【保存版原稿と新版の予告】小川孔輔・JFMA編(2013)「第1章 お花屋さんのためのマーケティング(理論編)」『お花屋さんの仕事 基本のき』誠文堂新光社

 2022年春に、『お花屋さんの仕事 基本のき』(誠文堂新光社、2013年)の改訂版を出すことになった。わたしが担当している部分(第1章)も、旧版の原稿で事例や写真を新しいものに差し替える。しかし、旧版の事例などにも捨てがたいものである。データが消えてしまうので、ここに保存しておくことにしたい。

 

 予告である。わたしが担当する第一章は、つぎのような改訂を予定している。

 新装版では、事例1「ヤオコー」を「カインズ」の事例で置き換える。短茎の花の調達と販売の取り組み、店頭の花束のブランディング、輸送方法の改善などを取り上げる。

 事例2「テスコ」は、「ユニクロflower」の現状を紹介する。おそらく、ユニクロの花が公式的に本に登場するのは初めてになる。ファーストリテイリングの協力を得て、店頭の写真とボードの文言の提供をお願いしてある。

 青山フラワーマーケットの事例は、川越店のデータが古くなっている。2019年の池袋店のデータで差し替えるつもりでいる。

 

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『お花屋さんの仕事 基本の“き“』(JFMA編)

 V2:20130713

「第一章 お花屋さんのためのマーケティング入門」

 文・JFMA会長(法政大学教授)小川孔輔

 

Ⅰ お花屋さんのマーケティング(理論編)

 

1 店舗と売り場を見る視点

 

(1)良い売り場の4条件

 花屋さんの店舗経営で大切なポイントは、大きく分けて次の3つです。

①店舗と売り場をどのように作るのか(店づくりと陳列)、

②店頭に並べる商品をどのように準備するのか(商品政策:MD)、

③接客と店頭コミュニケーション(サービスのデザイン)です。

 小売店の運営は実務優先になりがちですが、3つの領域のそれぞれについて、理論的に考えてみることも大事です。マーケティングの観点から、まずは、お店づくりについて考えてみることにしましょう。

 花店を経営している店主(店長)のみなさんは、良い店舗がどのような原則に基づいて作られているかについて、しばしば誤解をしていることがあります。結論を先に言ってしまうと、売り場づくりについて第一に優先すべき原則は、「店主や従業員の都合ではなく、お店がお客様のために買い物がしやすい売り場になっていること」なのです。以下では、お客さんの立場から、理想的な良い売り場をどのようにデザインしたらよいのかを考えてみましょう。

 以下の4つが、良い売り場の条件です。その理由を順番に説明してみることにします。

 

① 「顧客視点」から売場がレイアウトされていること

 陳列されている商品と売り場のレイアウトが、カウンターに立っている店員さんから見て美しい店は、不合格です。売り場は、あくまでも顧客の視点(見やすい、取りやすい)でレイアウトされていなければなりません。お店のドアを開けて入ってくる顧客の動き(客動線)や目線(注意)に合わせて、店のレイアウト(商品分類)や陳列(高さ、カラーコントロール)を設計すべきなのです。

 

② 「美しい売り場」ではなく、「よく売れている売り場」であること

 売り場の効率は、客観的なデータで測定されていなければなりません。直感や印象を否定するわけではありませんが、美しい売り場が作れているかどうかは、あくまでも結果です。一目で見て、陳列が乱れているような売り場ではあっても、よく売れている店が良い売り場であり、優れた店舗なのです。主観ではなく、誰もが納得できる数値で、客観的な事実で売り場の良し悪しを評価することが必要です。

 ここで、象徴的な警句をひとつ挙げておきましょう。イタリア料理のレストランチェーン「サイゼリヤ」の創業者・正垣泰彦会長は、2011年に『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経BP)という本を出版しています。この書名を花屋さんに当てはめてみると、「きれいな店だから売れるわけではない 売れている店が良い花屋(売り場)なのだ』となります。どうでしょうか?主観ではなく、実績がすべてです。イタリア料理店もフローリストも、顧客視点で物事を考えなさいと正垣会長は主張しているのが納得です。

 

