本HPのシリーズ(Research&Reports)として、しばらくの間、中国を中心にした東アジア諸国の流通マーケティングの現状を要約して紹介していくことにする。二年前から「文部科学省・科研費補助金(基盤研究B)」を受けている。成果発表という意図でもある。今回は、中国のコンビニエンスストア業界についてである。
先月(2008年5月)、セブン-イレブンが、上海地区でコンビニエンスストアをFC展開すると発表した。たしかに、北京地区では、セブン&アイ・グループは、イトーヨーカ堂の店舗展開、セブン-イレブンのコンビニエンスストアの出店では、日本同様に成功しているように見える。しかし、すでに総店舗数が5000店を越え、市場は飽和の状態にある上海地区で、日系のコンビニエンスストアは苦戦している様子がみえる。
そうした厳しい市場の下で、敢えてFC展開を志向するセブン-イレブンの真意はどこにあるのだろうか?中国のコンビニ業界の概況と歴史をまとめてみた。店舗効率、経営指標は、日本のほぼ3分の一であると考えてよいだろう。例えば、平均日販は、日本が50万円に対して、中国は15万円である。売場面積も、日本が約300㎡に対して、約100㎡である。なお、苦戦しているとはいえ、平均日販などは、日系コンビのほうが民族系よりは20~30%ほど高い水準にある。
歴史的に見ると(例えば、日本の1970年代)、外資に対する流通規制が解かれた後は、民族系企業の淘汰か外資との合弁、あるいはM&Aの進行が予想される。中国の国内政治とそれを反映した国営企業の位置づけが将来の鍵を握っている。
以下は、中国コンビ二市場の概況である。
<中国のコンビニ市場>
・2007年のコンビニ店舗数は1万2,816店、売上高は187.5億人民元(1人民元=15.2 円(以下同)として、約 2,851億円)、1店舗当たり146万元(2,219万円)。中国のグローサリー関連小売業態の中でコンビニの占める割合は、0.8 %。
(データ出典:”Retali–China”, Euromonitor International, 15 May 2008、”Convenience Stores–China”, Euromonitor International, May 2008 いずれもGlobal Market Information database (GMID)データベース)
<コンビ二・チェーン>
・上位チェーンは「快客」(Quick)2,200店、「好徳」1,850店、「可的」(Kedi)1,245店、「セブン-イレブン」(広東)1,298店(セブン・イレブン・ジャパンが直接出資する北京は60店 広東、深せんのエリア・フランチャイズは従来米国のセブンイレブンが管理)と、店舗数では中国系チェーンが上位にある。
(データ出典:中国連鎖経営協会、各社ホームページ、および上記GMIDデータベース)
・他の日系コンビニでは、1996年に上海に進出し、先行していた「ローソン」(「羅森」)の店舗数が2006年291店、2007年287店(いずれも年末)と微減、また「ファミリーマート」(「全家便利」)は2004年の進出以来、まだ144店にとどまっている(2008年4月末、うち上海123店、台湾資本の「頂新」と組んだ台湾ファミリーマートの運営)。
<中国のコンビ二経営指標>
・コンビニ80社の平均値(2005年)で、各チェーンの平均売上額9.4億元(142.9億円)、平均店舗数530店。
店舗当たりでは、日商15万4,915円、平均売り場面積101㎡、1日当たり平均来客数743人、客単価13.8元(209.8円)、粗利率20.4%。経費構造を見ると、人件費32%(1万5,956元/人・年、家賃29% (877.95元/㎡・年)、光熱費等13%(平均4万元)、その他29%(補修費など)。純利益率は2.9%。
(データ出典:『中国連鎖経営年鑑』中国連鎖経営協会、2007年、コンビニ80社平均値(2005年))。
・1店舗あたりのパフォーマンスの点では、セブン―イレブン北京が1日あたりの来客数800人、日販1万元、ローソンが同600人・7000元、中国系では可的500人・5,500元、「快客」400人・4000元。(『中国における小売店チェーンの現状と将来性 2007』富士経済 数値は同社の中国調査にもとづく推計値(2007年))
・参考・日本のコンビニデータ(2007年) 日本のコンビニ店舗は4万929店舗、売上高7兆3,632億円。1店舗当り年1.8億円(日商49.3万円)、客単価588.8円、1店舗あたり人口3,122人(2007年、日本フランチャイズチェーン協会『コンビニエンスストア統計調査月報』データより計算)。
<中国でのコンビニ発展の歴史>
・中国のコンビニの歴史は新しく、1992年深圳に誕生したセブン-イレブンが第一号。
・中国では、コンビニの発展は、まず政府の流通近代化政策の一環として進められた。1995年から1997年末までに、国有小型食料品店や小型糧食店など約2万店が、コンビニへ業態転換された。
・1997年、上海でコンビニ発展の目安である1人当たりGDPが3,000ドルを超え、同市はコンビニの規模発展期に入った。1997~2002年には中国の地元企業の参入が相次いだ。このころ「快客」、「良友」、「可的」、「好徳」など中国系コンビニが登場した。外資系のコンビニはほとんど日系で、1996年「ローソン」、2004年「ファミリーマート」が上海進出。やがて、上海では1店舗あたりの人口が3,500人を切り、淘汰の時代を迎えた。2005年には総店舗数がマイナスに転じ、上海市政府主導で国有企業グループが統合された。上海のコンビニ店舗数は5,119店(2006年末、「上海連鎖商業協会」発表値)。
・外資苦戦の理由は政府の流通規制と現地化の遅れにある。政府は外資企業の出資形態、出資比率などに制限を課し、地方政府は地域保護主義の傾向がある。また中国では1店舗ごとに営業・衛生許可など細かい手続きが必要で、外資の出店が困難だった。フランチャイズ規制が解けたのがごく最近のことである。一方、中国系チェーンは急速に発展してきた。その要因は、市場の成熟の他に、地方政府の促進策がある。上海では、国有企業リストラ人員雇用店舗に補助金支給など、親会社の経営ノウハウ活用などによる。
・北京では2001年に1人当たりGDPが3,000ドルを超え、北京市政府が積極姿勢に転換、2003年以降コンビニ出店が加速している。
(以上、黄江明(こう こうめい)「第4章 中国コンビニエンスストアの成長と消費者の評価」『中国・アジアの小売業革新–全球(グローバル)化のインパクト』矢作敏行編、日本経済新聞社、2003年、および柯麗華(か れいか)「第6章 コンビニエンス・ストア業態の発展に関する比較」『現代中国の小売業–日本・アメリカとの比較研究』創成社、2007年参照)