【日経MJヒット塾】「食の製造小売モデル(下):売り切れ御免で鮮度売る」『日経MJ』(2017年6月18日号)

 日経MJヒット塾では、前回(6月11日号)に続いて、食の製造小売りモデルを取り上げた。(下)では、福山市の「エブリイ」を紹介している。エブリイは、関西以西で最も成長性が高い食品スーパーである。飲食店チェーンや給食事業などを含む、食品分野での多業態の事業展開に特徴がある。

 

「食の製造小売りモデル㊦:売り切れ御免で鮮度売る」(日経MJヒット塾)

 2017年6月18日号 文・小川孔輔(法政大学経営大学院 教授)

 

 広島県福山市は人口47万人ながら全国的に知名度が高い優良企業が本社を構える。福山通運、青山商事やユニホームの自重堂、食品トレー容器製造のエフピコなど福山発祥の著名な企業群に近年、食品スーパーのエブリイが加わった。
 親会社エブリイホーミイホールディングス(HD)は広島と岡山を中心に直営食品スーパー「鮮Do!エブリイ」など38店舗(16年度売上高683億円)を持つ中核企業のエブリイ、フランチャイズチェーン契約を結んだ多業態の飲食店約20店舗と給食事業を展開するホーミイダイニング、夕食材料宅配のヨシケイ福山、農業法人のアグリンクエブリイ広島など9つの事業子会社を擁している。

 エブリイは高回転で鮮度の良い商品をしかも破格値で提供する。坪効率(3・3平方㍍当たり年間売上高)は640万円と標準的な食品スーパーの約2・5倍だ。
 高い生産性の秘密はグループのユニークな事業構造にある。グループとしての特徴は3つ。①スーパー・外食・宅配サービスなどの多角的な水平分業②直営農場と提携先農家、加工部門を垂直統合したサプライチェーン③食品ロス削減につながる「売り切れ御免」の販売モデルである。

 

 グループ代表の岡崎雅廣氏(HD社長)はヨシケイ福山の設立からフードビジネスに関わった。食品スーパー1号店は1989年で倉敷市からスタート。先に商売を始めていた食品卸会社が、現在のレストラン業態につながっていく。
 飲食業からスタートしたことでスーパー専業とは異なる発想から事業を構築することになった。自前で調達した農産品や加工食材をグループ内の複数業態に効率よく振り分けるユニークなビジネスモデルである。
 エブリイは3つの挑戦を掲げる。究極の鮮度、6次化、そして人創り企業。
 鮮度へのこだわりはストアブランド名に「鮮Do!」のショルダーコピーがついていることからも明らかである。朝方に直営農場から出荷された野菜が提携先農家の野菜に混じって昼過ぎには各店に置かれている。
 通常の野菜は九州の卸市場や長野の圃(ほ)場から大量に仕入れるが、別なルートで福山エリアの農家からも仕入れるように方針変更した。減少しつつある地元農家を支えるためだ。地元農家が農産物を持ち込む地産地消コーナーは鮮度と品質で評判を得ている。
 新規参入した自社農場や一部の契約農家から規格外品を含めて畑を丸ごと買い取る。表面に傷がついていたり、サイズが不ぞろいだったりして普通は畑で捨てられてしまうニンジンやキャベツなども含まれる。自社農場の野菜は無農薬・無化学肥料、しかも朝採り。
 エブリイが全量買い取るので生産ロスはほぼゼロ。規格外品は半値で買い取るため安くでき、不ぞろい野菜の詰め放題などで販売する。外食の加工部門(千円ランチバイキングのサラダコーナー)にも回る。

 従来型のチェーンストア理論は、販売の機会損失を「悪」とみなしてきた。しかし、「売り切れ御免」のエブリイは、腕の良い小規模生産者が大量に供給できないケースでも旬のものや良品なら数量限定で店頭に並ぶようにしている。
 中小規模のメーカーの限定品も扱う。例えば地方の食品メーカーの特徴ある加工品や調味料を扱う「蔵」という売り場。棚に「この商品は現在品切れになっています!」と堂々と説明書きしている。チャンスロスより地元生産者の立場とフードロスの削減を重視する企業姿勢の表われである。

 

 

 <キーワードプラス> チャンスロス:

 商品が棚に並んでいないため販売機会を逃すこと。チェーンストア理論では、需要予測を徹底して機会損失を避けるべしと教えられる。しかし、チャンスロスの発生を極端に恐れるあまり、発注が過剰になり、逆にフードロスを生み出す原因になる。