【インタビュー記録】「値段の真相(シリーズ6回目)」『読売新聞』2022年10月13日

 昨年末に『読売新聞』で受けた「インタビュー記録」(シリーズ:値段の真相)を残していませんでした。グローバリゼーションが終わり、企業行動が変わることを指摘したインタビュー記事でした。遅なきながら、そのときに発表された文章(テキスト)を貼り付けておきます。

 

 小川孔輔・法政大名誉教授(70)インタビュー(オリジナルテキスト)
 

 今回の物価高はデフレ下で安い価格に慣れてきた消費者と、商品を提供してきた企業に大きな変化を迫るものだ。
 日本はこれまで安いものを世界中から輸入、消費し、まさにグローバリゼーションの恩恵を受けてきた。世界各地から安く仕入れて100円で売る100円ショップが成り立ったのはそうした貿易環境があったからだ。
 しかし、今回の物価高では、エネルギーや食料品など多くのものを輸入に頼ってきた日本の弱さが露呈し、あらゆるものの値上がりを招く事態になっている。

 

 今回の物価高を教訓に、今後、日本企業では輸入や生産の海外依存を見直し、生産などを日本に戻す「国内回帰」の動きが強まるとみている。●1990年代以降、日本企業は海外に生産を移転して安くものを作ることで低価格を実現してきた。今後、起こりうるのはその逆の動きだ。
 労働者の賃金などが安い海外で作るのをやめ、国内への回帰が進めば、商品の値段は全般的に上がりやすくなる。消費者が長年、当然だと思ってきた価格水準を「慣習価格」と呼ぶ。今回の物価高をきっかけに何でも安く買えた時代は終わり、消費者は慣習価格の引き上げを迫られることになるだろう。

 

 一方、今回の物価高で各業界に淘汰(とうた)の波が押し寄せ、上位数社にシェア(市場占有率)が集中する時代が訪れる可能性がある。
 各社が軒並み値上げする中で、●外食、衣料など一部の大手企業は値上げを最小限に抑える戦略をとっている。利益率が高く、原材料などのコストが増えてもそれを吸収するだけの余力があるから、値上げを我慢できるのだろう。こうした企業は商品の質が高く、ブランド力があるため、値上げをしても客が離れにくい。
 一方、薄利多売で他社と似たようなものを売る企業は厳しい。もともと利益が薄いから、コスト高に耐えられず、値上げする。その値上げが客離れを招き、業績が悪化し、競争から脱落する。回転ずしなど、低価格競争が激しい業界では、振り落とされる企業が増えるだろう。
 足腰が弱い企業は「値上げの時代」を生き残れない。今回の物価高はデフレ下に築かれた現在の産業構造を大きく変える可能性がある。