拙著『ローソン』の著者インタビューが、JBPressに掲載されています。前後編で2回に分けて、紹介されています。今回は、前編です。
■タイトル
コロナ明けの2023年度に過去最高業績を記録、「不可能」と思われた目標達成を成し遂げたローソンの大変革の中身
■リード文
「ローソンはいずれセブン-イレブンを超える」──そう語るのは、3年にわたりローソンの取材と分析を続けてきた法政大学名誉教授の小川孔輔氏だ。コロナ期の業績低迷を乗り越え、2023年度には過去最高益を達成。V字回復はいかにして成し遂げられたのか。2025年4月に著書『ローソン』(PHP)を出版した小川氏に、同社の真の強みとされる「組織的な強さの中身」や、その強さを生み出す経営戦略・制度設計について聞いた。
■見出し①
ローソンが「セブン-イレブンを超える」と確信
■本文
──著書『ローソン』では、同社の業績が好調な要因と、大改革の舞台裏をひもといています。ローソンをテーマに選んだ背景には、どのような理由があったのでしょうか。
小川孔輔氏(以下敬称略) 最大の理由は、ローソンの社風に魅了されたことです。2015年当時、ローソン社長を務めていた玉塚元一氏を含む経営陣4人と初めてミーティングをした際、そのフランクで温かみのある企業文化に強く惹かれました。
そもそもの出発点となったのは、2015年4月に玉塚氏からいただいた1本の電話でした。玉塚氏とのご縁は偶然の産物で、法政大学経営大学院にファーストリテイリングの柳井正会長(当時)を1年間だけ客員教授として招いた際に、当時ユニクロの社長だった玉塚氏を紹介いただいたことが始まりです。
その電話では、私の著書『マクドナルド 失敗の本質』(東洋経済新報社)を読んで感動したので、ぜひ一度お話ししたい、とのことでした。明確な依頼があったわけではありませんが、学者としての私にローソンの経営を外部の視点から俯瞰し、分析してほしかったのだと思います。
その後、2年にわたりローソンの現場や人材、ビジネスの実態を見ていく中で、「ローソンはいずれ、セブン-イレブンを超える」と確信を持つようになりました。この考えは、本書の付録にも収録した『ローソンがセブン-イレブンを超える日』(『新潮45』2017年新春号掲載)でも詳しく述べています。
ローソンといえば、「プレミアムロールケーキ」に代表されるコンビニスイーツや、据え置き価格で重量や具材を増量する「盛りすぎチャレンジ」キャンペーンなど、食品分野での積極的な取り組みが印象的です。一方で、同社の組織的な特徴や内面的な強さは、あまり知られていません。
ローソンの真の強みは、常に挑戦を続ける姿勢と、それを支える社風にあると感じています。この魅力が広く伝わっていないのは非常にもったいない、と考えたことから、本書の執筆に至りました。
■見出し②
小川氏が分析する「ローソンの組織的な強さ」の中身
■本文
──ローソンの「組織的な強さ」はどのような点にあるのでしょうか。
小川 大きく2つあると考えています。1つ目は、ローソンが持っていた「かつての遺産」を生かし、ユニークなイノベーションを創出したことです。
多くのリーダーはイノベーションを生むために、前任者がつくったものを捨て、従来とは全く違うアプローチを試みます。しかし、ローソンの元社長である玉塚元一氏(2014~2016年在任)は、歴代の経営陣が築き上げた社風や仕組みを生かしながら、従来の「近くて便利」というコンビニの枠組みを越え、これからの時代に求められるコンビニの新たな役割を再定義しました。例えば、食の安全と健康を守る役割や、地域社会への貢献を果たす役割が挙げられます。
2つ目は、竹増貞信社長(2017年~)の優れたタレントマネジメントです。どれほど有能な人材が社内にいたとしても、その力を引き出し、適材適所で活躍させることができなければ、戦略は実を結びません。その点、竹増氏は中堅・若手問わず信頼できる社員を見出し、大胆にプロジェクトを一任しています。
この「任せるリーダーシップ」が非常に秀逸です。部下に対して「一度の失敗も許されない」と重圧を課すのではなく、「失敗から学ぶことこそが成長につながる」と伝え、挑戦を後押ししています。その上で、たとえ誤った判断をしても「その誤りに気付いたことが成果だ」と話すのです。
実際に、廃棄ゼロを目指すなど環境に配慮した店舗「グリーンローソン」を統括するインキュベーションカンパニープレジデントの吉田泰治氏は、インタビューの中で「もし新しい取り組みで失敗する度にクビになっていたら、僕はたぶん、首が5個くらい飛んでいます」と、笑いながら語ってくれました。ローソンは現場のオーナーとの信頼関係も極めて良好ですから、こうした風通しの良さが、ローソンの組織力を根底から支える重要な要素となっているのだと思います。
■見出し③
「無印良品と提携」でローソンの売り上げが10倍に
■本文
──著書では、2023年度に過去最高の好決算となったローソンの大変革プロジェクトについて解説しています。実現不可能と思われていた困難な目標であったにもかかわらず、2年前倒しで達成できた背景には、どのような要因があったのでしょうか。
小川 前提として、先ほどお話しした「組織的な強さ」の存在が挙げられます。その上で、成功を導いた要因は主に2つあると考えています。
1つ目は、複数店舗を経営するオーナーを企業家(アントレプレナー)として育成するためのプログラム「MO(マネジメントオーナー)制度」の導入です。これは従来のような商店主としてのコンビニ経営ではなく、「事業経営者としての視点」を持ったオーナーによるコンビニ経営を目指すためのもので、2009年に始まった制度です。
これまでのコンビニ経営は、家業に近い形で支えられてきました。しかし、少子高齢化や労働人口の減少が進む中で、1店舗ごとにオーナーを配置するモデルは持続困難になりつつあります。そこで「一人のオーナーが100~200店舗を統括するモデル」を目指す方向にかじを切ったのです。
2つ目の要因は、外部組織との戦略的提携です。ローソンはKDDIや無印良品との提携を通じて、高いシナジーを生み出しています。
――無印良品との提携については、2019年の開始以降、導入エリアを全国に拡大しています。ファミリーマートは同年に提携を終了していますが、なぜローソンは提携を継続・加速させているのでしょうか。
小川 一言で言えば、組織的な相性でしょう。ファミリーマートと無印良品は旧セゾングループに属しており、1980年代から約40年間にわたり提携関係が続いていました。しかし、近年のファミリーマートはSPA(製造小売業)モデルへの転換を進めているため、PB(プライベートブランド)商品との利益率の差を埋められなかったことが取引終了の一因とされています。
一方、ローソンと無印良品の提携は「顧客層の拡大」という面で大きな成果を上げています。2023年4月に無印ブランドを全店舗で導入した際、文具の売上高は前月比で10倍に跳ね上がりました。これまで競合に流れていた主婦や学生など、新たな顧客層の取り込みに成功したのです。
さらに、無印ブランドの購入者は店舗での滞在時間が長く、購入点数も多いという傾向があります。無印商品の値入れ率(販売価格に占める利益の割合)は通常のPB商品より低いかもしれませんが、それを上回る集客効果があるのです。
無印ブランドの販売開始後、ローソン店舗の平均日販は1~2%増加しており、全店舗でこうした伸びが見られることは経営にとって大きなインパクトです。現時点では利益率よりも集客効果の方が、ローソンにとって大きな価値をもたらしているといえるでしょう。
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