【講演録】稲葉潤一氏「ナチュラルローソンの“いま”と“これから”」(2015年フードマーケティングセミナー第7回)

 オーガニック・マーケティング協議会「フードマーケティング・セミナー(第7回)」で行われた稲葉潤一さんの講演録をアップする。タイトルは、「ナチュラルローソンの“いま”と“これから”」。青木恭子(リサーチアシスタント)がまとめてくれた。


オーガニック・マーケティング協議会
フードマーケティング・セミナー(第7回)

ナチュラルローソンの“いま”と“これから”
~ローソンはコンビニ業界のイノベーション・リーダーに成り得るか?~

日時:2015年9月29日17時30分~20時
場所:法政大学経営大学院 101会議室
講師:㈱ローソン商品本部 ナチュラルローソン商品部部長 稲葉 潤一 氏
コーディネーター:フードトラストプロジェクト代表理事 徳江 倫明 氏
ファシリテーター:法政大学経営大学院教授 小川 孔輔 氏

要 旨

Ⅰ イントロダクション
フードトラストプロジェクト代表理事 徳江 倫明 氏

(徳江氏)今日は、ナチュラルローソンの商品部部長の稲葉潤一さんをお迎えしている。ナチュラルローソンは、現在約100店舗だが、これから3年程度で300店舗を目指しておられる。コンビニで、初めから店舗数を限定して出店すること自体、珍しい。このサイズの意味が、興味深い。また、扱っている商品もこだわり系である。そういうコンビニは、ナチュラルローソンしかない。
近未来的コンビニとして、どんな姿を想定されているのか?エシカルやオーガニック、フェアトレードが注目されてきて、生物多様性そのものが企業運営の骨格になる時代に、商品開発はどうなっていくのか?こうした問題意識に対して、ナチュラルローソンのあり方は、ヒントになると思う。

 

Ⅱ 講演「ナチュラルローソンの“いま”と“これから”」

講師:㈱ローソン商品本部 ナチュラルローソン商品部部長 稲葉 潤一 氏

1.はじめに
(1) 自己紹介
私は1996年にローソンに入社した。店舗から始まり、東京本社の販売促進やマーケティングなどの部署を経て、2012年の6月に、ナチュラルローソン商品部に配属になった。

(2) ナチュラルローソンについて
 ナチュラルローソンは、2001年7月に1号店をオープンした。
「女性を中心に『美しく健康で快適な』ライフスタイルを身近でサポートするお店」というコンセプトで、東京都内を中心に、現在、114店舗展開している。

 お客様のイメージ調査から小売のポジショニングをマッピングすると、コンビニは大体似た位置にあるが、ナチュラルローソンだけは独自のポジションにある。
 ローソン本体と比べて、非常に売れているのはサラダ類やデザート、ポケット菓子である。ナチュラルローソンは、高品質な商品も取り扱い、独自の商品選定を実施している。

 店頭でお客さんの動きを観察すると、1つ1つ商品を見ている人が多いことに気づく。ナチュラルローソンでは、情報量が多い商品が並んでおり、お客さんは商品を見ながら、買い物を楽しんでいる。お客さんは必ずしも女性だけではなく、男性も多い。

2.商品政策の転換:コンビニでワインを売る
(1) 売上低迷期
 私がナチュラルローソンに移ってきた2012年6月頃は、数値的には厳しい環境下であった。しかし、ナチュラルローソンには、ファンが多かった。どうしたらいいか?客を呼べるのは何か?どんなカテゴリーがあれば、ナチュラルローソンがもっと好きになってもらえるのか?考えながら店舗を歩き回るうち、ヒントが見えてきた。

(2) 成城石井をヒントに、ワインの大幅導入
 その頃、成城石井より「ナチュラルローソンで、ワインを売ってみないか?」という提案があった。1本1,500円~3,000円くらいする。最初は、コンビニでは、単品で約500円程度、過去取扱いもなく、効果がでるか非常に困惑した。
成城石井の富ヶ谷店に行ってみるように勧められた。富ヶ谷店はほぼコンビニと同じサイズの店舗である。客足のピークは夜の10時だった。そして、ワインが売れていた。
 成城石井では、ワインの他に、チーズ、ワイン、生ハムなども売れるので、単価は3,000円くらいになっていた。これは魅力的だと思った。
 そこで実験的に4店舗で、商品を100種類展開し、販売した。その結果非常のお客様に好評を得て、以後拡大を図り、継続的に連続売上高増を続けている。
 
