【日経MJヒット塾】「食の製造小売モデル:(上)福島屋、生産者巻き込む」『日経MJ』(2017年6月11日号)

 『日経MJ』で「食の製造小売りモデル」を上下で連載した。先週の(上)は、数年前から注目している「福島屋」の三方よしのモデル。生産者との協業。(下)のほうも、月曜日(6月18日)に発行されている。広島県福山市の食品スーパー「エブリイ」。

 

「食の製造小売モデル:(上)福島屋、生産者巻き込む」

『日経MJヒット塾』2017年6月11日号

 文・小川孔輔(法政大学経営大学院教授)

 自然派の食品スーパー、福島屋の六本木店(東京・港)が開店してから3年余りが経過した。複合オフィス内の約660平米の店舗で、ウッディフロアの落ち着いた雰囲気の売り場に並ぶ、ナチュラルで新鮮な農産物と、吟味された食材で調理されたデリカがおいしい。

 開店直後から店舗の認知度は高かった。ただ、「あれほど大きなバックルーム(約200平米)を併設した店で、きちんと採算はとれるものだろうか」と、業界関係者からしばしば解説を求められたものだった。二毛作経営の体験型スーパーだから、「うちの店が黒字化するのにはそうとう時間がかかるのです」と福島徹会長も語っていたが、見事に軌道に乗った。

 福島屋は、東京都羽村市に本社を置く。食品スーパーとして、六本木店のほか、羽村本店、立川店、大崎店、そして昨年12月に開店した秋葉原店の5店舗を持つ。羽村では、食材型スーパーと花店、和洋食のレストラン、洋菓子店も展開している。スーパーで販売している食材を材料にしたメニューをレストランでも楽しむことができる「複合型経営」に特色がある。

 

 福島屋は、開業から約30年間は、地元羽村市の住民を顧客に安心安全な農産物とその加工品を提供してきた。その小さなローカルスーパーが、3年前に突如として賃料の高い六本木に出店することになった。

 福島屋が都心出店で成功できた理由は、独特のビジネスモデルによる。ランチタイムに弁当や惣菜で美味しさを確認した買い物客は夕方、今度は自宅用に食材や調味料を購入して家に持ち帰る。すなわち、お昼と夕方に2度おいしい二毛作経営が特徴なのである。

 もうひとつは、食のSPA(製造小売り)モデルで、「自主MD(マーチャンダイジング)」を経営方針としてきたから。自主MDとは提携農家や加工メーカーから商品を全量買取り、しかも開発のリスクをすべて自社で担う方式である。それと対抗軸にあるのは、「セレクトMD」。こちらは、原材料の調達と加工をベンダーに任せ、会社としては購買リスクを負わない。

 

 福島会長は、自主MD方式での農産品の調達と商品開発を実現するため「ローカルMDのチーム」(生産、加工、販売企画の混成チーム)を組んでいる。「三位一体」と呼ばれるMDチームには、農家と加工業者が加わる。実際の商品開発における福島屋の別法人、ユナイトの役割は、全体の生産・販売チャネルのスチュワード(調整役)を担うことである。

 生産・加工・販売の一貫システムのメリットの一つは、生産・流通段階で価値の低い規格外の農産品を加工するため、ロスの防止と価値再生を実現する。これがコストと鮮度(品質)にプラスに跳ね返る。農業部門に加工段階を取り込むことで、コスト面でアドバンテージが生まれる。福島屋は、フードロスを削減することで得られた利益を消費者と生産者に少しずつ還元する方法をとっている。

 広島県福山市を拠点とする食品スーパーの「エブリイ」やローソンが首都圏で展開している「ナチュラルローソン」も農産物のローカル調達とその加工段階で同様な動きが起きている。食の製造小売りモデルは、結果として、①鮮度と品質の向上、②廃棄ロスの削減、③農業所得の増加――の三点が同時に達成できている。

 

 

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キーワードプラス:「レストランの二毛作経営」

サントリーが経営する「プロント」が生み出したレストラン+カフェの営業スタイル。昼にカフェだった店を、夜は洋風居酒屋に模様替えすることで、同じスペースを2度活用できる。顧客を獲得面でも再来店が期待できることから、二毛作経営と名付けられた。