7度の謝罪会見、ローソン宮崎純専務の場合

 不祥事で謝罪会見をするのは、誰しも気が進まないことだ。ところが、広報部長・専務として7回も謝罪会見に臨んだビジネスマンがいる。ローソンの宮崎専務がその人だ。とくに、長きにわたって自ら側近(番頭役)を務めた新浪社長(現サントリー社長)の時代は、個人データの情報漏洩事件など波乱の12年間だったようだ。

 

 わたし自身も、「謝るだけならタダだから」と謝罪には躊躇しないタイプだ。しかし、それにしても、7回の謝罪会見はふつうではない。宮崎さんは、きっと精神的に超タフな人間なのだろう。そして、トップを守るために体を張ることや、自らを犠牲にしても心が折れない胆力をもちあわせているに違いない。

 宮崎さんがローソンで経験した代表的な謝罪会見のうち3つを紹介しよう。

 2003年:56万件個人情報流出、2007年:賞味期限切れおでん販売、2010年:関連会社150億円不正流用。そのうち、新浪さんが謝罪会見に出席するのを躊躇したのが、150億円事件のときである。

 

 宮崎さんの証言によると、珍しく会見当日になって、「宮﨑さんだけではダメかな」と新浪さんがひどく弱気になったとのこと。そのときのふたりの会話を再現してみます。引きそうになっている新浪さんの姿を見た宮崎さんは、次のように説得に出ます。

 宮崎さん:「今回は社長の新浪さんが出席されないと世の中が納得しません」

 新浪さん:「辞任した方が良いかな」

 宮崎さん:「それは世論が決める事です。まずは会見できちんと説明して謝罪されて下さい。その結果、世の中から辞任せよとの声が強くなった時に考えましょう」

 それに続けて、「その結果はこれまでの新浪さんのローソン経営に対する世論からの評価いわゆる通信簿です」と説得して、ふたり一緒に会見に臨んだそうです。

 ローソン在職中でもクリティカルな瞬間で、番頭さんもつらい仕事ではあります。

  

 さて、先週の土曜日に、大学院のセミナー「ビジネスイノベーター育成セミナーⅡ」で、宮崎さんに「ローソンで3人のトップに仕えた18年」というテーマで講演をしていただいた。講演の時間は80分。そのあと10分程度、大学院生からの質疑に応えていただいた。さらにその後の100分間は、学生とディスカッションに加わってコメントをしていただいた。

 ハードな2コマ(200分)の授業を、結構楽しんで帰られたようだ。帰り道は、桜並木の土手を外堀の夕焼けを眺めながら、わたしと二人で市ヶ谷駅まで歩いた。やや肌寒く感じる夕暮れだったが、素敵な夕焼けをみることができた。

 

 宮崎さんの講演を振り返ってみている。学生たちは、新浪さん時代のローソンにとくに関心を示していた。しかし、宮崎さんが一人の広報担当役員として、三人の歴代社長に仕えたことは稀有な例ではないかと思う。新浪社長(12年)、玉塚社長(3年)、竹増社長(3年)である。

 それぞれがタイプの違う社長さんたちだ。以下は、わたしの三人評である。新浪さんは、暴れん坊将軍。玉塚さんは、ムード作りが上手な誰にでも好かれる好男子。竹増さんは、誠実で賢い青年社長。それぞれが個性的だから、宮崎さんの対応も、個性に合わせて違っていたのだろう。

 新浪さんの場合は、露払い役。「謝罪会見の代行」もその役目の一つだった。玉塚さんは、ムードメーカーなので、失敗をしないように監視する役割。竹増さんの場合は、宮崎さんより一回り以上は若い経営者なので、アイデアの球出し役と意思決定の最終確認を担っている。

  

 最後に、大学院での講演スライドの中から、宮崎語録を紹介することにしよう。「初めて自分史を語ることになったので、少し緊張しました」(宮崎さん)と終わってからメールでコメントをいただいた。

 講演は、3部構成になっていた。もくじと宮崎語録を記録として残しておくことにする。

 *宮崎さん、ありがとうございました。

  

Ⅰ:仕事を楽しむ

 『仕事に正解はない。正解にするのが仕事』

Ⅱ:人が嫌う仕事を積極的に

 『自分を見るもう一人の自分を作れ』

 『受けた情けは岩に刻め、掛けた情けは水に流せ』

Ⅲ:ストレスフリーの仕事をする

 『直観力を磨け』

 『自分に合った生き方』『自分の心に聞く』