「値段のひみつ」 2章 主婦の腕の見せ所 -やりくり上手の母の疑問

誰にも聞けなかった値段のひみつ(冒頭部分の2話をプレビューします)
「スーパーの特売ってどういう仕組みになってるの?」


キョウコ 毎日、新聞にたくさんチラシが入ってくるんですけど、一番ありがたいのはスーパーの特売のチラシなんですよね。
小川 スーパーで特売される商品って、どんなものが多いでしょう?
キョウコ そうですね……。カップ麺とか牛乳、卵などでしょうか。
小川 一つは、そうした日配品※ですね。ほかにはどんな商品が、チラシに良く特売で載るでしょうか?
キョウコ ティッシュペーパーとかトイレットペーパーは良くありますね。12ロールいくらっていうやつ。
小川 同じ種類のものとして、サラダ油とかしょう油、味噌なんかがありますよね。こうした商品は、しょっちゅう買うのですがストック性があります。特売の対象になるのは、だいたいストック性がある商品と日配品の2種類です。
キョウコ 言われてみるとそのとおりですね。なぜこれらは特売できるんでしょう?
小川 ストック性のある商品は、まとめ買いをすることができます。売る側もまとめてドーンと買うことができるため、特売ができるのです。
キョウコ 日配品の場合はどうなんでしょう?
小川 “協賛”と言って、メーカーはスーパーの棚を貸してもらう代わりに、リベートをスーパーに渡したり棚賃を払ったりします。また、最初から取引条件を変えて、安く納品する場合もあります。以上のような手法で、日配品も含めて安くしているわけです。メーカーとしても、一度に大量の在庫がはけるので、むしろこうした取引がないと困るのです。スーパーにとって、特売商品の利益は薄いのですが、損はしていません。
ところで、特売商品は店舗の中でどこに置かれているでしょうか?
キョウコ スーパーの入り口とか、棚の端っこですね。
小川 長いスーパーの棚の端に商品を置くことを、エンド陳列と言います。ストックができる加工食品などは、目立つように大量にエンド陳列されて特売されるわけです。チラシに載せるなどして、プロモーションで売る棚ですね。
キョウコ では、エンド以外の棚の役割はどうなっているんでしょう?
小川 それを定番棚と呼びます。つまり、いつも店にある定番商品が置いてあるわけです。一方で、エンド陳列の商品は、だいたい1週間程度のローテーションでグルグル回っています。そこに、特売商品を置き、お客さんを惹きつけるのです。
キョウコ 特売する商品の利益が薄いのなら、スーパーはどこでもうけてるんでしょう?
小川 エンド陳列する特売商品でお客さんを呼び、定番棚の商品を買ってもらって利益を出しているのです。お客さんを呼ぶために特売する商品を、ロスリーダー※と呼びます。洗剤などは、8割がセールスプロモーション(SP)※で売られています(表)。
キョウコ 確かに、洗剤とかトイレットペーパーって、特売以外で買った記憶がないですね。
小川 お客さんを惹きつけるための目玉になる特売商品を提供しているメーカーは、ローテーションで各メーカー順番に安売りを展開する傾向があります。L社→P社→K社→L社→…といった具合です。
キョウコ なぜでしょう?
小川 お客さんのなかには、いろいろなメーカーのファンがいますから、特定のメーカーを優遇するわけにはいかないのです。また、さまざまなメーカーの商品が特売されたほうが、陳列に動きが出ます。
キョウコ いつも同じだと、店が変わっていない印象を受けてしまうでしょうね。
小川 店頭の雰囲気を変えるということも、スーパーにとってはとても大切なことなんです。

ポイント
 大量調達やメーカーからのリベートなどによって、特売が行われている。
 特売をすることによってお客さんを呼び、ほかの定番商品を売ってもうけている。

◆SP商品の比率の図表を入れます。

「タマゴの値段はなぜ変わらないの?」

キョウコ 「タマゴは物価の優等生」なんて言葉を聞いたことがあるんですけど、タマゴの値段って本当に昔から変わってないんですか?
小川 本当です。卸売り価格を見ると、30年前と比べると、変わらないどころか安くなってすらいます(表)。さらに言えば、50年前とくらべても安く、まさに「優等生」と言えるでしょう。
キョウコ へえ、やっぱり。でも物価は当然上がってますよね。
小川 消費者物価指数で見ると、物価は30年前の3倍以上になっています。
キョウコ 物価が上がっているのに、なぜタマゴの値段は維持されているんでしょうか?
小川 僕らが子どもだったころ、つまり1960年代を思い出してみてください。タマゴって、どんな存在でした?
キョウコ いまよりもっと高級なものだった気がします。「巨人、大鵬、タマゴ焼き」なんて言ってたぐらいですから。いまみたいに、いつでも手に入るという感じではなかったですね。
小川 そう、タマゴはちょっとしたぜいたく品だったように思います。そのタマゴの生産量は、1965年にくらべ、約2・5倍になっています。いまでは毎日のように食べる、普通の食材ですよね。
タマゴの生産量は増えているのですが、一方で、鶏飼養農家の数は100分の1近くまで激減しています(表)。
キョウコ つまり、農家1戸が飼っているニワトリの数が急激に増えているんですね。
小川 私が子どものころ、ニワトリは庭に放し飼いにされていました。勝手にミミズとか脱穀したときに落ちた米粒なんかを食べて、その辺にタマゴを産んでいたんです。戦前は、タマゴを専門に生産していた農家でも、こうしたニワトリの数が平均10羽程度の「庭先養鶏」が主流でした。
 それが、50年代には「集団養鶏」がはじまり、60年代にはヒナからタマゴの出荷まで一貫した「団地養鶏」に発展しました。ケージにニワトリを大量に入れて、大量生産する手法です。合理化はどんどん進み、99年時点で、1農家あたりのニワトリの数は3万羽近くになっています。
キョウコ すごい数ですね。
小川 それだけではありません。品種改良やホルモン注射などによって、ニワトリ1羽あたりの産卵量は、65年にくらべ2倍近くに増えています。生産効率がものすごく上がっているわけです。
キョウコ なんだか工場みたい。
小川 まさにそのとおりですね。いまは、1つの鶏舎で4-8万羽が飼養されており、えさ、水を与えることから、タマゴを集めパックに詰めることまで、完全にコンピュータで管理されオートメーション化されています。
徹底的に合理化、省力化がはかられているため、一人で5~6万羽のニワトリを管理することもあります。
キョウコ タマゴの値段が変わらないわけだわ。
小川 もう一つ大きな理由があります。ニワトリの飼料はトウモロコシなどで、95%が輸入されています。1ドル=360円の時代とくらべると、長期的に見れば円高が進んでいるため、飼料の値段は安く保たれています。
キョウコ タマゴが安いままなのは、主婦にとってはありがたい話ですね。タマゴは毎日使いますから。ただ、まるで工場のようにタマゴが生産されているのには違和感を感じます。ニワトリも動物ですから……。
小川 確かに健康的とは言えないかもしれませんね。私は、子どものころ食べていたタマゴ焼きのほうがおいしかったような気がします。

ポイント
 徹底した合理化によるコストの削減で、タマゴの値段は安く維持されている。
 円高によるニワトリの飼料価格の低下も、タマゴの値段を低くしている。

◆タマゴの卸売り価格、養鶏農家、タマゴの生産個数、消費者物価指数の推移の図表を入れます。