【優秀レポート#3】 原価率研究所の事業持続性(2016年マーケティング論)

優秀者5名 岩佐一生さん、蘆原哲哉さん、漆間聡子さん、高取剛充さん、松尾昌幸さん。
課題#3は、
<問1>「原価率研究所」は、当面FCも含めて二年後に50店舗。そして、数年後の株式公開(IPO)を視野に入れて運営されている。ベンチャーキャピタルからも注目大だが、そもそも、このビジネスモデルは持続可能だろうか? 競合による模倣の危険などにもさらされる可能性がある。
<問2> 個人的には三人の若者たちを応援したい気持ちになる。ただし、株式公開(IPO)のために、現状ではいくつかの障害があると考えられる。この会社がIPOのために準備すべきことはどのようなことか? ちなみに、小川は、菅野社長に3つのハードルがあることを指摘した。みなさんならば、そうした問題をどのように克服するだろうか?
でした。


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◆岩佐一生

<問1>「原価率研究所」は、当面FCも含めて二年後に50店舗。そして、数年後の株式公開(IPO)を視野に入れて運営されている。ベンチャーキャピタルからも注目大だが、そもそも、このビジネスモデルは持続可能だろうか? 競合による模倣の危険などにもさらされる可能性がある。

 「原価率研究所」のビジネスモデルは、その会社名に代表されるとおりの徹底的な原価管理、一般販管費の削減が肝である。ルーやお米、容器の徹底的なコスト管理によって実現される25~30%の低い原価率、居ぬき物件や格安家賃物件を利用することによる低家賃での出店、内装と外装費あわせて約50万円に抑えることによる減価償却費のカット、1店舗当たり1.5人でのオペレーションによる人件費の削減、水やエアコン、ティッシュといった備品を準備しないことによる消耗品や光熱費の削減、といった徹底的な無駄の排除により利益を上げている。
 さらに、店舗は生活導線に根差した場所に立地しており、ただ単に賃料の安い物件を探しているわけではない。小川先生のブログでも、“主婦らしき女性がカウンターに並んでいる姿 が目立った”と記載があったが、実際に、私が足立区竹ノ塚店へ8/16(月)19時頃にリサーチを行った際は、ご近所の奥様がカレー@200×3点購入、親子(父・子)が@200×3点購入とわずか3分で購入、私もそれから2点購入したことで¥1,600の売上があった。このようにファミリー層や主婦といった複数商品を購入する消費者が来店しやすい環境に立地していることも成功要因として挙げられる。イートインではなく、テイクアウトの購入が8割と考えれば、年間50万食、一日平均1,370食を実現できる試算である。
 上記を踏まえ、私はこのビジネスモデルは持続可能であると考える。飲食業は、参入障壁が低く、入れ替わりも激しい。立地が8割といわれるように、出店する立地が重要である。「原価率研究所」はこの好立地かつ低コストで出店が可能となる居抜き物件を見抜く“勘“やメソッドがあることが持続可能であると考える最大の理由である。競合による模倣の危険性も無いとは言えないが、コンビニやスーパーがカレーを1皿200円で売り、わざわざ客単価を下げるような策に出るとは考えにくい。吉野家やゼンショーといった大手外食産業が参入することとも同様の理由で考えられない。また、ビジネスモデルを模倣したところで、このビジネスの最大のポイントである好立地を見抜く“勘“やメソッドを菅野社長のように持ち合わせているとは考えにくい。よって、このビジネスは持続可能であると考える。

<問2> 個人的には三人の若者たちを応援したい気持ちになる。ただし、株式公開(IPO)のために、現状ではいくつかの障害があると考えられる。この会社がIPOのために準備すべきことはどのようなことか? ちなみに、小川は、菅野社長に3つのハードルがあることを指摘した。みなさんならば、そうした問題をどのように克服するだろうか?

