提案することを、ブランド・コンセプトとして、2011年からは、他社にない「価値」を創造することを目指して、開発を進めている。
④ ブランドの絞り込み、ロゴの統一
カテゴリーごとにブランドが並立していたブランドの絞り込みを進めた。ロゴも、親しみやすいロゴだけ残すことにした。最終的には、カインズとPet’s Oneの2ブランドに絞り込んだ。
⑤ パッケージデザインの変更
NBに負けないパッケージにしようということで、PBのパッケージデザインの一新を図った。以前は、デザインという点ではNBに負けていたが、今は、それに勝てる水準にまで上がってきている。
(4) PB事例
これまでお話ししてきたPB開発のコンセプトが、実際の製品にどのように生かされているのかについて、具体的な事例を引いて紹介してみたい。
① 品質・機能のトレードオフ、低価格化
・システムキッチン「プリンセスライト」
システムキッチンは、以前は100万円くらいの価格で売られていた。カインズでPB化するにあたっては、「トレードオフ」で、余分な機能を絞り込んだ。
その結果、29万8,000円という、従来品の3分の1以下の価格で発売することができた。
② 品質・機能のブラッシュ・アップ
・アルミシティサイクル
自転車の部品に、アルミをできるだけ多く使うことで、車体を軽くしている。
③ イージーケア
・「よく成るブルーベリー」、「よく成るキウイ」
ブルーベリーやキウイは、雄雌両株がなければ、実がつかない。以前は、売り場で探して買わなければならなかった。それを最初からペアにして、「よく成るブルーベリー」、「よく成るキウイ」という商品名でセット発売した。
④ 他社にない商品づくり、市場にない機能の商品
・「おいしい野菜を種から育てる栽培セット」(980円)
素人でも簡単に野菜が栽培できるセットは、市場にない機能を追求した商品である。種の発芽のしやすさ、育てやすさなど、さまざまな点を考慮して開発した。
・「ステップホースリール」(3,980円)
従来の商品では、手でホースを巻き戻さなければならなかった。手が汚れるし、疲れる。そこで、足で踏むだけで、ホースが巻き取れる商品を開発した。これはヒット商品になった。
・「鉢皿のいらないインテリアポット」
鉢と鉢皿は、サイズや色が異なり、コーディネートが難しいことが多かった。お客様からそういう声があげられることが多かったので、鉢と鉢皿が一体化した商品を発売した。
・「パンクしにくい自転車」(19,800円)
店舗では、パンク修理の依頼が多い。それで、パンクに強い商品を作ろうということになった。この自転車では、タイヤの厚みが9mmもある。だから、画鋲(8mm)が刺さっても、パンクしない。
(5) 2010年の提案事例
カインズでは、昨年から、PB専門の売り場や店舗づくりに取り組んでいる。
①コンセプトショップ「カインズシーズンストア」(2010年7月オープン)
「カインズシーズンストア」では、カインズのPB商品のみを扱っている。
②ライフスタイルホームセンター「カインズおおたモール店」(2010年11月オープン)
おおたモール店は、売場面積が広い。ビジュアル・マーチャンダイジングも加えて、PBの使い勝手のよさをアピールしている。
③自転車PB専門店「カインズサイクルパーク桶川店」(2010年12月オープン)
「カインズサイクルパーク」は、自転車に特化したPB専門店である。埼玉県桶川市、東京都青梅市にオープンした。
(6) CM放映商品
(2011年開発商品のCM映像上映)
パンクしにくい自転車(ダブルロック機能付き)、洗える寝具セット
ステップホースリール、ペットTシャツ、吸汗即乾消臭Tシャツ
従来のカインズのCMは、「いいものなんでも毎日安いカインズホーム」というコピーで、さまざまな商品が映っているものの、商品そのものにフォーカスしたCMではなかった。しかし、最近は、差別化可能な商品に絞り込んだCMを流している。
2.事例:プレミアムPB ペチュニア「プリティマッチ ピカソ」(萩原氏)
(1) プレミアムPB 「プリティマッチ ピカソ」
プレミアムPBは、PBの中の高品質ブランドとして位置づけられる。他社では買えない、独自商品である。カインズでは、植物のプレミアムPB商品として、新品種のペチュニア「プリティマッチ ピカソ」を国内で独占発売した。プリティマッチというのは、「そっくり」という意味だ。花の周囲がグリーン、中がパープルで、ピカソの絵にそっくりということで、こういう命名になっている。小川先生に育種家の方を紹介していただいたことが、開発のルーツである。
