日本DIY協会 「2006年度年次報告書」旧バージョン

2004年度から(?)、日本DIY協会の「調査報告書」の総括部分を執筆担当させていただいている。毎年のことなので、本HPにはそのことに触れたことはないが、内容的にはけっこう興味深いところがある。わたし自身も勉強のために、データを解読する役割を引き受けている。 現在は2007年度の分を執筆中であるが、昨年度(2006年度)の分をアップしてみる。われながら、なかなかの力作ではある。データテーブルがないので、やや引用に不便があることはお許しいただきたい。


Ⅰ.調査総括
 法政大学経営学部・ビジネススクール 教授
JFMA(日本フローラルマーケティング協会)会長 小川 孔輔

1.調査目的
 2006年度に入ってから、日本経済はふたたびバブル期の様相を呈している。とくに三大都市圏を中心に地価が急上昇に転じていることが象徴的である。日本経済は着実に浮揚しつつあるが、原油の値上がりで全般的にインフレの再来を予期させる、原材料・素材価格の値上がりが顕著になっている。2006年後半まで企業業績が堅調に推移してきたことの結果、2007年度9月期決算では上場企業の総配当額が3兆円に近づいている。アジア経済も持続的な成長を維持している。しかし、年率10%弱の成長を続けてきた中国経済は、素材・原油高と国内賃金の上昇圧力で、2008年の北京オリンピック開催を目前に、成長性と収益力にかげりが見えはじめている。
 国内の製造業は、引き続き「中国景気」の恩恵を受けている。しかし、多くの日本企業は、製造業、流通/サービス業ともに、中国一辺倒の海外移転に終止符を打とうとしている。SPA(製造小売業)を標榜する小売業者の中には、中国以外のアジア諸国(ベトナム、マレーシア、インドネシア、タイなど)へ協力工場を分散させる動きが顕著である。もともと付加価値生産性が高い製造設備を有する精密機器や家電製品メーカーなどは、一部の設備を国内に逆移転させようとしている。ホームセンター業界も、製造業や流通業、一部農業生産の国内回帰の影響を受け始めている。その先に、プロユースや業務用需要の高まりが予想されるからである。アジア諸国における労賃と原材料価格の高騰により、この動きはさらに加速されそうである。
 流通分野に目を転じると、今回調査(2006年度)まで業績好調だった衣料品専門小売業(ハニーズ、ポイント、ファーストリテイリング、良品計画など)が、今年に入って業績を悪化させている。売上と収益に急ブレーキがかかりはじめているのは、2007年夏以降の天候不順だけによるものとは思えない。グローバルな価格構造の変化など、構造的な要因が衣料品専門業態の不振につながっている。というのは、SPA型小売業の収益源は、中国への生産設備の移転と安価な現地の若年労働に支えられてきたからである。流れが変わると、かつての強みも弱みに転じてしまう危険性がある。
 他業界の状況と比較して、DIY業態の現状を俯瞰してみることにする。この数年続いてきたのは、HC事業を取り巻く環境変化として、2つの基本トレンドがあった。すなわち、①基本的な消費構造の変化(HC店舗からの顧客離れ)、②過剰出店による競争激化(関連した収益力の低迷)であった。これに加えて、一昨年からはじまった3番目のトレンドが、③素材価格の値上がりによるコスト圧力である。皮肉なことに、大型の企業合併(経営統合)と法制度の改正(まちづくり三法の施行)によって、2番目の過剰出店と過当競争には歯止めがかかりはじめている。
 数値データを用いて、現在進行中のHC業界の動きを示してみる。今回調査(2006年度)では、大型企業(売上高300億円超)で売上高(+3%)と粗利益高(+3.3%)が伸びている。売上規模で300億円未満の企業は、一部を除き、売上高、粗利益高ともに増加していない。中小型のHCは、経営的に厳しい状況に変わりはない。ただし、既存店ベースでは、中規模の企業(年間売上高50~100億円)が健闘している(対前年度比+3.7%)。なお、大型店舗の過剰出店を反映してか、坪当たりの売上高(店舗生産性)は、ほぼ面積規模に関係なく軒並み低下している。前回調査(2005年度)は、売り場面積4,000㎡以上の店舗では、生産性がアップしていたこととは対照的である。なお、単価には、ほとんど変化が見られない(2005年度:2,212円→2006年度:2,228円)。
 3年前(2004年)からHC業界として特筆すべき動向は、大手HC企業間の合従連衡の動きである。この数年間でHCの総企業数は、目だって減少している。大手HC3社(ホーマック、カーマ、ダイキ)の経営統合は、持ち株会社(DCMジャパン)を生み、HC業界では再びトップ企業が入れ替わった。経営と調達面でのスケールメリットを狙った大型合併は、今後も続くものとみられる。中小規模HCの業績が悪化しているので、経営の合理化は不可避と考えられる。
 前回の報告書でも指摘したことだが、セブン&アイ・ホールディングス(セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、ミレニアム・リテイリング)の経営統合に見られるように、HCを含んだ異種業態(HCとドラッグストア、HCとGMS・地方スーパー)の間でのグループぐるみの企業統合が起こる可能性がある。2006年度の特徴は、外国資本によるM&A攻勢の動きに先んじて、大手小売業グループによる買収の脅威を感じてか、百貨店業界で水平合併が盛んだったことである(三越と伊勢丹、大丸と松坂屋)。こうした企業統合の動きは、ショッピングセンターの新規出店がむずしくなったことにより加速されそうである。というのは、優良なテナント企業を誘致することが困難であれば、企業単位で有望な立地を買い取る可能性を示唆しているからである。

