【企画書】「農業大変革元年:小売業に遅れること50年」(久松さんの著書、インタビューメモ)

 標記のテーマで、本日(7月4日)午後15時半から、久松さん他と対談することになっている。場所は、神田小川町の「オフィスわん」。この間、zoomでの予備面談(3人と)とメールのやり取り(久松さんと)があった。そして、10日ほど前に、久松さんから、わたしとのやり取りをまとめたメモが送られてきている。やる気満々、準備万端である。

題して、「農業大変革元年」

①産業やビジネスの発展において最も重要な要素は「人」
・人と人との関係性(リレーションシップ)が成否を分つ。いつ、誰と出会い、どのような経験をしてきたか。
・A 学習能力 B 変化への対応力 が重要
↑ この能力は、人、コミュニティ、社会(国民)に帰属する。この違いは、産業に関わらず、文化全体やアカデミズムにも共通して見られる
・どんな巨人の肩に乗るのか?
・人の違いがカルチャーの違いを生む。農業者はどんなカルチャーを持っているのか?農業では新技術に補助金をつけて普及を図るが、それが本当に良いことかは疑問が残る。
・経営モジュールの導入とチームのPDCAサイクルが、成長の速度の違いを生む
 
②小売業界の寡占化(二極化)は農業にも起こるのか?
・産業の変革や再編成の8割は予測不能であり、予測を断定的に語るのはリスクが大きい。
・小売業界のような寡占化は農業では進まないのではないか。むしろ、垂直統合的な販売先や流通側との資本提携による再編成が進むが、最終的には個人農家が多く残る可能性が高い。建築業界の下請け職人のような構造になると予測されるが、経営と所有の分離が一気に進むことはないだろう。
農業と小売業の最大の違いは川上・川下のポジションにある。小売業はチェーンストア化によってローカルで勝てればビジネス的に安定しやすい。物理的距離や立地が重要で、一定範囲内の顧客をドミナントに獲得できる業態はチェーン化しやすい。一方、農業は上流に位置するため、変革の影響や進み方が異なる。
・農業はアイテム数・品種数が多く、商品カテゴリーのスタンダード化がしにくい。そのことが、ビジネスのスケールを難しくしている。
 → 日本の食の多様性(対照的なオランダやイギリス、米国)について議論を
   食と農業の近代化の関係性

・加工需要が増え、要求特性を単純にしやすい品目は、冷凍輸送などで距離の問題を克服できると、スケールメリットが出やすいかもしれない。ジャガイモ(カルビー)、さつまいも、イチゴなどの事

 
③なぜ日本の農業では大規模化が進まないのか
・人口動態(デモグラフィック要因)が農業産業の構造に大きな影響を与えている。
・自作農主義など、既得権が強い制度的、文化的背景があった。→ 高齢化でようやく産業構造の変化を余儀なくされている。
・人口ボーナス期(高度成長期)は、農村から都市部への人口移動が製造業・小売業の働き手を増やし、需要を形作った。資本集約型に移行しない限り、農業の発展はトレードオフになる。
・他国との比較:オランダは、「弱者の戦略」として勝てる品目に選択と集中を行い、輸出に活路を見出した。米国は世界最大の国内市場を対象に、ジェネリックプロモーション(コモディティプロダクトプロモーション)を行い、生産者団体の協業で商品の標準化と消費拡大を進めた。
日本は人口ボーナス期に国内マーケットが大きく、産業がガラパゴス化しやすかった。
 → 「ガラパゴス」は悪いことではない(マスプロダクション優位の考え方からは否定されるが、、、)。新しい革新の芽は、いつもガラパゴス諸島に残った遺伝子や、アマゾンの奥地にひっそりと潜んで生き残った種子から生まれてくる。

④産業化としての農業を進めると食事の質が下がる
・(日本は)食文化の多様性が「仇に」なった:和洋中すべての食文化が混在し、消費者の嗜好が繊細で多様だったため、特定品目に集中して外部展開することが難しかった。
・オランダでは食事が機械的になりがち
・近現代の移民流入が相対的に多い国では、様々な食文化が混ざり合う。アメリカでは最大公約数的な食材(ポテト、ビーフ、トマト、レタスなど)に集約され、マクドナルドのようなチェーンが成功している。これは安価で栄養的にも担保されているため。
 