 まずIPOの障壁となる問題点として大きく、3点が挙げられる。第一に商品の問題である。現在、カレールーは大手食品メーカーと、お米は大手商社が取り扱う新潟米を、容器は包装資材メーカーと、ロゴマークは大手広告代理店と、というように、大手取引先と一括して取引することによって、低原価で商品を提供することが可能となっている。
 しかしながら、これら取引先との取引が解消した場合に事業が継続できるか、これまで通りの原価で商品が提供できるのか、という依存度リスクがある。大手食品メーカーに依存度100%ではIPOは難しい。レシピに関する権利関係を自社にて保有し、他メーカーでも作れるように整備する必要がある。

 第2の問題として、出店候補立地の問題が挙げられる。これまでは上述の通り菅野社長の“勘”やメソッドで低価格かつ好立地の場所へ出店が可能であったが、こうした物件には限りがある。IPOで人気株を目指すために一日平均1,000食を目標とするのであれば、1日売上200千円、月30日として月商6,000千円と想定される。「カレーハウスCoCo壱番屋」の平均月商が5,483千円ということもあり、この金額がひとまずのベンチマークとなるであろう。一日平均1,000食売れる物件で、かつこの客数を鑑みれば、駅前以外の出店は考えにくい。家賃10坪20千円は破格としても、採算の合う坪単価の安い物件に今後どれだけ出店できるかが、問題となるであろう。

 第3に、競合との差別化の問題である。競合に勝てるかどうかのリスクに関しては、顧客継続率、CSを上げる施策を行う必要があるであろう。現状のメディア出演による宣伝だけでは集客にはなるが、CS向上にはならない。利⽤したサービスの内容について、肯定的に人に伝えるかどうかのレベルが重要であり、顧客のロイヤルティを高めなければならない。今後もそのサービスを使い続けたいか、将来の再来店意向を高める必要がある。私が実際に来店した際には、ご飯をよそってカレーを注ぐという単純作業に5分も待たされ(前に二組いたが)、素早いオペレーションを期待した分少しがっかりした気持ちになった。競合相手に負けないように、自社の強み、サービスの優位性は何かを再考し、改善していく必要がある。

 この他にも、1.5人という非常に少ない人員で店舗を運営し、コストを削減しているため、①労働基準法違反のリスク(長時間労働による36協定違反、休憩時間の非付与)、②防犯リスク(強盗被害)、③顧客サービスの低下(クレーム対応)といった問題や、水道光熱費についても徹底的にコストカットを行っている反動で、店舗の食品衛生リスク管理も見直す必要も懸念される。具体的には、衛生マニュアルの整備や、社内での衛生チェック管理体制の整備、トッピング持ち込み可能による訴訟リスクといったリスクも挙げられる。また、フランチャイザーとしての社内管理体制(店舗開発、運営マニュアルの整備等)構築や、収益管理体制、法令遵守(独占禁止法、商標法等)、訴訟リスクへの対応(FC契約等)も再確認し、上場基準に整備する必要がある。

 最後に、2年後に50店舗を目指すにあたって私からの提案が3点ある。
 まず、事業の柱が“カレー”一本しかないことに対策をとるべきである。新規事業として餃子店事業案を進めていると思うが、次は“ハンバーグ”のように日本の食卓や、主婦の助けになるみんなが大好きな主食を、ケイパビリティを最大限に生かし提供し続けるべきである。200円カレーも主婦層が多数購入していることもあり、家庭の助けになる商品でこれまで通りスーパーから顧客を奪っていってはどうか。

 次に、企業成長に伴う人材の採用を行うべきである。5店舗や10店舗の規模であれば、社長と2人の幹部でどうにかなるかもしれないが、50店舗や100店舗の規模となると、会社はIT化し、人材不足やスキル不足を補い情報の集約化を行い発展していく。しかし、この会社の急速な拡大に幹部がついてこられなくなってしまう可能性がある。この規模拡大に伴って、適切な幹部職員を採用し、労務管理や管理体制の整備も行っていくべきである。
 第3に、ビジネスパートナーやサプライヤーを増やすことを推奨する。現在は限られたパートナーやサプライヤーにすることで最大限の恩恵を受けるようにしているが、情報が単一的になっている危険がある。多くの情報や世界を知ることによって、確率の高い選択や新しい技術、製品が手に入り、更なるコストカットや、新しい商品開発も可能となるのではないか。

