優秀者4名、岩佐一生さん、風祭祐子さん、本藤博威さん、徳吉雄三さん。
課題#2は、
<Q1>「ANA」がプレミアムブランドを構築するにあたっては、小川が推奨する二つの代替案(①サブブランド展開=「ANA+」あるいは「ANAプレミアム」、②新ブランド「X」)のうちどちらを採用すべきだろうか?
<Q2> あるいは、3 番目のブランド構築の方法(③)があるだろうか?
でした。
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◆岩佐一生
ANAは、顧客に幅広く支持されているマスブランドである一方で、競合他社と比較してサービス面に圧倒的優位性があるというわけではない。さらに、LCCの参入により自社競合との価格競争も今後不安視されている。また、シンガポール航空に次いで、顧客から支持を得ているものの、主要な顧客は、高いサービスを要求する顧客と、低価格を求める顧客の両方である。様々な目的を持った顧客が存在するため、乗務員の接客が顧客に寄り添ったものにすることは難しく、効率の良いサービスや顧客が求めるサービスを提供できていない現状にある。
これらの解決策として、私は小川先生の提案通り新ブランド「X」を採用すべきであると考える。
もう1案の「ANA+」といったサブブランド展開では、既存のクラス別サービスや競合他社と同化し、ブランド化せず、業務効率の問題も改善出来ない点に問題があるため、圧倒的なブランディングを確立できる新ブランドを生み出すべきであると考える。
例えばトヨタ自動車のLEXUSが好例である。中途半端なブランディングであれば、クラウンやハリヤーに乗車する既存客は、LEXUSではなくメルセデスなど外車を乗り換えの対象にしてしまう危険性がある。LEXUSの経営が好調である理由は、中級クラスのお客様をとらえるコアコンピタンスがあるからであり、ANAにおいても、イノベーションを起こすためにはケイパビリティが無い、新しい組織で構築する必要があるのではないか。
新ブランドを検討するにあたって、まずANAブランドの問題点を考察したい。
第一の問題点は、価格戦略の打ち出しが強いことが挙げられる。CMやホームページのトップページイメージも、価格を訴求する「特割」という打ち出しが強く、エミレーツ航空やシンガポール航空といった外資上級航空会社とは全く別の雰囲気である。
例えば、トヨタ自動車とLEXUSのHPを比較すると、トヨタ自動車のHPでは値段をわかりやすく示している一方で、LEXUSにおいては値段の記載をせずシンプルかつ高級感のある雰囲気を創り出している。こうした細かな差異が積み重なり、ブランド全体のイメージに繋がっていくのではないか。そのため、自動車業界で言えば、せめてブランディングで成功しているMAZDA同様のクオリティにしなければ、ターゲット顧客へのイメージ改革を実現することは難しい。 また、ANAのロゴで使用されているトリトンブルー×モヒカンブルーの組合せも、庶民的な印象が強く、上質な印象を受けがたい。ロゴやコーポレートカラーはお客様が企業に対して持つイメージの入口であるため、これも上品かつ高級感のある佇まいにすべきであると考える。
第二に、設備の問題が挙げられる。口コミサイトの評価を見たところ、航空機の機材設備、客室乗務員の接客サービスと空港内の航空会社職員の接客サービス、機内飲食サービス、機内エンターテインメントが主なお客様の満足度の指標となっており、航空会社を評価する基準は、①座席の広さ、②食事、③機内の設備、④接客の4つに絞られるといえるだろう。
現状においても、国内線のプレミアムクラス、国際線のファースト・ビジネス・プレミアムエコノミーと、同一の航空会社内でクラス分けが行われ、機内設備や食事についてはクラスに応じて区別されている一方で、接客する乗務員は同じである。
移動に要する時間も同じ航空機に乗る以上は、ほぼ同じである。これは、Apple Watchの事例と類似している。
Apple Watchは、機能は同じにもかかわらず外装の素材とベルトの素材が違うだけで値段が20倍違った。元々の価格設定が高かったこともあり、結局当初の予測以下の販売台数に終わった。