 さて、毎年実施されてきた本調査(第18回)は、会員企業の協力を得てアンケート調査を実施することにより、HC業界企業の経営状態についての現状把握を行うことを主たる目的としている。日本DIY協会(情報委員会)による調査は、平成19年4月20日~8月31日の間に実施されたものである。HC専業84社に、郵送、メール、あるいはファックスで送られたアンケートに対して回答を得たもので、最終的に75社が回収に協力している。回収率は、89.3%であった。本調査のもうひとつの目的は、HC業界の将来的な課題に対してマネジメント上の示唆を得ることである。前回調査と同様に、まずはHC業界の現状を知るために、調査データの集計・分析結果の概要を紹介することにしたい。
 アンケート調査に協力していただいた企業の合計で、対前年度比の売上高は+2.3%の増加であった(71社合計で、2兆9,505億円)。ちなみに、前回調査(2005年度)の総売上高は、同じく71社合計で2兆9,030億円であった。売上高の伸び率は、ほぼ3年前の(+3.2%)の水準に戻ったことになる。しかし、既存店ベースの売上は、今回調査(2006年度)では-0.6%と減少した。既存店ベースの対前年度売上比は、ほぼ3年前の水準に逆戻りしたことになる(2003年度は-0.1%)。
 今回調査(2006年度)では、中規模チェーン(6~19店)で、客数が伸びていた(+5%前後)。ただし、対前年度比の客単価は減少している。大量出店で売場規模を拡大している大規模チェーン(20店以上)では、客数・客単価ともに対前年度比で+1~2%ほど伸びている。前回調査(2005年度)では、客数・客単価は大幅に改善されていたが(+7%)、今年度はその伸びが緩やかになった。ちなみに、売上高300億円規模のチェーンでは、客数は対前年度比+2.2%(2005年度:+4.3%)、客単価が+1.7%(同:+2.3%)となっている。結果として、売上高の規模格差は引き続き広がっている。
 坪当たりの売上高は、前年度と比較可能な店舗(67社)では平均93.4万円であった。坪当たりの売上高は、2005年度が約97万円、2004年度が約101万円、2003年度では107万円であったことから、売場効率(売場生産性)は、3年間で約10%も下落していることがわかる。坪当たりの売上は、店舗規模が大きくなるにつれて上昇する傾向がある。売場効率の規模格差は縮まったが、2006年度はさらに拡大してしまった。店舗面積2,000㎡未満の店舗(68.5万円)と5,000㎡超の店舗(116.3万円)では、年間売上で坪当たり47.8万円の格差が見られる。2004年度の規模格差(43万円/年・坪)に逆戻りしている。小規模店舗(2,000㎡未満)の効率が悪化し、大規模店舗の売場効率がやや戻したからである(2004年度は約120万円/年・坪)。
 商品分野別の大分類において、対前年度比で最大の伸びを示したのは、「DIY用具・素材」であった(+6.0%)。3年続けて伸び率がトップだった「サービス業務」は、今回調査(2006年度)に関しては伸びがまったく止まってしまった(+0.0%)。ただし、中分類では、2005年度に続いて「増改築・リフォーム等」は、プラスとなっている(+6.0%)。団塊世代にとっては、増改築需要がいまだに根強く存在していることがわかる。
 「DIY用具・素材」に続いて、2006年度に売上の伸び率が大きかった商品カテゴリーは、大分類では、「家庭日用品」(+4.0%)と「園芸・エクステリア」(+3.3%)である。中分類では、「DIY用具・素材」のカテゴリーに属するほぼすべて(道具類、素材・材料)が売上を伸ばしている(例えば、「木材・建材」+8.0%、「電動工具」+7.5%、「作業用品」+6.4%、「塗装・塗装具」「接着剤・梱包資材」「水道・ガス・配管」+6.3%)。HCへの用具・素材需要は、「プロ向け市場」のニーズを反映している現象である。売上の伸びはかつて隔年で起こっていたが、近年は毎年上昇に変わってきている。HCの商品カテゴリーとして、根強く需要を伸ばしている商品分野である。
 HC企業の合理化努力を反映して、数年間(2003年度~2006年度)にわたって落ち込んでいた在庫回転率が今回調査(2006年度)では下げ止まった(5.0→4.4→4.2→4.2)。また、粗利益率は、前回調査(2005年度)より長期的には上昇しており、今回調査(2006年度)でもやや改善している(28.6%→28.5%→29.1%→29.3%)。業界全体の動向については、集計されたデータをもとに、本調査からさらに詳しく現況を読みとっていただきたい。