以上

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◆蘆原哲哉

<問1>「原価率研究所」は、当面FCも含めて二年後に50店舗。そして、数年後の株式公開(IPO)も視野に入れて運営されている。ベンチャーキャピタルからも注目大だが、そもそも、このビジネスモデルは持続可能だろうか?競合による模倣の危険などにもさらされる可能性がある。

【見解】
 このビジネスモデルは、十分持続可能と考える。
 100円ショップのカレー版と考えられる。恐らく、最初は100円を念頭においていたが、流石に無理ということで200円に設定したものと推察する。それでも、以下の市場価格レベルと比較して競争力があるものと評価できる。もう一段上の300円にしたとすると、弁当配達業者や立ち食い蕎麦(例:ゆで太郎の朝定食330円)など、顧客の比較対象範囲が広がってしまい、お得感が失われてしまう。「200円で行くしかないでしょう」という結論になる。

①カレーハウス(例:ココイチ)では800円前後が相場
②牛丼屋のカレーは並盛りで350円前後
③レトルトカレーは安いもの(ハウスカリー屋カレー)でも300グラム分(1.5個分)で150円程度。ごはん300グラム(米130グラム)は60円ぐらい。合計210円。
④スーパー・コンビニ弁当は安いものでも250円
⑤200円で済ますとすればおむすび2個

 「原価率研究所」と名乗るだけあって、原価に対するこだわりが強いものと感じられる。原価率25~30%(50~60円)というのは、200円に消費税が含まれていることから、実質的に30%前後と読み替える。これは、大手のファミレスと比較(サイゼリヤ:37%、餃子の王将:30%、元気寿司:41%、銚子丸:41%)して、十分収益性が高いものと評価できる。大手のファミレスとは違って、広告宣伝費もかからず、施設費も最低限、サービスも最低限ということならば。100円でも利益が出せるのではないかと思わせる。
 あるいは、将来の店舗網拡大と株式上場のための組織拡充を見越して、コストを切り詰めた上で、したたかに収益計画をしているのかもしれない。また、100円ショップがそうであったように、競合による模倣の危険性は避けられない。その可能性を十分に視野に入れて、スキミング戦略による収益確保と、それを原資とした一早い体制作りを画策しているものとも受け止められる。
 以上、200円カレーということで、4Pのうち「プライス」に重点を置いて評価してきたが、以下の点でも事業継続性が高いものと評価できる。

①プロダクト: 米300グラム(固さにもよるが1合弱)は結構ボリューム感がある。カレー300グラムもレトルトの1.5倍とそこそこの量である。エネルギー計算をすると、850キロカロリー程度となる。若者を主要ターゲット層として設定し、満腹感を与えてリピート客を増やす戦略と考えられる。「美味しすぎず、不味からず」というのは、価格設定との関係で合理的な線を見出しているものと理解する。事業の継続性を考えると、(高級なものではなく)一般のレトルトカレーと差別化を図った美味しさを追求する戦略が良いと考える。
②プレイス: 市場ニーズを十分に把握して出店計画を行い、FCを含めて店舗網を急速に拡充していく戦略
③プロモーション: パブリシティをうまく利用して集客を図る戦略。

<問2>個人的には三人の若者たちを応援したい気持ちになる。ただし、株式公開(IPO)のために、現状ではいくつかの障害があると考えられる。この会社がIPOのために準備すべきことはどのようなことか?そうした問題をどのように克服するか?