(2) マーケティング手法の研究(アメリカ)
われわれは、アメリカの育種家を訪問して、栽培状況を視察した。雑菌が入らないよう、白い防護服を着て仕事をする。1万を超える品種を作り、その中から、1つの商品を選抜し、開発するのが、育種家の仕事である。ピカソはこうして選抜され、アメリカで先行販売が決まっていた。カインズは、日本での国内独占販売を申し込み、実現した。
アメリカには、花のマーケティング専門の会社があり、そこで、アメリカでの売り込み手法について聞いたり、物流に関するレクチャーを受けて、勉強した。日本でどれだけ売れるものか、予測がつきにくかったので、アメリカでのマーケティング手法を学んで、参考にした。花の新商品のトライアル展示会も訪れて、競合社や他の種苗会社の花苗の視察も行った。
(3) プロモーション、PR
①媒体の制作
通常、カインズの植物のラベルはグリーンで統一されている。しかし、ピカソのラベルは、プレミアムPBということで、ラベルも色合いや形状を変えて、ひときわ目立つものにした。サントリーをはじめとした、NBに負けないパッケージを目指した。
②新商品発表会(カインズホーム南砂町SUNAMO店)
カインズホーム南砂町SUNAMO店で、報道機関向けの新商品発表会を開いた。社長自ら発表を行い、多くのメディアの方に来ていただいた。日経MJなどで記事として紹介され、認知度が上がった。パブリシティを行うことで、コストはあまりかけずに、多くの方に告知できた。
③新聞広告への掲載(読売新聞)
読売新聞に、「日本初上陸。カインズだけの特別な花。298円」というコピーで、広告を打った。
この広告へは、消費者から大きな反響があった。
④企業サイトトップページ
カインズのホームページ上でも、トップページで大きくアピールして、消費者に告知した。
⑤TVCM
日本では花のTVCMをすることはないので、視聴者はみな驚き、インパクトがあった。
(CM映像上映)「ペチュニアの新色、初心者でもきれいに咲く。日本初上陸、プリティマッチピカソ。昨日までない幸せがある。カインズ」(コピー)
⑥店頭プロモーション
CMを流しても、店頭でのプロモーションが広告に連動していなければ、効果は出ない。今回は、会社が一体になって、店頭でもアピールを重ねた。売り場も、お客さんの通行量が多い最前面に設け、販促媒体を付けて、大量陳列した。TVCMのビデオも、店頭で流しつづけた。これは、今までなかったことである。
こうして、各店が一枚岩になって、売り抜こうとして取り組んだ。商品は、予定よりもかなり早く売り切った。
吊鉢でペチュニアを楽しもうということで、吊鉢のスタンドもPBで作った。鉢を吊るスタンドは、日本ではあまり売られていなかったが、こうしたものがあると、玄関前やベランダで、気軽に園芸が楽しめる。吊鉢のパッケージには、ピカソの写真を入れてあり、花と連動させて販売した。これまでの商品と比べて、かなり好調な売れ行きだった。
(4) 効果
マーケティング上、販売数量の設定が正しかったかどうか、わからない。もう少し多く出すべきだったのかもしれない。そういう反省点はあるにせよ、ピカソは、業界にとってもお客さんにとっても、インパクトの強いPB商品だったと思っている。
3.潜在需要への対応 (中島氏)
(1) 商品開発の事例紹介
これまでの説明の通り、商品開発にあたって、カインズでは、値段が安いことはもちろん、コーディネート、イージーケア、デザイン、アイディアを念頭に、お客様の不満・不便の解消を大前提にして、「使う立場に立った商品作り」を進めている。これから、いくつか事例を紹介したいと思う。
① バーベキューコンロ
このコンロは、一見、普通のバーベキューコンロに見えるが、実はいろいろな工夫が施されている。
まず、足だが、去年までは、ネジで締める構造になっていた。お客様からの「つけづらい」、「組み立てや片づけに時間がかかる」という声を反映して、今年は、ワンタッチで差し外しできるようにした。
また、地面に起伏があると、コンロがガタつくことがある。そこで、アジャスターを付け、高さを調節できるようにした。
ロストル(火格子)という側面敷きも、改良した。去年までは針金を使っていたが、これでは中の灰や木炭が落ちて、側面が熱くなってしまう。地面まで50cmあるが、灰などが落ちると、芝生などを焦がしてしまうことがあった。そのため、燃え滓が落ちにくい鉄板式に変えた。
また、網を交換するとき、よく網目に割り箸を刺して取り出すが、そんなことをしなくても簡単に取れるように、突き刺して持ち上げられる機能を付けた。