4.調査結果

(1)総括
 今回の調査は、平成19年4月20日~8月31日の期間でアンケート用紙の回収が行われた。発送企業は84社、有効サンプル数は75社(前年度は80社)である。回収率は89.3%(75社/84社)であった。回答企業数は昨年度比で5社の減少ではあるが、本調査の企業データは、DIY小売業の経営状態を代表していると見ることができる。
 収益性指標(粗利益率)に関して長期トレンドをみてみる。業界平均の粗利益率は10年間にわたって上昇基調にある(1995年度25.6%→2005年度29.1%)。今回調査(2006年度)でも引き続き上昇し、回答企業全体(44社)の平均粗利益率は、29.3%となった。それに対応して、絶対的な粗利益額も増加している(+2.7%)。
 生産性指標(従業員一人当たり売上高/粗利益額、坪当たり売上高/粗利益額)には、変化の兆しがみられる。従業員一人当たり売上高/粗利益額は、3年ぶりで上昇に転じた。対前年度比(2005年度→2006年度)の数字で示すと、従業員一人当たり売上高は+4.4%(27.0百万円/人→28.2百万円/人)、従業員一人当たり粗利益額は+22.4%(6.7百万円/人→8.2百万円/人)である。坪当たり売上高は上昇に転じることなく、-3.2%(96.5万円/坪→93.4万円/坪)であった。過剰出店の影響が続いている結果である。
 昨年度に続いて、HC業界の現状を簡単に要約してみる。4年前から続いている4つの傾向を、今回調査と対比するという方法をとる。

(1)取り扱い商品の変化: 商品カテゴリーの大分類では、10年間の売上構成比の変動傾向が続いている。
 HC業界が業態間競争で力を失いつつある商品カテゴリー(インテリア、カー・ア
ウトドアなど)では、販売シェアの減少が引き続き顕著である。この傾向は、今回調査(2006年度)でもほぼ変わらなかった。この3年間では、中分類でも同様な傾向が確かめられる。

(2)生産性指標の低下: 売り場生産性の低下には歯止めがかかっていないが、従業員一人当たりの売上高・粗利生産性は上昇に転じた。
 大手HC各社が全国的に積極的な出店を続けているため、2004年度および2005年度では、売り場面積が両年ともに約8%伸びている。2006年度は回答企業全体(71社)の総売り場面積の伸び率は対前年度比で5.8%とやや伸び率が落ちたものの、売り場面積当たりの売上高は、相変わらず低下している。他方で、従業員一人当たりの売上高は、2年ぶりに上昇に転じている。とくに、規模の大きなHCにおいては、従業員一人当たりの売り上げ高/粗利生産性は高まっている。

(3)規模格差の拡大: 既存店の業績に関して、店舗間およびチェーン間での規模格差が拡大した。
 大規模チェーン(売上高300億円~)と小規模チェーンを比較すると、あるいは、大
規模店舗(売場面積5,000㎡~)と中小規模店舗を比べると、売上高に大きな規模格差が見られた。ただし、前回調査(2005年度)までは、この規模格差が縮小する傾向が見られた。しかし、今回調査(2006年度)のデータだけみると、大規模チェーン(店舗)の経営効率が、相対的に改善する傾向が見られた。大規模チェーン(店舗)の経営効率の悪化には、一定程度歯止めが掛かったとみられる。