【見解】
 現状では、IPOはそもそも必要無い。何故なら資金を調達する必要性が無いからである。現在7店舗を500万円の資本金で運営している。地銀2行と郵便局との取引があるが、融資は受けていない(口座を持って決済に利用しているだけ)ものと推察する。2年以内に50店舗に店舗網を拡大するとしても、追加資本投入はせいぜい3,000万円程度と推定されるが、既存店舗からの収益内部留保で十分賄われうるレベルと考えられる。FCならば、なおさら投資は不要である。それでもIPOによって資金調達し、投資をするというその理由が理解できない。
 組織が大きくなるにつれて、株式公開という流れを何となく想定しているのかもしれない。あるいは、組織体制を固めるために、IPOを手段として考えているのかもしれない。いずれにしても、見栄や体裁にこだわってIPOをするというのならば、止めた方が良い。
 今後、IPOによる何らかの資金調達が必要だとして、想定される障害とそれを乗り越えてIPOを行うために準備すべきことは以下のとおりである。

①上場に向けたプロジェクト体制: 証券市場で上場を果たすには、厳しい審査基準を満たす必要がある。そのためには、プロジェクト体制でIPOに取り組む必要がある。その前提として、組織体制(人事・総務・財務経理・マーケティング・生産・調達など)を上場企業として相応しいものに整えることが必要不可欠となる。上場しないにしても、日本全国に店舗網を広げて、FC体制も構築するとなると、組織拡充は避けて通れないものであり、逆に上場を目指す中で体制整備を図ることは有意義なものと考える。
②組織維持コスト増を見込んだ収益計画: 事業収益性は上場の審査基準の基本的要素の一つである。上場したら、監査・内部統制・株主総会開催・投資家を意識した広報活動(IR)等、直接的に収益に結び付かないコストがかかるものである。上場したことによって収益計画が狂わないように、しっかりと見直しを行う必要がある。
③資本政策: IPOで資金調達するからには、上述の如く余分な費用も掛かる。即ち、ある程度まとまった資金(10億円以上)調達ニーズがあることが前提となる。現状で500万円の資本金からIPOによって一気に資本を増強すると、経営権を外部の出資者に奪われる危険性がある。しっかりとした資本政策が必要となる。事前に、追加出資や内部留保の資本金組み入れなどによって、起業者による自己資本の拡充を図っておかなければならない。

 なお、IPOを行って上場企業となれば、資本金は当然1億円を超してしまう(税法上の大企業となる)ことになる。そうすれば、法人税率も高くなり、中小企業支援策も受けられなくなる。中小企業の強みが消えて、後発参入者との競合に敗れてしまいかねない。それでもIPOを行い大企業化への道を進むということの是非について再考するよう、最後に促しておきたい。

(以上)

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◆漆間聡子

1.原価率研究所のビジネスモデルの持続可能性
 このカレーのビジネスモデルは、条件次第で持続可能と思われる。
 日本はインドに次いで世界第2位のカレー消費国であり、カレーが日常食ということは間違いないだろう。その日常食が、温かい状態で温かいご飯と共に200円という驚異の価格で提供されるというのはインパクトがあり、話題性もある。

 このビジネスの最大の強みは価格である。価格で比較してみるとコンビニエンスストアのカレーはラインナップが充実していて、具だくさんのものやルーにこだわったものなど特徴があるが、商品によっては倍以上の値段がする。
カレーチェーンのCoCo壱番屋のカレーに至っては800円近い値付けで、価格においては勝負にならない。カレーショップC&Cは一番ベーシックなポークカレーで440円、富士そばなどそば屋チェーンの価格とほぼ同等であるが、原価率研究所のカレーの倍以上の価格である。菅野社長の言うように、価格での競争力は高い。
 だが、東京駅八重洲地下街にあるカレーショップ アルプスは、15時から19時の間限定ではあるものの、コロッケカレー、チキンカレー、チーズカレーが290円で食べることができるなど、必ずしも競合がいないわけではなさそうである。ちなみに原価率研究所でチーズをトッピングすると300円となるため、価格に絶対の優位性はないと言うこともできる。