 ワインは認知に時間かかるものの、いったん認知されれば、売上は落ちない。ワインは重いので自宅の近くで買えれば、お客さんにとってはその方がいい。実際、売れる。いったん売れ始めると、徐々に数値が上向いてくる。

(3) ワインと買い合わせでクラフトビール、チーズ
 ワインとの買い合わせで、一番多い商品は何か?チーズやおつまみではない。ビールである。ワインの購入客層に聞いてみると、乾杯はビールでするという返答。さらにデータを確認すると高級ビールの買い合わせが多い。のど越しを楽しむよりは、香りでは?と思い、クラフトビールの品揃えを拡大した。非常に好調に推移した。他のコンビニより、現在は圧倒的に数字がいい。これから、さらに新たなビールにチャレンジしようとしている。
 次に、チーズもやってみたが、こちらはまだ発展途上である。ワインの購入客数がまだまだ不足しており、品添えを強化しても販売数が伸びていかないのでリスクが大きくなってしまう。そこで、缶詰の品揃えを見直してみた。1個500円から1,000円くらいするが、これも非常に好調に推移している。缶詰はある程度店頭で販売できる期間が長いため、お客様の認知が向上し販売に結びついている。

3.さらなる独自性の追求:地域商材を打ち出す
(1) 地域のものを売ろう
 よく、「ナチュラルローソンらしさは?」と言われる。そこで「100店舗強のコンビニだからこそできる」ということが、いろいろあるはずだと考え、「ナチュラルローソンらしさ」を模索するうち、「地域のものを売ろう」と考えるようになった。
 商品採用/開発の切り口として、「距離(東京で買えない)」、「限定(ここでしか手に入らない)」、「地域に愛されている(うまいと認められている)」という3点を軸に、品物を探しはじめた。
 地元ならではの美味しい食べ物が多い県として、高知の人気が高ランクだったので、まず、高知の商品で地域フェアを始めることにした。

(2) 「マス流通3原則」の否定:逆転の発想で、地域のおいしい商材を売る
 地域フェアを企画して、採用する段階での疑問として
「なぜ、どこでもあるものしか販売できないの?」というものがあった。
 それは、3つの理由からである(マス流通3原則)。基本原則として
「毎日納品で、オーダー数の欠品は基本ダメ」、
「販売期間中の欠品は基本ダメ」、
「流通在庫は要相談」。

 そこで考えた。確定すること、「量は500しか出せない」という事情なら、それもOKということにしてみた。

(3) 途中欠品・限定数量OKで売れた例
 発想を変えてから売れた物の例を挙げる。
「ウェルカム ジョン万カンパニー」の「だしが良くでる宗田節」醤油は、限定300本で販売した。

 おかざき農園のフルーツトマトは、「コンフチュールヨーグルト」に入れるジャムの原料として、限定120kgということでお願いして、発売させてもらった。

 さらに地域の品としては、地域食材を活用したドレッシングに力を入れている。しかし、そのままボトルで販売しても良さやこだわりが伝わらないのと、あまり頻度が高い商材ではないので、なかなか販売数に結びつかない。それで、サラダについているドレッシングに地域のドレッシングを小パックにして、販売するようにしている。そうすれば、お客様に食べてもらう機会が生まれ、美味しければボトルの購入というチャンスも生まれる。「野田村のホタテ和風ドレッシング」は、限定1万食で「ホタテの旨みたっぷりドレッシングのサラダ」として販売している。さらに日本の食ということで「フードアクション日本」のロゴを入れながら、販促している。

 「キクスイドーのポテトチップ」(菊水堂)は、賞味期限が製造日から2週間しかない。378円で売っているが、マツコデラックスが「おいしい」と言った瞬間、火が付いたように売れ始め、最近はなかなかお客さんの手に入らない。現在、1店舗2ケース入れているが、出すとすぐに売り切れる。
 賞味期限の長さではなく、「短さ」を売りにする。そういう発想の転換が進めば、今までの商品価値にさらに異なる付加価値がついて、お客様にとっても魅力ある商品になるとのではと考えている。

