『読売ADリポートojo <オッホ>』(2016年4月5日)に、限定マーケティングについてのインタビューが掲載されている。
http://adv.yomiuri.co.jp/ojo/interview/keyperson/201604key1.html
期間や数量、地域などを限定して販売する「限定マーケティング」。その手法を活用する企業の動きが目立つ。なぜ今、「限定マーケティング」が注目されるのか。マーケティングが専門の法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授の小川孔輔氏に聞いた。
●「限定マーケティング」の特長とは?
食品をはじめ、ビールや日本酒などの嗜好品から耐久消費財まで、市場には、「限定」を掲げた商品が多くあります。商品の限定性を打ち出す手法である「限定マーケティング」は、大きく5つのタイプに分かれます。「期間」、「数量」、「地域」、「販売チャネル」、女性や学生などの「顧客」の限定です。限定商品を購入するのは、従来商品との差異がわかる人で、買い物に慣れている人が変化や刺激を求めて買う傾向があります。売る側からすると、テストマーケティング、在庫抑制、生産ロットの確保、地域おこし、流通コストの削減、販売ターゲットの囲いこみなどのメリットがあります。
●マスマーケティングとの違いは?
古くから日本人は限定品を好む傾向がありました。日本には春、夏、秋、冬と四季があり、その季節だけのさまざまな限定の商品が生まれてきたためです。季節商品を中心に、ほとんどのものは「売り切れ御免」の世界だったのです。
一方で戦後は、「限定商品」「売り切れ御免」とは対照的なマーケティング手法が小売、販売の主流になりました。20世紀初めにアメリカで発明されたマスマーケティングの仕組みとチェーンストア理論で、「同じ種類、品質のものを大量に仕入れて販売し、欠品をしてはいけない」というものです。こうした考え方に基づいて、総合的な品ぞろえで、かつ同じ商品を大量に仕入れて価格を安くして販売する総合スーパー(GMS)の業態が発展しました。
しかし、高度経済成長期を経て、経済が成熟し、従来のアメリカ型のマスを対象にしたマーケティングの手法だけで消費者のニーズをつかむのは難しくなってきました。実際、大手流通グループでも、2015年3~11月期決算ではGMS単体では赤字となり、業態そのものの見直しを図る動きが出ています。同じ商品を大量に売り続けるマスマーケティングから「限定マーケティング」への逆流が起きているのです。
●「限定品」が求められる背景は?
限定は、商品を差別化するための基本です。どこでも手に入るものは希少性がなくなり、消費者は魅力を感じません。その季節や土地などでしか手に入らない「限定品」を喜ぶ消費スタイルは、豊かさの象徴でもあります。個人が簡単にSNS、インターネットで世界中のさまざまな情報を得ることができるようになったことも影響しています。成熟した消費者、差異がわかる消費者に向けてのマーケティングが重要になってきたのです。
限定品は、高価格を維持でき、在庫を抱え込むリスクも減るなど、売る側にとってもメリットがあります。限定品、プレミアム商品の比率は今後も高まるでしょう。
●消費者ニーズにどう対応?
大規模な小売チェーンは、世界最大手の米ウォルマート・ストアーズに代表されるように、世界中の調達網を使って最も安く、標準化しやすい商品を仕入れ、規模のメリットを最大限に追求してきました。今後は、売上規模が小さくても利益が上がっていく仕組みをどう作り上げていくかというアンスケーリングの考え方が重要性を増します。
例えば食品は、地元顧客の食生活や嗜好を再確認し、地場の生産者から仕入れた商品を販売します。「人と違うものを食べたい」という消費者ニーズにこたえ、限定品としてブランド化することで、利益率を高めることができるでしょう。「遠くだけではなく、足元を見る」戦略です。すでに食品を中心に、かつての「限定マーケティング」の世界に戻る動きが出ています。同じ食物を、年間を通して食べることができるのは便利ですが、季節感や特別感を失います。地域も季節も限定した食材は、大きな規模の生産者でなくても作ることができ、小さな規模の生産者にもビジネスチャンスが到来します。市場拡大とともに、地域の作り手と売り手をつなぐコーディネーターの役割も注目されるでしょう。
●「限定マーケティング」の進化形は?
究極の限定品は、個別に対応するカスタマイズです。日本の国内市場に限ると、より消費者一人ひとりにカスタマイズした商品が求められるようになるでしょう。実際、衣料品でも、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが2016年に入って、2000を超える多様なバリエーションから選べるセミオーダースーツの販売を始めました。
マスメディアである新聞、新聞広告も技術の進展で個人の好みで編集し、オンデマンドの印刷技術でカスタマイズが可能になります。少子高齢化で国内市場の縮小が懸念される中、限定品の考え方は、日本の企業、事業者にとって一つの解決策を提示しているのではないでしょうか。
グローバル企業の代表格である大手メーカーでも、「限定マーケティング」と「マスマーケティング」の商品の比率が現在の「1対9」から、遠くない将来、「3対7」さらには「6対4」まで上がり、「限定マーケティング」の重要性が増すかもしれません。
日本国内だけでなく、アジアをはじめ世界各地で、「限定マーケティング」は企業戦略のうえでカギを握ることになるでしょう。