③ ものごとの原因と結果を「仮説的に」思考すること

 ものごとを計画するときには、仮説的に思考してみることが大切です。仮説的な思考とは、「もしかすると、××が原因で○○という結果になっているのではないか?」という因果関係を想定してみることです。売り場や陳列に問題があるとすると(例:店前を通る顧客がちらと店内・売り場を見るが、実際に店中には人が入ってこない)、何らかの点でお店側の売り方に問題があります。それは、お客さんがお店に魅力を感じていないか、あるいは、一度買っていただいても商品やサービスに満足しただけなかったために、その後は繰り返して来店してくれていないことの表れです。商品の価格が値ごろ感を失っているのか、POPの書き方がまずいのか、店内が汚れているのかなど、問題を引き起こしている「原因」を突き止めることが大切です。複数の仮説を店員さんたちと一緒に討論しながら考えてみましょう。

 

④ 従業員が「改善提案をする」体制ができていること

 店舗の現場を変えていくのは、店員さんたちです。売り場を管理する権限は、店主(店長)にあるのですが、実際に働いている人が店舗のどこに問題があるのかを考えるように訓練ができていなければ、売り場は日々よくなっていきません。店長(店主)や売り場のチーフがけでは、売り場は進化をしていきません。そうした仕組みを、花部門の全員がチームとして取り組む体制づくりをすることが大切です。また、チームとして取り組むべき課題を、きちんと実行可能できるように組織が編成されていなければなりません。以下では、日本のスーパーマーケットで、はじめてこの仕組みの導入に成功した、食品スーパーヤオコーの花部門の組織について紹介してみることにします。

 

<事例1:食品スーパーヤオコー「花部」>

 食品スーパーのヤオコー(本社:埼玉県川越市)は、ローカルのスーパーマーケットとしてはめずらしく、2001年に花を専門に担当する部門(「花部」)を設けました。生鮮3品(青果、精肉、鮮魚)に続いて惣菜(デリカ)部門の強化に成功したことが、今日のヤオコーの増収増益を支えてきた要因でした。デリカ部門に続いて、欧米の流通事情に詳しい川野幸夫社長(当時、現在会長)が5番目の“生鮮部門”として育成しようと考えたのが花部門でした。欧米の優れたスーパー(英国のテスコや米国のHEBやホールフーズ)は、優れた花売り場に特徴があります。花部門の育成強化が、日本一のスーパーマーケットづくりに欠かせないポイントだと川野社長は考えたわけです。

 日本の食品スーパーでは、青果バイヤーが花部門のバイヤーを兼任していることがほとんどです。また、個別の店舗においても、青果部門のパート従業員がついでの仕事として花を担当していることがほとんどでした。本部要員を増やしていきながら、店舗側でも花を専門に担当する「パートナーさん」(ヤオコーでのパート従業員の呼称)を増やすことにしました。また、ヤオコーは、従来のセルフサービス・フォーマットにこだわらず、一部の店舗(2013年現在、約30店舗)では、対面の花売り場を自社で運営することにしました。

 せっかく独立させた部門でしたが、結果にはすぐに結びつきませんでした。転機となったのは、2010年に全店舗に導入した「花持ち保証販売」(切り花が5日間以内に枯れたら全品交換)でした。同時に、商品の調達と花束加工をそれぞれ一社に集約して、品質のコントロールに努めました。2011年からは売上が徐々に伸び始めました。そして、2012年には、ヤオコーの全商品部門で、既存店の対前年度比売上が最大に伸びた部門(前年対比で108%)になりました。

 現在、ヤオコーの花部は、本部の部長1名、バイヤー1名、トレーナー4名、アシスタント・パートナー3名の計9名体制で運営されています。日本のスーパーではもっとも充実した花部門です。ヤオコーの全123店舗の中でも、とくにインショップで運営されている30店舗とセミセルフ(午前中のみ担当者がいる売り場)で運営されている40店舗については、本部のトレーナーがきめ細かな指導をしています。花専任のパート従業員が、日々の売り場と商品の改善に努力できる体制を作ることができたことが、今日のヤオコー花部門の成長を決めた要因だったと考えられます。

   

(2) 理想の売場とは

 それでは、買い物客にとって、理想の売り場とはどのようなものでしょうか?