(4) 地域商材のステップ 
① ステップ1:商品の採用(加工品)
地域商材については、歩みにステップがある。ステップ1は、商品の採用(加工品)である。

② ステップ2:原料から自社関連ベンダーへ
 ステップ2は、原料から自社関連のベンダーさんで扱うことだ。最終製品については、我々が強い領域で、マーケットのデータもある。「ポテトチップスが売れている。フレーバーを変えてみたい」というような場合、加工原料の提供先を見つけると、一緒に作ることができる。

③ ステップ3:加工品・加工原料を一緒に作り上げる
 第3段階は、原料調達の段階から、メーカーさんと一緒に組んで、加工品や加工原料を一緒に作り上げることだ。
 地域商談会やセミナーでは、一様に、「プロダクトアウトではなく、マーケットインで」と各バイヤーから生産者やメーカーさんにコメントしていることが多い。しかし、実際に、地域のメーカーさんが首都圏のお客さんを理解するのは、ほぼ不可能ではないか?と考えるようになった。 むしろ、メーカーさんと我々が一緒に作ることを通じて「お客様」や「売れるもの」の理解を深めればいいのでは、ということを考えている。そうすれば、その後自社商品を単独で作る際にも、そのノウハウが活用できてとてもよいと感じている。

④ 例:「黒埼茶豆」
 地域商材を自ら発掘するという思いで実現させた例が、「黒埼茶豆」だ。「黒埼茶豆」は、新潟市の黒埼地区で、7月末から8月上旬のみ収穫される、希少な茶豆である。ナチュラルローソンに来てから、毎年夏が来るたびに、三角のテトラパック入りの枝豆を見ながら、ナチュラルローソンだけの高品質なテトラパック枝豆がほしいなと感じていた。そこで、黒埼茶豆をテトラパックで限定販売してみた。売価は260円で、普通の枝豆の倍くらいの価格だが、非常によく売れた。限定3,000食で出したが、来年はこの3倍くらい欲しいので生産からお願いして発売したいと考えている。
 黒崎茶豆は収穫期が短い。生産は限られているが、一度冷凍して、その後加工・販売という一連の流れを末端の流通業者がコーディネートして商品ができるようになると、日本の生産者から見える商品のあり方が変わるのではないかと感じる。

4.今後のナチュラルローソン
 ナチュラルローソンのユーザーからは、ナチュラルローソンでしか買えないものや、おしゃれで、しかも健康によさそうな商品が揃っている店として、評価されている。特に女性たちからは、自分へのご褒美感があり、心も体も満たされるという声が寄せられている。
 こういうお客さんのニーズへは、「数量限定」、「数量事前確定」、「期間限定(旬)」という新しいスタイルの方が、うまく対応できるはずだ。バイイングに代わり、今後、こういう方向が、加速度的に進むと思う。

(徳江氏)今の講演では、直接、「オーガニック」という言葉は出なかった。しかし、こういうバイイングのスタイルなら、オーガニックがはいれる可能性が高い。

Ⅲ 解説、フリートーク&質疑応答  

1.解説・分析(3つのポイント)

 解説:法政大学経営大学院教授 小川 孔輔 氏

(1) ビジネスモデル
 稲葉さんの話には、3つのポイントがある。ナチュラルローソンは、我々がいままで知らなかった新しいビジネスモデルを築きつつあり、全商品のうち、5~10%の商品については、新しいやり方を進めている。

①「売り切れ御免」
 第1のモデルは、「売り切れ御免」だ。1万店を超える大きなチェーンになると、毎日オーダー、欠品不可、棚を埋める、売れなければ返品OKというのが、実務の基本になっている。欠品してもいいというビジネスモデルを作った途端に、それまでの常識が崩れる。
 
②「期間限定」
 期間限定も、マス・チェーンでは、普通できない。

③「加工」
 おそらく、今までといちばん違うのは、バイイングだろう。すでにできたものを買ってくるのが普通だが、加工にまで踏み込む例として、ナチュラルローソンというユニットのサイズが、効いている。

(2) 商品政策上のポイント
 最近、東京のローソン本社で、ナチュラルローソンのオーナー向け展示会に行ってきた。新しい商品を見て、通常のコンビニと比べながら、ナチュラルローソンの商品政策上のポイントをまとめると、次の3つになるだろう。

① 粗利重視のMD(メーカーとリスクを折半する)
② 特徴のある品揃えと新しい販売方法(アルコール飲料、お弁当、サンドイッチ類)
③ オーガニックとローカルな加工品の取り扱い増加

