『チェーンストアエイジ』(ダイヤモンドフリードマン社)2007年2月15日号 Think, Food.: ㈱ロック・フィールド
高付加価値商品の提案とオーガニック新ブランドの開発
<2007年元旦 New Year Message>
あけましておめでとうございます。
本年、Be Organic, ECO, Sustainable をテーマに
よりオーガニック、よりナチュラルな食を提案する
新ブランドを立ち上げます。
そして、新ブランドを通して、ロック・フィールドの
企業価値、ブランド価値を高めていく取り組みに繋げてまいります。
新しい年、現状に甘んじることなく、
次の時代へ向けて、勇気をもってチャレンジしていきます。
2007年元旦
代表取締役社長 岩田弘三
1 2007年1月10日(水)午後13時~15時、ブランド戦略会議@神戸本社
「もっと野菜を売らにゃーあかんよな。“ベジテリア”は野菜の意味なんだから。美容+効能ね・・・」
小型マイクを片手にもって、岩田弘三社長が発表者のプレゼンにコメントした。現状10種類あるジュース・アイテムのうち、3種類を春シーズン(3~4月)から入れ替えたい。思い切った提案は、ベジテリアの商品企画担当者、平井智子さんからのものだった。
フラットTV画面に映し出されたパワーポイント資料には、1月18・19日の新商品発表会でお目見えする野菜ジュースのイメージ画像が投影されている。美容系「デトックスにアボガド」(売価¥334)、美容系「お肌のケアにカムカム&アセロラ」(売価¥362)、美容系「美肌系 クランベリー&ハイビスカス(仮)」(売価¥362)。よくわからないが、なんか身体によさそうだ。
「いままでとは違うとんがった商品を作りなさい」という岩田社長のリクエストに応えて、ベジテリアチーム(品揃え、企画、開発担当者でチーム編成)が考え出した新しいコンセプトは、”Delicious Beauty”であった。手元の配布資料を見ると、「リピート客を増やすために、“美容系”商品カテゴリーをつくる」とある。
2ヶ月に一度開かれる社内の重要な会議「ブランド戦略会議」に、部外者のわたしが同席しているせいなのだろうか。経営幹部(取締役全員)や若手のブランド担当者(6ブランド別編成)、店舗・販売担当者(東・西)たちもちょっと発言しにくそうである。開始から40分が経過して、RF1チーム、三日坊主チーム、地球健康家族チームのプレゼン(各10分程度)が終わっていた。わたしを意識してなのか、いつものの辛らつな岩田節は影を潜めている。その重苦しい雰囲気をぱっと明るく変えたのが、平井さんの「美容系」野菜ジュースの企画提案だった。
意外だった。ベジテリアで売られているジュースのうち、わずか10%が野菜系である。残りの9割は、かんきつ類などのフルーツ系である。3月の品揃え計画(予定表)を見ると、主力商品はやはり、福岡産あまおう、宮崎産日向夏である。何もしないと、ジュースのアイテムから野菜が消えてしまうのだそうだ。冒頭の岩田社長の指摘は、「Vegeteria(野菜を食べて飲んでいただく)のブランド名に恥じない商品提案をしてください」という願望でもあった。平井さんの説明は続いた。
「3月からは、ニンジンジュースが消えることになります。ニンジンにはそれなりに固定客がついていましたから、ちょっと申し訳ない気持ちもします。でも、ジューススタンドは、最大10本しかありませんので」
店舗のスペースは限られている。新しい商品を導入すれば、いずれかの既存品をカットしなくてはならない。
2 商品開発の手法とタイムフレーム
ロック・フィールドでは、新商品の見直しを年6回行っている。同社の決算期にあわせて、予算は5月にスタートする。開発サイクルは、初夏(5/6月)、盛夏(7/8月)、秋(9/10月)、冬(11/12月)、初春(1/2月)、春(3/4月)の6区分である。ただし、オードブルなどの予約注文メニューが必要な「クリスマスシーズン」は、7番目の区分として特別に扱われている。