さらに、トングなどの調理用具を置ける場所を設けた。コンロの取っ手をL字型にして、そこに、トングなどがひっかけられる工夫をした。
②フォールディングテーブル
今年の製品では、フォールディングテーブルに、ビーチパラソルを固定できる穴を新たに作った。また、従来は、天版の横に出ているピンが5mmしかなかったが、今年はこれを2倍の1cmに伸ばすことで、紙皿や紙コップなどのゴミを捨てるための袋が掛けられるようにした。
③「ラクに乗れる自転車」シリーズ――女性向け、高齢者向け自転車
女性や高齢者向け自転車のシリーズとして、乗りやすさを追求した自転車を開発している。
普通の自転車は、サドルの下の位置にフレームがあって、乗りにくい。男性は後ろからまたげばよいが、女性の場合、スカートではそうはいかない。そこで、真中のフレームを取ることによって、女性でも前から簡単にまたげる形状の自転車にした。フレームを取って1本にすることで構造が変わった分、強度を強化してある。
また、サドルは大きく、柔らかく、座りやすくした。スタンドも、通常の自転車ではまっすぐだが、このPB自転車では、L型に曲がっており、踏みやすい形状になっている。ペダルも通常より大きく、イボイボが付いていて、滑り止めになる。また、ライトはオートライトで、暗くなると自然に点灯する。カゴは、主婦の方の買い物用に、通常よりも大きくしてある。本体に比べてカゴが大きいので、見た目はよくないが、使い勝手の良さを優先した。グリップの距離も、女性の手のサイズに合わせ、小さい手の人でも握りやすいように、配慮してある。
④ペット用品とのコラボレーション
複数部門間のコラボ開発の事例として、車用芳香剤とペット用ステッカーの開発が挙げられる。どこに行くにもペットと一緒の方がいらっしゃる。そうした方向けに、共通のデザインにした。
⑤砂遊びセット
子供用の砂遊びセットは、子供用の収納用品や家具とコーディネートできるデザインになっている。色づかいも、当社で意見を出し合った上で、外部の色彩の専門家に確認して、発売している。
⑥その他
カーオイルには、SJ、SL、SM、SNなどの規格があり、アルファベットが後の文字になるほど、グレードが上がる。SNという規格は、日本では、まだほとんど販売されていない。オートバックスのような車用品の専門店でも、まだあまり扱っていない。カインズが先行している。SN0W-20という商品は、他社の同等品が2,800~3,900円くらいするところ、カインズのPBでは1,980円で売っている。
車用のクッションには、吸汗即乾Tシャツと同じ素材が使われている。また、消臭機能のある備長炭クッションは、398円で売られているが、他社では安いところでも980円くらいする。
こうした「消臭」のような機能をうたうには、当社の品質管理部門で検査を受けなければならない。その機能の効果が実証されないと、商品化は許可されない。だから、機能と品質については、自信を持って販売している。
また、芳香剤、小物入れ、ミラー、カーマット、ハンドルカバーなど他のカー用品についても、TPOSを念頭に、そこで必要なものは何かを考えて、品ぞろえを行っている。
(2) カインズ・法政大学小川ゼミ共同プロジェクト――女性向けカー用品の開発
①現状のラインナップ
当社のカー用品売り場を見ると、現状の品揃えでは、白と黒ばかりで、ある意味つまらない売場になってしまっている。なぜかというと、他の色もいろいろ扱ってはきたものの、結局、最も売れるのは黒、次がアイボリーなので、効率を追求していくうちに、こういう売り場になっていったのである。
②法政大学小川ゼミとカインズ 共同商品開発プロジェクト
そんな中で、当社の社長から、女性をもっと取り込んだ売場づくりを目指そうという方針が掲げられた。また、法政大学経営学部の小川ゼミからも、当社のカー用品売り場に関して、いろいろご提案をいただいた。カインズと小川ゼミのお互いの考えが一致したため、去年から、女性視点で開発したカー用品の商品化を目指して、共同で開発を始めた。
③取り組みの概要(2010年)
カー用品は、全体的に無骨な印象がある。カインズと小川ゼミは、女性のニーズに対応する商品ラインナップの開発・販売を目指すことにした。
提案された商品は、かわいいデザインで揃えられる 「シートカバー&クッション」 、「サンシェードミラー」、「カラーワイパー」、おしゃれな「ドライビングシューズ」、「優しい香りの芳香剤」 の5点である。だが、残念ながら、初年度はサンプル作成にまでいたらなかった。