(4)HCの業態の魅力度低下: 客数と客単価が2年続けて増加している。
 一般的なトレンドとして、HCの顧客が他業態に奪われる傾向がここ数年顕著である(第1項参照)。品揃えやサービスなど、HC業態の相対的な魅力度の低下の結果である。しかし、積極出店と店舗の大型化で、HC業態全体としては売り場面積が増え続けている。とくに大規模チェーンでその傾向が強い。その結果、ここ2年間は客数と客単価の上昇が同時に起こっているHC業態の魅力度低下には、歯止めが掛かったとみることもできる。ただし、今回調査(2006年度)では、客数は伸びているが(+2.1%)、客単価のほうは微増にとどまっている(+0.7%)。既存店ベースでみると、客単価、客数ともに減少している店舗も多いはずである。最終的な判断は、次回調査以降のデータを見ないと判断が難しい。

 以下では、もうすこし詳しくデータを眺めながら、個別のポイントについて解説していくことにする。

(2)売上動向(大分類)
 全体の売上高は、前回調査(2005年度)と今回調査(2006年度)を比べると、比較可能な企業総計(55社)では、+2.2%であった(前回の対前年度比では、+3.2%)。既存店ベースの売上高は、比較可能な店舗でみると、残念ながら微減となっている(-0.6%)。昨年度は、既存店ベースの売上高が増加していた(+0.7%)。
 HC業態では、店舗効率が年々低下している。その原因(結果でもある)は、何度も指摘していることだが、とくに大規模チェーン(30店以上)で店舗数(+5.2%)がさらに増加しているためである(2005年度は+4.9%)。今年度(2006年)についていえば、中規模(20~29店)の規模のチェーンでも、売り場面積が同程度に増加している(+6.5%)。
 既存店ベースでは、客数と客単価が回復基調にあるが、売り場効率は低下している。経営効率指標の悪化は、業界全体にとって深刻な問題である。昨年度は、大規模チェーン同士の経営統合(ホーマック、カーマ、ダイキ)が注目を浴びた。また、日本のHCの草分け的な存在であるドイトが、ドンキホーテ傘下に入るなど、中堅HC企業の経営不振を背景としたM&Aの動きも活発化している。今後は、10店舗以下のチェーンにおいて、経営的に立ちいかなくなる企業が現れることも考えられる。その場合は、最終的にはM&Aの対象になることが予想される。
 大分類による集計データは、3年間にわたってほぼ同様な傾向が見てとれる。HC業態でしか取り扱いがない「コアカテゴリー(DIY用具、素材)」は、売上も堅調である。そして、前回調査(2005年度)ではいったん後退しかけた商品カテゴリー部門(サービス業務、増改築など)が、業績を持ち直していることが今回調査(2006年度)の特徴である。以下では、大分類での売上構成比を見てみることにする。

<表1>:大分類による売上構成比の推移
<表2>:大分類による売上構成比順位と対前年度比
順 位 大 分 類 売上構成比 (サンプル56) 対 前 年 度 比
(サンプル55)
1 DIY用具・素材 22.0% 106.0%
2 家庭日用品 20.1% 104.0%
3 園芸・エクステリア 20.0% 103.3%
4 インテリア 8.5% 100.4%
5 電 気 8.3% 98.3%
6 カー・アウトドア 6.8% 96.5%
(サービス業務) 2.6% 100.0%
*表は、売上構成比の多い順にランク付け。