3月(春:2月28日出荷分)に発売する商品の発表会は、その約40日前の1月18・19日の二日間、神戸本社で行われる。「商品発表会」には、販売推進部(店舗側:305店舗)、生産技術部(工場側:3箇所)、販促ツール担当、VMDスタッフが参加する。購買部と品質管理部の担当者も発表会には顔を出す。材料を手当てするために、企画部門と購買部門のスタッフは、発表会の数日前(1月15日)に社内ミーティングを持っている。
わたしが傍聴させていただいた「ブランド戦略会議」は、商品発表会の1週間前に設定されている。商品コンセプトの最終確認のためである。ミーティングで指摘された修正点は、一週間後に試食される新商品に反映される。最終の着地まで、5日間しか余裕がない。
3月(春)の新商品メニューとブランドの方向性については、11月上旬に岩田社長と担当スタッフがブランド別ミーティングを持つ。今回、3月に発売予定商品の企画開発に着手したのは、11月20日だった。このタイミングを、社内では「開発の振り出し」と呼んでいる。その後、約一ヶ月でレシピを作ることになる。3月投入予定の全467アイテムのうち、新規導入品は115、改良品は72、再導入品が25アイテム。差し引き235アイテムが前期(前年の春)からの継続商品である。
「新規導入と改良品の境目はちょっと微妙ですが、シーズンごとに商品の約半分は入れ替えになります」(商品開発室、細貝俊宏マネジャー)
商品発表会が終わると、店舗への商品導入までの約1ヶ月間、開発担当者(シェフ)がキッチンで試作を繰り返す(写真)。開発担当者は、2ヶ月間で10~25アイテムを提案していく。企画・開発チームはいま、「冬商品」(1/2月発売)の導入が終わって、「春商品」(3/4月発売)の試作をしながら、初夏(4/5月)に投入する商品の開発をはじめたばかりである。
3 食材の調達方法(購買部の役割)
商品発表会で商品見本が完成すると、店舗導入に向けて購買部が食材の調達に動き始める(1月20日~2月28日)。もちろん、技術開発や食材調達については、開発の中間段階(11月中旬~1月中旬)で、企画・開発担当者から購買に相談がある。また、調理方法や食材が、従来とは根本的に異なる場合には、開発の振り出し以前に(~11月)、技術的な問い合わせが来る。
野菜や果物などは、季節商品も多い。季節感を演出するために、新しい素材は、前年同月から必要量が確保できる見通しを立てておかなければならない。産地を変えたり、新しい食材を扱う場合は、シェフ(商品開発者)と購買担当者が一緒に、野菜の栽培を依頼している産地に直接出向くことになる。
「農産品の調達は、トレーサビリティを確保するために、基本的には国産の直取引です。最初のころは、契約栽培で作ってほしいとお願いに行っても、知名度が低い関西の一惣菜企業でしたから、大手農協には相手をしてもらえませんでしたね」(購買部、永谷祐二マネジャー)
いま農産品全体の約40%は契約栽培であるが、調達のリスクなども考えて、6割は市場経由で仕入れている。産地との契約栽培がはじまったのは、神戸コロッケの発売(1989年)がきっかけだった。いまや伝説となった神戸コロッケのレシピには、「神戸コロッケのじゃがいもは美味しさ、安全にこだわった北海道端野町産の男爵いもを使用しています。優良な契約農家の方々と共に、コロッケに合うじゃがいもを栽培するところから取り組んでいます」(神戸コロッケのHPより)とある。
1991年、静岡ファクトリーの完成で、産地開発がさらに加速された。サラダ関係の野菜を安定供給するためである。産地と太いパイプを持つことは、店頭広告による食材のアピールにもプラスに作用する。「コロッケに使用するジャガイモをプレゼントします」というはがきを店頭に置いておいたところ、一週間で約8万通の応募があった。長期安定的に食材を調達することは、コストメリットが目的ではない。第一に、供給者とロック・フィールドの間で信頼関係を築くためである。
