DIY白書2008年版 総括コメント(小川執筆部分)

毎年、総括コメントを担当している『DIY白書』(日本DIY協会)の2009年度の執筆が近づいている。そろそろ調査データのファイルが送られてくることになっている。例年のことだが、一年が経過したので、前年(2008年度)の原稿を、本HPにアップすることにしたい。

Ⅰ.調査総括

1.調査目的
 <経済全般>
本報告書を執筆している期間は2008年10月下旬である(10月18~20日)。2007年度の報告書を書いている間に、その前提となる経済状況が2008年のこの時点で、ことごとく逆向きに変わっている。例えば、米国のサブプライム問題に端を発する世界不況、世界同時株安および株価の乱高下、国富と個人資産価値の減耗、それに伴う深刻な国内消費の低迷などである。
世界的なエネルギー価格の高騰と原材料・素材価格高は、グローバルな景気の低迷によってすでに過去の話となりつつある。とは言え、本報告書のデータは2007年度期中のものであるから、1年前に遡って、社会経済的な環境を順に記述していくことにする。
2007年度中に、前年度まで(2005~2006年度)は急上昇してきた首都圏の地価が再び反転を始めた。いったんは浮上したかに見えた日本経済に、原油や原材料・素材価格の高騰がブレーキを掛け始めていた。2007年に入ると、数年にわたって堅調に推移してきた企業業績も低迷に転じた。国内製造業だけでなく、小売・サービス業でも増収ながら減益となる企業の割合が増えている。
21世紀に入ってからは、堅調に推移してきたアジア経済も中国をはじめとして、素材価格高と賃金上昇圧力によって、右肩上り一直線の成長にはかげりが見え始めている。製造業の一部国内回帰と、中国一辺倒だった海外生産拠点の配置には終止符が打たれつつある。20世紀後半から21世紀初頭にかけて中国沿岸部に工場を移転してきたSPA(製造小売業)志向の衣料品小売業と、広大な農地と安い人件費を利して食品加工工場を中国北部に集中させてきた食品メーカーは、東南アジア諸国(ベトナム、マレーシア、インドネシア、タイなど)、さらにはインド、パキスタンにまで工場を分散させる動きを強めている。
アジア地区での商品調達先を分散させようとする動きは、ホームセンター業界でも顕著である。中国やタイ、インドネシアなど、政治的に不安定なアジアの国から安全性が問題となる食品(農産物)だけでなく、エネルギー多消費型で物流コストがかかる付加価値製品の一部は国内生産に切り替える動きも起こるとみられる

<小売業全般>
日本のチェーン小売業全般に目を転じてみる。百貨店と総合スーパーには、かつての栄光の面影はない。百貨店の業態は1991年度から2007年度までの間に約2兆円の市場を失った(日本百貨店協会調べ 2007年度の総売上高は約7兆7000億円)。総合スーパーも2007年度は、対前年度で売上高上位10社中の4社(イトーヨーカ堂、ダイエー、ユニー、フジ)が減収である。増収企業もほとんどが減益である。コンビニエンスストアとドラッグストアは総じて業績が堅調ではあるが、上位企業ばかりが好調というわけでもない。まだら模様である。
衣料品専門チェーンでは上位企業に減収企業はないが、既存店ベースの売上高では対前年度比を割り込む企業がほとんどである。品質とデザインで支持を得ているファーストリテイリング(国内ユニクロ事業)のみが例外である。前年度までは業績好調だった、ポイント、しまむら、ユナイテッドアローズ、ハニーズが、既存店の対前年度比で見ると軒並み売上高を落としている。国内消費低迷で一番に影響を受けているのが、衣料品分野だからである。

