9月27日(土)に開かれた「ブランドマネジメント研究部会(JIMS)」の拡大版セッション「広告の今とこれから」から、「最強広告プラットフォーム 地上波テレビ局の財務状況」(渡辺圭史氏、㈱日テレ アックスオン)の講演録をアップする。
日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)
ブランドマネジメント研究部会・拡大版セッション
「広告の今とこれから」
「最強広告プラットフォーム
地上波テレビ局の財務状況」
株式会社日テレ アックスオン
渡 辺 圭 史 氏
日時:2013年9月27 日16時30分~17時
於:法政大学経営大学院IM研究科101教室
講 演 要 旨
1.最強の広告プラットフォームとしてのテレビ
(1) 自己紹介
私は、いつも、岩崎さんと仕事をさせていただいています。
いま、テレビ局への危機感があります。2017年にはインターネットに抜かれるのではないか、というような予想もいろいろと出ています。テレビはやばいと言われますが、今日は、それほどでもないけれども、このままだとまずいという話をしたいと思います。
私は、コロンビア大学院を修了した後、映像関連のクリエイターをしていました。2007年に日テレ アックスに入社した後は、海外戦略担当部長や営業担当部長などを務め、アジアやヨーロッパへの映像販売なども手がけました。現在は、岩崎さんの下で働いています。映像と他のメディアを組んだ企画営業を担当しています。現在私が興味を持っているのは、財務戦略、経営戦略と組織論です。これから私が発表するのは、首都大学東京での研究内容のリバイズです。
(2) 最強の広告プラットフォームとしてのテレビ
テレビは、いまだに最強の広告プラットフォームです。テレビは、放送免許が必要で、非常に参入障壁が高いメディアです。これまで、制作会社にとって、テレビが一番大きな仕事先でした。テレビが普及していった頃、映画産業は斜陽でしたので、制作会社との関係でも、テレビ局は優位に立てたのです。今でもまだ、日本のテレビ広告費の金額から見ると、テレビは価値のあるプラットフォームです。
2.テレビ朝日の財務分析
(1) テレビ朝日の分析
今、テレビ朝日が好調ということで、注目して取り上げてみたいと思います。テレビ朝日は1959年に開局しました。朝日新聞が株の24%を、東映が16%を保有しています。テレビ朝日は、朝日新聞の大株主で、お互いに株式の持ち合いをしています。日本的に仲良く株を持ち合っています。
テレビ朝日の財務分析をしました。まず、平成24年度の売上高は2,537億円で、非常にいいです。さらに、毎年、原価率1%低下のペースを維持しています。これは、番組制作の費用を抑えることに成功していると、推測できます。視聴率競争での優位にともない、売上高を伸ばしています。財務も、借入金が表記されていません。財務状況がよく、投資格付けをAとしている格付機関もあります。ほぼ無借金で、自己資本比率が極めて高い会社です。
将来予想のため、マーケットリスクプレミアムを計算し、加重平均資本コスト(WACC)を算出しました。理論株価は4,687円になります。一方、現在の実際の株価は2,238円(2013年9月25日現在)です。理論株価と実際の株価の差は、2,000円以上にもなります。大きな差です。この事実から考えられるのは、M&Aの対象となりうるということです。実際、過去にソフトバンクや楽天がテレビ局に買収攻撃をしかけたことがあります。結局、あきらめましたが。
今、テレビ局の財務で問題になっているのは、保有コンテンツがバランスシートに入っていないことです。無形固定資産として、計上されていないのです。国際会計基準の採用により、6~7年後には、バランスシートに自社保有の番組を記載することが必要になります。M&Aの対象になりうると言いましたが、現状では、M&Aの際には、貸借対照表に載っていない資産を調べる必要があります。
テレビ朝日の株価の開きは、株式市場における評価が低いということを意味しています。これはなぜでしょうか?恐らく、市場が、テレビ朝日だけでなく、テレビ局の将来性に期待できないと思っているということでしょう。
(2) テレビ局の株価
テレビ局の株価の推移をみると、2000年4月からみても、右肩下がりに低下しています。こういう全体的傾向をみると、テレビ朝日だけでなく、テレビ局全体が、株式市場での評価が低いということが言えると思います。
いま、インターネットが強くなっていますが、ネットの強みは、動画配信、写真や文字などの配信と、双方向コミュニケーションを実現している統合プラットフォームであることです。メディアは、さまざまなコンテンツの制作力と保有力を持っていくことで、強くなれます。とすれば、地上波テレビも、ネットを活用して、より大きな統合プラットフォームを形成していくことが可能ではないかと考えられます。