「昨年の株主総会では、帯広大正農協の方から提供していただいたごぼうを配りました。契約栽培に入る前に、産地の皆さんには静岡ファクトリーに来ていただき、工場の様子をごらんいただくことにしています。安心・安全に気を配って、野菜が処理されていることが、目の前でご理解いただけますから」(永谷マネジャー)。
4 2005年3月26日(土)午後16時30分 DELICA rf-1@サンフランシスコ・ピア39
<海外初出店、二年前の現実>
ロック・フィールドの海外初出店となる「DELICA rf-1」がサンフランシスコのピアにオープンしたのは、2003年12月21日のことである。日本発のユニークなグルメマーケットとして、地元の有力紙『サンフランシスコ・クロニクル』や『サンフランシスコ・イグザミナー』にも鳴り物入りで取り上げられた。すし、てんぷら、牛丼、すきやき、とうふ以外の新しいタイプの日本食を,現地のサンフランシスカンに紹介する目的で作られたアンテナショップである。
DELICA rf-1の開業にあたっては、対岸のバークレイ市にある有名なオーガニック・レストラン「シェ・パニーズ」の経営者、アリス・ウォーター女史の指導を仰ぐことになった。かねてから彼女と交流が深かった岩田社長が、彼女のアイデアを取り入れ、「RF1」の人気商品を現地の素材で再現、自社商品のブラッシュアップをかねて商品開発を行うことを狙いとしていた。
開業から2年目の春、わたしはフェリー埠頭にあるデリカrf1の店舗を訪問していた。サンフランシスコの船着場には、対岸のサウサリートやオークランドなどから、朝夕の通勤客を運ぶフェリーがひっきりなしに到着する。一日の乗降客は、平日1万人~1万2千人、休日7~8千人。平日は10時に開店、フェリーの利用客がいなくなる18時には早々と店じまいになる。ファーストフードの店を構える環境としては、決してすばらしい立地条件というわけではない。開店一年後の売上は、対前年度比+2~3%程度でやや伸び悩んでいた。
売れ筋は、お弁当($9,50)と各種サラダセット($6.00~$9.00)。ペットボトルのお茶(500ml、$2.00)が意外に良く売れている。ビジネスランチBOXは、ベジタリアン対応である。ひじき、こんにゃく、大豆、揚げものに、野菜をミックスした日本式の「お弁当」で、客単価は$9.00~$10.00。来店客数は、平日280~300人、土曜日600人前後、日曜日が250~260人である。ランチタイムの11時~14時がピークで、売り上げの半分弱がこの時間帯に集中する。乗降客の2~3%程度しか顧客として取り込めていない。
<DELICA rf-1、2年前の課題克服>
観光埠頭ビルに入居しているため、夕方の商売にはほとんど期待できない。オフィス街は大通りを挟んで道の向こう側にある。そのため、雨が降ると売上が激減する。イートインが主体で、テイクアウト比率が低いことも課題であった。対応策として、ビジネス街にサテライトを設け、ランチボックスのケータリングサービスを始めた。そうしたハンディキャップがあるうえに、「たくさん食べる米国人にとって、日本式のRF1のお弁当では、量的に物足りないのではないか?」というのがわたしの偽らざる感想だった。
昨年の秋(2006年10月)、社員研修チームがDELICA rf-1を訪問していた。そのときの印象記が、社内報『Rocker Room』に掲載されているのを、最近たまたま目にした。現地「ロック・フィールド カリフォルニア」、岩田康弘社長のコメント記事を紹介する。
「一歩ずつ着実に成長しています: 今期に入り、店頭のセールスに加え、ケータリングも順調に推移しております。商品のクオリティーだけでなく、サービスのクオリティーも確実に向上し、アメリカのビジネスマンに受け入れられるようになってきました。