<ホームセンター業界の動向>
DIY業態の現状を見てみることにする。ホームセンター(以下「HC」という。)事業を取り巻く環境の変化として、昨年度の報告書では、3つの基本トレンドを指摘した。①基本的な消費構造の変化(HC店舗からの顧客離れ)、②過剰出店による競争激化(関連した収益力の低迷)、③素材価格の値上がりによるコスト圧力、の3つである。
後のデータから判断できるように、①HC店舗からの顧客離れは、沈静化しつつある様子がうかがえる。ただし、筆者の予想(2006年度、第18回報告書)に反して、企業合併と法制度改正にもかかわらず、②過剰出店と過当競争には歯止めがかからなかった。その理由は、企業間での競争圧力と上位企業の地理的な展開の継続にある。上位HC企業の出店意欲と売場拡張にはブレーキがかからなかった結果、新規の出店届数には、大きな変化が見られなかった。上位HC企業が、新規ないしは吸収合併によって、ほぼ全国展開を終えるまでは、今後も地理的な相互浸透と出店攻勢は終わらないと見たほうがよいだろう。③素材の値上がりについては、価格転嫁しようとする企業と、「不況時にはさらに価格を低下させる」と宣言をしている企業に分かれている。
2007年度データからHC業界の動向を見てみることにする。2007年度の調査では、売上高300億円超の企業において、売上高が+2.3%、粗利益高が+3.2%と伸びている。売上高300億円未満の企業では、売上高、粗利益高ともに増加していないか、ほとんど変化していないかのどちらかである。経営的に厳しい状況に変わりはない。
ところが、既存店ベースの売上高では企業規模にかかわらず、対前年度比は減少している。かろうじて、売上高規模300億円超の企業カテゴリーで、既存店ベースの売上高が対前年度比100%(変化なし)である。
売場の大型化と過剰出店により、坪当たりの売上高(店舗生産性)は5年連続で低下している。小売業の平均坪効率と言われている100万円(/坪・年)を2005年に切ってから、今回調査(2007年度)までに90万円(/坪・年)に接近してきている。危険水域に近づいている。なお、客単価には、ほとんど変化が見られない(2006年度2,256円→2007年度2,254円)。来店客数は対前年度比で2.2%増加したが、これは売上高300億円超の企業が店舗数を増やした結果である。
3年前(2004年)からHC業界として特筆すべき動向は、大手HC企業間の合従連衡とグループ化の動きである。この数年間でHCの企業数は目立って減少している(本調査でも対象企業数は2006年度の84社から2007年度の77社に減少している)。大手HC3社(ホーマック、カーマ、ダイキ)の経営統合によって持ち株会社(DCMジャパン)が生まれた。再び業界第2位になったカインズは、新たにフランチャイズ契約方式を発表して、アークスグループと組んで北海道に進出した。本部機能の効率化と商品調達面でのスケールメリットを狙った大型合併とグループ化の流れは引き続き、今後も続くものと見られる。中小規模HCの業績がますます悪化している中で、M&Aならびに経営統合は不可避と考えられる。
昨年度も指摘したように、HCとGMS・地方スーパーの間でのグループ企業ぐるみでの統合の可能性がある。2006年度から2007年度にかけての特徴は、百貨店業界での水平合併が盛んだったことである。三越と伊勢丹、大丸と松坂屋、阪急と阪神に続いて、阪急・阪神HDSが高島屋との企業統合を推進している。こうした企業統合の動きは、ショッピングセンター内への百貨店の新規出店が困難になったこととも関連している。2008年中に伊勢丹と企業統合を進めている三越が、地方(名取、鹿児島、盛岡)と首都圏(池袋、武蔵村山市ダイヤモンドシティ、鎌倉)で小型店舗を含めた6店舗を閉店する決定を下した。