 よく売れている売り場は、つぎのような条件を満たしているものです。日本リテイリングセンターの元チーフ・コンサルタント、渥美俊一先生が、『ストアコンパリゾン』(日本実業出版)という本の中で述べていることです。簡潔にいえば、「安心ショッピング」という概念です。「顧客が安心して買い物ができるため」には、以下の3つの条件が必要だというわけです。

 

① 客が店で値札を見ないで買えること

② 品質や機能を吟味しなくてよいこと

③ 商品をテイスト(好み)だけで選べること

 

 安心ショッピングの3つの原則は、花屋さんの買い物でも当てはまり。お店で安心してショッピングができれば、買い物時間は短くなります。ですから、安心ショッピングは、別名「ショートタイムショッピング」とも言います。要するに、値札を見ないで、高いか安いかで迷うことなく、ごく短時間で買い物ができるようにすることです。そのためには、店側の提供商品やサービスについて、顧客から信頼されていなければなりません。そうであれば、こまかな品質をチェックすることなく、自分の好みだけで商品が選べるわけですから、買い物は楽しくなります。

 

(3) 楽しい買い物が実現できる根拠は?

 楽しく買い物ができる売り場は、どのような店舗設計になっているでしょうか? それは、「わかりやすい」「信頼できる」「楽しい」の3つの原則が徹底していることです。

 

① <わかりやすい>

 もっとも大切な条件は、値ごろ価格が明らかなことです。つまり、「プライスポイント」(最多販売価格帯)が顧客にきちんと伝わっていることです。最多価格帯は、その価格でお店が商品を売りたいと思っている値段です。プライスポイントは、その店の値ごろのシグナルになっています。ですから、「ワンプライス」のお店は買い物がとても楽なのです。たとえば、100円ショップの「ダイソー」や雑貨店の「Natural Kitchen」などの値付けの仕方がそうです。全品が100円や200円ですから、価格に関する余計な説明が不要です。

 具体的な事例として、図1に、「デフレ勝者6社のプライスポイント」を示しておきます。他社に比べて、ユニクロと無印良品の価格分布(プライスポイント)が、際立ってわかりやすい(したがって、商品が選びやすい)ことが理解できると思います。表示されている価格(帯)がごく少数しか存在していないので、店内や他店との価格比較がほとんど意味をなさなくなってしまうのです。

 

 << この付近に、図1 ユニクロと無印良品の価格分布 >>

 (「チェーンストアエイジ誌」から)

 

② <信頼できる>

 買い物客は、店舗と販売員の両方について安心(感)を求めます。通行客がお店に入ってくるかどうかは、店舗の信頼性(ストアブランドの強さ)によります。また、フルサービスの店では、店内で気に入った商品を見つけた顧客が販売員にアドバイスを求めるかどうかは、接客従業員の笑顔や身だしなみが決め手になります。いずれにしても、店舗と従業員に対して顧客が信頼を置いていないと、安心して買い物ができないわけです。

 安心と信頼の結果は、繰り返して来店してくれることにつながります。小売サービス業の基本は、つまるところ「リピートビジネス」だということです。何度もお店に足を運んでいただかないと、お店の経営が成り立ちません。顧客が再来店することを前提に、花店(売り場)のビジネスは組み立てられているからです。

 

③<いつも新しい発見や驚きがある>

 小売店にとってもうひとつと大切なことは、店舗側にその店に独自な「ライフスタイルの提案」があることです。人々の生活を豊かにするために、小売業は存在しています。とくに、お花の場合は、花の贈り方や飾り方について、TPOS(Time, Place, Occasion, Life Style)別の商品提案が必要になります。また、顧客に感動や驚きを与えるために、提供商品や店頭のディスプレイには季節感を強く打ち出すことも大切です。花の小売店は、地域の生活の豊かさを実現することに貢献していることが、その大きな存在理由なのです。

 ただし、一点だけ注意しなければならないことがあります。お店が提供できる商品提案については、ある程度の絞り込みが必要だということです。「あの店は、こんなテイストのお花が置いてある店」というイメージをコア顧客に持ってもらうことが必要です。何でも売っている「何でも屋の小売店」は、世の中で繁盛したためしがありません。専門性を追求することこそが、生活提案ができる要因でもあります。

 

 

2 店舗と売場で測定すべき数値

  