 2006年度(第18回調査)は、2005年度(第17回調査)より構成比をさらに伸ばして、大分類の売上構成では「DIY用具・素材」が最大の構成比率になっている(22.0%)。売上の伸び率も高く、+6.0%と全分類の中で最大の伸びを示している。商品カテゴリー的に他の業態からもっとも差別化が容易な部門であるから、HC業態としては健全な結果かもしれない。
 今回調査(2006年度)で特徴的な点は、売上構成比の順位と対前年度比の伸びの順位に明らかな相関が見られたことである。売上構成比で2番目に大きな「家庭日用品」(20.1%)は、売上の伸び率でも2番目であった(+4.0%)。売上構成比で3番目の「園芸・エクステリア」(20.0%)は、売上の伸び率でも3番目であった(+3.3%)。以下、<表2>を見ていただくとわかるように、「インテリア」(8.5%、+0.4%)、「電気」(8.3%、-1.7%)、「カー・アウトドア」(6.8%、-3.5%)と例外がない。これは、DIY業態の典型的な部門の売上が、相対的にも絶対的にも伸びていることを表している。つまりは、同義反復のように聞こえるかもしれないが、「HC業態が商品的にはDIYに特化する傾向」を意味していると解釈できる。
 継続して上昇してきた3年目で、「サービス業務」のカテゴリーの売上の伸びが止まった(+0.0%)。ただし、後に指摘するが、中分類でみれば、「増改築・リフォーム等」は、引き続き売上が伸びている(+6.0%)。今回調査(2006年度)では、たまたま「サービス業務」全体では伸び率ゼロではあったが、HC業態でサービス業務が伸びていく傾向に変わりはないと考えられる。
 ここ数年間の傾向で続いているのが、大分類の「電気」「インテリア」「カー・アウトドア」の絶対的な売上高の減少である。売上構成比は、3つの部門ともに減少している(<表1>を参照)。また、3つの部門の中では、「インテリア」のみ売上が微増であった(+0.4%)。残りの2つの部門は、売上構成比だけでなく売上の絶対額も減少している(絶対額では、「電気」が-1.7%、「カー・アウトドア」が-3.5%)。3つのカテゴリーはともに、HCにおける商品カテゴリーとしては相対的に重要度が落ちてきている。
 「園芸・エクステリア」の売上構成比は、今回調査(2006年度)では前回調査(2005年度)に比べて変化がなかった(20.0%→20.0%)、「家庭用品」(19.9%→20.1%)と同様に、絶対額では売上が伸びている(それぞれ、+3.3%と+4.0%)。とくに、「園芸・エクステリア」は、短期的には天候に左右されやすい部門である。HC業態の商品としては、トレンドとしては定着した部門であると考えられる。
 前2回の調査報告書(第16回と第17回)では、長期的なトレンドとして、「電気」「インテリア」「カー・アウトドア」の売上構成比の縮小、「DIY用具・素材」「サービス業務」の上昇を予想した。また、「家庭日用品」「園芸・エクステリア」は多少上下動があるものの、ほぼ構成比に変わりはないだろうと予測した。今回の調査結果においても、このトレンドは確認できたことになる。「カー・アウトドア」「インテリア」の売上構成比は、実際にも低下している(<表1>を参照のこと)。
 これまで3年間に渡って記述してきた「報告書の予測」が正しかったことになる。今回のデータでもそのことが確証できたことになる。データの背後にある要因と根拠(とくに、他業態との競合条件)を、今回は簡単に要約してみることにする。詳しい解釈は、前回の報告書(第17回)に詳しく述べられている。

(A)「電気」の売上停滞
 2003年度以来、大分類項目の「電気」は隔年ごとに売上の増減を繰り返している。前回調査(2005年度)では売上増(+3.2%)を経験したが、それには大型のプラズマ画面テレビなどの個別商品要因が貢献しているものと考えられる。今回調査(2006年度)では、ふたたび売上の絶対額が減少に転じた(-1.7%)。一般的に、家電ディスカウント業態は価格競争が激しい上に、業界全体では上位集中が進んでいる(ヤマダ電機など)。上位企業は購買のスケールメリットもあり、業績も好調である。HCの電気用品売場は、HCどうしの競合に加えて、家電ディスカウンターとの戦いで厳しい。郊外ではもちろんのこと、最近HCの出店がはじまった都心部においても、家電専門店との競争圧力を考えると、将来的には楽観が許されない。
 
(B)「カー・アウトドア」と「インテリア」部門の未来
「カー・アウトドア」と「インテリア」の両部門は、売上構成比でみれば対前年度比でマイナスのカテゴリーである。長期的に売上構成比が低下している理由は、両部門に共通である。両カテゴリーともに、他業態に強力な「カテゴリーキラー」の優良企業が存在しているからである。「家庭用品」は、ドラッグストア(マツモトキヨシなど)と100円ショップ(ダイソーなど)、「インテリア」は、ホームファニシング・家具(ニトリとイケア)の業態である。ふたつの部門で長期低落傾向を止められるかどうかは、商品企画と販売に関して、独自の専門性を持ちえるかどうかにかかっている。海外調達も成功の鍵にはなるだろう。