 <調査内容:コメント>
本調査(第19回調査)は、会員企業の協力を得てアンケート調査を実施することにより、HC業界企業の経営状態についての現状把握を行うことを主たる目的としている。日本DIY協会(情報委員会)による調査は、平成20年5月9日~9月12日の間に実施されたものである。HC専業77社にメールあるいはファックスで送られた調査票に対して回答を得たもので、最終的に65社が調査に協力している。回収率は、昨年度からやや下がって84.4%であった。本調査のもう1つの目的は、HC業界の将来的な課題に対してマネジメント上の示唆を得ることである。これまでの調査と同様に、データの集計・分析結果の概要を紹介することにしたい。
調査に協力いただいた企業の合計で、対前年度比の売上高(全店)は+1.7%の増加であった(62社合計で、2兆9,144億円)。ちなみに、前回調査(2006年度)の総売上高は71社合計で2兆9,505億円であった。売上高の伸び率は前年度(+2.3%)より低下している。既存店ベースの売上高は、今回調査(2007年度)では-0.3%と減少したが、昨年度の-0.6%よりは、下げ幅はやや縮小している。
2007年度は、小規模チェーン(売上高10億円~50億円)では、客単価が上昇している(+3.5%)。大量出店により規模拡大中の大規模チェーン(売上高300億円以上)では、客数増(+2.8%)で客単価減(-0.1%)である。前回調査(2006年度)では、客数・客単価ともに1~2%程度は伸びていたので、店舗効率はやや低下していることになる。ちなみに、昨年度(2006年度)は、売上高300億円規模のチェーンでは、客数が対前年度比+2.2%、客単価で同+1.7%増加となっていた。
坪当りの売上高は、前回調査(2006年度)と比較可能な店舗(今回調査対象57社)では平均92.1万円であった。坪当たりの売上高は、2005年度から見ると、HC全体での平均坪効率は10万円ほど落ちている。坪当たりの売上高は、店舗規模が大きくなるにつれて上昇する。売場規模の販売に及ぼすスケールメリットは、時系列的には縮まってきている。実際、2007年度は、店舗面積2,000㎡未満の店舗(66.7万円)と5,000㎡超の店舗(107.1万円)では、年間売上で坪当たり40.4万円の格差が見られる。昨年度(2006年度)は、これが47.8万円だった。格差が約18%縮小している。
 商品分野別の大分類において、売上高対前年度比で最大の伸びを示したのは昨年度に引き続き、「DIY用具・素材」であった(+2.1%)。昨年度よりは伸び率(2006年度+6.0%)が止まっている。長年に亘って伸び率がトップだった「サービス業務」は、昨年度以来伸びがまったく止まってしまっている(+1.3%)。中分類で好調だった「増改築・リフォーム等」も、景気低迷の影響なのか、微増の状態である(+1.9%)。
 「DIY用具・素材」に続いて、2007年度に売上高の伸び率が大きかった商品カテゴリーは、大分類では「園芸・エクステリア」(+1.7%)と「家庭日用品」(+1.6%)である。中分類では「DIY用具・素材」の「住宅機器・器具」+8.7%、「水道・ガス・配管」+5.3%と伸び率が高い。HCへの用具・素材需要は毎年上昇している。根強く需要を伸ばしている商品分野である。
 在庫回転率は今回調査(2007年度)でも、やや下がっている(4.4→4.2→4.2→4.1)。また、粗利益率は前回調査(2006年度)と比べて変化が無かった(29.3%)。なお、営業経費、人件費、宣伝広告費は、上位企業ほど多投入の傾向がうかがえる。売上高に占める営業費率は25.8%(上位15社では26.1%)、人件費率は10.7%、宣伝費率は1.7%である。
 業界全体の動向については、集計されたデータをもとに本調査からさらに詳しく現況を読みとっていただきたい。

 
4.調査結果

(1)総括
 今回の調査は、平成20年5月9日~9月12日の期間で調査票の回収が行われた。調査票発送企業数は77社、有効サンプル数は65社(昨年度は75社)である。回収率は84.4%(65社/77社)であった。回答企業数は昨年度比で10社の減少ではあるが、本調査の企業データは、DIY小売業の経営状態を代表していると見ることができる。
収益性指標(粗利益率)に関して長期トレンドを見てみる。業界平均の粗利益率は10年間にわたって上昇基調にある(1995年度25.5%→2005年度28.5%)。今回調査(2007年度)も前回(2006年度)と変わらず、回答企業全体(46社)の平均粗利益率は29.3%であった。それに対応して、絶対的な粗利益額も増加している(+2.7%)。
生産性指標(従業員一人当り売上高/粗利益額、坪当り売上高/粗利益額)には、大きな変化は見られなかった。従業員一人当たり売上高/粗利益額を、対前年度比(2006年度→2007年度)の数字で示すことにする。従業員一人当り売上高は+1.8%(28.2百万円/人→28.7百万円/人)、従業員一人当り粗利益額は-4.9%(8.2百万円/人→7.8百万円/人)である。坪当り売上高は昨年度からさらに低下して、-2.3%(93.6万円/坪→92.1万円/坪)であった。過剰出店と売場面積の拡大が続いている結果である。
昨年度に続いて、HC業界の現状を簡単に要約してみる。5年前から続いている4つの傾向のうち、2つには際立った変化が見られた。

