「MPS(花き産業総合認証プログラム)の普及状況とこれから」『日本農業新聞』2007年4月3回連載

第一回「MPS導入の背景と普及目的」



 MPS認証マークのついた花の市場出荷が、先月26日からはじまっている。MPSに参加を表明した農家のうち、元旦から農薬・化学肥料・エネルギーなどの使用に関するデータを記録してきた生産者が、市場出荷用のパッケージに「MPS参加者マーク」(+「国産マーク」)を表示できるようになったからである(写真)。今回の連載では、MPS普及の狙いと現状、および来月に予定されている小売店頭でのテスト販売の計画などについて、3回にわたって報告したい。
MPSは、オランダで生まれた花き産業の国際認証プログラムである。「環境にやさしい花栽培」の認証制度として世界34カ国で普及が進んでいる。MPSそれ自体は花産業全体をカバーする総合認証制度である。本来は、流通段階の認証プログラム(MPS-Florimark Trade)も含むものであるが、欧州経済圏(アフリカ、中南米を含む)で一般に普及しているのは、生産段階の認証プログラム(MPS-Florimark Production)である。このプログラムは通常、MPS-ABC(A,B,Cはランクを表す)と呼ばれている。
MPSは現在、中国・インドなど、アジアの花生産国でも導入が始まっている。日本では、昨年8月にJFMAがMPSジャパンを設立し、今年1月1日から栽培データの記録が始まっている。ちなみに、お隣の中国では、北京オリンピックが開催される2008年春に、MPS認証マークがついた切花を海外に向けて輸出したいと報道されている。ターゲットは、アジア最大の花消費国、もちろん日本市場である。
競争激化や輸入急増、環境対応への配慮が、MPSの日本への導入の主目的である。しかし、MPSに取り組む狙いはそれだけではない。オランダ本部との導入交渉過程でJFMAがとくに意識したのは、以上の要因に加えて次の3つの点である。第一に、高温多湿な日本の栽培環境を配慮した認証システムにすること。第二に、農薬・化学肥料・エネルギーコストの削減に貢献できる栽培プログラムを実現し、花生産者の経営改善に資すること。第三には、「安心・安全の花のブランドマーク」として、小売店頭でPOPや販売用タグにマークを活用し、花の販売拡大に寄与できるマーケティング仕組みを生み出すことであった。

第二回「MPS-ABCへの参加状況」

先月末の段階で、MPS-ABCへの参加者数は、先進的な切花生産者を中心に全国34農家に拡大している(4月2日現在)。品目としては、バラ、キク、カーネーション、トルコキキョウ、ユリ、その他(カラー)など、とくに偏りのないバランスの良い構成となっている。MPSへの参加者は現状では個選農家が中心であるが、複数の大型産地がMPSへの参加を真剣に検討している。
MPSジャパンの設立を決めてからこの間、日本独特の制度でもある「共選部会」(共選産地)が団体としてMPSへ参加しやすくするように、JFMAはオランダMPS本部と粘り強く交渉を進めてきた。大規模生産を前提にしたオランダの認証システムそのままでは、日本の農業生産の実情にそぐわないことをその際に強く訴えてきた。結果として、「共選モデル」と呼ばれる特別な制度を日本に限って承認してもらうことになった。すなわち、農場の監査は農家一軒一軒で個別に実施するが、MPSの認証マークは共選部会にひとつだけ付与することが可能となったのである。
栽培データの提出は、1月1日から始まっている。新年早々は慣れないこともあって若干のトラブルもあったが、データ蓄積は順調に進んでいる。なお、法政大学で開催された国際セミナー(1月19日)で、スウェーデンに本社がある世界最大の家具小売チェーン「イケア」の日本法人(Ikea Japan)が、MPSマークのついた商品を優先的に国内調達することを言明した。そのことの影響もあって、大手鉢物生産者のMPS参加が現在加速している。
MPS参加者は、年齢的に若いことが特徴である。親子で切花を生産している農家にたずねてみたところ、「花でも環境対応は当たり前!」と主張する前向きな子供が渋る親を説得してMPSへの参加を決めたケースが目立っていた。また、女性経営者の農家(法人組織)がMPSに対して積極的であることがもうひとつの特徴である。
なお、次回で紹介する首都圏の小売店でのテストマーケティングを含めて、販売面での今後の計画説明、参加者の相互交流、MPSの学習会を実施する必要性を感じていたので、「MPS参加者ネットワーク協議会」を発足するになった。第一回の会合は、JFMAとMPSジャパンの共催という形で、4月17日に法政大学(JFMA本部)で開催される。MPSへの参加を検討している生産者は、オブザーバーとして参加することが可能である(連絡先:JFMA:03-3238-2700)。

第三回「MPSのプロモーション計画: テストマーケティング、フリーペーパー」

オランダ本国では、「BtoB取引」(業者間取引)に限定したマーケティング手段としてMPSのマークを活用してきた。MPS(-ABC)のマークが鉢物のスリーブについた状態で小売店に届くことはあっても、切花についてはそれが環境に配慮されたものであるかどうかについて消費者が知る機会はなかった。しかし、MPSジャパンでは、オランダ流のマーケティングのやり方に変更を求めている。すなわち、MPSの認証マークを花の販売促進手段として用いようという提案である(BtoC取引への適用)。
そのため、5月以降で市場に出荷される「MPS参加者マーク」のついた花(鉢物だけでなく切花も!)について、首都圏の複数小売チェーンでテストマーケティングを実施することを計画している。JFMAに加盟している大手花専門店チェーン(フロレアル、青山フラワーマーケット、花良品、小田急ランドフローラなどを予定)の店頭で、MPSのポスターを掲示し、販売促進の対象となる花束にMPSのロゴマークやタグを付ける予定である。MPSが環境に配慮して栽培された花であることを消費者に訴えるためである。また、テストマーケティングの活動を通して、MPS生産者と流通業者が共同で花のプロモーションに取り組んでいることを、メディアを通して一般の人たちにアピールするためである。
5月24日に、JFMAは花のプロモーションのための「フリーペーパー」の第一号を発行する。この企画は、ライフスタイル雑誌「PLANTED」(毎日新聞社)と共同で実施されるものである。5万部のフリーパーパーがPLANTEDに綴じ込まれて、全国の書店やコンビニにお目見えする。しかも、第一号の紙面のほぼすべてが、MPSの特集に充てられる。
なお、オランダにおけるMPSの普及は、合併を表明している二つの市場(アルスメールとフローラホランド)が促進したという歴史がある。日本においても、MPSの速やかな普及には市場のバックアップが必須である。JFMAでは、昨年来「MPSプロモーションプロジェクト」(座長:福井博一岐阜大学教授)を設けているが、そこには首都圏の有力市場(大田花き、FAJ、世田谷市場、東日本板橋市場)の代表者がメンバーとして参加している。おかげさまで、農水省花き対策室からの支援も含めて、いまのところは花業界全体でMPSの普及活動が展開されている。