 一方、価格以外の面では他店と比較して魅力が感じられない部分も多い。以下一覧にまとめてみた。

    原価率研究所  コンビニカレー そばチェーン  カレーショップアルプス
価格  200円      300~600円    440円     290円(時間限定) 通常400円~570円
商品  1種類      常時2種類程度  ほぼ1種類   10種類程度
  (トッピングも   (入れ替えあり)  (サイドメニュー)
  1種類のみだが持込可)
立地  アクセス×   アクセス○    アクセス○   アクセス○
プロモ 口コミ     コンビニ自体のCM多数 特になし 口コミ
ーション

 個人的な感想になるが、今回原価率研究所のカレーを食べに行こうと思って断念した。その理由はひとえにアクセスの悪さ。この炎天下の中で駅から10分以上も歩くお店に、特に美味しくもない(まずくもないが)200円のカレーを、片道630円の交通費をかけて食べに行くという気にならなかったからである。
 ブルーボトルコーヒーのように話題性を狙ってあえてちょっと行きにくい場所(清澄白河駅徒歩7分)にオープンするケースも見られるが、原価率研究所についてはそういう理由ではないため、純粋な消費者心理として魅力を感じなかったのである。

 総合すると、カレー単体だけで、模倣困難性も低いビジネスモデルでは継続は難しいのではないかと感じた。ただ、同社は幸いなことに「原価率研究所」という名前で、別にカレー屋さんではないので、今後のメニュー次第では十分に継続が可能だと考える。
 五反田にある人気居酒屋の「原価バー」にそのヒントがあるような気がするので今回取り上げてみたいと思う。原価バーのシステムは入店時に1600円(五反田店)を払えば、あとは店内のメニューがすべて原価で頂けるという仕組みである。つまり店の儲けは1600円ということになる。良く考えれば実際には特にお得ということではないが、シンプルなシステムであること、他店と違う遊び心、入れ替えのある豊富なメニューが顧客に受けている。それぞれ単品の価格が他店の1/3~1/4くらいで、”原価”そのものを楽しめているという点がポイントと思われる。

 原価率研究所も、その名の通りにカレー以外の商品を原価(のような価格)で提供するとしたらどういう価格帯で実現ができるのか、そして味はどうなのか、といった部分を訴求ポイントとして商品ラインナップを充実させていければ、今後も継続可能なビジネスとなり得るのではないだろうか。

2.株式公開(IPO)に対する課題
 IPOを行うに際して以下2つの問題点を指摘したいと思う。

①原価率研究所の収益構造がガラス張りになってしまうこと
②中長期戦略の方向性が正しいかどうか

 ①に関しては、原価がどれくらいなのか実際にはわからないところが魅力的なビジネスであるのに、それが周知のものとなってしまい、事業コンセプトそのものを崩しかねないという点である。

 ②に関しては、飲食業について、特に都市部ではオーバーストア状態となっており、上場する飲食業はどこも多業種化を進めているにも関わらず、FC展開で店舗網拡大という戦略が株主に受け入れられるのかどうか、という点である。例えば”食のインフラ”を目指すということで地方の小さな町を中心に展開を図っていく、都市部は認知度向上のための出店に限るといった温度差を付けるなど、マーケットの動向を考慮した訴えかけをしていく必要があるのではないだろうか。

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◆高取剛充

課題:原価率研究所(200円カレー)のビジネスモデルは持続可能か

 梅屋敷店調査 火曜15:30に購入、食事後再訪問し10分ほど様子を見た
 並んでいたのは70代女性1名のみ(2パック購入)。イートインがないため公園で食べ、16:00に戻る。商店街なので立って観察がしづらく10分ほど見るが購入者なし。
 味と量:ルーの味は学食より良いのではないか。十分食べられる。米の味はしない。無味無臭。量は多く高齢者なら2食分と思われる。梅屋敷東商店街の入り口にあり、人通りは多い。店の前に自転車の駐輪多し。