(1) 取扱商品の変化:商品カテゴリーの大分類では、10年間にわたって売上構成比の変動が続いてきた。
HC業界が業態間競争で力を失いつつある商品カテゴリー(電気、インテリア、カ
ー・アウトドアなど)では、販売シェアの減少が続いている。これは、取扱商品の見直しによるものでもある。しかし、その傾向は沈静化し始めている。特に今回の調査では、3つのカテゴリーのシェアに大きな変化が見られない。

(2) 生産性指標の低下:売場生産性の低下には歯止めがかかっていない。
  大手HC各社が全国的に積極的な出店を続けているため、2004年度以降は売場面積が3年間で約12%伸びている。2007年度に回答した企業全体(58社)の売場総面積の伸び率は、対前年度比で4.1%とやや伸び率が落ちたものの、坪当りの売上高は相変わらず低下している(-2.3%)。売場面積が拡大を続けているからである。他方で、従業員一人当りの売場面積が大きくなったことで、一人当りの売上高は上昇に転じている。ただし、粗利益生産性は低下している。

(3) 規模格差の拡大:店舗間およびチェーン間での規模格差が拡大してきた。
  大規模チェーン(売上高300億円~)と小規模チェーンの比較、あるいは、大規模店舗(売場面積5,000㎡~)と中小規模店舗を比べると、売上高(坪当り売上高)に大きな規模格差が見られる。ただし、最近3回の調査(2005~2007年度)を見ると、規模格差は縮小する傾向が見られる。小規模チェーンの業績が悪い中で大規模チェーンも生産性が悪化しているからである。

(4) HC業態の魅力度低下:客数と客単価が低下してきた
一般的なトレンドとして、ここ数年間はHCの顧客が他業態に奪われる傾向が顕著であった(P.5以降参照)。品揃えやサービス面での、HC業態の魅力度低下の結果である。他方で、積極出店と店舗の大型化でHC業態全体としては売場面積が増え続けている。その結果として、絶対的な客数増と客単価の低下が起こっている。今回の調査(2007年度)からは商品大分類のシェアを見ると、HC業態の魅力度低下には歯止めが掛かったと見ることができる。しかし、今回の調査結果から客数は伸びているが、客単価は微減になっている。既存店ベースでは、客単価、客数ともに減少している店舗が多い。

まとめると、(1)「取扱商品の変化」と(4)「HCの業態の魅力度低下」に関しては、ここ数年間で基本的な潮流に変化が見られる。以下では、もう少し詳しくデータを眺めながら個別のポイントについて解説していくことにする。

(2)売上動向(大分類)
 全体の売上高は2回の調査(2006年度と2007度)を比べると、比較可能な企業総計(62社)では+1.7%であった(前回の対前年度比では+2.3%)。既存店ベースの売上高は、比較可能な店舗で見ると、前年度に続いて微減である(-0.3%)。昨年度も既存店ベースの売上高は微減であった(-0.6%)。
HC業態では店舗効率が年々低下している。その原因は、特に大規模チェーン(30店以上)で店舗数(+5.0%)がいまだに増加しているためである。大規模チェーンでは売場面積も増加傾向にある(+5.2%)。全体でも店舗数が+4.1%、売場面積が+4.1%増えている。
 大分類による集計データでは、今年度(2007年度)は「商品大分類のカテゴリーシェアにほとんど変化が見られなかったこと」が大きな変化である。HC業態でしか取り扱いがない「コアカテゴリー(DIY用具、素材)」は売上が堅調である。HCの商品カテゴリーの大分類で、売上構成比の3大分野(「DIY用具・素材」「園芸・エクステリア」「家庭日用品」)がほぼ拮抗している(ほぼ20%ずつ)。その間のシェアには、ほとんど変動が見られない。最近になって、隣接業態のカテゴリーキラー(家電ディスカウンター、ホームファーニシングチェーン、カー用品店)の躍進で、HC売場内では構成比が小さくなってきた3大カテゴリー(「電気」「インテリア」「カー・アウトドア」)が、その地位低下に歯止めが掛かった年である。