店頭販売の効果も、オペレーションの改善等により、平日のもっとも忙しい時間帯で、以前は8人から9人かけて$2,000/時間を5~6人でこなせるようになりました。キッチンの方も、一年半前に比べ生産量は約2倍になっているにもかかわらず、以前より少ない人員で効率を上げて回せるようになりました」
デリカRF1の売上は、わたしの訪問時に比べて約2倍になった。帰国後に店舗オペレーションと食材、メニューについて感じたことを、中野社長室長を経由して岩田社長にメールで書いた記憶がある。わたしの心配は杞憂であった。大躍進は喜ばしいことである。米国人に和食が受け入れられると同時に、ロック・フィールドが提供しているような「日本式の惣菜」と「お弁当文化」が受け入れられるタイミングに、米国のジャンクフード文化が変わり始めているのかもしれない。
しかし、いまだに米国発の食文化に学ぶべき点もある。アリス・ウォーター女史の愛弟子、ジェニファー・シャーマン女史が、岩田社長の頼みを聞き入れて、「シェ・パニーズ流」のオーガニック・フードを日本に移植するお手伝いをすることが決まった。昨年末のことである。
5 2007年1月11日(木)正午~、新ブランドBe Organicのお披露目会@神戸本社開発キッチン
「新ブランドの基本コンセプトは、Be Organic, ECO, Sustainableです」
“be Organic“の開発責任者、浅井マネジャーが新ブランドの説明をはじめた。開発キッチンのホールには、生産、品質管理、販売の各部門から関係者約30人が集まっている。浅井さんと一緒に新ブランドを立ち上げる企画開発チームの吉本マネジャーを取り囲むように、新ブランドの企画資料と新店舗のレイアウトを眺めている。
ロック・フィールドは昨年末、”Jennifer W Sherman Project”(以降はJWSジェクトと呼ぶ)をスタートさせた。創業35年を期して、新ブランド“be Organic“をリリースするためである。be Organicは、ジェニファー・ブランドで展開することに決まっている。「ジェニファーには、わざわざ立ちのために来日してもらい、当初のレシピをすべて監修してもらいました」(中野社長室長)。午後に開かれる試食会では、ジェニファーのレシピにしたがって制作されたオーガニック料理がサーブされる(写真)。
「一号店は、3月6日にトヨタ自動車と毎日新聞社が入居するショッピングビル、名古屋のミッドランド・スクエアの地下一階に出店します」(浅井マネジャー)
JWSプロジェクトは、数年前にトヨタ自動車本社ビルに、「シェ・パニーズ」を誘致したという岩田社長の夢からはじまった。ジェニファー・シャーマンの協力で、今回は名古屋の地で実現することになった。開店に間に合わせて、ジャニファーの料理本(日本語版)が出版される手はずになっている。
一号店の店舗面積は、約140㎡。be Organicの隣には、「ポールバセット&辻口シェフ」と「紫野和久傳」。通路を挟んで向かい側に、サンジェルマンの新ブランド「タンドレス」が出店する。海外ブランドとしては、米国NYの「ディーン&デルーカ」とベルギーの「ピエール・マルコリーニ」が入店している。さながら、食の高級ブティックが勢ぞろいした感がある。
<ミッドランド・スクエア B1Fフロアレイアウト 挿入>
葉物野菜などの食材は、基本的にオーガニックのものを用いる。全体の70~80%は有機素材で通すつもりである。肉・魚介類については、トレーサビリティが確実に保証できるものを確保する。また、安全・安心な食材を使うだけではなく、店内にはイートインコーナーを設けて、快適なショッピング環境でおいしい料理を提供することにも努める。テイクアウトも可能で、本家の「シェ・パニーズ」で使っている食器などもコーナーで販売する。
経験をつんで贅沢になってしまった消費者を満足させることは、なかなか難しいことである。高付加価値商品の提供をしながら、店舗運営や物流を効率的に設計する。それは、日本のどの食品小売業やレストランビジネスが実践できていない挑戦的なしごとである。