日経ヒット塾の「伝えるメカニズム(下)」では、サントリーのレモンジーナとヨーグリーナを取り上げた。SNSの登場で、マス広告だけで新製品の販売動向をコントロールすることが難しくなってきている現実と、制御不能になるメカニズムを実例で示した。
「伝えるメカニズム(下):ネット広告 制御難しく」
『日経MJ』2016年4月17日号
文:小川孔輔(法政大学経営大学院) 最終版:2017年4月21日
『日経MJ』2016年4月17日号
文:小川孔輔(法政大学経営大学院) 最終版:2017年4月21日
3つのメディアが相互作用してヒットが生まれるメカニズム(環メディア現象)は、一般消費財のヒットにも拡張できる。具体的な事例として、2015年にヒットしたサントリー食品インターナショナルの飲料「レモンジーナ」(3月31日発売)と「南アルプスの天然水&ヨーグリーナ」(4月14日発売)のケースを取り上げる。
どちらの場合も、発売直後にSNSを介して話題が沸騰し、発売からわずか数日間で年間目標の出荷量を大きく上回った。発売2日目(レモンジーナ)と3日目(ヨーグリーナ)に店頭で品薄となり、サントリーは製品を一時的に「発売中止」にせざるを得なくなった。
いずれも大ヒットになったが、一方では供給が間に合わないほど大きな需要が瞬間的に生まれてしまった。その背景には、SNSの登場でメディア環境が激変したことがあげられる。
どちらの場合も、発売直後にSNSを介して話題が沸騰し、発売からわずか数日間で年間目標の出荷量を大きく上回った。発売2日目(レモンジーナ)と3日目(ヨーグリーナ)に店頭で品薄となり、サントリーは製品を一時的に「発売中止」にせざるを得なくなった。
いずれも大ヒットになったが、一方では供給が間に合わないほど大きな需要が瞬間的に生まれてしまった。その背景には、SNSの登場でメディア環境が激変したことがあげられる。
メーカーのマーケティング活動を制御不能にしてしまうメカニズムは、アイドルとキャラクターの事例(上)で示した「コクーンブレイク」のモデルで説明できる。ただし、大手飲料メーカーが販売する消費財の場合は、アイドルに関心をもつ小さな「コクーン」(100人~300人)を、既存のサントリーブランドにロイヤルな大きな「ファン層」(数百万人)で置き換えて考える必要がある。
レモンジーナには「オランジーナ」が、ヨーグリーナには「南アルプスの天然水」という人気の親ブランドが存在していた。新製品の発売前に、親ブランドにはベースとなる固定客がいたことがわかる。親ブランドのファン層に対して、サントリーは新製品の発売2か月前から大規模なサンプリングキャンペーンを実施した。拡張ブランドであるレモンジーナの認知度を高め、発売後のトライアルのベースを作っておきたかったからである。テレビCM以外にも、インターネット広告にも投資をしていた。
しかし、レモンジーナの場合は、偶然の出来事が数日後の販売休止につながってしまった。試供品を飲んだファンのひとりが、発売前日に「レモンジーナは土の味」というコメントをSNSに書きこんだからである。その瞬間にTwitterの投稿数が急増し、翌日(発売日)には前日の5倍(10万件)に膨れ上がった。NAVERまとめなどのキュレーション・サイトでも「土の味」が話題になった。販売中止が伝わると、その衝撃がソーシャルメディア上をかけめぐり、翌日の投稿数は25万件に達している。それに続いてテレビや新聞などがその話題を大々的に取り上げ、一般人がレモンジーナのことを知ることになった。
レモンジーナには「オランジーナ」が、ヨーグリーナには「南アルプスの天然水」という人気の親ブランドが存在していた。新製品の発売前に、親ブランドにはベースとなる固定客がいたことがわかる。親ブランドのファン層に対して、サントリーは新製品の発売2か月前から大規模なサンプリングキャンペーンを実施した。拡張ブランドであるレモンジーナの認知度を高め、発売後のトライアルのベースを作っておきたかったからである。テレビCM以外にも、インターネット広告にも投資をしていた。
しかし、レモンジーナの場合は、偶然の出来事が数日後の販売休止につながってしまった。試供品を飲んだファンのひとりが、発売前日に「レモンジーナは土の味」というコメントをSNSに書きこんだからである。その瞬間にTwitterの投稿数が急増し、翌日(発売日)には前日の5倍(10万件)に膨れ上がった。NAVERまとめなどのキュレーション・サイトでも「土の味」が話題になった。販売中止が伝わると、その衝撃がソーシャルメディア上をかけめぐり、翌日の投稿数は25万件に達している。それに続いてテレビや新聞などがその話題を大々的に取り上げ、一般人がレモンジーナのことを知ることになった。
ヨーグリーナでも、SNSを起点にして新製品に関する話題が瞬時にネット上を駆け巡った。今度の場合は、ポジティブなコメントが販売休止の引き金になった。たとえば、「透明なのにヨーグルト味」「天然水なのに美味しい」などだ。しかし、発売中止の発表が、キュレーション・メディを介してテレビへの露出を促してヒットを生み出したプロセスは同じだった。
SNSの普及などで、消費関連企業は新製品の発売などに際して、予期せぬ消費者の反応に遭遇せざるを得ない。売れ行きを見ながら広告投入などを慎重にしたとしても、現状ではネット上の反応までコントルールすることは難しいようだ。
SNSの普及などで、消費関連企業は新製品の発売などに際して、予期せぬ消費者の反応に遭遇せざるを得ない。売れ行きを見ながら広告投入などを慎重にしたとしても、現状ではネット上の反応までコントルールすることは難しいようだ。
キーワードプラス:親ブランドと子ブランド
親ブランドは、「マスターブランド」とも呼ばれ、メーカーがカテゴリーで最初に投入し、確立したブランドを指す。子ブランド(拡張ブランド)は親ブランドと同じカテゴリーだが、フレーバーや原材料などで差別化しされた派生ブランドのこと。
親ブランドは、「マスターブランド」とも呼ばれ、メーカーがカテゴリーで最初に投入し、確立したブランドを指す。子ブランド(拡張ブランド)は親ブランドと同じカテゴリーだが、フレーバーや原材料などで差別化しされた派生ブランドのこと。