(C)「DIY用具・素材」と「サービス業務」は専門性で独走
2006年度、売上構成比がもっとも拡大していた大分類は、「DIY用具・素材」であった。4年間に渡ってこの部門が伸びている理由は、「DIY用具・素材」がHC業態のコア部門だからである。強力なライバル業態が存在していない。この部門は、「プロユース対応」(建築、工事、農業分野など)を対象として、売上の増加がさらに見込めるカテゴリーである。なお、「サービス業務」は、同じHC業態でも、企業の経営方針で政策の重点が分かれるところではある。「セルフサービス・フォーマット」を中心に考える企業と、サービス強化を打ち出す企業では、最終的には方針が異なる部門かもしれない。

(3)売上動向(中分類)

<表3>:中分類による売上構成比の傾向
順 位 中分類 第17回
サンプル54 第18回
サンプル56
傾 向
1 日用消耗品 12.0% 12.1%

2 家庭用品 7.9% 8.0%

3 ペット 7.5% 7.5%

4 園芸用品 6.4% 6.3%

5 教養・娯楽 5.1% 5.1%

6 木材・建材 4.8% 4.9%

7 電気・照明 4.9% 4.6%

8 インテリア 4.8% 4.6%

9 家具・収納用品 3.9% 3.9%

10 家電製品 3.9% 3.7%
11 建築金物 3.0% 3.3%

12 園芸生物 3.2% 3.2%

13 エクステリア 3.0% 3.0%

14 道具・工具 2.8% 2.8%

15 カー用品 3.1% 2.8%

*ただし第17回(54社)と第18回(56社)は、完全に同一企業ではない。
 
以下では、前回調査と同様な形式で、中分類での商品分野別売上高を見ていくことにする(2005年度・2006年度の共通サンプル)。

 2006年度の調査では、対前年度比で売上が+5%以上伸びた中分類の部門は8つであった。前回調査(2005年度)では5部門だけで、「その他サービス業務」(+15.2%)、「園芸用品」(+7.7%)、「住設機器・器具」(+7.5%)、「作業用品」(+7.4%)、「教養・娯楽」(+7.0%)であった。
 今回調査(2006年度)では、大分類で「DIY用具・素材」に含まれている中分類(9分類)のうち、7つの中分類が、対前年度比で+5%以上売上を伸ばしている。売上の伸び率の順番に、「木材・建材」(+8.0%)、「電動工具」(+7.5%)、「作業用品」(+6.4%)、「塗料・塗装具」「接着材・梱包資材」「水道・ガス・配管」(+6.3%)、「道具・工具」(+5.1%)である。売上が5%以上伸びた残りのひとつが、「増改築・リフォーム等」(+6.0%)である。「その他のサービス業務」は対前年度比で、-7.1%であったが、これは前回調査での大幅な伸び(+15.2%)の反動である(データ的な側面が大きいと考えれる)。
 住宅関連分類以外で売上が伸びているのは、大分類で「家庭日用品」に分類されている「日用消耗品」(+4.5%)と「家庭用品」(+3.2%)である。今回調査(2006年度)における、大分類では「園芸・エクステリア」の属している「園芸生物」(+4.0%)、「園芸用品」(+3,6%)。「ペット」(+3.3%)も順調に売上を伸ばしている。
 売上を大きく減らした中分類カテゴリーは、全体の好調を反映してそれほど多くはない。「インテリア」(-2.4%)、「電気・照明」(-3.4%)である。大分類の「カー・アウトドア」に属する中分類の商品群は、昨年度に引き続いて売上が低迷している。「カー用品」(-6.5%)、「自転車」(-7.5%)である。「レジャー・スポーツ」だけが、+3.2%と売上がやや回復した。
 「住設機器・器具」(+0.4%)や「エクステリア」(+1.9%)にはあまり変化が見られない。また、大分類の「インテリア」では、「インテリア」(-2.4%)、「家具・収納用品」(+3.9%)であった。

(4)全体総括と今後の経営提案
ここでは、調査データの結果を総括する。例年の記述方式にしたがって、4つの視点(HC業態の商品・サービス機能、HC業態の最適店舗規模、小売業の立地変動、新しい店舗運営形態の登場)からHC業態の現状を整理する。今後のHC経営のために提案につなげるためである。最後に全体をまとめて、HC業界の位置づけを明らかにする。

