【講義レジュメ】 「仕事の作法(入門):コミュニケーション技法」(小川担当分)

 IM研究科のカリキュラムが刷新された。従来からの「導入集中」の授業期間が短縮され、わたしもオムニバス形式の「コミュニケーション技法」(4月7日)の一部を担当することになった。シラバス上では、定性調査の手法となっているが、実際の講義は以下のようなものにしたいと考えている。



 大学院の授業(リサーチやプロジェクト)では、公式的なカリキュラムに組み込まれていないために、体系的には教えてもらえない実際的な知識がいくつかある。座学では補えないもので、本来は「OJT」や「演習」で学ぶべきことである。そうした講義の内容はどのようなものかというと、①目標設定の具体的なコツ、②リサーチの枠組みの作り方、③仕事(プロジェクト)を設計する段階で知っておくべき事柄、④企画づくりで必要な知恵などである。どちらかといえば、心構えやら「How To」的な知識の集合である。
 以下では、わたしが「ビジネス」という言葉を使うときには、研究志向の学生は「リサーチ(のため)」と読み変えてほしい。また、事業プロジェクトに取り組むつもりの学生は、わたしが「リサーチ」というときは、「ビジネスプラン(を作成する際)の」と読み直してほしい。
 なお、以下で話す「仕事の流儀」は、もしかすると、華道や茶道のように「小川流[派]」なのかもしれない。みなさんが仕事をするときに多少のヒントにはなるだろう。まったく無駄にはならないだろうが、「話半分」で聞いてくれたほうがよいのかもしれない。

<もくじ>

1 仕事の組み立て方
2 プロジェクトの管理
3 インタビューの方法
4 上手な司会のこつ
5 まとめ

1 仕事の組み立て方: 目標設定と決断の仕方
(1)プロジェクト・マネジャー(リサーチャー)としての心構え
 ・誰のための、何のための仕事なのか?
  たとえば、この授業の90分(導入集中)
 ・目配り(気配り)の仕方
  近江商人の「三方良し」 = 売り手良し、買い手良し、世間良し
 ・比喩: サービスのトライアングル
  = 顧客満足(CS)、従業員満足(ES)、社会的な使命(CSR)
   + 最低限の収益(Profit)
 ・プロジェクト(仕事)の成果
   クライアントの満足、
   一緒に働く人たちの満足、
   社会への貢献(わたしの場合は、学生や弟子たちの能力向上)、
   つぎの仕事につながること(仕事への長期投資)

(2)目標設定の3原則
 ①「具体的な数値」にすること
   目標は、抽象的(概念的)にではなく「数値」(具体的)で表せること
  例:2020年までに売上高1兆円(クロスカンパニー、石川康晴社長)
    75歳までに、身長の高さ(166㎝)まで本を積み上げる(小川先生)
    ハーフマラソンで47都道府県を制覇する(「国盗り」)
 ②「ハードル」は、高すぎず低すぎず
  自分の実力よりも、やや難易度を高く設定すること
 ③「絶対的な基準」を設定すること
  相対的な設定、競争者に対しての基準(シェア)は避けること
  なぜなら、相対的な目標設定は、相手のパフォーマンスに評価が依存する
  → 「言い訳」がしやすくなる、目標値は「内的基準」であるべき

(3)決断の基準:短期と長期の仕分け
 ①長期と短期の両方目標を準備すること
  → ローリングプランが理想的(長期は短期の積み上げ)
 ②即決と先送り
  ものごとには、「即断即決すべき対象(瞬間)」と、
  ある程度の「熟成の期間」が必要な事柄(場合)がある
  → どのように見分ける? 仕分けるか?
 ③直感を信じること
  良質な直観力を獲得するためには、「前頭葉」を鍛えること
  そのためには、あえて小さな失敗を重ねるべし
  直感(の質)は、失敗によってしか鍛えられない(信念)

2 プロジェクトの管理(私の流儀)
(1)自分資源のマネジメント
 ・5つの経営資源
  ①ヒト(人脈づくり)、
  ②モノ(仕事場の環境づくり)、
  ③カネ(調達力)、
  ④情報(ネットワーク)、
  ⑤時間(仕事に対する時間の配分)

(2)タイムマネジメントと人脈ネット
 ・プロジェクトの時間配分(具体例)
  具体例: 「色シール」でプロジェクトの時間配分を監視する
 ・人脈づくりのコツ(具体例)
  「将を射んとすれば、まずは馬を射よ」
 ・人的ネットワークの使い回し
  「テイク&ギブ ニーズ」は間違い
   まずは、与えること(ギブが先)

(3)ネットワークづくり
 ・人脈にはふたつの意味がある
   「拡大知識ネットワーク」: 困ったときの知恵袋・助言者
   「仕事を遂行するための資源」: 互恵的な便宜の供与
 ・複数の多様なプロジェクトを並行して進めることでネットワークができる
   有効なネットワークに必要な要件
   「マス(量)」と「クオリティ(質)」と「ダイバーシティ(多様性)」
 ・自分自身のネットワークの「棚卸」をしてみること!