 竹ノ塚店出口調査 金曜13時14分から1時間行った
 立地は駅から10分近くかかり、駅に来たついでの立ち寄りはない。車道は広く路上駐車が可能。バス停が目の前。隣は飲食店だが他に店はない。

(表:Youtubeで2015年12月に公開された社長菅野氏のインタビュー(吉田氏途中から同席)より作成)

 「新潟駅前店は年間20万人来る。1日の損益分岐点売上は1.5時間で出る。原価は言えない。要は回転率だ。竹ノ塚に出店したのは23区内で一番治安が悪くダーティと地元の不動産屋が言うから。出店費用は50万円。本店は10坪だが、5坪あればいい。狭くても持ち帰りが増えるからいい。
 人の来ないところに出店している。その方が家賃が安い。他に店がないから際立つ。フランチャイズで家族でやればいい。オペレーションが簡単なので明日からでもすぐにできる。
 誰でも食べられるように辛くなくした。普通の味。普通であることが他と変わっていること。惣菜は他で買ってトッピングしてもらう。
 新潟伊勢丹では総菜店の隣だが一緒に買って貰えばいい。新潟ではカレーの消費量が多かったからカレーを選んだ。次はラーメンという声もあるが、ラーメンは消費量が少ないので200円ラーメンをやっても成功しない。新潟は餃子の消費量がトップ10に入る。宇都宮と同じくらいの消費量。だが餃子専門店がない。ラーメン屋の餃子を食べている。だからカレーの次は餃子をやる。社員は社長と吉田氏の2名のみ。社長が商品を企画し店舗の立地を選び、吉田氏が計算するという役割。すでに手一杯でフランチャイズ参加の問い合わせに対応できず、吉田氏クラスの社員が複数いてほしい。今の規模でも5〜10人必要。」

 想定される競合:カレーショップにこまる 250円。基本のカレーが原価率研究所より50円高い。カツカレー430円、コロッケカレー350円、温玉カレー310円、チーズカレー350円などのメニューもあり。

<設問1>このビジネスモデルは持続可能か  可能である

 根拠:原価低減だけなら模倣される可能性があるが、他社にない強みを持っている。
①注目を集め、応援されるストーリー。競合にはこれがなく、価格訴求だけである。儲けを前面に出さず、震災時のインフラ機能や、人のいない地域に人を来させることをアピールしており、支持されやすい。共感した支持者によって、便宜が図られていく可能性もある。広告費ゼロで認知度を高めることができている。
②フランチャイズへの参加しやすさ。自転車や車で来られる範囲に5坪の建物があれば誰でも開業できる。光熱費をかけない運営なので、建物が自己所有なら、売り上げはロイヤリティ以外ほぼオーナーに入る。売上が少なくてもやっていける安心感は参加者を増やすだろう。
③他の惣菜を乗せて食べることを推奨して、飽きがこないようにし、頻度を増やそうとしている。回数券はそのための工夫。持ち帰り+トッピングの方式は中食が増えている社会の趨勢とも適合する。

問題点:地域特性に合わせた商品選択と全国展開とが矛盾する。商品の選択理由が、その地位で消費量が多く、かつ専門店がないこと。この基準を貫き通すなら、地域によって選択すべき商品が変わるはず。
解決法:店舗運営は全国統一し、県別に商品を変える。カレーはメーカー品なのでセントラルキッチンが不要。配送システムも独自に持つ必要がない。

<設問2>IPOのために準備することは何か。ハードルと克服法
1.管理部門スタッフの充実
 IPOにたる事業規模にするためには、人材の確保が急務。この会社が持つ社会的意義は若い人への認知度や期待度を高める要素が十分にある。伸び代の大きさも魅力の一つなので、人材募集は案外うまく行くのではないか。