④取り組みの概要(2011年)
そこで、2011年には、市場のニーズ調査から再出発することにした。都市部と地方のニーズを調査したうえで、商品開発を進めていくという段取りである。先日、小川ゼミの学生さんの協力で、カインズ青梅インター店で、女性のお客様を対象にアンケート調査を行い、200名もの方からご回答をいただいた。
青梅インター店を調査対象にしたのは、都市部に近いながらも、地方店のように車利用率が高く、客数が多いという理由からである。都市部と地方のニーズを調査するのには、最適の店舗である。
今後は、調査結果を集計し、商品開発に対する課題を発見した上で、2012年1月末までに、商品化して試売にこぎ着けられるよう、進めていきたい。
(3) 商品開発の流れ、商品構成、売場づくり
① 商品開発の流れ
商品の企画開発から販売までのプロセスは、PDS(Plan、Do、See:計画、実験、検証)サイクルを繰り返しながら進めて行く。どうしても1年くらいの期間がかかる。
② 商品構成グラフ
小売の現場では、商品構成グラフを作り、商品の構成、売価の決定など、売場づくりの参考にしている(図は省略)。
グラフの横軸には売価、縦軸には陳列ボリューム(陳列数)をとる。
まず、売価のいちばん高いポイントと、いちばん低いポイントとの間の幅(「プライスレンジ」)を狭めることを目指す。プライスレンジを狭めるのは、お客さんが安心して買い物できるようにするためである。なぜ売価の幅が広いと安心できないかというと、お客様は、一つ一つ商品の売価を確認していかなければ、買い物できないからである。狭ければ、値札を見なくても、「だいたい、○○円くらいだから、買おう」ということになる。
また、縦軸の合計陳列数の上限(山の高いところ)のプライスポイントを、できるだけ左にもっていく(下げる)ようにしなければならない。
そして、各アイテムの価格を、できるだけプライスポイント周辺に集中させていくことが重要である。理想的には、たとえば、10アイテム扱っていたなら、そのうち7点は、プライスポイント周辺に持っていく。
商品構成グラフは、競合店の状況を見ながら、売価政策に反映させていくのにも役立つ。競争上、競合他社のプライスポイントが980円だったとしたら、当社は798円にもっていくようにする。
③ 陳列方法
商品開発が決まっても、売り方によって、売れ行きは全く異なってくる。店頭に並ぶ前には、社内の関連部署との連携が不可欠である。販促部とはチラシの内容について、売場フェース・グループとは売場やフェース展開の方法について、打合せを重ねながら、店頭に並べていく。
売場展開についてだが、PBだけ並べても、お客様には、それが高いのか、安いのか、わからない。そこで、価格の比較対象となるNB品も、同じ棚に置く。店頭の陳列量の割合としては、全体が10列あったとしたら、PBが7列、残り3列がNBになるくらいの比率にして、PBを目立たせる。
また、陳列方法も、同じものを横にずらずら並べるだけではなく、縦割りの陳列方法にしたり、商品が目立つ「ゴールデンライン」(目の高さ)に置くなどの工夫をする。
このように、商品開発は、陳列方法までも考慮しながら、各部署と連携して進めていく。
解説――小川教授コメント
商品開発についての話は、ふつう、メーカーさんの事例が多い。教科書はほとんどそうだし。私自身のテキストで扱っているのも、メーカーの例だ。小売業が、バーティカル・マーチャンダイズを行い、SPA型の商品開発をしている例は、教科書や文献にはあまり出てこない。そこで、去年から2年連続で、小売のカインズさんに講演に来ていただいている。しかも、ホームセンターの中で、こういうふうにPB開発に取り組んでいるのは、めずらしいケースである。隣接業態の方にも参考になるのではないかと思って、カインズさんをお呼びした。
今日のお話のポイントは、最終的にはカインズの企業理念に行き着く。「生活者にとって豊かな生活を作る」という理念がベースになっており、そこから、「カインズ」というブランドを構築するためには、どういう基本コンセプトで商品を開発していくべきかが考えられている。そして、そのベースから外れないように、商品を作っていく。
企業がお客様の目線とは言っても、それが実際に実現したことは、ここ10年くらい、ほとんどなかった。最近、やっとできるようになってきたところだ。カインズさんは、バーベキューセットにしても、ホースリールにしても、取り組まれていることが細かい。今まで、いろいろな便利商品はあったが、カインズのPBの場合、便利なだけでなく、買った後でもケアが楽で、扱いが簡単であるように、よく考慮されている。