<表1>:大分類による売上構成比の推移
順 位 第14回
サンプル62 第15回
サンプル60 第16回
サンプル56 第17回
サンプル55 第18回
サンプル56 第19回
サンプル52
1 21.7%
家庭日用品
 21.1%
家庭日用品
 21.8%
用具・素材 21.2%
DIY用具・
素材 22.0%
DIY用具・
素材 21.8%
DIY用具・素材
2 21.0%
園芸・エク
ステリア 20.8%
用具・素材 20.4%
家庭日用品 20.0%
園芸・エク
ステリア 20.1%
家庭日用品
 20.0%
園芸・エク
ステリア
3 18.9%
用具・素材 19.8%
園芸・エク
ステリア 20.2%
園芸・エク
ステリア 19.9%
家庭日用品
 20.0%
園芸・エク
ステリア 19.9%
家庭日用品

4 11.1%
インテリア
 9.6%
インテリア 9.0%
インテリア 8.8%
電 気 8.5%
インテリア 8.2%
電 気
5 9.1%
電 気
 9.6%
電  気 8.8%
電  気 8.7%
インテリア 8.3%
電 気 8.1%
インテリア
6 7.7%
カー・アウ
トドア 6.9%
カー・アウ
トドア 7.3%
カー・アウ
トドア 7.2%
カー・アウ
トドア 6.8%
カー・アウ
トドア 6.8%
カー・アウ
トドア
*表の構成比は当該年度の数値を使用。

<表2>:大分類による売上構成比順位と対前年度比
順 位 大  分  類 売 上 構 成 比    (サンプル52) 対 前 年 度 比
(サンプル52)
1 DIY用具・素材 21.8% 102.1%
2 園芸・エクステ
リア 20.0% 101.7%
3 家庭日用品 19.9% 101.6%
4 電 気 8.2% 99.4%
5 インテリア 8.1% 96.9%
6 カー・アウトド   
ア 6.8% 100.4%
 (サービス業務) 2.7% 101.3%
*表は売上構成比の多い順にランク付け。

 表1と表2を見るとわかるように、2007年度(第19回調査)と2006年度(第18回調査)を比べても、大分類では商品構成比がほとんど変わっていないことがわかる。ただし、大分類の売上構成では、昨年度に続いて「DIY用具・素材」が最大の構成比率になっている(21.8%)。売上の伸び率は+2.1%である。後に述べるように、中分類では伸びが高いカテゴリーとそうでもないカテゴリーに二極化している。
今回の調査で、売上構成比が2番目に大きなカテゴリーは、「園芸・エクステリア」(20.0%)であった。3番目の「家庭日用品」(19.9%)と、売上構成比で順位が逆転した。以下、<表2>を見ていただくとわかるように、「インテリア」(8.1%)、「電気」(8.2%)、「カー・アウトドア」(6.8%)となる。
前年度と比べて、この3部門の構成比にはほとんど変化が見られない。この3つのカテゴリーは、HCにおける商品カテゴリーとしては相対的に重要度が落ちてきている。長期的には「ノンコア」カテゴリーになりつつあるのだが、今年度に限っては、構成比の低下は止まったように見える。これが永続的な傾向かどうかは、次回の調査を見てみないと、何とも明確なことは言えない。
「サービス業務」のカテゴリーは、昨年度(2006年度)は売上の伸びが止まった(+0.0%)が、今回(2007年度)は微増に転じた(+1.3%)。なお、商品サービスが分類不能な「その他」が大幅に伸びている(構成比で7.5%、伸び率が+8.4%)。
「園芸・エクステリア」は、3年度(2005年度、2006年度、2007年度)に亘って、カテゴリー売上構成比には変化がなかった(20.0%→20.0%→20.0%)。「家庭日用品」(19.9%→20.1%→19.9%)も同様であるが、売上の絶対額は伸びている(それぞれ、+1.7%と+1.6%)。
 以上の調査結果を見ると、これまで3年間に亘って主張してきた予測を修正する必要が出てきたかもしれない。データの背後にある要因と根拠を要約してみる。