2.高回転率を実現するオペレーションへと改善する
 竹ノ塚店で観察した範囲内では、容器に盛って渡すだけにしては時間が長く、1パック平均1.5分である。昼休み中に行列ができていても、60分割る1.5分で40食=売上8000円しか出せないことになる。社長が重視する回転率が現場で実現できていない。ここを改善し回転率を上げる。
 2015年12月のYoutubeでは本店売上年間20万人と言っており2016年7月の課題資料では本店で年間50万食となっている。一人平均2.5パックの購入と推定できる。竹ノ塚店の出口調査では平均2.06パックであった。一般世帯の1世帯あたり人員ランキングで新潟は6位の2.77人。東京は最下位の2.03人である。新潟の購入平均数は高い可能性がある。そのような商品を選んで事業化したとも言える。事業を全国に広げるのであれば、新潟本店の実績を当てることはできない。回転率を上げるよう、オペレーションの改善が必要である。

以上

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◆松尾昌幸

問1: このビジネスモデルは持続可能か?

 まず、本店の年間50万食とは、365日営業したとして、1日1370食なので、これは驚異的である。例えば、1日12時間運営すると仮定して、1時間に114食、休みなしに毎分2食ずつ提供していることになる。50人分の大鍋2つのカレーが1時間で軽く掃けることになる。これは、おそらくチャンピオンデータであると思われる。現実的な売上数を考えてみる。
 例えば、原価率研究所と業態が似ている、たこ焼きの対面販売の「築地銀だこ」などを運営する株式会社ホットランド(以降、ホットランド)と比較してみる。このホットランドは、2014年マザーズに上場を果たしている。ホットランドの2015年12月期決算での売上高は、69店舗で309億円であった。この数字より、1店舗の年間の平均売上高は、4600万円と算出される。
 築地銀だこの売れ筋のたこ焼き(右図)の価格は税込550円である。1店舗の売上がすべて、このたこ焼きの売上だと仮定すると、年間83,636食、年中無休であった場合、1日230食である。名前が全国的に知られている築地銀だこの店舗のロケーションは、原価率研究所に比べて、よい場所にあると思われるが、この程度の販売数である。

 価格の安さからたこ焼きよりも売れるとしても、出店を考えるフランチャイズオーナーの目線からは低く見積もるべきであり、1日300食程度と仮定する。週1日休みと年末年始の休暇を考慮して年間の営業日を300日とすると、売上高見積もりは、300食 x 200円 x 300日 = 1,800万円となる。オーナー1人で自分の土地で営業する場合と、忙しい時間帯のみパート1名(5時間、時給1,000円)を雇用し店舗(賃料5万円)を借りた場合の営業利益の試算を図表1に示す。売上原価は一般的に飲食店で言われている売上の30%と設定した。これには使い捨てのカレー皿の金額も含む。
 フランチャイザーへのロイヤルティは売上の5%と設定した。水道光熱費は通常の飲食店では売上の5%程度であるが、あまり調理をしないとのことなので、3%と見積もった。地代は新潟のシャッター通りで2万円(小川[2016a])という話が述べられていたが、あまりにも安すぎるので、5万円と見積もった。

 以上のような条件で試算した結果、パート1名雇用して、家賃があった場合でも、社長の収入を役員報酬900万と設定しても、営業利益がプラスになるという結果となった。スケールメリットを利用して、カレールー、米、皿を安く仕入れることができ、人件費の少なさや立地の悪さを克服して、定期的に売上が上がる場所であれば、フランチャイジーとしては、やりたがる人がいることは納得できる。

図表 1:営業利益の試算

     パート0人・家賃なし     パート1名・家賃あり
売上高  1,800万円          1,800万円
売上原価 540万円           540万円
(売上の30%)
売上総利益1260万円           1260万円
販管費  1044万円           1254万円
役員報酬  900万円           900万円
給与手当   0万円           150万円(1日5時間)
水道光熱費 54万円            54万円
(売上の3%)
地代家賃   0万円            60万円(月5万)
ロイヤルティ90万円            90万円
(売上の5%)
営業利益  216万円            6万円