ANAも同様に値段が高い一方で、所要時間やサービス人員が同じであるため、これでは顧客がプレミアムな経験をしたとは実感できない。JALや上級エアラインの上客を動かすためには、中途半端にサブブランドを展開するのではなく機内設備やサービス、人員まで全くの別ブランドとして打出していく必要があるのではないか。
これらの問題点を踏まえ、新ブランド CHELSY AIR(チェルシーエア)について説明する。
このブランド名は、Cはコンフォート、HELはヘルス健康、Sはシュプリーム、Yはラグジュアリーの造語である。この新ブランドのコンセプトは、サービスデザインを通じてお客様の心理、ライフスタイルにヘルシーとエコの観点からアプローチすることである。お客様が移動先だけではなく、移動中もいい経験が出来たと思えるような上質なサービスの提供を目指していく。
ベンチマークとしては、日本サービス大賞・内閣総理大臣賞を受賞した、九州旅客鉄道株式会社が展開するクルーズトレイン「ななつ星in九州」を挙げる。このクルーズトレインは、これまでにないラグジュアリーな空間を列車において実現し、1泊2日で15万円 – 40万円、3泊4日で38万円 – 95万円と高額にもかかわらず、平均抽選倍率は約33倍と予約が殺到している高級寝台列車である。
このブランディングを航空機においても実現していきたいと考えている。上述した通り、お客様が航空会社を評価する観点は、①座席の広さ、②食事、③機内の設備、④接客の4点である。
そこで新ブランドでは、座席や座席間隔を今まで以上に広くした空間を作り上げる。それだけではなく、ツタヤ書店、トレーニングジム、リフレクソロジーサロンの常設などプレミアムなアプローチを行えるような今までにない機内空間にしていきたい。
機体はボーイング787だけを新ブランド用にリノベーションし、使用する。LCC同様にコストダウンとCAの接客の効率化と品質向上、パイロット不足対策(航空機は機体毎に免許がいる為)に対応する。客数を大幅に減らす分、客単価を上げていく事で収益を上げていく。
機内乗務員についても新ブランド用に特別な研修を行い、CSの質・習熟度・ロイヤリティを上げていく。機内の臭いやエクステリアやインテリアもこだわりたい。外観はシルバーで旅行鞄のRIMOAやメルセデスをイメージし、内装も黒革がベースで高級感あふれる仕様にしていきたい。食事についても、オーガニックや機能野菜を使用し、安っぽさが否めなかった機内食にも改革を行いたい。
こうした新ブランドを展開するにあたっては、ターゲット顧客へのアプローチが重要であると考えている。CM・広告の質を抽象的にすることはもちろんのこと、LEXUSやメルセデスの顧客データを引き出し、直接アプローチしていく。これは現在のANAカードのデータ上にはないお客様にアプローチするためである。
また、エグゼクティブクラスの人間の秘書にアプローチすることも重要である。ハイクラスの人々に少しでも多く、認知してもらい使用して頂きリピートして頂き、ビジネス顧客内での口コミ人気を広めていく。この認知度向上においては、インフルエンサーの存在も大切である。普段航空機を使うことの多い海外で活躍するサッカー選手に機内で写真を撮ってもらいSNSで拡散させ、周知させていきたい。
新ブランドでは、空間の質・知覚品質を向上させ、高級感を醸成する。上級クラスに乗る人を多く取り込んで、これまでビジネス目的とレジャー目的と混在していた既存顧客を選別し、既存のANAと、新ブランドとで差別しなければいけない。
これまでにない独創的なおもてなしを提供することで外資航空会社に負けないラグジュアリー空間を提供し、利用者の満足度を上げ、新ブランドの価値を向上させることによって、ANA自体の価値も引き上げられるのではないかと考えている。
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◆風祭祐子
<Q1>:「ANA」がプレミアムブランドを構築するにあたっては、小川先生が推奨する二つの代替案(①サブブランド展開=「ANA+」あるいは「ANAプレミアム」、②新ブランド「X」)のうちどちらを採用すべきだろうか?