時価総額が一番大きいのは、フジ・メディアです。フジ・メディア・ホールディングスの株価は、21万2,500円になります(注:2013年9月30日を基準日に、1 株につき 100 株の割合で株式分割、10月4日現在の株価は2,122円)。フジ・メディアは、メディアミックスを実現していて、新聞社2つ、動画、静止画、音楽などいろいろなコンテンツを傘下に持つ組織になっています。こういうメディアミックスをグループとして実現できている会社は、フジだけです。フジ・メディア・ホールディングスの格付けを、AA-としている格付機関もあります。財務的には、サンケイビルの子会社化や、生活情報事業、映像音楽など非テレビ放送事業の利益も貢献しています。
3.地上波テレビの生き残り法
私は、これからの地上波テレビの生き残り方法を、考えてみました。
1点目は、プラットフォームとしての価値を高めること、メディアミックスされたグループとなることがポイントになると思います。NBC、CBS、ABC、FOXをはじめとする米国の地上波局は、グループとして動いています。
2点目は、保有コンテンツを増やし、オールライツを持つことです。プラットフォームを充実させるには、オールライツをもつコンテンツをとにかく増やすことです。今後は、制作力だけでなく、バイアウトをして、オールライツをしっかり確保することが重要になってきます。
さらに、インターネットからテレビへの誘導を図っていくことが、第3の生き残りの道になるでしょう。岩崎さんの発表にもありましたが、いま、テレビは、他のメディアとの同時視聴が当たり前になっています。ですから、TVを見ている間、ツイッターやFBにも広告を載せるというような、メディアを超えたアプローチが考えられます。HULUのような映像配信サービスの利用もあります。半沢直樹は、最終回視聴率が42.2%を記録しましたが、面白い番組は、放送時間中に、ライブ感を持って見られているという現象があります。一方で、見逃し視聴サービスを拡充したり、ケーブルテレビなどで再放送を展開することも大事です。また、見逃し視聴だと、CMはカットされる場合もありますので、プロダクトプレイスメント(PPL)などで、収益を確保する道も考え出しておかなければいけません。
質疑応答
(小川教授)フジ以外はどうなってますか?
(渡辺氏)他の会社は、テレビと関連する会社だけを、グループ化しています。フジは、テレビを超えて、産経新聞から音楽まで入っています。私は、こうしたグループ内でのメディアミックスは、他のTV局にもできると思います。
(小川教授)他社も、M&Aをしたり、事業を組み合わせれば、グループとしてのメディアミックスは可能なわけですね。メディアミックスという視点から考えると、全体としては、めちゃくちゃ落ちているわけではありません。結局は、ミックスの仕方だと思います。アメリカではそうなっていますか?
(渡辺氏) 私の知る限り、アメリカはそうです。日本では、TV局は新聞社から出ていますが、アメリカのTV局は独立しています。アメリカでは、映画産業がだめになってきたとき、TV局に近寄って、提携関係ができていったという経緯があります。ビジネスにおいてドライです。日本では、映画会社が泣きつくということはありませんでした。
(岩崎氏)つい最近まで、テレビは守られすぎていました。日本テレビも、これからまずいですか?
(渡辺氏)それほどではないです。現状では、TV局の株は、外資出資比率上限20%という規制があります。ただ、その規制が変われば、外資の買収ターゲットになりえるでしょう。
(小川教授)新聞社への悲観的な見方が、テレビ朝日の株価にも反映されているのかなと私は、直感しました。
(渡辺氏)そうかもしれません。
(会場)海外展開を進めようとしても、日本の場合、タレント事務所が乗り気でなく、話が進まないところがあります。
(渡辺氏)確かに、まったく理解しようとしない事務所があります。私も事務所と交渉することがあるのですが、消極的なところというのは、番組CMも含めて、日本で充分儲けは出ているので、わざわざネットに出して海賊版のリスクを負ってまで、外に出て行こうとはしないようです。戦略レベルでの話ができればいいのですが、なかなかそこまでいきません。
(小川教授)サカタのタネは、思い切って海外に行き、シェアを取っています。コピーされることを怖がってしまって、日本に留まってしまったら、そこで終わりです。
(渡辺氏)アメリカのように、世界のマーケットを自分で取りに行くという発想に、皆が変わっていかないといけません。