(4)「マーケティングの知3.0」
  参考資料:小川孔輔(2013)『マーケティング・ジャーナル』129号から

3 企画の立て方とインタビューの方法

 ・小池和男(2000)『聞き取りの作法』東洋経済新報社
  マーケティングや流通分野で取材するときの経験知 
  「聞き取りの方法」
  + 先方へのアプローチの仕方や雑誌 
  + 媒体社との適切なコミュニケーションの取り方
 ・事例:(株)ハニーズ
  2006年4月28日午後17時 「(株)ハニーズ」の江尻社長訪問

(1)テーマ企画(書)の作り方
 ・課題は定まっている場合を想定
 ・取材対象(聞き取りをしたい企業、担当者、経営者)をできるだけたくさん列挙
  (候補代案の列挙)。
 ・事例:「チェーンストアエイジ」(ダイヤモンドフリードマン社)に、
  売り込んだテーマ企画「高収益SPA企業の秘密」を起点に
  「相乗り」の企画を提案

<教訓1> 論文や記事を発表できる場を先に確保すること。
 ・「顧客」はだれか?
  ①インタビューの対象者(聞き取りの相手)
  ②仲介者(雑誌、記者、編集長)のニーズ
  ③読者(講演の場合は、聴衆) 
 ・企画コンセプトの精緻化
  編集長へのメール(具体例)
  説得の仕方、コツ
 ・経営者(対象企業)へのアプローチ
  「(株)ハニーズ」(本社:福島県いわき市) 
  こちらから出向くこと
 
 <教訓2> 対象企業が旬である場合は、「速攻」「誠実」「便宜」を全面に
 ・アプローチしにくい企業(経営者)の3条件
  「多忙」、「防御本能」、「(不)利益」。
 ・相手のガードを緩くする方法
  ①相手の時間に極力合わせること、
  ②誠実さを伝えて安心感を与えること、
  ③何らかのメリットを相手に提供すること
 ・経営者に時間をとらせるコツ=メリット提供の4類型
  ①発見:
    従来から無いおもしろい「切り口」でその企業を位置づけられたとき、
   ②好感:
  インタビュアーの対象企業(経営者)に対する熱い思い
    → 「何事にも感動できること」が良きインタビュアーの資質
   ③対談による分析理解:
   質問されることで認識を新たにする
   自分の事業について新しい発見をする
    経営者は案外と対談者に助言を期待する

(2)企画前の準備作業
   ①事前の準備を万全に
   「下調べ」をしておくこと
    準備は数週間前から始める(優秀な助手が必要)
    準備不足の雑誌編集者や新聞記者が多い
      最悪のインタビュアーは「民放TVの女性記者たち」
        一番優れているのは、NHKの放送記者(とくに男性)
 ②資料の収集(参考:小川先生の場合)
    対象企業に対する、過去の新聞・雑誌記事の検索(ノート一冊分の資料作成)
   前日の夜と取材に行くまでの電車・飛行機の中で、実績やデータを頭に入れる
 ③現場を観察しておく
   ハニーズの場合:
   船橋、新宿、渋谷、立川などで店舗観察
   客層や商品構成、売場の状況の把握
   店員(店長)に商品・顧客サービスについて尋ねてみている
    自分が顧客ではないときは、顧客(女子学生)を一緒に連れて行く!
 ④インタビューに臨む
   丹念に準備してきていることは相手にすぐに伝わる
   話しやすい環境を作ること(共通点を見つける)

(3)まとめ:インタビュアーの心得(対談者6訓)
 ①好奇心が強くないと優秀なインタビューにはなれない
 ②インタビュー相手の仕事や人物を尊敬できるような心情を持てる
 ③世の中で聞くに値しない事柄やつまらない人物は存在しない
 ③話しやすいインタビュー環境を作ることができる
 ④聞き上手は話し上手(共感と自己表出)
 ⑤準備は用意周到に、下調べは丹念に(拡大情報ネットワークを構築する)
 ⑥いつもリハーサルやシミュレーションを怠らない

4 司会の進め方
 事例:2014年「JFMA新春セミナー」

(1)事前準備
 ・シンポジウムンのテーマ設定
  テーマ「異業種コラボレーション」(パネラーと同時決定)
  背景: 中堅食品小売業が「花の通販ネット企業」を買収(2013年)
 ・基調講演者の選択
   鳥越淳司社長:(株)相模屋食糧
 ・パネラーへの依頼
   河野恵美子社長(リンクフローリスト:「カクヤス」の子会社)
   井上英明社長(青山フラワーマーケット)
   高島宏平社長(オイシックス)
   鳥越淳司社長:(株)相模屋食糧

(2)パネルのプロセス管理
 ①事前準備
  ・パネラーの仕事について下調べしておく(今回は、取材後にセレクト)
  ・事前の打ち合わせ(昼食をとりながら)
  ・90分の「フロー」を作る(事前にメモを渡しておく、電話で「要点」を説明する)
  ・全員が考えるべき論点を2~3点、事前に知らせておく
 ②パネルの進行
  ・一巡目は、話しやすい事柄を選ぶ
   「自己紹介」と「自社の仕事」などについて
  ・二巡目以降は、事前に知らせておいた論点に沿って議論を進める
  ・進行途中で注意すべきこと
    いつも座った順番にマイクを回さない(緊張感を与える)
    パネラーになるべく均等に時間を割り振る
   (ただし、聴衆のニーズを読み取って、多少の不平等になってもよい)
    意見の対立が出るように仕向ける(聴衆を飽きさせないため)
    初めに話好きなひとから口火を切らせる
 ③フロアからの質問・意見聴取
   事前に依頼しておくことは避けた方がよい(と私は考える)
   全体の5分の一以下にする(不満がでない程度)

(3)パネルは対談の延長です

5 まとめ

(1)用意万端  準備は万全に
(2)忍耐力を鍛えるべし  目標はすぐには実現しないものだ
(3)目の前の楽しみも大切に  長く続けるコツ
(4)人脈づくり まず与えること
(5)人間を平等に扱うこと いつでもどこでも誰とでも