(A)「電気」の売上停滞
 2003年度以来、大分類項目の「電気」は隔年ごとに売上の増減を繰り返してきたが、今回調査(2007年度)でも売上減(-0.6%)となり、直近2回の調査で連続して、売上の絶対額が減少している(2006年度も-1.7%)。ヤマダ電機など、家電ディスカウント業態の業績が好調な上に、価格優位性が明確である。HCの電気用品売場は、家電ディスカウンターとの戦いで厳しい状況にある。郊外立地のSC内に、家電ディスカウンターが出店することが多く、さらに競争圧力が強まる傾向がある。将来的には楽観が許されない。
 
(B)「カー・アウトドア」と「インテリア」部門の未来
「カー・アウトドア」が今回調査では対前年度比でプラスになった(+0.4%)。「インテリア」の部門は、対前年度比では大幅にマイナスを記録している(-3.1% )。両部門に共通な要因は、他の業態に強力な「カテゴリーキラー」が存在しているからである。
「家庭日用品」は、ドラッグストア(マツモトキヨシ、セイジョー、サンドラッグなど)と100円ショップ(ダイソー、キャンドゥなど)、「インテリア」は、ホームファニシング・家具(ニトリとイケア)である。2つの部門が長期低落傾向を止められるかどうかは、商品企画と販売の面で、専門分野を独自の部門として持ちうるかどうかにかかっている。

(C)「DIY用具・素材」と「サービス業務」は専門性で独走
「DIY用具・素材」は、5年間に亘って対前年度比で売上が伸びている。その理由は、「DIY用具・素材」がHC業態のコア部門だからである。他の業態には、強力なライバルが存在していない。この部門は、「プロユース対応」(建築、工事、農業分野など)を対象としており、まだ売上の増加が見込める分野である。「サービス業務」は、HC企業の経営方針しだいで政策の重点が分かれる。サービス業務を強化する企業は、まだ部門としての伸びが期待できるだろう。

(3)売上動向(中分類)

<表3>:中分類による売上構成比の傾向
順 位 中分類 第18回
サンプル56 第19回
サンプル52 
傾 向
1 日用消耗品 12.1% 12.0% 

2 家庭用品 8.0% 7.9% 

3 ペット 7.5% 7.5% 

4 園芸用品 6.3% 6.5% 

5 教養・娯楽 5.1% 5.1% 

6 木材・建材 4.9% 4.8% 

7 電気・照明 4.6% 4.5% 

8 インテリア 4.6% 4.3% 

9 家具・収納用品 3.9% 3.8% 

10 家電製品 3.7% 3.7% 

11 建築金物 3.3% 3.1% 

12 園芸生物 3.2% 3.2% 

13 エクステリア 3.0% 2.9% 

14 道具・工具 2.8% 2.8% 

15 カー用品 2.8% 2.8% 

*ただし第18回(56社)と第19回(52社)は、完全に同一企業ではない。
 
以下では、商品分野別売上高を中分類のくくりで見ていく。

今回の調査では、売上高が前年度と比べて5%以上伸びた中分類の部門は2つしかなかった。この5年間では一度も見られない現象である。2部門ともに、大分類では「DIY用具・素材」に含まれている分野である。「水道・ガス・配管」(+5.3%)、「住設機器・器具」(+8.7%)である。なお、住宅関連では、「作業用品」(+3.0%)の売上高がやや伸びている。
今回調査(2007年度)において住関連以外で売上高が伸びているのは、「家庭用品」(+3.0%)である。「園芸・エクステリア」の「園芸生物」(+2.8%)、「ペット」(+2.3%)も前回調査(2006年度)に続いて売上高は伸びている。
売上高を大きく減らした中分類カテゴリーは、今回はかなり多くなっている。特に大分類では、「インテリア」の落ち込みが激しい。中分類で減少率の大きい順番に並べると、「家電製品」(-4.2%)、「インテリア」(-4.0%)、「電動工具」(-2.6%)、「家具・収納用品」(-2.1%)となる。
大分類の「カー・アウトドア」に属する中分類の商品群では、昨年度に引き続いて、「自転車」(-0.8%)が対前年度比マイナスである。「カー用品」(+1.0%)と「レジャー・スポーツ」(+0.7%)は、わずかながら売上高を回復させている。
前回調査(2006年度)では、上昇幅が大きかった住宅建築関連の「DIY用具・素材」や「サービス業務」の中分類部門はマイナスではなかったが、今回調査(2007年度)における同部門のほとんどが、およそ1~2%の成長率だった。例えば、「増改築・リフォーム等」(+1.9%)などが典型的である。