次に、競合として、レトルト食品、コンビニや弁当屋を検討してみる。
 最近のレトルトのカレー(通常180g)は、バリエーションが多いので、簡単に好みの味を見つけることができる。レトルトのごはん(通常180g程度)は、味に好き嫌いはあると思うが、金額的に、カレーとごはんで、200円前後で購入可能である。
 一方、原価率研究所のカレーは、おいしさは戦略的にほどほどにしていると社長自身が述べている(小川[2016a])。特徴としては、量が多いことである。カレーの量、ごはんの量がともに300g(小川[2016a])というのは一般のカレーに比べて非常に多い。また、この価格で、新潟産米を使えているところが強みである。
 以上より、客層としては、味はほどほどでよいので、とにかくおなかを膨らませたい、低所得者の人たちということになる。これらの人は、レトルトよりは便利で量の多い原価率研究所のカレーに魅力を感じると考えられる。

 200円カレーがそんなに売れるのであれば、近くのチェーン店のコンビニや弁当屋がチェーンの本社に開発依頼すれば、200円でカレーをつくるリスクは大いにあると思うが、コンビニや弁当屋に行く人たちは、多少高くても便利でおいしいから、そこで購入する人たちであるので、安くておなかを膨らませたい人とは、セグメントが異なると思われる。

 いままであまり、顧客として考えられなかった、かなりの低所得者をターゲットとしている点で差別化できており、年金や貯金でほそぼそと暮らす高齢者も増えていくので、このビジネスモデルは持続可能と考える。

問2: IPOのために準備すべきことは? 問題をどう克服するか?

 200円カレーというのは、印象に残りやすく、価格破壊しているというイメージを受ける。しかし、200円を押しすぎると、物価が上昇しても、200円を据え置く必要がでてきてしまう。店の激安というイメージはよいと思うが、200円と言いすぎるのはリスクだと思う。店名が有名になったら、200円はすこしずつフェードアウトしていくとよいと思う。

 米やカレーはウェルシュ菌という食中毒を引き起こす菌が繁殖しやすい(札幌市東区保健福祉部)。特に、カレーを鍋にいれたままで放置しているのは、危険だと思われる。客の回転がよいときは問題ないと思うが、しばらく置いておいた場合、温め直しても菌は死なない。通常、飲食店では、冷蔵したものを温めなおしていると思うが、この店舗の運営では難しいだろう。フランチャイズのオーナーだと次の日のカレーがおいしいからと廃棄しない可能性もでてくる。何時間たったら、廃棄するという仕組みづくりと教育を徹底する必要がある。

 低所得者で、おなかを満たしたい人となると、学生、老人、ホームレスなどが考えられる。客層が悪く、そのようなところで働くパートの確保が難しい可能性がある。また、店のイメージも安くて、あまりおいしくないものを出す店というイメージがついてしまうと、他のビジネスがやりづらくなる可能性があるので、カレーのブランドは、会社名の原価率研究所を使うのではなく、ブランド名を付けるべきだと考える。その方が、最悪、食中毒の事故をおこしたときにも、ダメージが少ない。

以 上

参考資料:
小川孔輔 [2016a] 『200円カレー:原価率研究所(上)』日経MJ(ヒット塾). 2016年8月8日号
小川孔輔 [2016b] 『格安外食店の成功条件:原価率研究所(下)』日経MJ(ヒット塾). 2016年8月15日号
株式会社ホットランド「2015年12月期 有価証券報告書」
札幌市東区保健福祉部 『ナオちゃんとモリちゃんの食品衛生教室 第20号』
https://www.city.sapporo.jp/higashi/annai/documents/naomori_20.pdf