(A)HC業態の商品・サービス機能:重点取扱商品とサービスの特質
 筆者が本報告書の総括部分を担当執筆するようになってから、5回の調査データ(第14回~第18回)を分析する機会を得た。この間、HC業態では、取扱商品構成が大きく変わった。やや詳しく述べてみる。
 HCの住宅関連部門では、サービス業務分野が拡大している。過去に遡ると、この傾向は10年ほど前から始まっていることがわかる。前回調査(2005年度)ではやや鈍化の傾向が見られたが、今回調査(2006年度)はふたたびサービス業務の売上が上昇に転じている。住関連商品の販売はDIY小売業にとって利益の源泉である。商品販売と関連した修繕・補修などのアフターサービスの充実は、高い利益に結びつく。そのためには、商品の使用説明や付加サービスの支援が必要である。人員配置をそうした部分に厚くする企業が現れている。
 リフォーム、インテリア、エクステリア(園芸を含む)など、生活環境を改善するための作業工程には、職人や企業などの専門家の知識が必要とされる。HCの商品カテゴリーで売上が伸びているのは、生活改善・向上のための素材である。この分野では、多様な品揃えが求められる。したがって、商圏を広く想定し、品揃えも充実させるために店舗規模を拡大することは合理性があるとも言える。売り場面積が大きな店舗の生産性が高いのは、こうした面から、集客のスケールメリットがあることを示唆している。
ただし、消費者から求められる「生活の質」と「商品の多様性」は、消費者が住んでいる場所によって異なる。消費者のすべてが同じ品質の商品・サービスを必要としているわけではない。その場所が地方なのか都市部なのか、あるいは、同じ地方でも中心商店街にある店なのか、郊外のSCに出店している店なのかによって、顧客サービスに求められる水準は異なってくる。品質やサービスの標準は一律ではない。
 セルフサービスを基本にしてきたHC業態ではあるが、担当販売員には高い専門知識が求められている。付加価値の源泉が従業員知識にあるため、継続的な従業員への教育投資は必須である。繰り返しになるが、以下の視点を再度、今回調査(2006年度)でも確認しておきたい。
 「DIY小売店は、長期的に見ると、生活を改善するための素材と加工技術を伝授する場に変わっていく。それ以外の機能は、ドラッグストアやカー用品店、ディスカウントストアなど、カテゴリーキラーを擁する競合業態に移っていくだろう」。

(B)HC業態の最適店舗規模:大きいことは良いことか?
 大規模チェーン(および大規模店舗)は、今回調査(2006年度)でも売上を伸ばしている(一部の大規模店は、既存店ベースでマイナス成長もあり)。今回の調査でも、相対的には売り場規模にはスケールメリットがあることが観察された。全体の傾向としては、中小型店舗および中小チェーン店が、相変わらず苦戦をしている。一度は縮小したかに見えた売場効率と従業員一人当たり生産性(売上高、粗利益額)は、規模格差が拡大してしまっている。
 他方で、小型店舗の全国展開で成功している大規模チェーンも存在している。以下で述べるように、都市立地型の小型DIY店の可能性も示唆されている。消費者層によって、立地タイプごとに、最適規模は異なっている。小粒ながらも、新しい業態の開発、ユニークな品揃えの店舗で成功している企業が増えてきている。
 
(C)小売業の立地変動:都市型DIY店の可能性
 2007年以降、団塊世代(昭和20年~25年生まれ)の大量退職が始まっている。都心部での地価高騰の一因は、団塊世代の「民族大移動」が演出しているのかもしれない。HC業態に限らず、郊外から都心部への「人口逆流」を見越して移動をはじめた小売業が増えている。典型的な例は、ファッション衣料品チェーン(しまむら)と外食チェーン(幸楽苑)である。これらのチェーン小売業やサービス企業は、もともと地価の安い郊外で単独の路面店を展開していた。それが、郊外型SCへの出店とほぼ同時に、都心部のファッションビルや駅ビル内に出店するようになった。顧客の移動や自社の新業態に合わせて、立地変動が起こっているのである。
 同様に、郊外生まれのHC業態においても、同様に、首都圏をベースに活動しているいくつかの企業が、本格的に都心出店を開始している。従来から都心ターミナルビルを主たる店舗立地としてきたHC(東急ハンズ、LOFT)とは異なる品揃えをこうした企業は持っている。都心部の「エンプティ・ネスト(夫婦世帯)」(子供が独立した後の老人世帯)の基本ニーズは、従来型の郊外HC店舗で提供されている商品では満たすことができない。しかし、子育て時にHCの商品やサービスを経験している顧客ではある。また、非婚・単身世帯なども都心部には居住している。これらの世帯が必要とする商品は小サイズで、おそらく商品のバラエティにも多様性が求められる。
 「老人セグメント」と「単身セグメント」は、配送サービスなどについて共通する部分が多い。品質に対する要求については、従来のDIY商品によりは数段高めに設定するほうがよいだろう。対象顧客としては、付加価値が高いプレミアム商品を販売できる優良顧客である。高価格でも商品とサービスについては「上質な仕様」を求めてくる。なお、後者のセグメントは、専門的なHC商品については、ネット販売の比率が高まる場合も考えられてよいだろう。