・日本はアメリカのような多様性のるつぼには簡単にはならず、農業の産業化も簡単には進まない。
 → 「四季」が存在することと、これは関係があるように思う。
・日本食の豊かさと多様性は、農業の産業化とは相容れないかもしれない。
 → そこにこそ、デジタル技術や調理方法、保存技術など経営管理に創意工夫の余地があるように思う。なぜなら、日本の和食に限らず、レストランチェーンビジネス(例:ゼンショーや吉野家、サイゼリヤや物語コーポレーション)が海外に打って出ている。ラーメンすしチェーンの海外進出を事例に考えてみるとよい。高級すし店が世界中で成功している。

・フランスは食も農業も発展しているのはなぜか?
 → ラテン系の民族(食通グルメ)は、会話好き。欧州でも、南半分の国(フランス、イタリア、スペインなど)は、ゲルマン系の国家(イギリス、ドイツ、オランダなど)とは対照的に、特殊な事情があるように思う。

⑤日本が世界最大の米の輸出国になる?
・大規模化できる品目は限られており、全体の2割程度と見られるが、日本では半分程度になる可能性がある。
 → 稲作は、日本の気候風土に適しており、戦後の80年間でずいぶんと品種改良が進んだ。これは、日本農業の未来を語る上で重要な視点で、農業が特殊だと考えるべきではない。小麦なども実需はあり、北海道では国産小麦の栽培が消えているわけではない。じゃがいも、果樹(ぶどう、りんご、なし、もも)の生産も同様である。りんごの生産などは、日本の気候風土にはあわないと言われていた。しかし、日本の野山に原種が存在していた!

・小規模農家が連携して多様な作物を作る仕組み(ハーフサイズのセットなど)は日本人が得意な分野であり、農業のB型モデルとして有望。フォード型とトヨタ型の違い?
 → 軽自動車(ダイハツ、スズキ)を考えて見るとよいだろう。

・日本ではベトナムなどに第二農場を作るスケール拡大を考えているが、逆に海外から日本に進出する動きも起こり得るのではないか。
 → 海外から日本の農業分野への投資は、すでに静かに始まっていると考えてよいだろう(円安下でのワサビの事例)。

⑥その他
・日本の食文化の多彩さを考えると、モジュール化による大規模化は日本では限定的なものにとどまるのではないか。
 → 海岸線(海)・山間部(山)・平野部とを分けて考えてみるとおもしろいかも。
       
・スケールメリットを享受できる少数の品目、地域以外の農業は「小さくて強い」を目指すしかないのか?
 → それは逆であって、スケールできない品目(産地)でも、経営的には成り立つ可能性がある。
  観光と特産品の関係(日本の温泉文化?)。
  食べること(経験)と関連した農業(生産)は、土地と風土に根付いた食習慣の価値を高める。

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以下は小川先生のブログより引用 (参考)

栽培のOSが変わると経営のOSが変わる(久松さんの言葉) → ややわかりにくいが、、、

①農業の二極化が進展
 スケールメリットがある分野で、大きな会社やグループ
 そうでないところ分野では、小さく個で生きる農家に二極化。
 
②所有と経営の分離
 自作農主義(耕作者主義)が崩壊し、M&Aや垂直統合が進む。
 農業分野は、二つの選択肢のどちらが優勢になるのか?
 商業で起こったレギュラーチェーン(スーパー)とフランチャイズシステム(コンビニ)

③地域農業のインフラ維持が困難
 これからは、水路や農道、集出荷場などを維持するのが難しくなる。「この地域は農業を続けるけど、この地域はもうやめる」という線引きが必要になる?
 