(参照:小川孔輔ブログ「ナチュラルローソン(300店舗を上限とするCVSチェーン)の新たな試み」2015年9月18日、https://www.kosuke-ogawa.com/?eid=3573#sequel )

2.フリートーク(ポイント要約)

稲葉潤一氏、徳江倫明氏、小川孔輔氏

(1) らでぃっしゅとの共通点=「生産の本質に踏み込んだ流通を作る」
(徳江氏)ナチュラルローソンのやり方が広がれば、革命に近いと思う。いままでの量販店のスタンスは、欠品NGの世界だ。私も、大地などで開発をしてきたが、自分の開発論と、稲葉さんの考え方とが全く同じで、びっくりした。
 私は、少量しか作れないものを、マーケットでどう売るか、ということにチャレンジしてきたが、無理だと思っていたとき、福島屋さんに出会った。
 ただ、福島屋さんは5店舗だ。ナチュラルローソンは100店以上のチェーンで、一定の数が付いてくる。現在116、上限は300、その規模だからからこそ、できることがある。皆さんにも、そのことの意味を分かってもらえるといい。
 1日1万も作れば、手作りとは言えない。「1日100個しか作れない」というようなメーカーでは、なかなか売っていくことが難しいのが、日本の流通の現状だ。有機も同じ状況にある。添加物を使わない食品は、今の流通では扱いが難しい。しかし、そういうマーケットに、稲葉さんは踏み込んできておられる。

「生産の本質に踏み込んだ流通を作る」ということ、それはまさに、らでぃっしゅ以来、私がずっと原則としてうたってきたことだ。
 ナチュラルローソンでは、そのままのことが、100店舗でできる。300あれば、1つの商品につき、1店舗で平均3個売れるとして、全部で1,000個売れる。すると、1日1,000しか作れない商品を探していけるかどうか、それが勝負だ。
 こういう開発の仕方がいろんなところで起こっていくと、らでぃっしゅもいらなくなる。気持ちがざわざわしてきた。

(2) マーケットインは、ありえるのか?
(稲葉氏)マーケットインとプロダクトアウトの差は、商品が当たるかどうかの確率の問題だと思う。しかし、お客さんが望む形に加工することは必要だと感じる。では、望む形とは何か?地方では、今あるもので、ここをいじった方がいいというアドバイスをしてきたが、そのうち、「それなら一緒に作ろう」、という方向に進んできた。メーカーの方で、加工品にするスキルを身に着けてくれれば、我々が商品にする。その間、原料に近いか、商品に近いか、加工度はさまざまである。
 残るのは、「誰を思って作っているか?」という問いだ。作り手に、「あなたは、自分の商品を、プレゼントとして家族にお奨めできるか?」と聞く。「はい」と答えられるなら、「作りましょう」、考え込むようだったら、「お奨めできるようにしましょう」ということになる。半分はマーケットインだが、作る側がプロダクトアウト寄りなら、後は僕が引っ張る。

(3) 有機・ノンホモ牛乳
(稲葉氏)先に挙げたマス流通の3原則を撤廃すると、ある程採用できるようになる。
 11月には、北海道の有機の牛乳の扱いを始める(ノースプレインファーム「オホーツク おこっぺ有機牛乳」)。最初は有機のチーズの商談のつもりで行ったら、牛乳が有機でなければ、有機のチーズを作れないということで、牛乳の話になった。その場ですぐ500本を購入し、展示会でFCのオーナーに試飲してもらうと、「うまい」と言うので、やることにした。有機の牛乳は珍しい。しかも、ノンホモだ。

(徳江氏)私が食の世界で最初に取り組んだのが、低温殺菌牛乳だった。牛乳は本来、低温殺菌でなければ意味がない。そこで、消費者運動の中で取り組んだ。以来、徐々に低温殺菌牛乳が、スーパーにも置かれるようになった。しかしまだまだ少ない。
 いまお話いただいたナチュラルローソンの牛乳は、有機で、しかもノンホモだ。牛乳は、脂肪球を圧力で砕くのが普通だが、ノンホモはそのままなので、静置するとクリームが浮いてくる。説明なしで店頭で売ると、べたべたするということで、消費者からクレームが来ることがある。普通、流通ではクレームを怖がる。
 今日は、ナチュラルローソンに希望を感じた。これからの展開を楽しみにしたい。
(了)