(その52)「実質的な値上げ? 商品のサイズ変更」『北羽新報』2020年11月28日号

 昔から、人知れず(密かに)値上げをする手段として、商品サイズを変更するという方法がありました。代表的な都市伝説が「ミスタードーナッツの100円セール」の事例です。ふだん一個120円~140円のドーナッツが、「100円セールの期間だけはサイズが小さくなっているのでは?」という指摘がなされていました。「実質的な値上げではないか」いうわけです。

 

 似たようなサイズ変更による「実質値上げ」の事例が、過日、日本経済新聞に掲載されていました。このことを、地元紙の記事にしてみました。

 さて、みなさんはどのように感じられますか? ネスレのコメントは、本当なのでしょうか? 疑問を呈している消費者は少ないないのではと思います。

 *注:新聞に掲載された記事は、初稿の文章と表現がやや違っています。ここでは、ドラフトの文章をそのまま掲載します。

 

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「実質的な値上げ? 商品のサイズ変更」『北羽新報』2020年11月28日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授) V1:20201020

 

 昨年の秋ごろから、スーパーやコンビニで売られている加工食品で、パッケージのサイズが小さくなっていることにお気づきでしょうか?代表的な例が、ネスレの「キットカット」です。キットカットはコアなファンが多いせいなのか、この事件は結構話題になりました。
 今年9月のリニューアルで、「キットカットミニ」の一枚当たりの重量が11.6グラムから9.9グラムに約10%減量されました。ネスレ日本の担当者の説明では、「かねてより消費者の方々からは、『砂糖の摂取を控えたい』『カロリーが気になる』という声が多く寄せられていました。カロリーが気になる人でもより気軽に食べられるよう、1枚当たりのサイズを1口サイズに変更しました」となっています。
 キットカットミニの場合、枚数(15枚入り)と値段は据え置きになっています。そのため「実質的に値上げではないのか?」と消費者から残念の声が寄せられていると聞きます。ネスレ以外の商品では、サイズと容量当たりの単価はどのような傾向にあるでしょうか?この点に関して、つい最近になって、『日本経済新聞社』が全国の量販店から収集した販売データを分析した事例が報告されています(2020年11月15日朝刊)。

 

 データを簡単に紹介してみます。7年前(2012年)と比較すると、2019年の販売上位30品目でパッケージのサイズが小さくなったのは、30品目中の17アイテムありました。そのうち、10%以上もサイズが小さくなったのは5品目でした。30品目中でサイズ(内容量)が一番小さくなったのはインスタントコーヒーで、-22.8%。ところが、内容量(グラム)当たりの価格は+26.4%で、実質的に価格は上昇しています。つまり、インスタントコーヒーの商品価格は変化がなかったが、内容量が減った分だけ実質値上げになっているのです。
 同様な商品カテゴリーとしては、サラダ油(内容量-16.5%、グラム単価+40.4%)、一口タイププロセスチーズ(内容量-13.1%、グラム単価+3.3%)、即席袋中華そば(内容量-10.4%、グラム単価+12.1%)などがあります。サイズが小さくなった商品では、例外なく内容量当たりの価格が上昇しています。それゆえ、各社ともに、サイズを小さくして実質値上げに踏み切ったと言われても致し方がないことになります。
 キットカットやインスタントコーヒーとは逆に、サイズが大きくなり、内容量当たりの価格が下落したものがあります。シリアル(内容量+33.7%、グラム単価-7.5%)と生野菜サラダ(内容量+10.4%、グラム単価―10.0%)です。どちらもこの間に、日本人が好んでよく食べるようになった商品です。需要が増加して一般に普及したため、競争が激しくなったからともいえます。

 

 この先の日本では、高齢化が進み単身世帯も増加していきます。例えば、日本人の一人当たりコメの年間消費量は、およそ50年間で半分以下になりました(ピークの1962年:118㎏/人、2016年54kg/人)。コメの消費に代表されるように、一人当たりの食品の消費量は激減していくことが予想されます。高齢化と単身世帯数の増加は、商品のサイズと食料品の単価を押し上げていくことは間違いないように思います。また、気候変動や感染症の広がりは、食料供給にはマイナスに作用しそうです。