④日本の食文化への影響
 多品目生産がむずかしくなるので、「フルセット型農業」が維持不可能になる?
 ①との関連を見ることが必要? フルセットは小さな生産主体、大規模生産者は単品大量?
 いや必ずしもそうではないかも。
 → 農業分野では、「小規模な生産者」がフランチャイジー(組織小売業との連携)になる農業FC制度が発展するだろう。コンビニがその間隙(スーパーや大規模小売チェーン)を縫って成長したように、、(小川仮説)
 
⑤働く人の変化
 農業も職人仕事から「ジョブ型ワーカー」と「経営者」(マネジメント層)に分かれる。

4 ①~⑤の変化は、他の産業(小売業、外食産業、製造業など)で過去に起きたこと。
 農業は特別なものではない。というわけで、

① 今農業で起きている「モジュール化」など「外部資金調達」という変化について説明。
農家さんが大きくなりにくい理由や、農協組織の関わり。

②農業のやり方(所有と経営の関係、ビジネスの形、働く人の役割)がどう変わるのかを掘り下げる。その昔、日本にもあった大規模な農業経営の例(大地主制度?)も紹介します。

③ 農業よりも先に、同じような大きな変化を経験した他の産業
(小売業、外食産業、製造業、建築業界など)の専門家に話を聞きます。

→ ここで私が登場することに。

5 他の業界の変化(小売りサービス業の近代化、産業化の経験を述べる)
 ①産業化・近代化のプロセスで何が起きたのか?
 ②具体的に何が起こったのか?
 ③どんな人が成功して、どんな人が退出を迫られたのか?その違いは?
  わたしの担当は、小売業の専門家: 個人商店がコンビニやスーパーに取って代わられた過程で起きたこと。+レストランなど(外食産業)の専門家: 個人の小さなお店から、大きなチェーン店やフードコートまで、外食産業がどう変わってきたのか。
 
<小川の回答、アトランダムに>
 
1 示唆:海外の農業分野を見てみたらどうか?
日本の農業が、環境変化と技術革新によって大きく変わることはまちがいないが、海外にはすでに離陸した農業国がある。そこを見てみるのも参考になるだろう。
①オランダのフラワー協議会:
機械セリシステムの導入と情報物流システムの統一化、品質管理システムの導入
③米国の果樹・畜産業界:
協会によるグローバルなコモディテイ・プロモーション、冷蔵冷凍技術の開発など

2 日本の小売業の発展に関係した出来事
①海外(米国)からの「チェーンストア理論」の導入学習
②業界団体(商業界、ペガサスクラブ)による海外視察と経営者の相互啓発
③外部資金調達(株式公開)
④人材育成、産業としての待遇変化
⑤海外調達から商品調達、低コストオペレーション
⑥売り場の改革、ラインロビング(品揃え)
⑦情報物流技術の革新(共同配送、セントラルキッチン、RDC、POSシステム)
 
3 業界ごとの別の動き(詳細は口頭で)
①総合スーパー
②食品スーパー
③ドラッグストア
④ホームセンター
⑤コンビニエンスストア
⑥レストランチェーン

4 久松さんの質問に対する補足(商業と農業の違い)

①標準作業マニュアル(『しまむらとヤオコー』を参照) ◎共通
②川上(農業)と川下(商業)のちがい △
 商業は、顧客に近いので立地選択(多店舗展開)で顧客を直に確保できる
 農業は、顧客までの距離が遠いから、販売先の確保が必要(提携)
③変化対応:スクラップ&ビルド 〇
 商業は、店舗レベルでの改装、業態・立地開拓
 農業は、需要に合わせて栽培品目(品種)を変えていくことが必要
④季節変動に対する対応 共通◎
 商業は、MDを季節ごとに変えるだけ(52週MD)
 農業は、播種のタイミングと品種品目選定
⑤技術開発と機械化 〇
 商業の技術開発は、ソフト面とインフラ構築が大きい?
 農業でも、一般的な状況は変わらないのでは?
⑥海外との関係 ◎
 商業分野では、先進国(欧米)からソフトウエア、途上国からは商品調達
 農業分野でも、同様なことが起こっている(ただし、農産物の輸出入で比較優位がある)

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