昨年度から取り組んできた「日本版顧客満足度指数」の開発に関して、生産性新聞から依頼されて書いた原稿である。一部分は、「JFMAニュース」や「JFMA通信」の記事とダブっている。ただし、後半部分は、CSIに関連してのオリジナルである。なので、ここに再掲載しておく。本論考は、『生産性新聞』(日本生産性本部発行、2008年12月5日号)に掲載されたものである。
いまから15ヶ月前に退陣した安倍首相は、ふたつの国家プロジェクトを残して官邸を去った。「サービス生産性向上プロジェクト」と「農産物輸出プロジェクト」とである。3番目にもうひとつ付け加えるとすれば、「観光立国プロジェクト」(Visit Japan Project!)であろうか? 現在でも3つのプロジェクトとも、現場では立派に継続して動いている。
サービス産業部門と農業部門は、どちらも日本が海外、とくに米国と比べて生産性が著しく劣っている産業分野である(ただし、サービス業については「生産性格差は大きくない」という説もある)。国際的に見て「比較劣位」にあるふたつの産業部門の効率を高めることは、日本経済にとっては喫緊の課題である。危機感を抱いた霞ヶ関の官僚たちが、3つのプロジェクトを同時に立ち上げたのだと思う。
偶然にも、わたしは安倍首相の「置き土産」にふたつともおつきあいすることになった。「農産物の輸出」については、日本フローラルマーケティング協会(JFMA)の会長を務めていることもあり、一昨年度、「日本産切花の中国への輸出プロジェクト」(上海地区向け)の委託事業を受け、日本から中国への切花輸出実証実験を試みた。輸送費、植物検疫、関税の壁など、従来から輸入業者が農産物輸入で業務上苦しんできたのと同じ課題を、日本からの農産物の輸出事業でも抱えることが確認できた。本題ではないのでこの話しはこのくらいにするが、それでも、アジア地区への農産物輸出に関しては、リンゴや梨、お米ではすでに成功例が出始めている(小川孔輔「農産物の輸出“ブランドニッポン”の検証)『日本農業新聞』2006年5月、5回連載)。
「サービス生産性向上」に関しては、2007年度に「サービス産業生産性協議会」(経済産業省が主管)が組織された。わたしは、7つあるサブプロジェクトのうち、ふたつの委員会に関与しているが、とくに「顧客満足度指標(CSI)策定」では座長を拝命することになった。研究者で組織されている「開発グループ(開発WG)」と、顧客満足度指標(CSI)を活用する企業(三越・伊勢丹ホールディングス、イオン、セントラルスポーツ、ANAなど10社)からなる「アドバイザリーグループ(企業AG)」を両輪として、この指数の開発・定着の検討を進めている。昨年来、月1回程度、策定のための検討会を開催しており、その実証として、約一年半で、10業種でパイロット調査を3次にわたり実施した。
両グループでの座長としての任務は、国内サービス業の顧客から見た指数を測定する客観的な調査システムを開発することである。2007年度のパイロット調査では、百貨店、総合スーパー、フィットネスクラブなどの業界を対象に調査を実施したが、顧客満足度の形成プロセスが業界横断的に類似した構造を持っていることがわかった。ネット調査の代表性も確認できたので、2008年度は、CSIを実務的に応用できるよう、調査分析を重ねながら改善・改良を行っている最中である。
CSIを測定する究極の狙いは、製造業で実施されている「品質改善のサイクル」を、サービス業においても普及させることだ。今年度中にパイロット調査がほぼ完了し、国際的に通用する指標の測定システムが構築できる見込みである。つぎの段階は、業界別に企業スコアの顧客満足度指数を何らかの形で発表していくことであり、2009年度中には、日本版CSIがメディアに登場することになるだろう。