(4)全体総括と今後の経営提案
最後に、調査全体を総括してみる。例年の方式にしたがって、5つの視点(HC業態の商品・サービス機能、HC業態の最適店舗規模、小売業の立地変動、新しい店舗運営形態の登場、企業統合の視点)からHC業態の現状を整理してみる。HC業界の位置づけと経営提案に繋げるためである。最初の4つは、前年度(2006年度)に引き続いての項目である。最後の5つ目だけ、今年度(2007年度)の調査報告書からはじめて、項目として付け加えたものである。

(A)HCが提供する商品・サービス機能
総括部分を担当するようになって、今回で6回目の調査(第14回~第19回)になる。データを分析する機会を得ることになったこの間は、HC業態では、取扱商品やサービス業務の構成に変動が起こりはじめた時期であった。その流れは、ようやく安定しかけているように見える。
HCの住宅関連部門では、サービス業務の扱いが拡大してきた。さらに調査を遡ると、10年ほど前からこの傾向は始まっていた。前々回調査(2005年度)では鈍化の傾向が見られたが、前回調査(2006年度)で再び上昇に転じた。今回は安定する流れに戻っている。住関連商品はHC小売業にとっては利益の源泉である。アフターサービスの充実は高い利益を生み出す源泉である。
園芸植物やペットは、生活の中に潤いを与える。リフォーム、インテリア、エクステリア用品などの充実は、生活環境を改善する。そのための作業工程には、職人や専門家の知識が必要とされる。HCで売上が伸びているのは、ライフスタイル提案、生活改善・向上のための商品と素材である。この分野では、従来以上に多様な品揃えが求められている。広い商圏、深い品揃えが、店舗規模の拡大に合理性を与えている。店舗競合を考慮すると、どうしても売場面積を大きくせざるを得なくなる。
HC業態はセルフサービスを基本に発展してきた。しかし、商品部門間で専門性の要求に違いが出てくると、販売員にも求められる専門知識に違いが生まれてくる。一般管理部門(ゼネラルスタッフ)と専門職(スペシャリスト)に、採用教育のキャリアパスに別ルートを準備しなければならないだろう。以下の視点を今回調査でも確認しておきたい。
「DIY小売業は、生活を改善するための素材と加工技術を伝授する場に変わっていく。それ以外の機能は、ドラッグストア、カー用品店、ディスカウントストア、ホームファーニシング企業など、カテゴリーキラーを擁する競合業態に移っていく」。

(B)HC業態の最適店舗規模:小商圏型HCはいまの時点では有効か
原油価格・ガソリン価格の上昇は、消費者のショッピング行動に3つの結果をもたらしている。買い物頻度(回数)の低下、買い上げ点数の減少、価格に対する感度の上昇である。売場面積が増えても、客単価が上昇しない原因はそこにある。
このところのガソリン価格の上昇は、特に大規模店舗の「大商圏」の優位性を打ち消す方向に帰結している。今一つわからないのが、「まとめ買い(ワンストップ・ショッピング)」の効果である。今回調査でも、データだけで見ると、面積規模にはスケールメリットがあることが観察されている。そして中小型店舗および中小チェーン店は、相変わらず苦戦が続いている。ただし、今回調査では、売場生産性と従業員一人当たり生産性(売上高、粗利益額)に関して企業規模の格差は縮まっているのである。
コメリ以外の業態で、小商圏タイプのHCの成立条件があるのか、もう数年を見てみないと結論は難しそうではある。
 
