今回は、アジアにおけるコンビニエンス・ストア業界の2回目、台湾編である。台湾でも、現地企業(統一超商)と組んだセブンーイレブンが、全土で約半分の売上シェアを占めている。台湾のコンビ二の特徴は、小売売上高の中でのシェアが高いこと(16%)と、アジアで一番の店舗密度である(約2450人に一店舗)。
<台湾のコンビ二市場>
・台湾におけるコンビニの売上高は、2007年、1680億台湾ドルに達した(1台湾ドル=3.44円として、約5,778億円)。店舗数は9,357店、うち「セブンーイレブン」、「ファミリーマート」、「ハイライフ」、「サークルK」、「ニコマート」の大手5社で9,000店を超えている(2007年)。
(Euromonitor International, ”Convenience Stores–Taiwan”, May 2008 (GMIDデータベース))。
・台湾の小売(グローサリー)の売上だけに占めるコンビニの割合は、16%を超える。1店舗当たりの人口数は2,450人を切り、台湾は世界一のコンビニ過密市場である。比較年度は2007年で、日本は3,122人である。
(”Retail–Taiwan”, Euromonitor International, May 2008(データベース)のデータから算出)
<コンビ二の経営>
・上記データより、台湾のコンビニの1店あたり年商は1,795万台湾ドル、6,176万円で、単純計算では日本(1.8億円)の3分の1程度になる。参考までに、台湾の1人当たりGDP(PPP)は2万9,800ドルで、日本は3万3,800ドルである。「セブン-イレブン」が店舗あたり約7,500万円売り上げるのに対し、「ファミリーマート」は5,000万円、「ハイライフ」は4,700万円と差がある。この格差は、日本と同じである。
・売上構成ではタバコ25%、酒7%、飲料26%に対して、中食は8.5%にとどまる。屋台での外食文化が発達している台湾の特徴を反映している。タイでも同じ傾向が見て取れる。こうした売上構成の結果、粗利益率は一般に日本より10%程度低いとみられる。商圏は都市圏で徒歩2-3分、地方店舗ではバイク5分。
(川端基夫「台湾の消費市場」『アジア市場のコンテキスト–受容のしくみと地域暗黙知. 東アジア編』、新評論、2006年)
・一方、「セブン-イレブン」の売上構成比は、フードサービス13%、出版物16%、飲料30%、その他食品13%、食品以外27%で、中食・出版物の比率が比較的大きい(2007年12月の月次データ)。
(出典:統一超商HP ”Dec. SALES BREAKDOWN BY CATEGORY 2007″, President Chain Store Corp
http://61.57.227.43/Upload/pcsc/PROCEEDS_E/2007sales%20breakdown-1.pdf)
<コンビ二のチェーン>
・上位チェーンは、「セブン-イレブン」が2007年の店舗数4,705店(うちFCが86.3%)である。売上高1,023.6億台湾ドル(約3,521億円)、市場シェアは店舗数ベースで49%、売上高ベースで60%と圧倒的な存在感を示している。次いで、「ファミリーマート」2,227店、売上高310.8億台湾ドル(約1,069億円)、三番手として台湾系の「ハイライフ」1,270店、1.7億台湾ドル(約595億円)と続く。
(出典:「セブン-イレブン」の店舗数・売上高は、統一超商HP http://www.7-11.com.tw/en/Investor/i02.asp
「ファミリーマート」の店舗数は同社HP その他データはEuromonitor International, ”Convenience Stores –Taiwan”, May 2008 (GMIDデータベース) Euromonitor社データと各社発表値は一致しない 売上高・シェアは目安)。
・台湾の「セブン-イレブン」の運営主体は、現地大手資本「統一超商」。台湾「セブン-イレブン」の競争力の源泉は、統一超商の小売・物流・製造・運営ノウハウなどを統合した総合力に負っている。
・「ファミリーマート」(「全家便利」)は1988年に参入している。日本の「ファミリーマート」の海外エリア・フランチャイズにより、「統一」グループと並ぶ台湾の製販統合型企業「頂新」が経営。中国の上海・広州で展開している「ファミリーマート」は、頂新グループが関与している。
(「頂新」については鍾淑玲「台湾系食品メーカーの中国市場戦略――頂新(康師傳)と統一企業」法政大学イノベーション・マネジメント研究センター第9回講演会講演録、2008年6月3日、参照)
<台湾でのコンビニ発展史と日本のマーケティング技術移転>
・台湾では、統一企業が米国セブン-イレブンのエリア・フランチャイズ権を得て、1979年に「セブン-イレブン」が開店した。1986年には流通・サービス業の資本自由化が実施され、民族資本が流通産業への投資を積極化、流通外資との合弁や技術提携がブームになり、小売業近代化が一気に進んだ。
(劉宗其(Tsung-Chi Liu)「日系企業を脅かす台湾の巨大外資」『アジア発グローバル小売競争』ロス・デービス・矢作敏行編、外川洋子他訳、日本経済新聞社、2001年)
・統一企業は「カルフール」や「スターバックス」などとパートナーを組み、積極的に流通業の展開を果たしてきた。同社はもともと台湾最大の食品メーカーだが、台湾では卸売業が未発達だったことから、独自に流通システムを構築してきた。「セブン-イレブン」は有力な販路の一つとして導入され、伝統的個人商店からチェーン方式経営へと転換、台湾での流通の近代化に大きな影響を与えた。
(鍾淑玲「台湾における大手メーカー「統一企業」のマーケティング・チャネル展開」『立命館経営学』2001年9月号、73-107頁等参照)
・「セブン-イレブン」では、日本企業との提携を通じて、日本の技術が多く移転されている。情報系統は野村総研とNECが構築した。物流面では、食品は日本の菱食から、出版物流は日本のトーハンから技術移転されている。
・また、「ファミリーマート」の場合も、運営する頂新の物流会社の株式の50%は伊藤忠商事(「ファミリーマート」の商品供給のアドバイス等を担当)の所有で、台湾「ファミリーマート」の物流・商品供給も日本のノウハウ支援を受けている。
・商品面では、台湾のコンビニではおにぎり、おでんなど日本風ファストフードが早くから導入された。
販促では、「セブン-イレブン」の「ハローキティ」・マグネットのおまけキャンペーンが大成功を収めた。
・サービス業務の点では、コンビニは台湾では日本よりもさらに生活インフラの位置づけが強く、宅配便や通販受け渡しの他、代金収納も学校の授業料や駐車違反料金まで日本より扱いが幅広く、銀行窓口の代替として機能している。
(川端基夫「第6章 台湾の消費市場」『アジア市場のコンテキスト–受容のしくみと地域暗黙知. 東アジア編』、新評論、2006年)