 小売店の経営で大切なことは、つねに数値で業績(成果)を把握していることです。花屋(独立専門店)でも、花売り場(量販店)でも、それには例外がありません。測定すべき数値がやや異なりますが、正確に測っていれば、数値で示された成果指標は店主の期待を裏切りません。つぎの3つの指標を、定期的にチェックしておきましょう。

 

(1)店前(売場前)通行量

 立地タイプ別の基準値(PAR)を、競合の他店と比較してみてください。例えば、駅ビル内のショップ展開や駅の近くへの出店であれば、乗降客数を調べることから始めます。首都圏の場合は、一日の乗降客数が、出店のひとつの目安になります。3万人(小さな駅)、5万人(中規模の駅)、10万人(準ターミナル駅)、30万人(ターミナル駅)が立地区分の境目になります。

参考までに、表1に、JR東日本が発表している乗降客数のランキング(2012年)を転載してみました。もちろん、電車に乗らないで来店する顧客(居住者顧客)もいるのですが、売上のベースとなる来店客のポテンシャルは、公共交通が通勤通学の主たる手段になっている都市圏の場合は、駅の乗降客数でおおよそ予測することができます。

 

 <<この付近に 表1 JR東日本の乗降客数>>

 

 「改札口」(専門店)や「玄関前」(チェーン店の売り場)の位置も重要です。いずれにしても、店前や売り場前の通行量が、売り上げ(買い上げ客)のベースになります。たとえば、JR鎌倉駅(ランキング100位)の場合、駅前にある花店の顧客ベースは、4万2千人となります。仮に乗降客の0.5%が顧客になってくれるのであれば、210人が一日の予想来店者数です。何パーセントの通行客が当店の実顧客になってくれているのか、その割合を知らないで商売はできません。

 

(2)「入店率」

 入口が複数ある場合は、「入り口別」のデータを分析します。参考例としては、駅ビル内のショップなどでは、「入店率=1%」が基準値になります。

 スーパーでも、売り場の前を通るひとが、商品の前に立ち止まる割合を「(売り場)立寄率」といいます。これが、3~5%を超えていることが目安です。半分が花を購入してくれれば、後述する「買上げ率」が2%程度になります。

 ある程度の売り場規模(650坪以上、年商20億円以上)では、量販店での花の売上構成は、店舗全体の売上の0.5~1.5%になります。なお、PI値(来店客100人当たりの購入点数)は、2~3前後です。

 

(3)「注目率」と「買上率」(購買率)

 売り場に立って観察してみればわかりますが、売り場の前を通った顧客が、商品を丹念に見る割合(3秒以上)は、15%~70%までで、かなりばらつきがあります。これには、売り場の位置やディスプレイの仕方、POPや商品の色遣いなど、たくさんの要因が影響しています。

 注目率や買上げ率(来店客中の購入者の割合)の絶対値も大切ですが、もっと重要なのは、その変化率をみることです。そして、つぎの4つの指標も同時に比較してみましょう。複数店舗を経営している場合は、とくに店舗別の指標を比較することが大切です。①「一品単価」②「買上点数」③「客数」④「客単価」です。これらの経営管理の目標数値は、売上(⑤)を構成する中間の数値です。分解してみると、

 

 売上(⑤) = 客数(③) × 客単価(④)

 客単価(④) = 一品単価(①) × 買上点数(②)

 

したがって、

 売上(⑤) =  一品単価(①) × 買上点数(②) × 客数(③)

 

となります。この公式をじっくり眺めながら、①一品単価、②買上点数、③客数をどのようにして増やしていくかの戦略を練ることになるのです。

 自社の場合は、POSデータを分析すればよいのですが、他社の場合は、競合店舗を観察して、プライスポイント(最多販売価格)やプライスライン(価格幅)をチェックしてみます。客数や客単価は、平日と土日の別、曜日別や時間帯別で観察します。店によって、かなり傾向がちがうものです。表2に、実際の観察結果(青山フラワーマーケット川越店)をリストアップしてみました。

 

 << 表2 フィールドワークの結果: 青山フラワーマーケットなど(2008年) >> 

 

 