(C)小売業の立地変動:都市型DIY店の可能性
退職年限が多少は延びたとは言え、昨年(2007年)から団塊世代(昭和22年~24年生まれ)の大量退職が始まった。郊外から都心部への「人口逆流」が始まっている。本来は郊外に生存領域を持っていたチェーン小売業(「しまむら」や「幸楽苑」)が郊外の単独店での展開に加えて、郊外SC内や都心ビル(駅ビル内)にも出店するようになった。顧客の移動や自社業態に合わせての立地変動である。
郊外から生まれたHCでも、首都圏で活動している複数企業が都心出店を開始している。都心ターミナルビルに出店している「東急ハンズ」や「LOFT」とは異なる品揃えのHC企業の出店である。都心部へ回帰した夫婦世帯(ただし、子供なし)の基本ニーズは、従来型のHC店舗で提供されていた商品では満たすことができないが、彼らは子育て時にHCの商品やサービスを経験している顧客である。また、非婚・単身世帯など、都心部に居住している裕福な世帯は、小サイズの商品など異なるバラエティを求めている。
この2つのセグメント(「空の巣セグメント」と「非婚セグメント」)は、配送サービスなどについては共通する部分が多い。品質に対する要求については、従来のDIY商品よりは数段高めに設定すべきである。対象顧客としては、付加価値が高いプレミアム商品を販売できる優良顧客である。高価格でも商品とサービスについては「上質な仕様」を求めてくる。なお、後者のセグメントは、専門的なHC商品についてネット販売の比率が高まる場合も考えられる。
本調査結果総括を書き始めて6年になるが、予想が的中した。平成21年度から、セブン&アイ・ホールディングスグループが都市型HCを開発することがマスメディアで発表されている。それ以外にも、これまでHC業態を持たないドラッグストアなどの連合体が、首都圏などの都市部でミニHC業態を展開する可能性がある。狙いとしては、案外、エキナカ店舗での開発が考えられる。

(D)店舗運営形態の新しい形:百貨店化するHCの売場
日本のHCは、1970年代に米国から取り入れられた業態である。郊外に生まれたセルフサービス業態を特徴としている。総合スーパーが同じだったように、その後の国内でのHC業態は、商品構成が米国とはやや異なってしまった。「日本的なHC小売業」を完成させている。
セルフサービス形式での店舗運営は、米国がHCのモデルになっている。例外は、「園芸」、「ペット」、「クリーニング」、「ドラッグ」などの商品分野とサービス部門である。これまでの2回の調査報告書(第17~18回)では、「(サービス業務志向)の行き着く先(サービス施行)にあるのは、“店舗運営におけるHCの百貨店化”」であると主張してきた。
近未来型のHC店舗運営の実例として、(株)アイリスオーヤマの「Simple Style」(「ショップ・イン・ショップ」の形での内への出店)と、日用雑貨・卸小売業者で包装資材メーカーの㈱シモジマ(ジョイフル本田への出店計画)を取り上げた。2年が経過して、両企業の売場委託事業は、期待通りの成果を収めていない。どうやら、筆者の主張「ショップ・イン・ショップ」での売場運営は、近未来的過ぎたと思われる。どちらもHCとの提携からは引いてしまっている。結果としては、HC自らが専門性を磨く方向に全体として動いているように見える。

(E)企業統合をどのように考えるか:収益性の観点から
HC企業の経営統合は急速に進んでいる。他の業態と比較すると、それでも集中度は中位である。上位企業への集中はまだ進む可能性が高い。それではHC業界内で統合が進んだ結果、全体の収益性は高まるだろうか。
いま流行のPB開発によるコスト低減、商品調達面でのスケールメリットは間違いなく生まれる。上位企業が圧倒的に優位に立つので、収益力は増すことにはなる。長期的には、高い収益性は、M&Aを通してだけでは達成できない。すでに、最近の企業統合での結果が表れ始めている。収益性の高まりは、ユニークな事業開発であり、事業規模拡大による同質過当競争からは高収益企業は生まれない。商品調達、商品政策、立地戦略面で、これまでになかった新しいHCが誕生しないことには、HC業態の収益力向上は、これ以上は期待できそうにない。

HC企業を取り巻く現在の経営環境は、かつてなく厳しいものがある。昨年までとはまた、別の意味でその重さが違っている。消費者意識の変化、業態外から競争圧力、調達のグローバル化と同時に進行する「安心・安全志向」。生活者にとって、ホームセンターは住生活を中心とした日々の生活を豊かに演出してくれる産業である。HC企業が革新的なアイデアを提供できた分、それだけ住まいに関わるわれわれの生活が豊かになっていく。それがHCの社会的な責任である。人々の日常生活に貢献できるために、小売サービス業は存在している。内向きになったときに、小売業は固い壁に突き当たるのである。