<A>:①サブブランド展開を採用すべきである。ブランド名称は、「ANA+」。
理由:ANAにプレミアムブランドが必要なのは、小川先生の参考資料の通り、いまのANAは、国内線・国際線ともに、ポジショニングが十分機能していない。国内線は、顧客サービス評価が高めのマスブランドであるが、サービスの差別化は不十分であり、関連会社のLCCからの脅威に晒されている。また、国際線でも、顧客満足度が高い、ハイサービスブランドであり、顧客は要求度の高いビジネス顧客と価格志向のレジャー顧客が混在していることにより、顧客サービスの接客が中途半端でサービス作業の効率があまりよくないことがあげられる。
そして、その解決策は、対象顧客を絞り込んだ新ブランドの創設である。そし専用のサービス組織を作ることである。大きなサービス組織のままでは、顧客からのリクエストに素早く反応ができないので、上位顧客が求める質の高いサービスを提供できない。そのため、顧客対応力に優れた小さな組織をあらたに社内に設けることとなる。
さて、その対象顧客であるが、私は「高齢者」をターゲットにし、差別化を図ることを提案する。高齢者は、いくらバリアフリー設計だとしても、一般の人向けに作られたハードやソフトでは、不便を感じたり、無理を強要されたりすることが多い。したがって、快適なサービスが受けられるならば、追加の金額が発生することを厭わない人も多いと考えるからである。
現在でも、ANAにはシニア割引という制度があったり、車椅子の貸し出しや、搭乗口までのサポートサービス等の優遇制度が存在しているが、発生対応の域を超えない。
そこで、「ANA +」ブランドを創設し、徹底的に高齢者仕様にする。
まず、機内面。機体は小さく乗客数も少ないが、徹底して高齢者や弱者に優しい設計にする。シートはビジネスクラス並みに広く、一人ひとりのスペースもゆったりと確保されている。リクライニングも、もちろんでき、フラットに近い状態も可能。足周りもゆったりとしていて、足を伸ばすことができ、エコノミー症候群になることはない。席を立つ場合も、横の人の膝をすり抜けるようなことはしなくてすむ程度のスペースが確保されている。
また、荷物を置くスペースも、足元や座席の下に用意。頭上の荷物置き場に入れずに済むようになっている。手元の各操作パネルも親切設計。大きなボタンとわかりやすいイラストに加え、大きくはっきりとした文字で説明書きがある。トイレは、数を増やし、スペースを広くとる。仮に付き添いが必要なら、一緒に入れるくらいの広さがある個室も用意する。
もちろん、一人でも戸惑うことのないような設計を行う。通路には、手すりを設置し、ゆっくり歩いていても、他の人の邪魔にならないように、人がすれ違ったり追い抜いたりできる横幅がある。基本的に機内の照明は明るく、ゆとりある空間である必要がある。
CAは全員が介護士やヘルパーの資格取得者であり、医者は1名以上常駐していることが条件となる。航空券予約の際に、機内食も選択できるようにし、さまざまな状況の顧客に対応した食事を用意する。薬を飲むため、脱水症状を予防するために、ペットボトルの水を各席に配置しておく。
この他、国際線の場合は、人により就寝の時間帯や時間が異なるであろうから、手元の照明はピンポイントで調整できるようにする。食事の時間も、少量をこまめにとる。見回りの時間を多くし、客の観察は怠らない。機内で準備する出国カード等の記入は、客任せにしないでCAが積極的に手伝いを行う。
空港では、搭乗ロビーから機内への搭乗までの距離は短くし、バス移動等はなくす。降りる時も同様。トラブル時、特に国際線での遅延や天候による運航中止や振り替え等は、より一層の手厚い対応を行い、自宅へも、処置内容を連絡する。
とにかく、高齢者は全般的に動作がゆっくりしているが、好きでゆっくりしているわけではない。当人が周囲の迷惑になっていないか気を遣うことなく、安心・安全に楽しく空の旅を満喫できるような徹底的なサービスを謳い文句にするのがANA+である。ゴージャス感を出す必要は全くない。ハードもソフトも親切設計が第一である。それにより顧客満足度は高くなり、本人はもちろん、家族に対しても競争優位は働きリピート率向上は絶対的なものになるであろう。ほかには、高齢者向けのツアーも、ANA+利用がセールスポイントになるくらいのブランディングができるはずである。
なお、新ブランド名をつけないのは、日本人には浸透しているANAの名前を活用した方が高齢者には安心感を呼ぶからである。
<Q2>:3番目のブランド構築の方法があるだろうか?なお、そのように結論つけた理由を説明せよ。
<A>:ある