<事例2:青山フラワーマーケット川越店(2008年)>

 表2は、2008年にJFMA(日本フローラルマーケティング協会)の公開講座で実施したフィールドワーク(店舗観察)の結果です。ごく短い時間でしたが、10人のチームが手分けをして、青山フラワーマーケット(川越エキア店)の店前で実査を行いました。川越駅は、東武東上線(一日の乗降客数約12万人)とJR川越線(同約3万6千人)の乗換駅になっています。そこで、両線の二方向別から通行客数をカウントするグループ(東武線A1、A2、JR側B1、B2)と、来店客と購入客を調べる班に分わかれて実査が行われました。②が実査の結果です。①は、店長インタビューから得られた実際の営業成績です。

 興味深いことに、実査(②)が行われたのは夕方のごく短い時間(15分)だったのですいが、これを営業時間(4×10時間)に引き延ばしてみると、実際の営業成績(①)とそれほど違っていないことがわかります。たとえば、15分間での買い上げ人数は、6人でした。一時間あたりでは24人になります。10時間換算をすると、これは240人に相当します。実際の一日の購入客は150人~200人です。夕方で来店客がやや多めとすると、ほとんど実績と同じ観察結果になっています(ただし、客単価は低めに出ていますが)。

 青山フラワーマーケットは、入口にドアがないオープンな構造の店舗ですので、入りやすい反面で、入店者が必ずしも買上げ客になるわけではありません。立ち寄り率が0.73%は標準的な数値です。また、買上げ率(来店者のうちの購買者の割合)は40%で、これもふつうの値です。都市部の衣料品チェーンでは、経験から20~40%が標準値であることが知られています。

 

            

3 店舗コンセプトと商品政策(MD)

 

 花店のマーケティングを考える場合に、最初に考慮すべき3つの計画ステップについて概説します。店舗の基本コンセプト(どのようなお店を作るか?)を作るときに、最初にやるべき作業になります。3つのステップを順番に説明します。

 

(1)店舗の基本コンセプト

①「誰に」向けてお店を作るのか

 別の表現をすると、店づくりにあたって「顧客は誰か」を明確にすることです。あるいは、「誰のどのような場面での花の利用を想定するのか」をはっきりとさせることです。花に癒しを求める20代~30代の若い女性なのか。日常使いに花を購入する花好きの40代~50代の中年主婦層なのか。母の日に、お母さんに日頃の感謝の思いを込めて花を贈りたいと思う小学生や中学生のお子供さんなのか。それとも、バレンタインのときに、思い切って女性に花をプレゼントしてみたい若い男性客なのか。ターゲット顧客が店の作り方を決めてしまいます。

 

② 「何を?」売りたい商品とするのか

 ターゲット顧客の設定により、お店の品ぞろえが違ってきます。切り花を中心にするとしても、仏花の菊なのか、誕生日にバラなのか、母の日にカーネーションなのか? そのときの価格帯も、購買層と贈るときのオケージョンによってちがってきます。

生花だけにするのか、それとも、プリザーブの花も品ぞろえをするのか? アートフラワーや雑貨はコア商品として品ぞろえに加えるのか? ロス率のコントロールと店のタイプによって、品ぞろえの幅も違ってきます。

 また、品添えの価格幅によっては、ギフト中心になることもあります。販売員をつけるのか、セルフ販売にするのかの選択も、商品や狙うオケージョンによって異なります。

 

③ どのように?

 販売方法の特徴は、どのようにするのか? 店舗のみの販売なのか? ネット販売専業で行くのか? あるいは、その混合形態なのか? あるいは、提供する商品価値は、どのようにするのか? その際には、つぎのようなことの考慮の対象になります。

 

 ・販売方法USP(他の店にない差別化のポイントは?