先ほどの、「栽培セット」にしても、土も種も、1種類ではなく、複数の種類が組み合わされている。チューリップの栽培セットについても、色の混色まで考えられている。そういうステージに、小売業も達している。
カインズさんは、こういうコンセプトの中で商品開発を進められた結果、値段を2000年の3分の1にするという目標が、かなり実現できている。
今日の講義のポイントとしては、大学院の皆さんには、商品開発が、コンセプトをベースにして進められていること、また、メーカーさんと違い、小売では、複数の商品分野で、横断的に開発されているというところに、着目していただきたい。
学部の学生には、商品開発の基本的理念を理解してもらいたい。学部生は、ある意味、まだ素人だが、ビジネスの現場ではチャートや見取り図があって、それに沿って進んでいくということが、今日の講義で見えてきたはずである。また、現場での情報の取り方や、調査の仕方、商品開発でのアイディアの出し方なども、原則的に、こういう基本コンセプトに沿って進められること、そして、1年かけて商品開発が実現していくのだということを、わかってもらいたいと思う。
質疑応答
質問:PB商品開発に際して、どのようにして、お客様の声を取り入れる仕組みを作っておられるのか。
萩原:カインズのホームページには、お客様がご意見を入力して送信できるコーナーがある。また、店頭でもお客様の声を伺っている。売り場の担当者やパートさんたちは、お客さまに最も近く、売り場の声をよく聞いている。社内で開くPB商品の展示会には、パートさんにも本部に来ていただき、直接、バイヤーに声を伝えられるような機会を設けている。こうして、できるだけ、お客様の声が開発部門まで上がってくるように工夫している。
ただ、お客様の声を取り入れるといっても、それが他の多くのお客様を代表する声なのか、一部の特殊な意見なのかを、選別する必要がある。選別にあたっては、そのお客様の声が妥当かどうか、パートさんや社員に聞いて、確認するようにしている。また、ご意見を取り入れて商品に反映させた後、できるだけ試売してみる。それで、その意見が正しいことが実証できれば、PBとして販売する。
さらに、他社でその声を実現した商品があるかどうか、市場を調査している。もし実現されていれば、その商品の売上動向などを調べる。
質問:私のように、車も時間もない人は、なかなかカインズさんに行く機会がない。現在、自宅のリフォームをしている。ガーデニングでは、家族が植物をいろいろ買ってくるが、ちぐはぐになってしまう。購入する時に、コンサルティングも行って、お店でアドバイスしていただければ、時間も知恵も節約でき、助かるうえ、カインズさんとのリレーションシップも深まるのではないかと思う。こうしたコンサルティングのサービスは、一般的には高くつくので、カインズさんのサービスの一環として、リーズナブルな価格で提供していただけると、消費者としては助かる。
萩原:われわれも、そういうサービスに取り組んでいきたいと考えている。リフォームについては、現状では、電話などで相談が受けられる仕組みはある。しかし、ガーデン作り、特に、どこに、どんな木を植えればよいかというようなところまで踏み込んで、細かいアドバイスを行うまでにはいたっていない。
小川:ジョイフル本田では、ガーデニングのアドバイスまでしている。カインズでは、そこまでやっていらっしゃらない。ただ、リフォームについては、南砂町のカインズSUNAMO店など、相談カウンターが設けられている店もある。
質問:たくさんあったブランドを2つに絞り込んだということだったが、その理由と効果について知りたい。
萩原:カインズでは、「カインズ自体をブランド化する」という方向で、ブランディングを進めている。いろいろなブランドが併存していると、消費者の意識が散らばり、カインズ自体に向かわなくなってしまう。特に、パイの小さいカテゴリーでは、ブランドを出しても覚えにくく、ブランド力につながらない。そういうわけで、「カインズ」ブランドに絞り込んだ。
われわれは、絞り込みは効果が上がっていると判断している。たとえば、TVCMにしても、商品一つ一つに、「カインズ」というブランド名が出ているので、わかりにくいバランド名がばらばらに登場するよりも、消費者に対して、しっかりとブランドに集中したインプットと告知ができていると思う。
質問:ブランドを絞り込む前に、各ブランドの担当者からの 反発はなかったか?