理由:上記の高齢者向けのブランドのように、ファミリー向けのブランドを作る。気兼ねせず、乳幼児と一緒に飛行機に乗れることをうたい文句にする。機内は高齢者と同様でいいが、防音対策や、おむつ替え設備等の充実を追加する。これらのように、顧客を特化した専用機体の集まりで1ブランドをつくり、困ったときのANAイメージを確立する。
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◆本藤博威
私は、②の新ブランド構築を前提とすべきと考えている。以下、自身の考えを述べさせていただく。
本件を考える上で参考となるのは、レクサスの事例である。トヨタは1957年のクラウンを皮切りに米国進出を果たし、その後順調に米国におけるポジションを築いたが、米国市場でさらに成長していくためには、高級車マーケットに進出すべきとの話が持ち上がった。1984年「マルFプロジェクト」がスタートしたが、日本のトヨタと米国トヨタで、未来のフラッグシップカーのコンセプトについて見解の相違があった。
日本のトヨタは、既存の車のコンセプトを踏襲したトヨタブランド延長線上であるべきと考えたのに対し、米国トヨタは、独自のマーケティングを実施し、米国の富裕層の嗜好やライフスタイル、ユーザーやディーラーの意見を徹底的に聞いた結果、従来のトヨタの延長線上にない、まったく新しいコンセプトのもと、ゼロからの車づくりを主張したのである。このとき、米国トヨタが高級車に求められる条件として挙げた点は、以下の5つである。
ステイタス感、プレステージ感(ビルゲイツに象徴される新しいタイプの富裕層)
高品質
下取りに出すときに価値の目減りがないこと(中古車市場で値崩れしない)
高度なパフォーマンス
高い安全性
これら5つの条件をベースに、車をゼロから開発し、また新しいディーラー網を構築し、最高級の販売・サービス体制を確立し、顧客満足度に対する独自の取り組みを行うことで、レクサスは成功できたのである。
このレクサスの事例を、本件にあてはめた場合、キーとなる要素は以下であると考える。
新ブランドの検討を、従来のANAブランドの延長線上で考えず、対象とする顧客像、ポジショニング等のマーケティング調査、コンセプト作り(ブランディング)をゼロベースで実施する
既存のANAの組織とは、物理的に隔離された組織とする必要がある。小川先生の言う通り、サービスの顧客満足度を高めるためには、「顧客対応に優れた小さな組織」を志向すべきである
ブランド名については、新しく構築するブランド、サービス内容にふさわしいネーミングとする
対象顧客やポジショニングも明確でないまま、ブランド名を決めるのは、多少違和感があるが、私は、新ブランドの名前を「ANAセレクト」と決めたい。
ブランド構築にあたっては、シンガポール航空の事例を参考に以下の点に留意したい。
顧客セグメントの設定:シンガポール航空は、季節変動の少ないビジネス客に絞り、ビジネス客のリピートに焦点をあてた。ANAは、大きな航空会社であり、レジャーサービス客を切り捨てるような戦略は取り得ないであろう。
サービスのコスト:シンガポール航空のサービスは、高級感を演出しつつも、装備や内装の豪華さを売りにしている訳ではない。サービスの源泉は、機内のスペースの取り方や、ヒトが生み出すサービスであり、ボヤッとしたイメージを、メディアを効果的に用いて演出している。言い方を変えると、コストベネフィットの追求ではなく、顧客が払う対価や、利益に見合ったサービスを、一定のコストのもとで創りだすのである。小川先生が、ベンチマークとすべきは、シティホテルではなく、CS最上位のビジネスホテル「リッチモンド」であると主張するのは、まったく妥当である。
この、ANAの取り組みにおいて注意すべき点は、本件がサービスブランディングであって、機体のデザインを一新する、あるいは別会社を立ち上げるものではないということである。この理由を
3番目のブランド構築の方法として考えられるのは、新会社を立ち上げるもしくは社内で、まったく新しいサービスを展開する、いわばミニ・シンガポール航空を立ち上げることであるが、この戦略は採用すべきでないと考える。理由は以下の通りである。
コスト面:機体・機内のデザイン・サービスを一新することになるため莫大なコストがかかることになる。
顧客セグメント:エコノミークラスの乗客は、恐らくプレミアムブランドの対象とはならないため、無駄が発生する。ブランディングの目的は、ずばり既存のANAのファースト・ビジネスクラスのサービス改革に他ならない。
ブランドの対象:ANAは、すでにハイサービスブランドであり、マスブランドの構築には成功しているのである。プレミアムブランドの構築にあたって、マスブランドのイメージが邪魔になるだけなのである。
(参考文献)
石坂芳男[2008]「トヨタ販売方式」あさ出版