 ・立地の選択(サイトの選択:SM、SC内であれば、店内の位置)

 ・コミュニケーションの特徴は?(接客含む)

 

(2)店舗デザインとレイアウト

 基本コンセプトが出来上がったら、つぎは、店舗(売場)のデザインをします。まずは、 売り場の「レイアウト図」を描くことからはじめます。その際には、3つのことを決定します。①「店舗レイアウト」、②「売場レイアウト」、③「商品陳列」(フェース数、価格帯、陳列量)です。他店を観察する時にも、商品の陳列方法(什器、バケツ、黒板)などについての実務的な観察結果は役に立つものです。

 図2は、英国の食品スーパー「テスコ」のレイアウト図です。前節で述べた店舗観察結果も入っています。日本の自社データと比較してみてください。なお、詳しいことは、次節の「売れるお花屋さんの店づくり(実践編)」を参考にしてください。

 

 << 図2 「テスコ」の売り場レイアウトと商品構成グラフ(2009年) >>

 

 売場のカテゴリー分類を考える際には、以下のポイントが実現できているかを見るとよいのです。「わかりやすい分類か?」「買いやすい分類になっているか?」。

 顧客の「購買動機」に照らして、商品が正しく配置されているかも重要な点です。例えば、仏花の位置はどこにあるべきでしょうか? 仏花は、「目的買い」の商品ですから、陳列面では、それほど目立つところに置いておく必要はありません。

逆に、季節の花(夏場のひまわりやクルクマなど)は、衝動買いの商品です。最も目立つコーナーや入口に近いところに置くべきです。百貨店のショウウインドウやマネキンさんに着せてあるスタイルの商品は、売りたい商品・買ってほしいブランドです。

特売商品や処分品の場所は?それでは、どこに置くべきでしょうか?

 

(3)MD(商品関連の決定事項)

 レイアウトが決まったら、基本的な品揃えを確定します。ここまでで、ターゲットと売り方が決まっていますから、ベーシックな品ぞろえ(定番品)と季節商品(52週)の仕入れ計画を立てます(第  章参照のこと)。

 通常は、予想売り上げに比例して陳列量と品ぞろえを決めていきます。売り込む商品がある場合は、陳列の方法と連動させて、陳列量を決定していきます。鮮度保持の技術にもよりますが、商品によってロス率が異なりますので、販売の仕方も工夫する必要があります。

 参考までに、総菜メーカーのRF1(ロック・フィールドのストアブランド)の陳列方法を示しておきます。FR1では、①「オープンケース」(パック商品)、②「クローズドケース」(量り売り商品)、③JITケース(実演販売)という3つのタイプの陳列方法をとっています。それぞれが、顧客の特定の購買ニーズに対応しています。

 

 << 写真  ロック・フィールドのケース例 >>

 

 また、価格と陳列量には、明確な関連があります。以前に、「プライスポイント」と「プライスライン」を説明しましたが、その店舗の商品陳列量を調べると、売りたい中心価格帯がわかります。「商品構成グラフ」(価格帯×陳列量)を作成してみるとわかります(図2 テスコの事例参照)。

 商品の補充方法や補充頻度が、ロス管理(値入れ、マークダウン、廃棄ロス)と密接に関連しています。店頭販売の期間は、2日なのか3日なのか? どの時点で廃棄に回すのかを決めなければなりません。

 

(4) 店頭コミュニケーション

 最後は、店頭での商品情報をどのように表示するかです。店内のPOP広告を考えてみましょう。

 

① 商品説明

 文字の大きさや色、字体(タイプフェース)は、きちんと統一されていますか? チェック項目としては、コピーは読みたくなるものか? わかりやすい(左脳系)か? 美しくて親しみを感じるものなのか(右脳系)。

② プライスカード

 価格表示のチェック項目は、わかりやすいか? 伝わっているか? 美しいか? 親しみを感じるか?などです。

③ 黒板・ボードの活用

 花店では、黒板を多用します。黒板は、何のためにあるのでしょうか? POPの代替でしょうか? その他としては、モニタースクリーンや幟(のぼり)などが、コミュニケーションツールとしてよく用いられています。

④ チラシやリーフレット

 これらも、目的や種類によって、コスト・パフォーマンスも考えて利用しましょう。

掲載情報、大きさ、形状、紙質なども大切なチェック項目です

(詳しくは、JFMA編集(2005)『クイックハンドブック』草土出版をご覧ください)

⑤ 接客の仕方

 身だしなみとマナーが大切です。接触のタイミング、接客の役割(セルフでも接客は重要)は、従業員の教育訓練とモチベーションの管理に依存します。

 

(5)その他サービス

 つぎのような付随サービスにも配慮してください。

 ① 清潔感の演出、②店員の教育、③ギフト対応、④デリバリー