中島:反発は、特になかったと思う。「カインズ」自体をブランド化して統一するという会社の戦略の流れに沿っているので、反発はない。
小川:他のホームセンターでは、このようなブランドの絞り込みは、難しいと思う。カインズでは、トレードオフ、イージーケア、コーディネート、デザインという方針を出している。特に、コーディネートとなると、どの商品を新たに加えても、今住んでいる環境を壊さない形で、商品の体系が組み立てられなければならない。つまり、コンセプトそのものが、カインズに向かっており、そのコンセプトの傘の下にあるアイディアを、商品化していくということだ。そこから外れたアイディアは、入れない。だから、他のブランドがたくさんあっても、意味をなさない。基本コンセプトの中で、カインズというホームセンターのストアブランドを推していくことが、決断されている。だから、私は、組織内部では反発はなかっただろうと推測している。
質問(吉田):「種から育てる野菜」に興味を持った。開発経緯、需要予測などについて、教えていただきたい。
萩原:「栽培セット」という商品は、カインズが始めてではなく、以前から市場にあることはあった。東急ハンズなどに行くと、缶詰になったトマト栽培セットなどが置いてある。しかし、こういう商品では、発芽はしても、なかなか実が成るところまでいかない。カインズでは、栽培セット化というだけでなく、発芽しやすく、おいしく、栽培期間が短く、栽培しやすい品種に絞り込んで、買った人が満足してもらえる商品作りを目指すということで、コンセプトを考え、いろいろ検証を重ねて、商品化した。大事なのは、素人であっても、誰でも簡単かつ確実に栽培できるということだ。
質問:御社の1店舗あたりの売上はどれくらいか。また、花の売上高は、全体のどれくらいあるのか。
萩原:カインズは、チェーン全体で175店舗あり、1店舗あたりの売上高は、平均19~20億円くらいである。植物の売上高は、全体の3%程度を占めている。
小川:標準的なホームセンターは、1店舗あたり年商20億円、食品スーパーと同じくらいである。植物の売上構成比が3%ということだったが、花が売れれば、鉢や土など関連する園芸用品も売れる。私は「1対2の法則」と呼んでいるのだが、植物1に対して、土など周辺の商品が2の割合で売れる。だから、園芸部門は、売上高部門別構成比で10%弱の割合になる。関連商品の幅を広くとり、園芸エクステリアまで含めれば、ホームセンターの園芸部門は、売上高比率で12%くらいになるだろう。
質問;花は、通常商品とは異なる。物流、調達はどのようにされているのか。
萩原:他の商品の場合は、腐らないので、物流センターに一括で納められる。海外からなら、コンテナでそのまま倉庫にまとめて納入となる。いまは、海外から物流センター別に届く仕組みも進んでいる。
しかし、花では、鮮度が重要になる。そこで、カインズでは、花については、地域別にバイヤーを設けて調達する仕組みにしている。なぜ地域別かというと、花の苗など植物は、商品コストに占める物流費の割合が非常に高いからだ。遠距離を運ぶと、鮮度に響くだけでなく、物流費がかさむ。すると、お客さまに買いやすい値段で提供できなくなってしまう。そこで、できるだけ地域ごとに生産・調達するようにしている。
また、植物では、適地適作が大切である。気候に合う場所で、生産しなければならない。コスト構造を分析した上で、どのスタイルがもっともローコストになるか、研究を重ねているところである。
(了)