(D)新しい店舗運営形態の登場: HCの売り場は百貨店化するか?
 日本のHC業態は、1970年代に米国から移植した小売業態である。「郊外出店」と「セルフサービス・オペレーション」という特徴は、米国を模範としている。その後の国内での展開において、商品構成が米国オリジナルとはやや異なる「日本的なHC小売業」ができてあがってしまった。しかし、とくにセルフサービス形式での店舗運営は、米国のHCがモデルであることに変わりはない。その例外は、「園芸」、「ペット」、「クリーニング」、「ドラッグ」などのサービスを必要とする商品サービス部門である。以下は、前回(第17回)の記述である。

 これらの部門は、インショップ形式で他社に運営を委託することはあったが、それでも、主力の住関連分野では売場を他社に委ねることは稀であった。ところが、セルフサービス直営のみの店舗運営は、近々転換するだろうと予測される。住宅関連の設備・修繕サービスをみてわかるように、消費者に専門的な知識を提供したり、継続的なメンテナンスサービスを提供する必要性があるからである。HCの店舗スタッフや商品バイヤーだけで、生活者の複雑な要求に応えることはむずかしい。(第17回報告書 25頁参照、一部文章を修正)

 前回報告書の主張は、「その行き着く先にあるのは、“店舗運営におけるHCの百貨店化”」であった。この近未来型のHC店舗運営の実例として、(株)アイリスオーヤマの「Simple Style」(「ショップ・イン・ショップ」の形でのHC内への出店)と、日用雑貨・卸小売業者で包装資材メーカーの㈱シモジマ(ジョイフル本田への出店計画)を取り上げた。1年後、両企業の売り場委託事業は必ずしも期待通りの成果を収めているわけではない。たしかに現状はそうではあるが、こうした「ショップ・イン・ショップ」で売り場運営を預託する企業は、切り口を変えて今後も登場してくるものと考えられる。
 日本のHC業界は、他業態と比較したとき、つぎのような特徴を持っている(2006年:「ダイヤモンドフリードマン社」調べ)。すなわち、HC業態は、①上位集中度が中位(上位40%企業で80%の売上)であり、②収益性はやや低い(赤字企業比率が37%)。ただし、③業界多様性(地方本社企業が90%)は10の業態中でもっとも高い。生協と並んで、地方出身企業が上位で活躍している業態であることが分かる(第17回調査 25~27頁参照、一部修正)。
 近年、HC企業の経営統合が急速に進んでいる。他の業態と比較すると、それでも集中度は中位であるから、上位企業への集中はまだまだ進む可能性がある。HC業界内で統合が進んだ結果、全体の収益性は高まるだろうか?確かに、共通のPB開発によるコスト低減、商品調達面でのスケールメリットは生まれるだろう。その結果、短期的には収益力が増すことにはなるはずである。しかし、長期的に考えた場合の収益性は、M&Aでは達成はできない。真にユニークな事業(業態、ポジショニング)を開発する挑戦的な企業が、HC業界にたくさん現れる方が、業界に新しい成長の芽を提供する。そして、同質・過当競争を回避することで、HC業界全体としての収益性が底上げされる。商品調達、商品政策、立地戦略面で、これまでになかった新しいHC像が求められている。
 1970年代に、材木屋(ジョイフル本田、エンチョー)、石油販売業(ケーヨー、コーナン)、タクシー会社(ドイト)、米穀販売店(コメリ)など、農林水産業・鉱工業・資材・サービス業など、さまざまな業種から現在のHC企業は参入してきた。「会社の寿命30年」のライフサイクルを終え、業態としては次のステージに向かおうとしている。
 経営の現実はとても厳しい。めまぐるしい環境の変化に適応できず、その場で躓いてしまうのか?消費者意識の変化や業態内外の競争圧力をばねに、企業としてさらに飛躍することができるのか?経営面で岐路に立ちながらも、抜本的な経営革新に取り組もうとするHC企業に期待したい。われわれ生活者にとって、ホームセンターは、住まいを中心とした日々の生活を豊かにしてくれる小売産業である。HC企業がたくさんのイノベーティブなアイデアを提供できた分だけ、われわれの住生活は豊かになっていく。そうした社会的な責任がHC業界にはあるはずである。